ECBとポーランド中銀の利下げ姿勢次第
※本記事は2023年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。
【2023年のユーロズロチ相場を振り返って】
ユーロズロチ相場は、ECBの利上げ姿勢が続き、年初4.4933まで反発しました。その後、バイデン大統領がウクライナを電撃訪問、ポーランドで、「ロシアがウクライナで勝利することは決してない」、「われわれのウクライナへの支持が揺らぐことはなく、北大西洋条約機構が分断されることもない」と述べたことなどが好感を与えました。ポーランド中銀が、6.75%で政策に金利の据え置きを続け、ポーランドの良好な第1四半期GDPもあって、7月31日には3.9838まで売り込まれました。
ただ、その後、7月にロシアが、ベラルーシに核兵器を配備すると発表、隣接するポーランドの安全保障問題の懸念の高まり、モラウィエツキ・ポーランド首相は、北大西洋条約機構の加盟国に配備する「核共有」への参加を求めました。この為替市場への影響は不透明も、9月にポーランド中銀が、政策金利を0.75%引き下げ、6.75%の政策金利を6.00%としたことで4.3380まで反発しました。また、10月の会合でも、連続で0.25%引き下げ、政策金利を5.75%としましたが、一方でECBが9月の会合で、政策金利を0.25%引き上げた後、その後利上げ停止を決定したこともあって、ポーランド・ズロチ売りは強まらず、欧州委員会が、ウクライナのEU正式加盟の交渉を勧告しました。ポーランドの選挙で与党PiSが過半数を確報できなかったことで、トゥスク野党連合政権が発足する可能性が高まったことなどから、新政権に対する期待感もあって、12月には3.9101と今年の安値を更新して、軟調な展開で2023年の取引を終了しようとしています。
【2024年の主な材料】
以下が現在、知り得る2024年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。
リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2024年は、米国の大統領選挙が、大きな波乱要因となるのか注目となりそうです。
米大統領選に関しては、トランプ元大統領の再立候補が話題となっています。ただ、前回の大統領選挙に絡めた自身の疑惑に関連して、多くの告訴を抱えています。また米憲法修正第14条によって、一部の州で「大統領選出馬の権利がない」との判決も出ています。裁判自体は長期に渡ることで、大統領選まで時間稼ぎが可能でしょうが、もし、こういった裁判で、次々に有罪が確定した場合、7月の共和党の全国大会に向けて、予備選を勝ち抜けるかは不透明感が残りそうです。また、そうでなくても、もしトランプ大統領が再び大統領に返り咲くなら、バイデン政権の政策を全て「ちゃぶ台返し」する可能性が高く、その場合恐らく世界の政治や経済、金融市場に大きな混乱を招く可能性高いことは、留意しておきたいと思います。
一方バイデン大統領も次男のハンター・バイデン氏の問題で、共和党が同大統領の弾劾裁判に向けて動いています。また、高齢であることもあって、健康問題も懸念として残りそうです。つまり、夏の全国大会に向けて、両氏が候補者としての立場を維持出来るのかは、現状は全くの不確実です。その場合、次の候補者次第となるでしょうが、現状米国の大統領選の結果を占うことは非常に難しく、特に金融市場においては、この問題に関して、2024年を通して、常に経過を確認しておくことは重要となりそうです。
また、台湾総統選、ロシア大統領選、9月の岸田首相の任期などの政治的日程が、予定されてますが、台湾の総統選で与党が勝利しても、中国が軍事行動に出る可能性は低く、プーチン大統領の再選は揺ぎ無く、為替・金融市場に大きな影響を与えることはなさそうです。ただ、直近米国の支援が止まる可能性が指摘されているウクライナ情勢では、今年も混戦が続く可能性が高いと思われますが、もし何かの政治的な動きが出て、停戦や終戦に向かう兆しが見えた場合、過去2年のエネルギーや商品市況に、大きな巻き戻しの動きが出るかもしれません。その場合、ユーロ相場に大きな動きが出る可能性があることは注意しておきましょう。
一方金融市場では、5月にスタートするNY株式の決済の短縮化が、相場の波乱要因となるとの指摘が出ています。現状2営業日後に決済する売買代金を、翌営業日に決済を前倒しするというものですが、世界的な市場では、まだ2営業日後の決済が主流です。為替市場も、2営業日後に決済されますが、株式の取引に伴う為替ヘッジのリスクと絡めて、機関投資家やファンドなどの対応が遅れているようです。一部でこの変更によって、流動性のリスクも指摘されており、金融市場に混乱が生まれる可能性に注意しておきましょう。
その他、今年も大きな地震や自然災害、ガザの問題などいろいろ自然・地政学リスクが、市場の混乱につながっています。2024年も温暖化の影響など、何が起きるのかわかりません。こういった事象は突発的に起こることで、準備することはできませんが、常に、こういったリスクも念頭に入れて、相場に臨む姿勢を維持しておいた方が得策もしれません。
【2024年の注目点】
2023年の相場展開を踏まえて、2024年のユーロズロチ相場の注目点をまとめてみました。
- ECBの利下げは?
