ドル円-2024年相場予想と戦略-

FRBと日銀の政策転換期待も、需給面が円売りを支える

※本記事は2023年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2023年のドル円相場を振り返って】

 2023年のドル円相場は、2022年に続いて、再び大きく円売りが拡大しました。

 年初から、前年の財務省の円買い介入の影響に加えて、黒田日銀総裁の任期満了の絡めた日銀総裁人事の思惑から、1月16日に年間安値となる127.24まで下落しました。その後、FOMCの利上げ姿勢が続き、黒田日銀総裁の最後の会合に向けて、137.91まで反発しました。ただ、新たに総裁に決定した植田氏が、「YCC政策に否定的な見解を持っている」ことなどから、新総裁就任後に早期に金融政策に変更に踏み出すとの思惑が高まり、3月24日には、129.64まで最調整しました。

 ただ、市場の思惑とは全く異なり、植田総裁が、最初の会合以降、しぶとく金融緩和政策を維持することを表明し続けたことで、6月30日には、145.07の高値まで再び円安が、大きく拡大しました。しかしながら、6月のFOMCで、2022年3月から続けてきた利上げ姿勢から一転、政策金利の据え置きを決定したこと。また、日銀が投機筋の日本国債売りのパワーに負けて、YCCの上限を撤廃したことなどから、137.25まで調整売りに晒されました。これもFOMCが7月に再利上げを決定、加えて9月のFOMCでは、2024年のFF金利見通しを、6月時点の4.6%から5.1%に一気に0.50%、サプライズ的に引き上げたことから、米10年物国債利回りが、5%に迫る上昇、ドル円相場は、2022年の高値151.95に迫る151.91の高値まで上昇しました。

 この時の動きが中東紛争、原油や金価格の高値更新と絡まっていることは興味深いですが、この時の投機的な円売りに対して、前年のように財務省が円買い介入に踏み切らなかったことは、当局の日ごろの対応からは不思議な感じがします。ただ、逆に円買い介入もなく、ドル円相場が一定の高値をつけたことは、象徴的な動きだったと言えるのかもしれません。

 その後は、植田日銀総裁が、国会において「年末から来年にかけて、よりチャレンジングになる」との発言したことで、再び早期の金融政策変更の思惑が高まったこと。また、今年最後のFOMCでは、政策金利が据え置かれ、加えて2024年のFF金利見通しが、再び6月時点の4.6%に引き下げられたことがサプライズなり、12月14日には、140.97まで売りに押されましたが、ドル円相場は、比較的堅調な姿で、2023年の取引を終了しようとしています。

【2024年の主な材料】

 以下が現在、知り得る2024年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2024年は、米国の大統領選挙が、大きな波乱要因となるのか注目となりそうです。

 米大統領選に関しては、トランプ元大統領の再立候補が話題となっています。ただ、前回の大統領選挙に絡めた自身の疑惑に関連して、多くの告訴を抱えています。また米憲法修正第14条によって、一部の州で「大統領選出馬の権利がない」との判決も出ています。裁判自体は長期に渡ることで、大統領選まで時間稼ぎが可能でしょうが、もし、こういった裁判で、次々に有罪が確定した場合、7月の共和党の全国大会に向けて、予備選を勝ち抜けるかは不透明感が残りそうです。また、そうでなくても、もしトランプ大統領が再び大統領に返り咲くなら、バイデン政権の政策を全て「ちゃぶ台返し」する可能性が高く、その場合恐らく世界の政治や経済、金融市場に大きな混乱を招く可能性高いことは、留意しておきたいと思います。

 一方バイデン大統領も次男のハンター・バイデン氏の問題で、共和党が同大統領の弾劾裁判に向けて動いています。また、高齢であることもあって、健康問題も懸念として残りそうです。つまり、夏の全国大会に向けて、両氏が候補者としての立場を維持出来るのかは、現状は全くの不確実です。その場合、次の候補者次第となるでしょうが、現状米国の大統領選の結果を占うことは非常に難しく、特に金融市場においては、この問題に関して、2024年を通して、常に経過を確認しておくことは重要となりそうです。

