ドルカナダ-2024年相場予想と戦略-

BOCとFRBの金融政策の行方と原油価格次第か?

※本記事は2023年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2023年のドルカナダ相場を振り返って】

 2023年のドルカナダ相場は、FRBとカナダ中銀の引き締め姿勢の差が、相場の下値を支えるも、原油や金価格の堅調な動きが上値を抑える形で、総じて揉み合い相場に留まりました。

 年初からは、カナダ中銀が3月の会合で、2022年3月から続けて来た利上げを一旦停止したことで、1.3862まで上昇後、米地銀2行の破綻を受けたリスクオフの動き、FOMCが6月の会合で政策金利を据え置いたことで、7月14日に1.3093の年間安値まで下落しました。ただ、カナダ6月消費者物価指数が、インフレ・ターゲットの上限となる3.00を割り込んだこと、また、9月のFOMCでは、再度政策金利を据え置くも、ドット・チャートで、2024年のFF金利見通しを、6月時点の4.6%から5.1%に一気に0.50%、サプライズ的に引き上げたことから、米10年物国債利回りが5%に迫る上昇しました。ハマスのイスラエル侵攻などリスクオフの動きもあって、11月1日には、1.3899の年間高値をつけましたが、その後12月の今年最後のFOMCにおいて、政策金利の据え置かれ、加えて2024年のFF金利見通しが、再び6月時点の4.6%に引き下げられたことで、1.3219まで再度値を崩して、2023年の取引を終了しようとしています。

【2024年の主な材料】

 以下が現在、知り得る2024年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2024年は、米国の大統領選挙が、大きな波乱要因となるのか注目となりそうです。

 米大統領選に関しては、トランプ元大統領の再立候補が話題となっています。ただ、前回の大統領選挙に絡めた自身の疑惑に関連して、多くの告訴を抱えています。また米憲法修正第14条によって、一部の州で「大統領選出馬の権利がない」との判決も出ています。裁判自体は長期に渡ることで、大統領選まで時間稼ぎが可能でしょうが、もし、こういった裁判で、次々に有罪が確定した場合、7月の共和党の全国大会に向けて、予備選を勝ち抜けるかは不透明感が残りそうです。また、そうでなくても、もしトランプ大統領が再び大統領に返り咲くなら、バイデン政権の政策を全て「ちゃぶ台返し」する可能性が高く、その場合恐らく世界の政治や経済、金融市場に大きな混乱を招く可能性高いことは、留意しておきたいと思います。

 一方バイデン大統領も次男のハンター・バイデン氏の問題で、共和党が同大統領の弾劾裁判に向けて動いています。また、高齢であることもあって、健康問題も懸念として残りそうです。つまり、夏の全国大会に向けて、両氏が候補者としての立場を維持出来るのかは、現状は全くの不確実です。その場合、次の候補者次第となるでしょうが、現状米国の大統領選の結果を占うことは非常に難しく、特に金融市場においては、この問題に関して、2024年を通して、常に経過を確認しておくことは重要となりそうです。

 また、台湾総統選、ロシア大統領選、9月の岸田首相の任期などの政治的日程が、予定されていますが、台湾の総統選で与党が勝利しても、中国が軍事行動に出る可能性は低く、プーチン大統領の再選は揺ぎ無く、為替・金融市場に大きな影響を与えることはなさそうです。ただ、直近米国の支援が止まる可能性が指摘されているウクライナ情勢では、今年も混戦が続く可能性が高いと思われますが、もし何かの政治的な動きが出て、停戦や終戦に向かう兆しが見えた場合、過去2年のエネルギーや商品市況に、大きな巻き戻しの動きが出るかもしれません。その場合、ユーロ相場に大きな動きが出る可能性があることは注意しておきましょう。

 一方金融市場では、5月にスタートするNY株式の決済の短縮化が、相場の波乱要因となるとの指摘が出ています。現状2営業日後に決済する売買代金を、翌営業日に決済を前倒しするというものですが、世界的な市場では、まだ2営業日後の決済が主流です。為替市場も、2営業日後に決済されますが、株式の取引に伴う為替ヘッジのリスクと絡めて、機関投資家やファンドなどの対応が遅れているようです。一部でこの変更によって、流動性のリスクも指摘されており、金融市場に混乱が生まれる可能性に注意しておきましょう。

 その他、今年も大きな地震や自然災害、ガザの問題などいろいろ自然・地政学リスクが、市場の混乱につながっています。2024年も温暖化の影響など、何が起きるのかわかりません。こういった事象は突発的に起こることで、準備することはできませんが、常に、こういったリスクも念頭に入れて、相場に臨む姿勢を維持しておいた方が得策もしれません。

【2024年の注目点】

 2023年の相場環境を踏まえて、2024年のドルカナダ相場の注目点をまとめてみました。

  • FRBは本当に2024年早期に利下げに転じるのか?
  • カナダ中銀のスタンスは?
  • 米加金利差との連動性

〇 FRBは、本当に2024年早期に利下げに転じるのか?

