豪ドルNZドル-2023年相場予想と戦略-

【豪NZ準備銀行の金融正常化の状況と商品市況次第】

※本記事は2021年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2022年の豪ドル/NZドル相場を振り返って】

 2022年の豪ドル・NZドル相場は、年初から堅調な上昇も、秋口からは急速に利食いに押される展開となりました。

 豪ドル/NZドル相場は、前年10月にNZ準備銀行が、早々と2014年7月以来の利上げに踏み切ったことで軟調気味なスタートも、年初の安値1.0579からロシアのウクライナ侵攻を受けて、西側先進諸国がロシアに対する経済制裁を次々と実施、大口の資源供給国であるロシアからの供給が滞るとの見方から原油など天然資源や穀物価格が大きく上昇したことで、資源国通貨である豪ドルに買いが強まりました。ただ、豪総選挙で与党が大敗し、9年ぶりの政権交代が実現したことで、1.0622まで調整も、RBAも債券購入プログラムを終了、利上げスタンスに転じたことで、NZ準備銀行との利上げ競争の中、資源国通貨である豪ドル買いが続き、9月には2015年以来の1.1490の高値まで上昇しましたが、RBAが、利上げスピードを鈍化させたこと、またウクライナが想定以上に善戦したこともあって、原油価格など資源価格が上げ止まったことで、急速に利食いに押される展開となりました。

 一方、NZ準備銀行は、その後もタカ派スタンスを維持し、11月会合では、0.75%に利上げ幅を拡大。RBAも0.50%の利上げで追従しましたが、中国のゼロコロナ政策による景気減速懸念もあって、年初来の安値となる1.0471まで値を下げて、2022年の相場を終了しました。

【2023年の主な材料】

 以下が現在、判明している来年のイベントや材料です。注目度の高いものは太字で表示しています。ただ、あくまで予定で、変更されることがあります。

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2022年は、米国の中間選挙を始め、欧州や日本の選挙、中国の共産党大会など大きなイベントがありましたが、2023年は材料の少ない年となりそうです。
そうなると2023年は、RBAとNZ準備銀行の金融政策の行方、パンデミックで失速する中国経済の影響、ウクライナ情勢による資源価格の動向が豪ドル/NZドル相場の焦点となりそうです。 

【2023年の注目点】

 2022年の相場環境を踏まえて、2023年の豪ドル/NZドル相場の注目点をまとめてみました。

・ RBAの金融正常化
・ NZ準備銀行の金融正常化
・ 商品価格との連動性
・ 金利差との連動性

〇 RBAの金融正常化

  豪準備銀行(RBA)は、2022年、それまで実施していた景気対策となる低金利政策や債券購入を止め、5月3日には2010年11月来の0.25%の利上げを実施、それまでの0.10%のキャッシュ・ターゲットを0.35%とした後も、6月会合から9月まで4会合連続で0.50%の利上げを発表、10月から12月は、0.25%に利上げ幅を留めましたが、2022年は最終的に3.1%まで政策金利となるキャッシュ・ターゲットを引上げました。

 また最後の会合の声明では、「今後一定期間、さらに利上げを行うことを想定」としていますが、これも「将来の利上げの規模とタイミングは、引き続き今後のデータとインフレ、労働市場の見通しに関する理事会の評価によって決定」としていて、やはり来年の利上げスタンスは、豪州経済次第となりそうです。
 特に豪州経済の足元では、物価高と金利高、世界経済の減速懸念も重なってスタグフレーションに陥る懸念が高まっています。また高騰していた不動産市況も、中銀の断続利上げで一転頭打ちの動きを見せているようです。

 一方この時の議事録では、「経済状況とインフレ見通しを評価する間、一定期間金利を据え置く用意がある」ともしていますので、今後もインフレ動向次第ですが、2023年に利上げを一定期間停止する可能性や更に急速な利上げの悪影響で、経済が圧迫されるなら利下げの可能性も残っていることは留意しておいた方が良いでしょう。

 以下は、豪州の消費者物価の動向です。RBAがターゲットする2-3%を大幅に越えて、第3四半期では、前年同期比で7.4%まで上昇しています。更に上昇が無ければ、利上げペースを拡大することはないでしょうが、下落傾向がはっきりと見えない限り、今後もゆるやかな利上げ姿勢は続きそうです。

 また以下は、2023年の豪準備銀行の政策会合及び政策金利の発表予定日です。
 1月を除いて毎月ありますので、必ず声明や2週間後に発表される議事録も合わせてチェックしておきましょう。