 また、台湾総統選、ロシア大統領選、9月の岸田首相の任期などの政治的日程が、予定されていますが、台湾の総統選で与党が勝利しても、中国が軍事行動に出る可能性は低く、プーチン大統領の再選は揺ぎ無く、為替・金融市場に大きな影響を与えることはなさそうです。ただ、直近米国の支援が止まる可能性が指摘されているウクライナ情勢では、今年も混戦が続く可能性が高いと思われますが、もし何かの政治的な動きが出て、停戦や終戦に向かう兆しが見えた場合、過去2年のエネルギーや商品市況に、大きな巻き戻しの動きが出るかもしれません。その場合、ユーロ相場に大きな動きが出る可能性があることは注意しておきましょう。

 一方金融市場では、5月にスタートするNY株式の決済の短縮化が、相場の波乱要因となるとの指摘が出ています。現状2営業日後に決済する売買代金を、翌営業日に決済を前倒しするというものですが、世界的な市場では、まだ2営業日後の決済が主流です。為替市場も、2営業日後に決済されますが、株式の取引に伴う為替ヘッジのリスクと絡めて、機関投資家やファンドなどの対応が遅れているようです。一部でこの変更によって、流動性のリスクも指摘されており、金融市場に混乱が生まれる可能性に注意しておきましょう。  その他、今年も大きな地震や自然災害、ガザの問題などいろいろ自然・地政学リスクが、市場の混乱につながっています。2024年も温暖化の影響など、何が起きるのかわかりません。こういった事象は突発的に起こることで、準備することはできませんが、常に、こういったリスクも念頭に入れて、相場に臨む姿勢を維持しておいた方が得策もしれません。

【2024年の注目点】

 2023年の相場展開を踏まえて、2024年の注目点をまとめてみました。

  • FRBは本当に2024年早々と利下げに転じるのか?
  • 日銀の政策転換が遂に実現するのか?
  • 日米金利は大きく縮小しない
  • 続く日本の貿易赤字

〇 FRBは本当に2024年早々と利下げに転じるのか?

 FRBは、2022年3月からの利上げ姿勢を、遂に変更しました。

 2023年6月には、それまで10会合連続で引き上げて来た政策金利を据え置き、7月には0.25%の再利上げを実施するも、9月に再度政策金利を据え置きました。この時に引き上げたFF金利の誘導目標5.25%から5.50%が、ターミナル・レートになるわけですが、ただ、この時の会合では、FF金利見通しが、6月時点の4.6%から5.1%に一気に、0.50%引き上げられたことで、米10年物国債利回りが、5%に迫る上昇となったことが、FRBの懸念につながったのでしょう。この時FRB要人からは、次々と米長期金利の上昇スピードに対するけん制発言続いたことは、象徴的な事実となっています。

 最終的には、12月のFOMCでも政策金利を5.25%から5.50%に据え置き、加えて、ドット・チャートにおける2024年のFF金利見通しを、6月と同様に4.6%まで引き下げました。結局9月の見通しの引き上げが、全く余分となった形ですが、FOMCのスタンスとしては、確かに今後も経済データー次第としながらも、政策金利の引き上げを一旦終了し、2024年としては、利下げのタイミング視野となって来るでしょう。パウエルFRB議長も、12月の記者会見で「今日の会合で利下げのタイミングを協議した」と、はっきりと述べています。

 さて、こうなってくると市場は騒がしくなってきます。特にNY株式市場は、2024年3月にも、利下げスタートとクリスマスを前に、過去最高値を更新する動きとなっています。

 しかし、この流れは若干行き過ぎではないかと思われます。

 以下、1999年からの米国の政策金利の推移をみてみましょう。

 今回の利上げが、サブプライム・リーマンショックの時期と同等レベルまで引き上げられたことは、興味深いですが、やはり利下げは、あくまで経済の急速な悪化という事実が必要です。現状の米国の景況感を見る限りは、何かの金融ショックで起きない限り、早期に利下げに踏み切る可能性は低いと言えるでしょう。

 また、FOMCの過去の傾向としては、政策の転換も必ず6か月以上の期間を置いています。加えて利上げも利下げも開始すると一定期間これを継続するケースが多いようです。そうなると現状FOMCが来年3回の利下げを想定している訳ですから、もし、3月から利下げを開始した場合、来年3回の利下げで済むことはなさそうです。一応順当な対応としては、その時の経済状況次第としても、早くても来年夏以降利下げに転じると見るのが妥当な見通しと言えそうです。そうなると米国の早期の利下げの見込んだドル売りは、時期尚早ではないかと考えらえます。