 FRBは、2022年3月からの利上げ姿勢を、遂に変更しました。

 2023年6月には、それまで10会合連続で引き上げて来た政策金利を据え置き、7月には0.25%の再利上げを実施するも、9月に再度政策金利を据え置きました。この時に引き上げたFF金利の誘導目標5.25%から5.50%が、ターミナル・レートになるわけですが、ただ、この時の会合では、FF金利見通しが、6月時点の4.6%から5.1%に一気に、0.50%引き上げられたことで、米10年物国債利回りが、5%に迫る上昇となったことが、FRBの懸念につながったのでしょう。この時FRB要人からは、次々と米長期金利の上昇スピードに対するけん制発言続いたことは、象徴的な事実となっています。

 最終的には、12月のFOMCでも政策金利を5.25%から5.50%に据え置き、加えてドット・チャートにおける2024年のFF金利見通しを、6月と同様に4.6%まで引き下げました。結局9月の見通しの引き上げが、全く余分となった形ですが、FOMCのスタンスとしては、確かに今後も経済データー次第としながらも、政策金利の引き上げを一旦終了し、2024年としては、利下げのタイミング視野となって来るでしょう。パウエルFRB議長も、12月の記者会見で「きょうの会合で利下げのタイミングを協議した」とはっきりと述べています。

 さて、こうなってくると市場は騒がしくなってきます。特にNY株式市場は、2024年3月にも、利下げスタートとクリスマスを前に、過去最高値を更新する動きとなっています。

 しかし、この流れは若干行き過ぎではないかと思われます。

 以下、1999年からの米国の政策金利の推移をみてみましょう。

 今回の利上げが、サブプライム・リーマンショックの時期と同等レベルまで引き上げられたことは、興味深いですが、やはり利下げは、あくまで経済の急速な悪化という事実が必要です。現状の米国の景況感を見る限りは、何かの金融ショックで起きない限り、早期に利下げに踏み切る可能性は低いと言えるでしょう。

 また、FOMCの過去の傾向としては、政策の転換も必ず6か月以上の期間を置いています。加えて利上げも利下げも開始すると一定期間これを継続するケースが多いようです。そうなると現状FOMCが来年3回の利下げを想定している訳ですから、もし、3月から利下げを開始した場合、来年3回の利下げで済むことはなさそうです。一応順当な対応としては、その時の経済状況次第としても、早くても来年夏以降利下げに転じると見るのが妥当な見通しと言えそうです。そうなると米国の早期の利下げの見込んだドル売りは、時期尚早ではないかと考えらえます。

 加えて米長期金利の動向もチェックしておきましょう。以下は米国10年物国債利回の月足チャートです。

 米10年物国債利回りは、4.997%まで上昇も一旦トピッシュな上ヒゲをつけています。下段のスロー・ストキャスティクスも、上昇し過ぎ(売られ過ぎ)のレベルにあって、一旦ピークをつけていることは間違いなさそうです。ただ、調整があっても、3%から3.25%レベルは、サポーティヴな位置であって、現状の水準からの更なる低下は限界がありそうです。そうなると米長期金利の低下を背景としたドル売りも、大きく強まることは無さそうです。

以下が2024年度のFOMCに関連する予定日です。

FOMCの金融政策の行方は、世界の金融経済の大きな影響を与えることで、パウエルFRB議長の発言や例年8月に開催されるジャクソンホール会議と合わせて、2024年もこの日程をしっかりと押さえておいてください。

2024年FOMCの日程(議事録公表日)

01月30日-31日(02月21日)*メンバー入替

03月19日-20日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(04月10日)

04月30日-5月01日(05月22日)

06月11日-12日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(07月03日)

07月30日-31日(08月21日)

09月17日-18日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(10月09日)

