9月のマーケット展望

■短期の相場見通し

S&P500指数の向こう1か月のターゲットは3050を堅持します。

S&P500指数は7月末の連邦公開市場委員会(FOMC)まではなんとか無事にこなしたのですが、その後で米中貿易戦争が再燃し、それを嫌気して下落しました。

その後は貿易戦争を巡る様々なニュースに一喜一憂する展開となっています。9月に米中の代表の話し合いが再開されるので、具体的な進展に関してはそれまで待つほか無い状況です。

8月末に行われたジェローム・パウエル議長のジャクソンホール経済シンポジウムでのスピーチは、現在のFRBの方針である「予防的な利下げ」、すなわち毎回0.25%刻みで粛々と政策金利を下げてゆく方向性が確認されました。

FRBがそのような整然とした利下げを行っている限り投資家は安心するでしょうし、金利低下は株式にとってプラスです。したがって米国株には自然と上昇バイアスがかかると考えられます。

■経済の現況

中国、ドイツをはじめとした世界経済が減速している中、米国経済はしっかりしています。低失業率、賃金の上昇などを背景に消費者のセンチメントは良好であり、それが消費の堅調につながっています。

トランプ政権は米中貿易戦争の一環として3000億ドル相当の中国からの輸入品に対し9月1日から10%の関税を課すと発表したのですが、その後、クリスマス商戦に配慮するカタチでスマートフォン、パソコン、ゲームコンソルなどのクリスマス商戦に重要な品目への関税を12月15日まで延期すると発表しました。

その後、中国が米国の石油に関税を課すと発表したことを受け、トランプ政権は当初10%という想定だった上に述べた関税率を15%にすると発表しました。加えて既に関税がかかっている2500億ドル相当の中国製品に関しても関税率を強化することが発表されました。

これらの一連の動きで米国の小売業者は(ぼやぼやしているとどんどん関税率が高くなる!)という危機感を抱いています。そのため今発注できる仕入れに関してはどんどん先回りして仕入れるインセンティブが働いています。

このことはクリスマス商戦が終わったことに在庫過剰に陥るリスクを孕んでいると思います。

実際、今年の3月に英国でブレグジットが議論された際、英国国内の企業は混乱を避けるため先回りして在庫を積み増しました。その反動で今英国経済は過剰な在庫の消化に苦しんでいます。

この英国で起きた事と似たような、過剰在庫によってトリガーされる不景気を、クリスマス以降のアメリカ経済が経験するリスクが高まっているのです。

■企業業績

第2四半期の決算発表シーズンではS&P500採用企業の75%がEPSでポジティブ・サプライズを出しました。売上高では57%の企業がポジティブ・サプライズを出しています。

これらの数字は立派な数字です。

S&P500の四半期EPS成長率は第2四半期の時点で+0.4%でした。第3四半期は去年の数字が良かっただけに前年比較が厳しく-2.4%が予想されています。それをボトムとしてそれ以降は尻上がりに四半期EPS成長率は増加に転じるというのが現在のコンセンサスです。

■注目イベント

毎年9月の第1月曜日はレーバーデーで休日です。レーバーデーは「夏の終わり」を意味する日です。アメリカの学校の新年度は9月から始まるので、ちょうど日本の4月のようなフレッシュな気持ちで勉強や仕事に取り組むためアメリカ人が腕まくりする時期でもあります。

株式市場にとってそれが意味するところは「9月のレーバーデー明けは相場つきが変わりやすい」ということでしょう。もちろん、それは「上」にも働くし、逆に「下」にも働く可能性があります。たとえばリーマンショックのあった2008年はレーバーデー明けから相場があれよあれよという間に下がりました。

したがってこの時期はセンチメントの急変に注意を払うべきときです。

さらに米中貿易交渉が9月から本格的に再開されるので、その交渉の行方に関しても目が離せません。

■注目ETF

いま世界的に利下げが相次いでいます。このような環境ではゴールドが注目されやすいです。SPDRゴールドシェア(ティッカーシンボル:GLD)は金地金の価格動向を反映するようにデザインされたETFです。

同じく世界的な金融緩和の状況で見直されやすい原資産は新興国株式だと思います。一般にアメリカやヨーロッパの機関投資家は自国の金利が上昇している局面ではおカネを自国へ戻します。なぜなら金利面で自国の原資産の方が有利なことが多いからです。逆に現在のように利下げ局面では国内での運用先に困り、より有利な投資先を求めておカネを海外に振り向ける場合が多いです。その際、新興国へも物色の矛先が向きます。バンガードFTSEエマージングマーケッツETF(ティッカーシンボル:VWO)は新興国の株式市場をまるごと買うETFです。現在は米国で利下げが行われているわけだから新興国におカネが向かいやすいです。しかし世界の景気のほうが米国の景気より急速に悪くなっている関係でドル・バスケットは未だ高止まりしています。これが新興国株式の本格的な物色が始まっていない理由です。

同じく新興国のアイデアになりますがiシェアーズ中国大型株ETF(ティッカーシンボル:FXI)という銘柄があります。これは中国の大型株に投資するETFです。中国情勢は予断を許さない状況となっており、一層の経済の減速もありうると思います。その場合、FXIはさらに下落するというシナリオも考えられます。

一方、欧州に目を転じるとウィズダムツリー欧州ヘッジド・エクイティファンド(ティッカーシンボル:HEDJ)というETFがあります。これは欧州の主要株に投資するETFです。現在、欧州の経済はスランプに陥っており、今後、一層景況感が悪化する恐れもあります。そのシナリオではこのETFは値下がりすることが予想されます。

iシェアーズ・ラッセル1000バリューETF(ティッカーシンボル:IWD)は米国の大型バリュー株で構成されるETFです。一般にこのETFに組み入れられる銘柄は魅力的な配当利回りを出しているものが多いです。世界的な低金利の折、配当という視点からこのETFが再評価される可能性があります。