 加えて米長期金利の動向もチェックしておきましょう。以下は米国10年物国債利回の月足チャートです。

 米10年物国債利回りは、4.997%まで上昇も一旦トピッシュな上ヒゲをつけています。下段のスロー・ストキャスティクスも、上昇し過ぎ(売られ過ぎ)のレベルにあって、一旦ピークをつけていることは間違いなさそうです。ただ、調整があっても、3.0%から3.25%レベルは、サポーティヴな位置であって、現状の水準からの更なる低下は限界がありそうです。そうなると米長期金利の低下を背景としたドル売りも、大きく強まることは無さそうです。

以下が2024年度のFOMCに関連する予定日です。 FOMCの金融政策の行方は、世界の金融経済の大きな影響を与えることで、パウエルFRB議長の発言や例年8月に開催されるジャクソンホール会議と合わせて、2024年もこの日程をしっかりと押さえておいてください。

2024年FOMCの日程(議事録公表日)

01月30日-31日(02月21日)*メンバー入替

03月19日-20日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(04月10日)

04月30日-5月01日(05月22日)

06月11日-12日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(07月03日)

07月30日-31日(08月21日)

09月17日-18日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(10月09日)

11月06日-07日(11月27日) 12月17日-18日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(01月08日)

〇 日銀の政策転換が遂に実現するのか?

 2023年は、日本の30年にわたるデフレ経済から脱却したことで、日銀の金融政策の転換が、大きなマーケットの材料となりましたが、実際新たに就任した植田総裁は、YCCの上限撤廃などの一部変更を実施するも、結局2023年度中、本格的な政策変更に踏み切ることはありませんでした。

 一時植田総裁の発言に、期待感を持つ動きもありましたが、今年の最後の会合では、「我が国の景気は緩やかに回復している」としながらも、「経済・物価を巡る不確実性は極めて高い」、「粘り強く金融緩和を継続していく」として、「賃金から物価への波及、サービス価格への動向を見たい」と今後も慎重姿勢を続けそうです。

 ただ、実際の物価の動きを見る限りは、特に円安の影響が強く、日本がコストプッシュ・インフレに晒されていることは明らかな事実です。2024年もこの円安が続けば、引き続き物価が高止まりすることは間違いないでしょう。

 ではなぜ日銀は、政策を動かせないか?

 日銀や人々がデフレ慣れしていることも、大きな要因の一つですが、加えて、これは憶測ですが、植田総裁の過去の発言からは、「拙速な引き締めで物価目標が達成できないリスクの方が大きい」としています。過去自身が速水元日銀総裁時代に、審議委員を務めていた時期、速水日銀の利上げが、景気の腰折れにつながったことへの悪いイメージが残っていて、現状の日本経済においても、自身の政策転換が、再び景気の腰折れにつながることを恐れているのではないかと疑ってしまいます。通常金融政策は、「フォワード・ルッキング=将来の見通し」によって政策運営されますが、来年の春闘で、順当に賃上げが実施されるのを確認するまで、政策変更はないのではないでしょうか。

 そうなると政策が変更されるのは、早くても来年の4月会合以降であり、その場合も「マイナス金利の解除」、「YCC政策の撤廃が限界で、その後も、長くデフレにつかり切った日本経済が、政府の減税策を受けても、強い上昇圧力をみせる可能性は低く、年内の「利上げ」に踏み切る可能性は低そうです。

 それでは、日本の長期金利動向も見ておきましょう。

 10年物国債の利回りは、3回のYCC政策の上限の変更で、一時1.0%に迫るレベルまで上昇しましたが、テクニカル的にははっきりと上ヒゲを出しています。下段のスロー・ストキャスティクスも、既に上昇し過ぎ(売られ過ぎ)の位置にあって、来年もこの1%を超えることはなそうです。一方下方では、流石に0.55%のそれ以前の高い位置は逆サポートされそうです。来年の日本国債の利回りとしても、0.55%から1.00%での推移が限界となりそうです。

 ただ、2024年も、長らく市場から全く注目を集めなかった日銀金融政策が、大きな注目となりそうです。以下は2024年の日銀金融政策決定会合や議事録の公表日です。しっかりと押さえておきましょう。

日銀金融政策決定会合(議事録公表日)

01月23日+展望リポート公表(03月25日)

03月19日

04月26日+展望リポート公表(06月19日)

06月14日(08月05日)