11月06日-07日(11月27日)

12月17日-18日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(01月08日)

〇 カナダ中銀のスタンスは

 カナダ中銀は、2022年3月に、2018年5月以来の利上げに踏み切り、2023年7月には、政策金利を5.0%まで引き上げました。実に一年半に4.75%の利上げを実行して、現在は政策金利を5.0%で据え置いています。

 2024年カナダ中銀が、どういったスタンスとなるかは、やはりカナダの景気や物価の今後の状況次第ですが、一応12月の会合のカナダ銀行の声明では、「経済の減速により、インフレ圧力が低下している」、「理事会は依然としてインフレ見通しに対するリスクを懸念しており、必要に応じて政策金利をさらに引き上げる用意がある」としています。また、マックレム加銀行総裁は、「利下げについて議論するのは時期尚早」、「経済は2024年も低迷が続くと予想」、「明らかに物価安定への道筋にある場合は利下げを検討」と述べています。

 どちらなのかはっきりしませんが、下段のチャートのように、インフレ率は、確かに低下傾向を示しています。カナダ中銀は、インフレ・ターゲットを1-3%に現在も設定していますが、来年インフレ率が、確実に低下できるか、中央銀行も判断できない状況が続いているようです。そうなると我々も、この状況をつぶさに観察していく必要がありそうです。

 だが、一方でグラベル加銀行副総裁の次の発言には、注目してください。同氏は「10月の家賃インフレは40年ぶりの高水準に加速、住宅供給は近年の移民増加に追いついていない」、「人口動態に伴う需要の急増と既存の構造的供給問題が相まって、 家賃インフレが上昇を続けている可能性がある」と述べています。

 実は、今年6月にカナダ統計局が、カナダの総人口が同局の推計で、4000万人を超えると発表しています。また、カナダの人口は1950年代のベビーブーム以来の高い増加率となっていて、その大部分は移民の流入によるものとみられているようです。現在カナダ政府は、積極的な移民受け入れ政策を取っていて、2043年までに、人口が5000万人に達するとされています。

 こういった面を考慮すると今後もカナダ経済には、成長期待が維持され、インフレの高止まりも想定されそうです。カナダの政策金利は、それほど大きく下がることは無いのかもしれません。

有限会社フォレックス・ラジオ作成

 カナダの長期金利の動向もチェックしておきましょう。

 以下はカナダ10年物国債利回りの、2016年からの月足チャートです。  

 0.311%から3.935%まで上昇しましたが、既に上ヒゲとなっており、下段のスロー・ストキャスティクスも反転下落を示しています。3%前後が維持すると強いですが、割れると2%から2.625%まで低下する可能性が高そうです。カナダの長期金利も今後のカナダ中銀の利下げの可能性を織り込んでいるようです。

 以下は、2023年のカナダ中銀の政策金利公表予定日です。

  尚、カナダ中銀は、2024年の金利政策決定を、東部冬時間午前10時(日本時間午前0時)から、東部冬時間午前9時45分(日本時間午後11時45分)に変更、金利政策決定ごとに記者会見を開始する予定しています。

カナダ中銀政策金利公表

01月24日+金融政策報告公表

03月06日

04月10日+金融政策報告公表

06月05日

07月24日+金融政策報告公表

09月04日

10月23日+金融政策報告公表

12月11日

〇 米加金利差との連動

 また、以下は米国とカナダの金利差とドルカナダ相場を比較したチャートです。水色の時期は、若干連動性が薄れていますが、基本的にドルカナダ相場は、米加金利に連動して動いています。

 2024年は、FRB、カナダ中銀ともに、今年の利上げから政策金利の引き下げに踏み切ることが想定されています。一応そのペースの差次第ですが、FRBは、既に12月のFOMCで、3回の利下げを想定しています。一方カナダ中銀も、一定の緩和策を実行する可能性がありますが、FRBが2%のインフレ・ターゲットを目標としていますが、カナダ中銀は、1-3%をインフレ・ターゲットとしています。単純には判断できませんが、これを見る限り、FRBの利下げ幅の方が大きくなる可能性はありそうです。また、カナダ政府が実施している移民政策などを考えると、大きく利下げする可能性は低いのかもしれません。こういった面が、ドルカナダ相場を支えるか注目したいと思います。