- ポーランド中銀は利下げを続けるのか?
- ウクライナ情勢
≪ECBの利下げは?≫
ECBは、パンデミックでマイナス金利まで引き下げていた政策金利を、ウクライナ問題を受けた原油・資源価格の上昇を背景に、2022年6月から引き上げを開始しました。今年9月の会合では、4.50%まで引き上げ、現状は利上げを停止しています。
特にユーロ圏では、強力な利上げを短期間で継続したことで、2024年には、インフレの鈍化や成長率の低下が想定されています。ラガルド総裁は、12月最後の会合で、「利下げについては全く議論しなかった」と述べています。ただ、他のメンバーからは、ホルツマン・オーストリア中銀総裁が、「ECBの政策金利は、ターミナルレートに到達した可能性が高まっている」、ビルロワドガロー仏中銀総裁が「利上げ局面は終わった」と発言するように、少なくとも2024年に利上げを再開することはなさそうです。
また、以下は過去のECBの政策金利の推移ですが、1999年のECB発足後、現状のレベルが最高値圏であることも、考慮されそうです。
一方ユーロ圏の景況感をみておきましょう。以下はユーロ圏の製造業とサービス業PMIの推移ですが、景気の分水嶺となる「50」のラインを割り込んでいます。2024年は、政策金利の引き下げで、景気を下支えする必要が高そうです。
では、どういった時期にECBが利下げに転じるのでしょう。既に金融市場では、3月の利下げを50%、4月以降の利下げをほぼ100%織り込んでいますが、12月のECB理事会の声明では、「金利水準は十分に長い期間維持される必要がある」とされています。また、直近ではクノット・オランダ中銀総裁が、「ECBはまず賃上げなどのデータを確認する必要があるため、来年上半期に利下げする可能性はかなり低い」と述べています。あくまで今後も経済の状況次第でしょうが、個人的には最低でも年中盤までは、現状の金利を据え置く可能性で考えています。
参考にECB理事会の日程を掲載します。2024年は、ECBの利下げ時期が焦点となります。会合での声明やラガルド総裁の発言などの変化に注目しましょう。
参考にECB理事会の日程を掲載します。
ECB理事会(議事録公表日)
01月25日(02月22日)
03月07日(04月04日)
04月11日(05月09日)
06月06日(06月01日)
06月15日(07月04日)
07月18日(08月15日)
09月12日(10月10日)
10月17日(11月07日) 12月12日(01月09日)
〇 ポーランド中銀は利下げを続けるのか?
