2018年2月 アメリカのマーケット展望

短期の相場見通し

S&P500指数の向こう1か月のターゲットは2,850を予想しています。米国株式市場は長期上昇相場の真只中にあり、上昇のペースは最近ほど加速していました。これは「スピード調整」がいずれ入ることを示唆しています。ただ長期金利の水準はまだまだ歴史的に見れば低い水準ですし企業業績はすこぶる好調です。つまりファンダメンタルズ(=経済や業績の基礎的要件)の見地からは売る理由は無いのです。

一方為替に目を転じると新年に入ってからのドル安に投資家の注目が集まっています。ドルが弱い理由はアメリカの景気が悪いからではありません。むしろ欧州をはじめ世界の他の国々の経済も「世界同時好景気」の様相を呈してきているため、ドルが軟調だと考えます。加えて米国の金利政策は経済の実態に比べて緩和的過ぎます。このように中央銀行の采配が景気に遅行している場合、往々にしてその国の通貨は売られやすいです。ドルの向こう1か月のターゲットは108円を予想しています。

中央銀行の金利政策が緩すぎると、それはインフレを誘発しやすいです。実際、いまアメリカのいろいろな景気指標のうち、投資家が最も注意を払うべき指標は実質賃金のようなインフレ関連の指標でしょう。また米国10年債利回りの上昇は投資家のインフレに対する期待を反映しやすいのでこちらの動向についても目が離せません。米国10年債利回りの向こう一ヶ月のターゲットは2.70%を予想します。

経済の現況

米国経済は好調です。2017年第4四半期のGDP成長率は前期比+2.6%でした。

失業率は4.1%と完全雇用に近い水準まで下がっており、労働市場はタイトです。それは、そろそろ賃金に上昇プレッシャーが出てくるリスクがあることを示唆しています。

去年のクリスマス直前に税制改革法案が成立した際、ご祝儀のボーナスを出す大企業が続出しました。これは減税により企業の税負担が減るからという理由もありますが、「他社がやっているのでウチもやらなければ」という競争上の理由によるところが大きいです。そうしないと従業員をライバル企業に奪われてしまうというわけです。これなども労働力がひっ迫してきていることをよく表していると思います。

企業業績の現況

いま2017年第4四半期決算発表シーズンの真只中です。1月25日までにS&P500採用銘柄のうち24%が決算発表を終えています。今回の決算発表で特徴的なことは売上高でコンセンサス予想を上回る企業が81%もあったことです。ちなみに過去5年間の平均は55%です。企業が楽々と売上高で予想を上回っているということは経営環境が、これまでのデフレ的環境からインフレ的環境へと変わってきているからです。

リーマンショック以降、米国企業は経営をスリム化し、少しの売上伸長でどんどん利益が出せる体質になっています。上に述べた売上高の伸長に合せて利益がどんどん伸びているのはこのためです。さらに去年の暮れに成立した税制改革法案でアメリカ経済にはいっそう拍車がかかると予想されています。これが下にチャートに見るようにコンセンサス業績予想が急角度で伸びている理由です。

つまり米国の企業業績はすこぶる好調なのです。

注目イベント

2月2日の雇用統計では平均時給の伸びに注目して下さい。リーマンショック以降の景気後退局面では投資家にとって最大の関心事は雇用でした。だから非農業部門雇用者数や失業率の数字が最も注目されました。しかし現在は完全雇用に近い状態なのでこれらのデータ・ポイントからは米国経済が直面しているチャレンジを読み取ることは困難です。そのチャレンジとは労働市場がタイトになりすぎて、賃金インフレが起こりはじめるのではないか? という懸念に他なりません。それを知るためには平均時給の数字に注目して下さい。

注目ETF

アメリカは好景気で失業率も低いので消費者のマインドは強気です。これは一般消費財にとって好環境です。銘柄的には一般消費財セレクト・セクターSPDRファンド(XLY)のような投資対象が注目されやすいです。投資家がインフレを心配しているときはWTI原油連動ETF(USO)SPDRゴールド・シェア(GLD)のようなコモディティー関連のETFも注目されやすいでしょう。

景気が強く、企業が売上高成長を出しやすい局面では資本財関連企業のEPSがとりわけ鋭角的に伸びやすいです。資本財セレクト・セクターSPDRファンド(XLI)が関連銘柄となります。また長期金利が上昇する局面では銀行の貸付け利ザヤが拡大するとの思惑から金融セレクト・セクターSPDRファンド(XLF)にも投資家の注目が集まるでしょう。

まとめ

米国経済は強く、企業業績も絶好調です。長期金利の水準はまだまだ低いので、1)金利、2)業績の両方の面から、アメリカの株式市場にはフォローの風が吹いています。しかしインフレの兆候が現れはじめていることから、目先は平均時給などのデータに注目する必要があります。株式市場は上げピッチが急だったので「スピード調整」が欲しいところです。