【テクニカル面】

≪ドル・インデックス≫

 まず、2024年のドル相場の行方を判断する上で、ドル・インデックスの月足からチェックしておきましょう。

 ドル・インデックは、米金利の強い引き上げもあって、114.778まで一時上昇しましたが、これがトピッシュとなって調整気味です。既に下段のスロー・ストキャスティクスも下落傾向を継続しており、反発が107.348の戻り高値が押さえると弱く、下値は99.578を戻り安値を割れると、マイナー・サポートが控える95レベルまでの調整の可能性は高そうです。更に割れるかは不透明ですが、88.253-92.630ゾーンは、過去の強い上下の抵抗となっていて、これを割れる状況は想定するのは難しいですが、もし、割れると80までの調整となる形です。ドルカナダ相場との連動性は、それほど高くありませんが、2024年のドル相場は、軟調な展開に注意しておきましょう。

≪ドルカナダ≫

 テクニカル面からまず、ドルカナダ相場(カナダドルの対ドル相場)の長期月足をチェックしておきましょう。

 2007年11月の安値0.9059から反発が1.3065で抑えられて、再度調整を0.9405で維持して、1.4690と1.4668まで反発も、2つの上ヒゲがダブルトップとなり、調整が1.2007で維持される形となっています。

 現状この位置からの反発が1.3978でこのダブルトップを前に、長期のレジスタンスに抑えられています。下段のスロー・ストキャスティクスは、現状不透明な反発気味ですが、再度下落の兆候が見えています。今後のこの高値圏となる1.3892-1.3978ゾーンが抑え続けるなら上値追いは厳しい状況です。あくまで1.3978を越えて、更に上昇期待ですが、1.4668-90のダブルトップを越えるかは不透明となります。超えると1.50や1.60のサイコロジカルがターゲットとなります。

 一方下値は、現状下値を支えている短期サポートの1.3000前後の維持では強いですが、維持できない場合、1.2288-1.2728ゾーンが視野となります。こういった位置が維持できれば、直ぐに下落は拡大しないでしょう。リスクは0.9405から1.4690と1.46681のフィボナッチ・リトレースメント50%となる1.2035-48を維持出来ずに、1.2007やサイコロジカルな1.20を割り込んでしまうケースです。その場合1.1279のそれ以前の高値、1.0622-1.0656の節目まで視野となりますが、こういった位置は最終サポートが控えていて、維持出来れば更に下落は進みません。リスクは0.9634や0.9405を割れるケースとなります。

【予想レンジと戦略】

 それでは以上を踏まえて、ドルカナダ相場の来年の戦略についてお話します。

 また、一応来年は、過去のような新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナの情勢の勃発など予測不能な事態が発生しない前提でお話させて頂きます。

 2024年のドルカナダの想定レンジを、1.2000~1.4000と想定します。

戦略の前提としては

  • 2024年、米加金利差は縮小する見通し。
  • ウクライナ情勢は不透明ですが、連動性の高い原油価格が、テクニカル的に調整し易く、ドルカナダの突っ込み売りは避けたい。
  • ただ、ドル・インデックスのテクニカルからユーロドルを始め、スロー・ストキャスティクスが、デッド・クロスを示現していて、2024年は下落傾向が見えそうです。
  • カナダの人口増加傾向、地政学リスク回避もの影響もあるでしょう、移民の増加傾向が続くと、移民のカナダドルへの資産移動も高まることで、将来的なカナダドル相場の行方は明るいと考えています。あくまで押し目でのカナダドル買い(ドルカナダ売り)を推奨します。

 基本的な、ドルカナダの中期スウィング・トレードとしての戦略は、基本は、2023年のレンジとなる1.3092と1.3899のブレイクを見る形ですが、スロー・ストキャスティクスの動きからは、突っ込み売りは避けなければなりません。しっかりと戻りがあれば1.3978をストップに売り狙いです。もし、超えても1.4668-90をストップに売り直しとなります。ターゲットは、1.3092を割れてくれれば、1.2728-1.2958ゾーンなどは利食いながらの対応ですが、こういった下落があれば、反発では売り直しながら、売り回転を利かせるのも一考となりそうです。

 下値は、1.2226-1.2518への下落では、利食いを優先して、また買い場を探してみましょう。この場合のストップは、1.1921割れとして、1.20までの買い下がりも良さそうです。ただ、下落がここまで進むと1.30が逆レジスタンスになる可能性があり、その場合は利食いを優先しましょう。 

※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。