ポーランド中銀は、2021年10月からのインフレの上昇を背景に、それまで0.10%としていた政策金利を随時引上げ、2022年9月に6.75%まで政策金利を引き上げた後は、金利をこのレベルで据え置いていました。その後、インフレの鎮静化が見えてきたことで、今年9月に0.75%の利下げを発表、10月も続けて0.25%の利下げを発表しましたが、現状は5.75%で政策金利を据え置いています。
来年も利下げが継続されるか注目となりますが、中銀は声明で「最近数カ月の政策金利調整や、今後の財政・規制政策の方向とそれらが物価に及ぼす影響を巡る不確実性を考慮して、金利を変更しないことを決めた」としています。
一部のエコノミストは、これらの利下げが下院選前に保守与党「法と正義(PiS)」を支援する狙いだったとみなし、選挙後にはややタカ派姿勢に転じる可能性があると警告していた。ただ、10月15日の下院選では、PiSの獲得議席が過半数に届かず、親欧州の野党連合が多数派となりました。
現在は、12月12日に、ポーランド議会が、トゥスク前欧州連合(EU)大統領を首相として、この連立内閣を信任しており、8年ぶりに政権が後退、新体制下で中銀の姿勢も当面は様子見のスタンスが維持されそうです。
トゥスク氏は、議会での所信表明演説で、「ポーランドはEUのリーダーとしての地位を取り戻す」と表明しました。ウクライナの強力な支援者であり、米国の忠実な同盟国であり、北大西洋条約機構(NATO)軍事同盟の献身的なメンバーだと強調しました。また、法の支配への懸念からEUが凍結していたポーランド向けの資金の支給を実現させると表明しています。
一方で、ポーランド中銀は、今年と来年の物価上昇率見通しについては、7月時点の11.1%から12.7%(2023年)と3.7%から6.8%(2024年)を、それぞれ11.3%から11.5%と3.2%から6.2%に修正しており、今後もデーター次第ではありますが、想定通りの上昇に留まれば、利下げの可能性も排除されない見通しが示されています。
ただ、2015-2016年のポーランドの物価上昇率は、平均で0.9%程度となっていて、現状の物価はまだまだ高い位置にあることで、エネルギー価格次第となるが、そう簡単に利下げに踏み切るかは不透明感が残りそうです。
〇 ユーロとポーランドの金利差
以下は、ドイツ10年物国債利回りとポーランド10年物国債利回りの推移に、ユーロズロチ相場をプロットしたチャートです。
ご覧のように、リーマンショックの時は、一時連動から離れていますが、それ以降2021年代までは、ほぼ連動する動きが見えています。現在は、ロシアのウクライナ侵攻を受けた、インフレの急騰やポーランドの地政学リスクで、金利差から離れ、ユーロ高・ズロチ安が続いています。これが過去のように、2024年金利差連動に戻ることが出来るか、大きな焦点ですが、これもウクライナ情勢次第でしょうか?
ともかく、もしウクライナで停戦や休戦の兆候が見えた場合の、ズロチの買い戻しには、注意しておきましょう。
〇 ウクライナ情勢
2022年2月24日に、ロシアがウクライナへ侵攻。一時はロシアが圧倒的なパワーで、ウクライナを短期に制圧して侵攻を完了すると見られていましたが、欧米の多大な支援もあって、現状はウクライナが巻き返しを示しています。
ただ、年末に向けて、ウクライナの反転攻勢の失敗が指摘される中、米下院の共和党の反対でウクライナ支援が止まるとの思惑が高まっています。この点がどういった展開となるかはわかりませんが、もし米国が支援を止めた場合、ウクライナにとっては、非常に厳しい局面となりそうです。また、一部ゼレンスキ―大統領の求心力の低下も示唆されていますが、少なくとも2024年のウクライナ情勢は、混戦が続く可能性が高そうです。
ただ、逆の面でいえば、混戦が続くだけに、休戦に対する取り組みが進む可能性も残っています。実際この見方は楽観的過ぎるかもしれませんが、少なくとも各国の協調によって、停戦が実現した場合、今までこの問題で売られてきたユーロ相場などには、大きな巻き戻しの動きが出る可能性には注目しておいてください。
【テクニカル面】
≪ユーロドル≫
まず、ユーロズロチ相場を構成するユーロドル相場のテクニカルをチェックしておきましょう。
1999年からの月足チャートです。
歴史的な高値1.6040からの調整を、1.0341の安値で一旦支えるも、反転が2018年2月の1.2555や1.2349の戻り高値でダブルトップを形成しました。その後、0.8225からのサポートを割れて、0.9536まで下値を拡大しました。ただ、この位置はユーロドルの歴史的な安値からの反発時のネックラインとなる0.9596-0.9601を若干割れた位置です。一定の達成感があり、現状は戻り安値を1.0448で支えています。下段のスロー・ストキャスティクスも、反転上昇を続けており、この安値やサポートの維持が続くなら、今後は上昇期待となりそうです。
ただ、上昇も1.1276は、過去のファンラインで抑えられており、これを越えることが必要です。超えてダブルトップ方向への上昇期待ですが、ただ、マイナーレジスタンスからは、1.1603から1.1704レベル、ネックラインからは、1.1640-1.2042ゾーンが上値を押さえそうです。
以上を踏まえて、ユーロドルの2024年の想定レンジを1.0500から1.2000としたいと思います。
≪ドルズロチ≫