()は議事録公表日
02月07日(02月21日)
03月07日(03月21日)
04月04日(04月18日)
05月02日(05月16日)
06月06日(06月20日)
07月04日(07月18日)
08月01日(08月15日)
09月05日(09月16日)
10月03日(10月17日)
11月07日(11月21日)
12月05日(12月19日)

〇NZ準備銀行の金融正常化

 NZでは、新型コロナウィルスの締め出しに早く成功したこともあり、先進諸国に先んじて、2021年の8月には、金融政策の正常化に動きだしました。特に第2四半期消費者物価指数が、前年同期比で3.3%とNZ準備銀行がインフレ・ターゲットとする1-3%のレンジを上回ったことから0.25%の利上げを実施。その後も11月と今年の2月に0.25%の利上げ、更に4月からは5会合連続で0.50%の利上げを実施し、今年の11月には、インフレ率が7%台まで上昇したことで、1会合では異例の0.75%の利上げを実施しました。2023年末では、政策金利となるキャッシュ・ターゲット・レートを4.25%まで引き上げています。加えて最後の会合の声明では、「さらなる追加利上げが必要」、「政策金利は、以前示唆されていた水準よりもより高い水準まで上昇する見通し」と2023年も政策金利の引き上げを継続することを示唆しています。

 特にNZは、一部に豪州と並んで、資源国通貨と勘違いされていますが、地震国にも関わらず鉱物資源は少なく、基本的には農業中心の国です。石油などの資源を全て輸入に依存することで、ロシアのウクライナ侵攻による原油や天然資源の価格高騰の影響をもろに受けたようです。今後もNZのインフレの状況次第ですが、ただ、直近では原油価格に上げ渋りも見えています。インフレ・ターゲットを導入しているNZ準備銀行は、物価の上げ渋りが見えれば、率直に利上げを停止する可能性もあります。

 以下がNZ準備銀行の今年の金融政策会合の予定日です。2023年は特に、声明や総裁発言から、NZ準備銀行の政策の変化には注目して対応しましょう。

NZ準備銀行政策金利公表
02月22日+オア総裁会見
04月05日
05月24日+オア総裁会見
07月12日
08月16日+オア総裁会見
10月04日
11月29日+オア総裁会見

〇 商品価格との連動性

 豪ドル相場は、商品価格と連動性が高いことが知られています。
 そうなると豪ドル/NZドル相場も一定の影響があるのか注目しましょう。
以下は、商品市況を総合的に判断するCRBインデックスと豪ドル/NZドル相場の動向です。

 1998年からの月足チャートですが、総じて2000年前半は連動性が低いですが、リーマン・ショック前後は上下にブレるも、その後は連動性が高い形となっています。また、現在もロシアのウクライナ侵攻で商品価格が上昇しています。2023年もこの状況がどう変化するかチェックしながら豪ドル/NZドル相場を見ておきましょう。

 そうなると今後CRBインデックスが、どういった動きとなるか見ておいた方が良いでしょう。以下は1995年からのCRBインデックスの月足チャートです。

 2008年に473.97ドルの高値を付けた後は、調整が続いていましたが、一応101.48ドルで歴史的な底値圏をつけて反発も、241.18ドルでは、超長期のレジスタンスに上値を押さえられています。下段のスロー・ストキャスティクスも買われ過ぎで、反転下落気味となっています。今後はウクライナ情勢次第ですが、調整の可能性が高そうです。その場合豪ドル相場を圧迫する可能性が指摘されます。

 ただ、下値は264.30ドルの現状の安値が、過去の473.97ドルの高値と104.48ドルの安値の50%とほぼ重なり、維持出来れば堅調も、維持できない場合、241.18ドルの月足の窓の下限、更には206.95ドルのそれ以前の高値で、329.59ドルまでの半値までターゲットとなりますが、こういった位置が維持出来れば堅調が続きそうです。

 上値は300ドル前後が押さえると弱い状況が続きそうです。
 従って、2023年のCRBインデックスの想定レンジを、210ドルから300ドルとします。以上から判断すると2023年の豪ドル/NZドル相場が、更に下落を強めることはなく、良くて保合が続く可能性が想定されそうです。

〇金利差との連動性

 以下は、豪10年物国債利回りとNZ10年物国債利回りの金利差と豪ドル/NZドルを比較したチャートです。 

 過去、比較的連動してきましたが、2016年中盤からは、豪金利高が拡大しているにも関わらず、豪ドル/NZドル相場は安値圏で放置される動向が続いていました。この要因に関しては不透明ですが、この時トランプ元大統領が、関税強化などで対中政策を強化したことが、中国と関係の深い豪州経済にマイナスの影響を与えるとの見方が影響したようです。

