パウエル議長が経済会議で0.50%の利上げをほのめかした

■全米企業エコノミスト協会カンファレンス

連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が全米企業エコノミスト協会(NABE)の第38回年次カンファレンスに登壇しました。

そこで「必要なら0.25%よりも大きな引き上げ幅で利上げすることもやる」と発言しました。これはサプライズです。

■労働市場

パウエル議長はスピーチの中で労働市場は極めて逼迫していると述べました。新型コロナ前の労働市場の状態より、今のほうが労働市場はさらに逼迫しています。その証拠に、ひとりの求職者に対し1.7の求人があることが指摘されました。

また有利な職を求めて転職を試みる労働者も多いです。名目賃金は過去何十年で最も速いペースで上昇しています。低所得者層の賃金上昇が著しいです。

パウエル議長は「FRBの政策ツールでは労働市場のインバランスを直すことはできない」ことを認めました。

■インフレ

次にインフレの見通しはウクライナの戦争で一層悪化したと述べました。

パウエル議長は市場参加者ならびにFRBメンバーのインフレ予想が大きく外れた理由はサプライサイドの摩擦の影響を軽視し過ぎたことが原因だとしました。とりわけ自動車生産がサプライチェーンのボトルネックの影響を大きく受けました。

パウエル議長は原油価格上昇が米国経済にもたらす悪影響は1970年代のオイルショックのときに比べると遥かに小さいだろうと述べました。その理由として米国は現在世界最大の産油国であるし経済の原油への依存度が下がっているからという説明でした。


■リセッションのリスク

いま10年債利回りから2年債利回りを引いた長短金利差は0.20%くらいに接近しており、リセッションの前兆とされる「長短金利差0」まであと少しのところへ迫っています。

(出典:セントルイスFRB)

その関係もあり今後米国がリセッションに入るのでは? という質問が出ました。

パウエル議長は「1965年、1984年、1994年にソフトランディングが実現できている。だから必ずリセッションが来てしまうと決めつけることはできない」と述べました。

■今後の政策金利の手綱さばき

パウエル議長は「必要ならば1回の利上げで0.25%以上も考慮する。また中立的と考える政策金利の水準よりも高いところまで政策金利を引き上げることもありうる」と述べ、今回のインフレ局面で初めてアグレッシブな政策対応の可能性をほのめかしました。これはいままでよりも一歩踏み込んだ発言です。

■今回の発言の意図

今回、パウエル議長がこのような予期せぬタカ派発言をした直接のきっかけは先週の連邦公開市場委員会(FOMC)以降、連日米国株が上昇しており(いまならタカ派の発言をしても大丈夫だろう)と思わせたからでしょう。

このような発言をすることで将来FRBが取り得る金利政策の裁量余地を広げることが出来るのです。従って今回の発言は次回のFOMCで必ず0.50%の利上げがあるということを意味しません。