次にユーロズロチ相場を構成するドルズロチ相場をチェックしておきましょう。
2000年からのドルズロチ相場のの月足です。
5.0612まで上昇しましたが、一旦上ヒゲとつけています。
波動的は、以下を想定します。
第1波=2.0190から3.9157
第2波=3.9157から2.6403
第3波=2.6403から4.1562
第4波=4.1562から3.2074
第5波=3.2074から5.0612
これが正しければ、一旦第5波の完了となり、次のABCの動きがみえるか注目ですが、既に3.9353から4.4517の反発後の現在の3.9101への調整で完成している可能性があることは留意しておいてください。ただ、それであってもまだ最後のC下落が拡大するリスク、またABCが完了しても、Bの高値4.4517が押さえると弱い形が想定されます。下段のスロー・ストキャスティクスも反転下落が継続し言います。今後2.0190から5.0612への上昇のフィボナッチ・リトレースメント50%となる3.5401やサイコロジカルな3.5000前後までの調整の可能性は十分ありそうです。またこの位置を維持出来ずに、3波の安値となる3.3074まで割れると相場が崩れ、2.6403や2.2500までターゲットとなります。
一方上値は、4.4517が押さえると弱い形から、超えて4.5117から4.8345の戻り高値がターゲットとなりますが、既に5波つきの可能性からは、反発があっても、こういった位置でレジスタンス形成となる可能性もありそうです。
従って、ドルズロチは、売り戦略が好まれそうですが、2024年の予想レンジを3.5000から4.5000とします。
≪ユーロズロチ≫
最後にユーロズロチの1995年からの月足チャートです。
3.4787や3.1986の安値から上下波動を繰り返した後は、5.0029と歴史的な高値まで上昇も現状は、上値付きとなています。波動的には不透明ですが、一旦上ヒゲ後、4.8935で戻り高値を付けており、下段のスロー・ストキャスティクスも反転下落を続けています。今後上値は、4.4866が押さえると弱く、超えても4.5021や4.7993、またはこの半値の4.650などが上値を抑えるとレジスタンス形成からは、売り場となり易いでしょう。
一方下値は、現状の安値4.3132を割れると4.2134から4.1298の戻り安値の維持が焦点ですが、維持出来ない場合、更に3.8233から3.9671の戻り安値がターゲットとなりますが、この位置は3.1986から5.0029の高値のフィボナッチ・リトレースメントの50%となる4.1008を前後とした緑のゾーンに突入となりますが、こういった位置は下支えされると見ます。
ただ、もし維持出来ないと大きく3.5000まで窓が開いていることで、急落のリスクとなる可能性は留意しておきましょう。
≪マトリックス・チャート≫
加えて、ユーロドルとドルズロチから想定したマトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を確認しておきましょう。
ユーロドルの想定レンジを1.0500~1.2000、ドルズロチを3.5000から4.5000しましたので、これから算出されるユーロ・ゾロチの最大想定レンジは、3.6750から5.5800となりますが、大き過ぎるの3.9958から4.9951を基本とします。
【予想レンジと戦略】
それでは、以上を踏まえてユーロズロチ相場の来年の見通しと戦略についてお話します。
一応来年は、過去のような新型コロナウィルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻など、大きな政治・地政学リスクが発生しない前提でお話させて頂きます。
上記を勘案して、ユーロズロチ相場の2024年の想定レンジを、4.0000から4.6500とします。
前提を整理すると
- スロー・ストキャスティクスからは、ユーロドルは買いも、ドルズロチやユーロズロチが売りを示唆していることで、売り戦略を優先します。
- トゥスク新政権に対する期待感ですが、同氏は元EU大統領です。良好なEUとの関係を構築できそうです。特にEUが凍結していたポーランド向けの資金の支給を実現させると表明していることなどから、これが実現すれば、資金流入の期待となりそうです。
- もし、ウクライナ情勢に、休戦や停戦など明るさが見えるなら、今までこのリスクで売り込まれてきた、ポーランド・ズロチに買い戻しが入るでしょう。状況次第ですが、そういった局面を待つのも一考かもしれません。
それでは、具体的なユーロズロチ相場の中期的なスウィング・トレード戦略ですが、戻り売りを優先します。
5.0029の高値越えをストップに、4.4866が押さえるとこの手前から、また突っ込み売りはしたくないので4.5021-4.7993ゾーンへの戻りがあれば、売りを検討します。ターゲtットは、4.1298-4.2134ゾーンの維持では利食いながらでですが、割れてくれると4.0000のサイコロジカル前後では、しっかりと利食って、またこの位置からの買い下がりは、ストップを3.8233割れで対応しましょう。ただ、こういった下落の場合、戻りは重くなるでしょう。4.5000などが上値を抑えると利食いながら対応しましょう。
※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。