3月のマーケット展望

■短期の相場見通し

S&P500の向こう一カ月のターゲットは2,700とします。

米国株式市場は連邦準備制度理事会(FRB)が1月の連邦公開市場委員会(FOMC)で当面、辛抱強く様子見すること、ならびに現在行われている量的引締め(QT)政策を今年の冬頃に切り上げることをシグナルしたこと、米中貿易交渉が大幅な進捗をしたという観測が市場関係者の間で広がったことなどを受けて堅調に推移してきました。

実際、実務者レベルの交渉では100ページを超える貿易に関する合意書のドラフトが作成されつつあると言われています。これはいままでよりかなり踏み込んだ話し合いが行われていることの何よりの証拠だと思います。

トランプ・習近平会談は3月の下旬にずれ込みました。しかし3月1日から実施予定の関税率の引き上げはそのサミットが開催されるまで見送りされました。

現在の株価はこのサミットで良いニュースが出ることを完全に織り込んでいます。「理想買い、現実売り」という格言があるとおり、仮に今回のサミットでの発表がかなり建設的な内容であったとしても、一般は利食いが出ると考えるのが自然です。

■経済の現況

米国経済は住宅、自動車などローン金利が関係してくる分野に関しては少し減速が観測されています。しかしそれを除いた景気全般はまだまだ強いです。

この一方で中国と欧州の経済はかなりスローダウンしました。

中国政府は2018年の前半にいわゆるシャドー・バンキング、つまり通常の銀行融資を経由しない融資を抑え込む方針を打ち出しました。これが景気の伸びに冷水を浴びせたちょうどそのタイミングでトランプ政権が貿易戦争をエスカレートさせたので実業界や投資家の間に不安が走りました。

現在、中国は積極的に市場に対して流動性を供給する政策に方向転換しており、人民元建て銀行融資の数字も1月に著しい伸びを記録しました。

この緩和的政策は銅、石油などのコモディティー価格を下支えするとともに中国の株式市場を押し上げる効果を出し始めています。

したがって、当座の中国経済の見通しは、危険な状態から小康状態へと改善が見込まれます。

一方、欧州ではドイツ経済の減速が著しいです。ドイツの輸出企業はライン川を使って製品の出荷をしている企業が少なからずあります。ところがライン川の水位が下がり、バージが通行できなくなってしまい、出荷計画が大きく狂った面があります。

ただ、そのような特殊要因を考慮した上でも今回のドイツ経済の減速はエコノミストの意表を突くスピードでやってきたと言えるでしょう。

欧州中央銀行(ECB)は今年秋にドラギ総裁が任期終了し、新しい総裁の人選に入ってゆく必要がありますが、現在の超低金利の状況下で景気減速が起きていることから考えると、早晩大胆な非伝統的手法により経済をテコ入れしなければいけなくなるかも知れません。

■企業業績の現況

これまでにS&P500指数の採用されている企業のうち89%が2018年第4四半期決算の発表を終えました。69%の企業がEPSでポジティブ・サプライズを出しました。これは過去5年間の平均である71%より悪かったです。売上高では61%の企業が予想を上回りました。これは過去5年の平均値である60%よりほんの少し良かったです。

ただこれまでに来期以降のガイダンス(=会社側業績見通し)を出した93の企業のうち実井68社がネガティブなガイダンスを出しており今後の見通しは悪化していることを痛感させました。今年のS&P500指数のコンセンサスEPS予想も引き続き下がっています。

ちなみに向こう12ヵ月のS&P500の一株当たり利益(EPS)の予想に基づいて米国の株式市場は16.2倍の株価収益率(PER)で取引されています。これは過去5年の平均である16.2倍とほぼ同じです。

■注目イベント

今月の注目イベントは何と言ってもトランプ・習近平会談だと思います。

また3月30日にはブレグジット(Brexit)、すなわち英国の欧州連合(EU)離脱が起こります。もし英国が「合意無き離脱」を余儀なくされたら、英国経済に悪い影響がでることが懸念されます。

但しその場合でも、英国は共通通貨ユーロではなくポンドを使用しているのでブレグジットにまつわるリスクは刻々と為替相場に織り込まれている可能性あるので、突然、大きな価格調整は来ないと思います。

また英国経済は世界のGDPの2%でしかありません。このことから考えてもブレグジットが世界のマーケットに甚大なダメージを与えるとは考えにくいです。

■注目ETF

米中サミットとの絡みでトレーディング機会があると思われる銘柄はiシェアーズ中国大型株ETF(ティッカーシンボル:FXI)です。

また新興国市場全体も見直される気運が高まっていることからバンガードFTSEエマージング・マーケッツETF(ティッカーシンボルVWO)もタイムリーだと思います。

もうひとつ私が注目しているのは最近金地金の値動きが良いことです。FRBが当面利上げしないのであればそれはゴールドにとって好都合です。銘柄はSPDRゴールドシェア(ティッカーシンボル:GLD)になります。

資本財セレクト・セクターSPDRファンド(ティッカーシンボル:XLI)は建設、電気設備、航空宇宙、製造業などの銘柄を組み入れています。中国の景気テコ入れ策で市況色の強いこのセクターが注目される可能性があります。

ブレグジットとの絡みではウィズダムツリー欧州ヘッジド・エクイティー・ファンド(ティッカーシンボル:HEDJ)にトレード・チャンスがあるかもしれません。

■まとめ

FRBがハト派のスタンスを打ち出したこと、貿易に関する米中の話し合いが進展しているように見えることなどから米国の株式市場は堅調に推移してきました。トランプ・習近平サミットでは一旦「材料出尽くし」の利食いが入るかもしれません。欧州では3月末にいよいよブレグジットが起きます。これにも注目したいと思います。