 現在でも、中国自体はゼロコロナ政策の影響で、景気減速懸念が高まっています。ただ、豪州は、脱中国政策を目指していること、豪州やNZが金利引き上げモードに入っていることで、この影響から大分離れて、再び両国の金利差に連動を始めているようです。そうなると2023年の豪ドル/NZ相場を見る上で、再びこの金利差に注目して対応した方が良さそうです。

【テクニカル面】

 まず、豪ドル/NZドル相場を形成する、豪ドル/ドル相場の月足からチェックしておきましょう。

 豪ドル/ドル相場を大きく見ると0.4775の史上最安値から上昇が、1.1083で史上最高値をつけて、0.5510で下ヒゲを描いた後は、反発も0.8008で抑えられて再調整気味です。

 この0.8136-と0.8008がダブル・トップ気味となっていますが、これは恐らく、フィボナッチ・リトレースメント(0.4775-1.1083)となる50%や1.10-83の高値からレジスタンスが上値を押さえていて、現状は0.7284から0.7662の戻り高値圏にあるレジスタンスが押さえると弱い状況が続きそうです。あくまで、0.8135と0.8008のダブル・トップを越えて、0.8660-0.8911ゾーン、0.9196-0.9402ゾーンが視野となりますが、0.9205の戻り高値を越えるまでは、更なる上昇は期待できそうもありません。

 一方下値は、0.6171で下げ止まりを見せて、下段のスロー・ストキャスティクスも売られ過ぎで反転気味です。現状は0.6400から0.6550ゾーンが維持されると短期足からは強い形です。ただ、スロー・ストキャスティクスの反転に若干不透明感が残っていることで、この位置を維持出来ない場合、更に調整する可能性はあります。それでもサイコロジカルな0.60前後が支えると長期サポートからも更に突っ込み売りは出来ません。リスクは0.5982を割れるケースで、その場合0.5510の安値を目指すリスクとなります。

 従って、2023年の豪ドル/ドル相場の想定レンジを0.6400から0.7300とします。最大でも0.6000から0.7500で見ています。 

 次に豪ドル/NZドル円相場を形成する、NZドルの対ドル相場を月足からチェックしておきましょう。
 最安値の0.3898からの上昇を、0.8842と0.8838でダブル・トップをつけて、その後の下落が0.3898と0.4895の安値から結んだ長期のサポートを割り込み0.5469の安値まで下落もこれを維持して反転。ただ、この上昇もレジスタンスを前に0.7465で抑えられて、0.5512まで再下落となっています。

 ただ、モメンタムを示す下段のスロー・ストキャスティクスは、売られ過ぎで反転気味となっています。若干不透明ですが、この傾向が続くなら一定の反発期待となりますが、ただ、現状の戻り高値0.6514が押さえると弱く、超えても0.7035-0.7316ゾーンの戻り高値が抑えると弱い形が継続しそうです。あくまで0.7465や0.7558を越えて、0.7745の戻り高値、0.7889-0.8035の窓の下限、0.8311-0.8535の窓の上限が視野となりますが上抜けは不透明です。特に0.8842と0.8838のダブル・トップを基準としたショルダー・トップからは、0.8215が上値を抑える可能性も残っています。あくまで、0.8842と0.8838でダブル・トップを越えて、強い上昇期待となりそうです。

 一方下値は、短期足から0.5800-0.6000ゾーンが維持されると良いですが、維持出来ずに0.5512や0.5469の下ヒゲを割れると0.4895を再度目指すこととなりそうです。 
 従って、NZドル/ドル相場の今年の想定レンジを、0.5800~0.7000とします。

 以下は豪ドル/ドル相場とNZドル/ドル相場の想定レンジから、マトリックス・チャートです。 
 豪ドル/ドルの想定レンジを0.6400~0.7300,NZドル/ドルの想定レンジを0.5800~0.7000としましたので、これから算出された豪ドル/NZドル相場の最大想定レンジは、0.9286から1.2241となりますが、広すぎることから、0.9925から1.1393を適正レンジとして想定します。

 次に豪ドル/NZドル相場ですが、過去のリポートで、長期の一定のサイクルを指摘してきましたが、2022年の上昇が1.1490で終了してしまったことで、この見方が「誤り」であった可能性がありそうです。
 一応そのサイクルに対する見方を再検証しておきたいと思います。
 以下の豪ドル/NZドル相場の長期チャートでは、ご覧のように比較的上下に大きく動いています。