07月31日+展望リポート公表

09月20日

10月31日+展望リポート公表

12月19日

〇 日米金利差は大きく縮小しない

 一般的に、ドル円相場は、日米金利差に連動すると言われています。

 以下は日米の10年物国債利回り差とドル円相場の動きを2005年から比較したチャートです。

 ただ、チャートの水色の部分のように、連動していない時期も多くあります。この連動していない時期を見ると、リーマン・ショック、欧州信用不安、アベノミクスにおいて「黒田バズーカ」による円安が進んだ時期、パンデミック・ショックなど市場が大きくリスクオフに傾いた場合は、非連動となっているようです。

 つまりドル円相場が日米金利差との連動するのは、「有事」でないケースに限られているということです。「有事」の場合は、リスク回避の円買いが進み易く、あくまで大きな問題がない時だけ、ドル円相場は、日米金利差に連動すると考えてください。

 そうなると現在は、パンデミックやウクライナ情勢が、一定の落ち着きを見せています。2023年はFOMCの強力な利上げもあって、日米金利差に連動する円売りが拡大しました。一方2024年はFOMCの利上げが止まり、既に利下げも取り沙汰される状況です。その面では、日米金利差の縮小が円買い要因となるか注目されますが、ただ、前述の通り米長期金利の低下にも限界があること。また、日銀は政策金利の変更をしても、政策金利の大きな引き上げに踏み切る可能性が低く、2024年も大きなリスクオフの材料がなく、日米金利差の縮小も2.5-3.0%程度に留まるなら、ドル円の下落も限界がありそうです。

〇 続く日本の貿易赤字

 日本の貿易収支は、過去長らく黒字を維持していましたが、2011年には、東北大震災の影響もあって赤字に転落。その後2016年に回復も見えていましたが、新型コロナウィルスの蔓延を受けたワクチンの購入や訪日外国人観光客の激減、更にロシアのウクライナ侵攻を受けた資源・商品価格の上昇、加えて大幅な円安の悪影響もあって、2021年以降再び、大きく赤字幅が拡大しています。

 一応2022年10月以降は、資源・商品価格の落ち着き、円安によるJカーブ効果などもあって、一定の改善が示されていますが、これが2024年に黒字転換できるか保証はありません。

 貿易赤字の要因としては、様々な要因があって、一言で示すことはできませんが、訪日外国人はある程度回復していますが、過去のような中国勢の爆買いが見えていないこと、自動車産業を中心とした輸出の拡大も頭打ちとなっており、あまり期待するのは難しそうです。一方で日本では、再生エネルギーへの転換が遅れていること、電気自動車の普及も拡大せず、来年以降も高水準の原油・天然ガスなど石化エネルギーの輸入が続きそうです。また、岸田政権が打ち出した防衛費の拡大政策によって、毎年5兆円弱の海外調達が実施されることなどから、こういった面のドル需要は、来年も高水準を維持しそうです。

 以下は2009年10月からの通関ベースの貿易収支と円ドル相場(下方が円安)ですが、通関ベースの貿易収支が、赤字転換したタイミングで、しっかりと円安が進んでいる形が見えています。そうなるとこれが黒字に改善できれば、また円高の再来も期待できるのでしょうが、2013年から2021年の間、どうにか黒字を維持している時期でも、円ドルレートは、円高というより、円安傾向での揉み合いの動きに留まっています。国際収支との関連もあって、一概には言えませんが、貿易の代金決済は、直接的に為替市場に影響を与えることもあって、あくまでこの貿易収支が、過去のような大幅黒字にでもならないと、大幅な円高を期待するのは難しいでしょう。

【ドル円の季節性】

 次にドル円相場の季節的な動きを見てみましょう。

 2015年から2021年までの四半期ごとの動きを2015年の1月、4月、7月、9月のオープン・レートを基準に、各年のレートを調整してプロットしたものです。 

 まず、1-3月の季節性ですが、通常この時期は、3月末の本邦の決算に向けて、レパトリの円買いが出易い時期です。ただ、最初の黄色いゾーンで、赤い矢印で示した位置のように、2月には一時的に円安になるケースが度々見えています。この要因としては、多く外債に投資する生損保などの機関投資家は、購入した債券の為替差損を避けるために、保有外債に為替ヘッジをかけています。「為替ヘッジ」とは先物のドル売りですが、3月の決算を控えて、こういったポジションの調整的なドルの買い戻しを行います。その動きが2月に円売りに繋がっているようです。

 また、一番右の黄色いゾーンの黒い矢印の部分に注目して下さい。期末には、決算に絡めて様々なフローが出ますが、外貨資産の評価を高めるために、例年ドル高に持って行こうとする動きが出易いようです。1-3月の時期は、基本はレパトリで円高気味ですが、2月の上旬から中旬、3月月末の当日は、一時的な円安に注意しておきましょう。

