
マーケットが急落
5月17日の米国株式市場は久しぶりに1.8%の急落を演じました。トランプ大統領が先週、ロシアの高官とホワイトハウスで会合した際、重要機密を洩らしたことが直接のきっかけです。
その情報はイスラエルの諜報機関がリスクを冒して入手した、ISIS(=イスラム国)に関する極秘情報です。それを同盟国でもないロシアに、イスラエル側に事前の承諾を得ず、しゃあしゃあと語ってしまったことで「トランプの軽率な行動は、大統領としてあるまじき行為だ」という非難が高まりました。
重要機密漏えいは、うっかりミスか?
大統領はどんな極秘文書も機密解除できます。その意味では、今回のことが法に触れる心配はありません。
しかし米国ではインテリジェンス・レポート(諜報報告書)はテアライン(tear line=ミシン目)によって二つに分断されているのが標準となっています。そのテアラインの下は比較的機密性の低い情報を含んでおり、外国政府などと情報交換することが許されています。
しかしテアラインの上の部分の記述は、「誰が情報提供者か?」とか「どのような方法でその情報を得たか?」というような、諜報部員の安全にかかわる微妙な項目を含んでおり、極めて取扱注意です。
今回、トランプ大統領の失敗を報告したワシントンポストによると、トランプがロシア高官に語った部分は、このテアラインの「上の部分」であり、「うっかり間違えた」ということは、あってはならない部分です。
インテリジェンス・コミュニティの反感
興味深いのは、このトランプ大統領のおてつきを新聞にタレコミした者が居るという点です。そしてこの情報提供者はCIAやFBIなどのインテリジェンス・コミュニティの関係者だろうと言われています。実際、それらの政府機関からのリークの頻度は、ここへきて上がっています。
なぜインテリジェンス・コミュニティがトランプ大統領の足をひっぱることをやりはじめたか?という点ですが、先日、トランプ大統領がコミー前FBI長官を突然解任したことで、それらの局内でアンチ・トランプ気運が盛り上がっているからだそうです。
解任されたコミー前FBI長官自身、トランプ大統領とのやりとりで「これは、まずいんじゃないか?」と言うような、きわどい会話は、全て記録に取ってあるそうです。その詳細が、今後、議会の公聴会などで公にされるリスクがあります。
その意味するところは「大統領が自分に不都合な、ロシアとの接触などの件に関し司法妨害をしたのではないか?」という懸念がつきまとい、最悪の場合、大統領の弾劾裁判へとつながる可能性があるということです。
弾劾裁判
アメリカ合衆国憲法第2条第4項に「背信、贈収賄、その他深刻な犯罪ないし不品行があった場合、弾劾の動議が起こせる」ということが規定されています。
ここで「その他深刻な犯罪ないし不品行」とは、真実を語ると宣誓した後の陳述で嘘をついたとき、権力を濫用したとき、贈収賄、脅迫したとき、国家財産の不適切な資料、監督不行き届き、職務怠慢、不作法などを指します。
弾劾の動議は下院が発し、上院がそれを裁判にかけます。
もしトランプ大統領が弾劾裁判にかけられた場合、それが成立するかどうかはわかりません。なぜなら過去にアメリカの大統領の弾劾裁判は一度も有罪になっていないからです。
税制改革や大型インフラ投資計画への影響
しかし大統領が弾劾裁判にかけられるとなると行政府であるホワイトハウスは大統領支持に回ると思いますが、立法府である議会が大統領の肩を持つとは考えにくいです。なぜなら来年は中間選挙を控えており、代議士たちは弾劾にかけられている大統領からは距離を置きたいと思うからです。
そのことはトランプ大統領が実現したいと考えてきた税制改革や大型インフラ投資計画などに関し、上下院の協力を得ることは絶望的になったことを意味します。
思えば去年の11月8日にトランプが大統領に当選して以降、アメリカの株式市場がラリーしてきた理由は、税制改革や大型インフラ投資計画に対する投資家の期待があったからです。
するとそれらの実現可能性が大きく後退した今、我々投資家は前提を見直す必要があると思います。その前提とは、たとえばスティーブ・ムニュチン財務長官が唱える「米国のGDPは、4%が出せる!」というような甘い見通しを指します。
まとめ
税制改革法案や大型インフラ投資計画の実現は、普段ですら極めて困難です。トランプ弾劾の気運が高まったことで、その「夢」は遠のきました。昨日のNY市場の急落は、けっして過剰反応ではありません。