
米国経済は一見すると順調に見える
先週金曜日に発表された第2四半期の実質GDP速報値は前期比年率+2.8%と好調でした。
一方、6月のCPIは+3.0%で、あと一息で2%台に降りてくる展開になっています。
景気の減速をともなわず、物価を安定させることが出来れば、それはソフトランディングが成立したことに他ならず、FRBが中央銀行としての使命を立派に果たしたことを意味します。
現在の米国の政策金利は5.25%なので景気後退が来たら利下げ余地は大きいです。これも中央銀行家を安心させる要因と言えます。
つまり一見するとFRBはいまとても良いポジションにつけているのです。
実際には身動き取れない
しかし実際にはFRBは身動き取れない立場に追い込まれています。
まず大統領選挙との絡みですが、本投票が11月に迫っているのでいま利下げを開始するとあからさまに民主党の肩を持っているというメッセージが出てしまいます。
実際、共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏も「このタイミングで利下げというのはアメリカの慣習に背く行為だ」と牽制しています。
中央銀行は政治からは超然とした存在である必要があるので、(予防的に、早めに利下げしておこう)という行為は政治介入と受け止められかねません。
折り悪くFRBは政策金利決定枠組みの見直しの討議に入っています。前回の見直しでは「少々物価が上がり始めても、ゆっくり利上げに転じれば良い」という基本方針が打ち出され、これが新型コロナ後の経済再開局面でFRBの初動を遅らせる原因となりました。
ルールを一度決めたら、それに則り、自分たちが決めたことを粛々とやる……その精神からすれば、いまホイホイ利下げするとFRBは首尾一貫性に欠ける組織だというそしりを受けるリスクがあります。
前回の政策金利決定枠組み見直しはFRBの歴史でも稀に見る汚点であり、いまその過ちを正すための議論が進められている最中です。FRBの内部には批判の声も多いです。だから意見調整は困難を極めるはずです。
先日、パウエル議長から「賃金インフレは…もう心配ない」という唐突なコメントが出た背景には、目先政策金利を変更できない中で、なんとかトークのちからで長期金利を押し下げ、軟着陸を狙おうという苦労が感じられます。