 次に4-6月期ですが、この時期は通常、機関投資家が新年度に向けた外債投資の準備を始める時期です。基本は円安気味で見る時期ですが、ただ、黄色ゾーンの日本のゴールデン・ウィークの時期を見て頂くと、相場が案外荒れた時期が目立っています。過去はこの時期に輸出企業が上値に輸出予約を入れて、休暇に入るケースが多く、ドル円の上昇を抑える要因となっていました。ただ、現在は日本の貿易黒字が減少していることで、こういった影響はあまりないようですが、この時期海外の投機筋が、本邦の不在を狙って、仕掛け的な動きを強めることが要因となっています。どちらに仕掛けて来るかは、その時の状況次第ですが、少なくともゴールデン・ウィークの時期の荒れた動きには注意しておきましょう。

 7-9月期は、やはり夏場のホリデー・シーズンが焦点となります。

 相場の閑散期ですが、黄色のゾーンは、8月の中旬ですが、矢印のように急速に円高が進むケースが散見されています。この要因としては、かつては8月の中旬に米国の30年物国債の償還が集中したことが、円買いの一因と指摘されていました。現在は米国債の償還期が分散されていることで、直接的な影響は減少しているようです。しかしながら、実際8月の中旬に一時的な円高になるケースが多く、恐らくですが9月中間決算に向けて、45日前に投資信託などの益出しなどが出ている可能性はありそうです。一言でこの要因を評価することはできませんが、アノマリー的には「高い確率」があるので、十分注目しておきましょう。ただ、逆説的には、この時期の急速な円高は、年末に向けての絶好の円の売り場となることも多いことは、留意しておきましょう。

 最後に10-12月ですが、例年米国のレイバー・デー明けから、夏休みで休暇を取っていたファンド・マネージャーやディーラーが、仕事に復帰することで、相場が動き出す時期です。今回のチャートでは、米国の大統領選でトランプ大統領が勝利した2016年に大きく円安が拡大したことで、全体的に見難くなっていますが、基本は円安に進み易い時期です。これは年末に向けて、世界的にドル資金需要が高まることが一因です。ただ、注意はこういった思惑で、例年事前に円安が拡大する傾向が強いことで、矢印のように、11月後半から12月前半に利食いに押されるケースが多いことは、覚えておいてください。

【テクニカル面】

 テクニカル面からは、1989年からの長期のドル円相場の月足チャートを見てみましょう。

 ドル円相場は、1990年の160.35の高値から、2011年10月の75.31まで下落後、2022年10月には、160.35の高値と、147.66や125.86の高値を結んだレジスタンスを越えて、151.95まで急反発しました。

 特にこのチャートで注目して頂きたいのは、チャート形状から「E」の75.31をボトムとしたリバースH&Sを形成していることです。また現状は、このショルダー部分のネックラインとなる「D」と「F」をクリアして、151.95の上ヒゲで、アーム部分「G」の形成を完了しています。

 これを前提とすると、チャート形状の観点からは、75.31の安値を基準に、ロールシャッハ・テストのように、左右対称の動きをすることが、2023年の相場では、期待されていました。もし、その通りであれば、再び「J」の動きを「K」で繰り返し、「B」と同様に「I」の位置まで相場が下落して、その後再び「A」の160.35方向を目指し「I」を完了するというが想定です。

 ただ、2023年の相場は、「D」と「F」のネックラインを割れることはなく、再度高値を目指す動きに留まりました。つまり、前述の前提が崩れているわけですから、理想的なリバースH&Sは、実現しなかったという事です。

 そうなると次の見方は、あくまで昨年のレンジである127.23と151.95をどちらが先にブレイクするかで方向感が決まると考えざるを得ません。もし、2024年の相場が、151.95を越えて行くなら160.35の高値を目指す動きとなり、一方127.23を割れて、更にネックラインとなる「D」と「F」を割れるなら、「H」方向への調整リスクとなります。ただ、ファンダメンタルズ面を考えると、2024年に、そこまでの円高が再燃するリスクは、想定することは難しく、「D」と「F」のネックラインさえ維持されるかもしれません。あくまでこういった位置を割れて、120円程度までの下落が目途となりそうです。