 まず、高値の動きを見ると①が8年4か月、②が10年6か月となっています。もし、2年多くなるパターンを想定すると、次の高値③は、12年後と仮定すれば2023年となります。過去の例からは1.36や1.37まで上昇することになりますが、2022年の豪ドル/NZドルの上昇が、1.1490で高値をつけて、更なる上昇にフェイルしていることを考えると2023年にそこまで上昇できる可能性は大きく低下しています。

 一方下値も一定のサイクルが見えていました。
 下値は、過去④と⑤でダブル・ボトムをつけて反転に転じています。現状も一旦ダブル・ボトムをつけて一定の反転が実現しましたが、その後失速しています。

 こちらもこの期間は、④が1年11か月、⑤は2年10カ月となっていますが、今回は4年11か月と異例に長くなっていますが、現状では、反発が実現していないことで、このサイクルの見方に疑問が出てきています。

 あくまで仮説でしたが、2023年に恐ろしい勢いで上昇すれば別でしょうが、現状はこのサイクルに不整合が見えることで、2023年は、保合相場が続く可能性で見ておきたいと思います。

 最後に、より直近の月足からテクニカルをみてみましょう。
 2020年の3月の0.9994の安値は、コロナウィルスのリスク回避で、世界的に株価が急落した時の動きですので、オーバー・シュートと見なすと、総じて1.1680の高値からのレジスタンスと1.0020からのサポートの中で、三角保合を形成していました。また、2022年にこのレジスタンスを越えて上昇を強めましたが、この動きも1.1490で上値を抑えられて再度保合の中に戻る展開となっています。加えて下段のスロー・ストキャスティクスも買われ過ぎからデッドクロスを現状示していることで、更に下落が拡大するかは不透明も、少なくとも上値は重くなるでしょう。

 上値は、1.0744-794の直近レンジの50%と重なる位置が押さえると相当弱く、超えても1.0992-1.1114の節目が押さえると弱い状況が続き、更にこの上抜けが実現しても1.1446-90の緑のゾーンが押さえるとレンジ相場が続く可能性となりそうです。

 一方下値は、現状の安値1.0471が、どうにか0.9994の安値からのサポートを維持していて、この維持では更に下落は進みませんが、維持出来ない場合、1.0323-358の次のサポート、1.0277を割れると1.0203などが再度ターゲットとなります。またこの位置からパリティなどが維持できれば良いですが、維持できずに0.994を割れると相場が崩れてしまうので注意が必要です。 

 従って、2023年の豪ドル/NZドルの想定レンジを、レンジ相場と見て1.0000から1.1500とします。

【予想レンジと戦略】

 それでは以上を踏まえて、豪ドル/NZドル円相場の来年の見通しと戦略についてお話します。
 一応来年は、過去の新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナの情勢が更に悪化しないとの前提でお話させて頂きます。

 来年の豪ドル/NZドル相場の想定レンジを1.0000から1.1500としました。

次に戦略の前提としては
・NZ準備銀行とRBAの利上げペースの差は、今後更に拡大する可能性は低い。
・NZ金利の方が高い状況が続くとしても、原油などの商品価格の堅調な動きが、豪ドル相場を支える。
・豪ドル/NZドルのスロー・ストキャスティクスからは、早期は下押しリスクとなるが、パリティまで割れるような状況は想定しない。
・注意点としては、やはりウクライナ情勢です。もし、プーチン大統領が核の使用などに走った場合、リスクオフの動きに注意ですが、地政学的に離れた豪州やNZに対する悪影響は低く、よりNZに資金が集まる。一方で早期に停戦合意となった場合は、リスクオンの動きからは、NZドルからの資金流失圧力が高まる。
・またオセアニア通貨は、7月の新財政年度のスタート期に、トレンドが変わるリスクがあることは、留意しておいてください。

 基本的なスウィング・トレード戦略は、逆張りですが、早期はモメンタムの弱気から、買いはしっかりと押し目を待つのが安全となりそうです。

 下値は、まず1.0277をストップとして、1.03台などから買いを検討するか、思い切って、パリティまで買い下がって、ストップを0.9994割れとします。ターゲットは、 1.0744-794、超えても1.0992-1.1114などでは利食い優先で、また売りはこういった位置から1.1490までは売り場探しで、この場合のストップは、1.1680越えで対応しましょう。売った場合の利食いのターゲットは、レンジの半値となる1.0742前後などの維持では利食いで、割れても1.0300-1.0500ゾーンなどはしっかりと利食いながら、また買い場を探すような逆張り回転を想定して対応しましょう。 

※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。