英ポンド円 – 年間見通しと戦略【2019年版】

【最新】2020年の予想はこちら >>英ポンド円-2020年相場予想と戦略-

ブレグジットは、本当に実現するのだろうか?

1.英ポンド円の注目点

2019年の英ポンド円相場の注目点としては、以下の通りです。

  • 1-1.どうなるブレグジット!
  • 1-2.英中銀の金融政策
  • 1-3.現状の英国経済は?
  • 1-4.ポンドドル相場とドル円相場から見たポンド円相場

1-1.どうなるブレグジット!

昨年12月に延期された欧州連合(EU)と最終的に合意した離脱案の議会採決が、1月15日に実施される。ここで承認されるか、否決されるかは、英経済やポンド相場に、大きな分水嶺となりそうだ。

現状の見通しでは、ほぼ否決される可能性が指摘されており、絶望感しか漂わない。特に否決された場合、内閣不信任案が提出され、更に総選挙へという流れとなる可能性も高い。また、その場合与党の保守党が、再勝利する可能性は低く、労働党に政権を奪われた場合、第2回目のブレグジットに対する国民投票が実施される可能性も残っている。 

ともかく、もう時間がない!

3月29日の日本時間午後11時に向けて、今回否決された場合、再度のEUとの交渉なども含めて、議会の調整など恐らく時間的には絶望的で、その場合「合意なき離脱」は決定的となりそうだ。ただ、EU側が一定の譲歩策を示す可能性があるが、それであっても、5月23日に開催される欧州議会選挙までが限界と指摘されている。
では、「合意なき離脱(ハード・ブレグジット)」となった場合、どういったことが起こるのだろうか?
これは、現状全く予測できないが、一応現在指摘されていることは、

英国経済の減速

英シンクタンクの国立経済社会研究所は、英国経済の2019年、2020年のGDPに関して、EUとの合意を伴うブレグジットであれば、1.9%、1.6%の成長が可能としているが、「合意なき離脱」の場合には、いずれも0.3%に留まるとしている。一方、英中銀は、移行期間を伴わないブレグジットとなるなら、英国経済は、1970年代の石油危機に匹敵する「大きなマイナスのショック」を受けると警鐘を鳴らしている。また、国際通貨基金(IMF)では、合意なきブレグジットによって英国経済はマイナス成長に陥るとしており、英国の減速は避けらないようだ。 

 ②貿易問題

突然、何も決まらないまま、3月末に離脱となった場合、最も直接的な影響を受けるのは、通商・貿易関連だろう。
今まで、税関を通さずに無関税で流れていた英国と欧州の物流が大混乱することは間違いない。特に関税率は平均5%が適用されると言われているが、英国の主力輸出品となる自動車には、10%の関税が課せられると見られている。また、製造業に関しては、通関手続の遅れが、多くの支障をきたす。
一部ハードブレグジットに備えているとは言われているが、港湾と空港では、通関手続が、30分遅延すると、英国企業の10分の1が倒産すると言われており、英国とフランスの物流の拠点となるユーロ・トンネルは大混雑となりそうだ。

  国境と人の移動

今まで自由に行き来していた人の移動も制限される。当然ピザの取得や申請が必要となれば、入国管理も大混乱するだろうし、大きな焦点となっているアイルランドと北アイルランドの国境問題は、更に深刻だ。EUと英国は、一応懐柔策として、当面国境を設けずに、現在と同様の扱いを考えているが、この合意さえ実現しない場合、ここでは不法入国や関税を避けるための密貿易が横行するかもしれない。それでは、何のためにブレグジットするのか、意味がなくなってしまう。

 金融市場

金融市場では、特にポンド安が拡大すると見られている。
合意なき離脱となれば英経済が大きな打撃を受けることで、ポンドの下落は、必然的となる。既にポンドの対ドル相場は2016年の英国の国民投票で離脱を決めた時から、13%程度下落しているが、この下落幅がさらに拡大する見通し。ロイターのアナリスト調査では、合意なき離脱となった場合、ポンド相場は6%以上下落するが、合意成立の場合には5.5%上昇すると予想されている。ただ、実際こんなものでは済むのかは不透明で、一部のストラテジストは、1.10までの下落を予想している。
一方株価面でも波乱がありそうだ。一時は、ポンド安が輸出に有利となることで、株価が買われる展開が続いていたが、合意なき離脱の場合、貿易が滞り、関税がかかった商品が売れなくなる可能性も高く、一方で輸入企業は、価格の上昇や品薄など更に厳しい状況に直面する。
また、英国の債券市場でも英国債が、質への投資から買われる局面もあったが、合意なき離脱による経済ショックや混乱、加えて海外からの投資が減少する可能性があり、そうなってくると通貨、株、債券の「トリプル安」のリスクとなることは、留意しておきたい。