 次に、短期的な見方から、直近の日足チャートをチェックしておきましょう。 

 このチャートでの注目点は、2023年のドル円相場は、テクニカル的に重要なエリオット波動の第5波の動きを完了していることです。波動のカウントとしては、以下の通り。

第1波=127.23から137.91(10.68幅)

第2波=137.91から129.64(8.27幅)

第3波=129.64から145.07(15.43幅)

第4波=145.07から137.25(7.82幅)

第5波=137.25から151.91(14.66幅)

A下落=151.91から141.71(10.02幅)

B上昇=141.71から146.59(4.88幅)

C下落=146.59から140.97(5.62幅)

 現状ABCの展開は確定できませんが、少なくとも前述の動きが正しいとしてみれば、エリオット波動の5波とABC下落を完了していることで、一旦の上昇相場の終了が確定しています。そうなると次の展開ですが、あくまでエリオット波動の場合、短期の波動が終わったからと言って、必ず逆のトレンドに変わるとはされていません。つまり、当面は揉み合いを経て、それから次のトレンドを作って来る可能性に注目となります。

 つまり、ABC下落の動きからは、C下落の下値140.97とB上昇の146.59の次のブレイクに注目する形となります。下抜けが早々と実現すれば、サポートの140円も割り込み、更に137.25の4波の安値を割れると再度127.23の安値を目指す可能性が高まります。

 一方146.59を越える動きからは、再度上値トライがあっても、日足の一目均衡意の雲の位置からは147.59から149.99の高値が押さえるとレジスタンス形成となり易く、あくまで151.91や151.95を越えて、次の上昇トレンドと見るのが順当となります。

【予想レンジと戦略】

 それでは、以上を踏まえてドル円相場の2024年の見通しと戦略についてお話します。

 まず、前述の通り当面は、揉み合い相場からスタートして、エリオットのABC値から、140.97と146.59のブレイク、このブレイクから127.23と151.95のブレイクが発生して、大きなトレンドとなる可能性に注目しての対応となります。

 ただ、現状の日本経済に対する円安の悪影響批判からは、再び152円を超える動きがあっても、財務省の円買い介入が出るリスクが残っています。また、個人的には、変形であっても、リバースH&Sの形が実現すると見ています。そうなると再上昇しても、150円が限界となる可能性に注目したいと思います。一方下値は、前述の140.97を割れる動きがあっても、月足のネックラインは強く、年間レンジを過去の動向から20円程度とすれば、2024年の想定レンジを、130.00から150.00としたいと思います。

 それでは、ドル円の季節性を鑑みながら、テクニカルを中心に、具体的な戦略を提案させて頂きます。

〇 年前半は、戻り売り優先で考えます。まず弱い形が確認できた場合は、146.59越えをストップに売り狙いとなりますが、ただ、これは現状のABCの動きが未確定で、上抜けるリスクも高そうです。理想的には、152円越えをストップに、150円方向への上昇があれば、売り場を探す形を想定します。ターゲットは、3月の本邦決算に向けて、円買いが強まるなら買い戻しのタイミングを計るのが良いでしょう。レベル的には、140.97や140円を割れないなら、こういったレベルでも検討する形ですが、4月以降も円の堅調が続くなら売り回転を利かせるのも一考かもしれません。理想的には、135円や130円方向への下落があれば、買い戻しながら、また買い場を探すのも良いでしょう。買いの場合のストップは、オーバーシュートのリスクはありますが、一旦127.23割れ、更には過去の高値125.86割れとします。 

〇 次に年後半に向けての戦略ですが、例年夏場に円高のピークが訪れ易く、年後半に向けて需給面で円安になり易いことを前提とした戦略となります。ただ、今年は米国の大統領選に絡めて、想定が難しい状況です。波乱があれば別ですが、基本的に、「トランプVSバイデン」を前提にして、今年も夏場に円高が到来すれば、年後半に向けて、押し目買いを検討します。レベル感的には、想定は難しいですが、130円台があれば、127.23や125.86割れをストップに買い場を探す形。または、125円、120円まで買い下がるというのも一考となります。120円までの買い下がりの場合、ストップは118.66割れとなります。こういった買いのターゲットは、米大統領選に向けて利食い場を探す形ですが、少なくとも150円を超える動きは想定できず、140円前後からの利食いを優先するのが良さそうです。   

 以上一応時期を決めてシナリオをたてましたが、この通りとなるほど、相場は簡単ではありません。あくまで私個人の30年来の経験則から想定したイメージ的なものですので、ご理解頂ければ幸いです。

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