1-2.英中銀の金融政策

そうなると最も対応に憂慮しなければならないのは英中銀だろう。ただ、その英中銀でさえ、合意なき離脱後の状況を把握できておらず、カーニー英中銀総裁は、「中銀にできることは限定される」と市場を牽制している。

具体的には、景気悪化を受けて、利下げすれば、ポンド安が進み、恒常的に貿易赤字国(以下の英貿易収支チャート参照)である英国のインフレ率は、ポンド安を受けて明確に上昇する。その場合、ポンド安がオーバー・シュートする可能性があり、逆に利上げでこれを止めようとすれば、景気に良い影響を与えず、英中銀は、「表裏一体」の対応を迫られることとなりかねない。 

以下は、昨年11月に公表された英中銀の四半期インフレリポートによる予測だが、これは合意なきブレグジットを前提としていない。特に金利面では、現状の0.75%の政策金利の見通しも、2019年、2020年と各年一回程度の利上げしか想定していないが、恐らくポンド安が大きく進んだ場合、その程度の利上げでは済まず、更に数回の利上げが必要となるだろう。しかしながら、それでもポンド安が押さえられなかった場合、歴史的にポンド危機が起こった1992年と同様「市場介入」という最後の手段まで考えなければならなくなるかもしれない。

1-3.現状の英国経済は?

英経済は、それでも現状は良好を示している。
 以下は、英国のサービス業・製造業・建設業のPMIのグラフだが、2016年6月に国民投票で、ブレグジットが決定した直後に落ち込んでいるが、その後は横ばいを継続している。比較的に良好とはいえるが、実際これもブレグジットに備えた駆け込み需要が支えている可能性が高い。現状は再び合意なき離脱に備える形で、落ち込み始めており、合意なきブレグジットとなった場合、景気の分水嶺となる「50」を割り込むリスクがあることは、注意しておきたい。

また、英国の不動産や住宅指標で見ると、以下の英国立不動産協会の住宅価格予測などを見ても、落ち込みが顕著となっている。一時は、ポンド安から値ごろの買いも入っていたようだが、ブレグジットによって、在英海外企業が、着々と移転準備を進めており、そこで働く従業員も移動を余儀なくされる。移民も制限されることから、住宅ニーズの減少傾向は明らかで、今後誰も英国の不動産に投資しようとは思わないだろう。

1-4.ポンドドル相場とドル円相場から見たポンド円相場

ポンド円相場の投資を考えるのであれば。当然これに大きな影響を与えるドル円相場とポンドドル相場をチェックしておかなければならない。

まず、ドル円相場の月足チャートを見て頂きたい。
ドル円相場は、2013年に黒田総裁が、異次元の金融緩和を導入したのち、125.86の高値まで上昇後は、英国が欧州からの離脱を決定したことで、一時99.02まで急落も、トランプ政権の誕生で、米株価が財政拡大期待から上昇、第2弾の黒田バズーカ―もあって、118.66まで戻り高値をつけた。ただ、2018年の相場は、104.56を安値に、底堅い推移を続けるも、115円も超えられずに低迷が続いた。

 昨年は年間で9.99円と歴史的な低水準のレンジ幅の値動きに留まったが、年初から再び急落を始めている。今年は、大きな動きが出るか注目されるが、既に上値は112円前半が押さえると上昇も難しく、直ぐに現状の安値圏となる104.87や104.56を割り込むことはないとしても、モメンタムを示すスロー・ストキャスティックスから見ても、上値の重い状況が続く可能性高い。また、現状の安値を割れると最安値の75.31から126.86の戻り高値のフィボナッチ・リトレースメント50%となる100.58などがターゲットとなるリスクがある。

 一方ポンドドルの月足チャートからは、2016年6月のブレグジット決定後、1.5018を戻り高値に、10月に一時1.1378まで急落後は、戻り歩調を示した。ただ反発が1.4345と1.4377でダブル・トップをつけて現状は再度下値トライの様相となっている。今後もブレグジットの行方次第だが、それでもモメンタムを示すスロー・ストキャスティクスからは、下落傾向が続いており、テクニカル面からは、H&S的な傾向と合わせて、今後最低でも1.20前後のネック・ラインを試す可能性が指摘される。

また、更なる長期視点から見るなら、以下の1979年からの週足チャートをご参照頂きたい。

 ポンド相場は、案外大きく動いている形が見えるが、現状はほぼ1.35から1.70台ミドルが、メイン・ゾーンの動き。これは2.4550の高値と1.0525の安値の半値が上値を押さえる形となっており、中長期では、これより上は売り場、下は買い場となっている。そうなるとここからの下落は、買いを意識したいレベルなるが、ただ、現状のダブル・トップやレジスタンスが押さえる展開が続き、以前のゾーンの下限となる1.35や1.37が上値を押さえると最安値となる1.0525を目指す可能性も残っている。
特にこういった状況は、ブレグジットの展開次第であり、来年以降将来の話となると思われるが、ブレグジット完了後も英経済が低迷を続け、EUからの離脱を後悔するような状況となるなら、ポンド相場が、1.1を割り込んで下落するリスクが残ることは考慮しておきたい。 

2.テクニカル面

 テクニカル面で、ポンド円相場は、ブレグジット後2016年10月に116.85の安値まで急落後は、昨年2月に、フィボナッチ・リトレースメント(116.85-195.89)の半値となる156.37と重なる156.61で戻り高値をつけて調整を続けている。

 また年初の急落から、それまでの安値となる139.91や日足サポート割り込み、一時130.70まで急落。これは流石に一時的な展開に留まっているが、以下の日足チャートからは、反発がそれ以前の安値となる139.91、141.73-142.78、143.90-144.80ゾーンが押さえると弱い状況が続く。ただ、146円をしっかりと越えるとレジスタンスの上抜けが発生するが、それでも149.45-75の戻り高値圏やサイコロジカルな150円の上抜けは不透明となる。  

一方、月足チャートからは、マイナー・サポートを割り込んでおり、今後134-136円ゾーンが守られるなら良いが、モメンタムを示すスロー・ストキャスティクスが下落傾向を示しており、現状の下ヒゲとなる131.70を割れると128.32-129.20ゾーン、更に最終的なサポートなる126.50を目指す可能性が指摘される。この最大のリスクは2016年の124.85の安値割れとなる。

3.予想レンジと戦略

それでは、2019年のポンド円相場の見通しと具体的な戦略を考えてみたい。
基本は、モメンタムからドル円が下落傾向、ポンドドルが下落傾向であれば、ポンド円も下落傾向と見るのが必然となる。ただ、ブレグジットの行方が不透明で、状況次第では、乱高下も想定されることは注意しなればならない。また、以下のチャートが示すように、IMMの通貨先物投機筋のポジションは、一時の買い持ち転換から再び売り持ちに拡大している。現状はブレグジットの後の10万枚超えには及ばないが、一定の織り込みあることで、巻き戻しのリスクが高いことは留意しなければならない。ただ、それであっても、将来的にブレグジットが反故でもならない限り、買い持ち展開となるリスクは低いと見ておきたい。つまり、ポンド相場の上値は重いと考えるが無難となる。

特に、前提として
合意なきブレグジットとなり、4月以降に突入するケース。
予想外に合意が成立して、移行期間を経てブレグジットが順調に進むケース。
総選挙や国民投票が実施されて、不透明感が続くケース。
ブレグジットが反故にされるケース。

上記のケースによって、相場展開や戦略が全く異なることは留意しなければならないが、まず合意なきブレグジットとなり、4月以降に突入するケースでは、やはり下落傾向を強めると見て置くのが良いが、一方で合意の成立した場合、移行期間の進捗を見極める形で、ポンド相場の買い戻しが強まるだろう。また、メイ政権が倒れた場合、一瞬ポンド売りとなる局面はあっても、総選挙や国民投票に対する期待感から、ポンドの巻き戻しが想定される。最後にこのケースは想定しづらいが、ブレグジットが反故となれば、ポンド相場は、最低でもブレグジット前の水準に戻ることになる。レベル的には、最低でも、ブレグジット決定の戻り高値で見るとポンドドルで言えば、1.50、ポンド円なら160円台は想定出来るのかもしれない。

想定レンジは、一応ブレグジットが反故となるケースを除いて、検討してみたい。また、過去10年のポンド円の年間の平均レンジで見ると30円の動きとなるが、2016年にポンド相場がブレグジットで荒れた年は、なんと56円も動いている。今年これと同様の展開となるかは、分からないが、30円動くことを前提とするなら、

今年の想定レンジは、120円から150円としておきたい。

中長期的な年間の戦略としては、ともかく、追いかけて突っ込んで売るのは極力避けて、イベントに絡めて、戻る局面を待って売る形を想定したい。
レベル感的には、140円方向への上昇から、145円、150円まで余裕を持って売り上がることを想定して、ストップを156.62の戻り高値超えとできればより良い。ターゲットは、134-136円が守られると買い戻し優先となるが、直近の下ヒゲを割れるケースがあれば、126.50のサポートやサイコロジカルな125円は良いターゲットとなりそうだ。

一方買いは、タイミングによって、状況の改善が見えるなら有効だろうが、そういった買いは、完全にブレグジットの不透明感が払しょくされないと厳しい展開が想定され、反発では利食いながら対応するのが安全と見たい。特にレベル感的には、120円方向があれば、検討してみることは出来そうだが、これも118.79や116.85の安値を割れるなら止める必要がある。

4.2019年英ポンド円の主な材料

 2019年の英ポンド円相場に影響を与えると見られる主な重要材料は以下の通り。また、発表予定やイベントは、現在把握できるものに限っていますが、変更や追加になることもあるので、その点は留意して対応して下さい。(XX日は、日程が未定なもの)