2018年4月アメリカのマーケット展望

短期の相場見通し

S&P500指数の向こう1か月のターゲットは2,800を予想しています。つまり2月以降の急落局面での戻り高値(2801.9=313日)を取りにゆく展開です。

ニューヨーク市場は、いわゆる「二番底」を試し、そこから反騰すべく、もがいています。その過程で、かなり激しいセクター・ローテーションが起こっています。具体的にはこれまで「鉄板」だと思われていたネット株、つまりFANG(=フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、アルファベット)が大きく売り込まれている点が目をひきます。

テクノロジー株は指数に占める割合が大きいので、そこが元気でなくなると指数もプレッシャーを感じます。

FANGが売られている理由は一様ではなく、たとえばフェイスブック(ティッカーシンボル:FB)の場合はケンブリッジ・アナリティカという業者を経由した個人情報の流出が嫌気されている原因ですし、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)の場合はトランプ政権と同社の間の関係が冷えていることが原因です。

FANG以外ではテスラ(ティッカーシンボル:TSLA)の下げが特に目をひきます。同社は普及車「モデル3」の量産が予想通り捗っておらず、それが嫌気される原因となっています。格付け機関ムーディーズは同社の社債格付けをダウングレードしました。テスラの社債(2025年償還、クーポン5.3%)は一時利回り8%で取引され、同社が速やかに「モデル3」の量産を開始出来なかった場合、営業キャッシュフローが当初計画を下回り、結果として資金繰りが苦しくなるリスクが高まったことをシグナルしています。

テスラの場合、バランスシート上に約120億ドルの負債が載っています。この他にも思いつくままに挙げると、フォード(ティッカーシンボル:F)が1,300億ドル、ゼネラル・エレクトリック(ティッカーシンボル:GE)が1,200億ドル、アンハイザー・ブッシュ・インヴェブ(ティッカーシンボル:BUD)が1100億ドル、アップル(ティッカーシンボル:AAPL)が600億ドル、コムキャスト(ティッカーシンボル:CMCSA)が600億ドル、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)が550億ドル、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(ティッカーシンボル:BTI)が500億ドル、スプリント(ティッカーシンボル:S)が300億ドルという感じで純負債を背負込んでいます。

リーマンショックが起きた時、サブプライム・ローンで身の丈以上に借金した個人や、個人に対して貸し込んだ銀行は大きな痛手を受けました。しかし企業は無茶な借入れをしていなかったため、危機を比較的容易に乗り切ることができました。

しかし今回は上に列挙したように企業の借入れは増えています。さらにハイテク企業のように、昔は余り借金することが無かった業界でも積極的に借入れを利用している例が目立ちます。つまり次に景気後退が来た場合、企業の借金が問題化するリスクがあるということです。

その意味ではテスラは「炭鉱のカナリヤ」のような存在ですので、同社の今後の動向にとりわけ注意を払いたいと思います。

経済の現況

長期金利はこのところ安定しています。米国10年債利回りは概ね2.82.9%のレンジの中で取引されています。

これと対照的に、驚くほど金利が上昇したのはLIBORですLIBORとはロンドン銀行間取引金利を指します。わかりやすくいえば「銀行が、銀行同士でお金を貸し借りするときの金利」です。

現在LIBOR2.28%で、これは2008年末以来の高値となっています。去年のクリスマスの頃から起算すると+0.59%上昇したことになります。これはかなり急ピッチの金利上昇です。

LIBORは銀行が色々な金融商品の金利を決める際、ベンチマークとして使います。具体的には変動金利住宅ローン、スチューデント・ローン、クレジットカード・ローンなどの金利はLIBORを基準に決められているのです。

するとLIBORが上昇すれば、消費者が借りている色々なローンの金利も上昇することを意味します。結果として市民の暮らしがジワジワと締め付けられることになるのです。

LIBORが上昇している主な原因は、去年のクリスマス直前に成立した税制改革法案です。

それは2つのインパクトを短期市場に与えました。まず税制改革法案は実質的な大型減税を意味するので、アメリカ政府はそれだけ税収が落ち込みます。そうかといって日常の政府機関の業務は縮小できませんので、足らない分は国債を出すことによって辻褄を合せる以外ないのです。そんなわけで2月以降だけで3000億ドルものトレジャリー・ビルが発行されました。これにより短期市場の需給関係が崩れ金利が上昇したのです。

税制改革のもうひとつのインパクトは「企業が海外に貯め込んだ利益を、アメリカに送金しなさい」という政府の指導が、オフショア市場で「ドル不足」を招くのではないか?という漠然とした不安です。

企業業績の現況

米国の企業業績は、すこぶる好調です。数十年に1回、あるかないか? という著しい利益の伸びを経験中です。

4月の第2週から2018年第1四半期決算発表シーズンが始まります。今回は前年同期比で+17.4%という高い成長が見込まれています。

注目イベント

4月の第1週にテスラが「モデル3」の生産状況のアップデートを行います。大まかな予想では15002000台程度の生産が見込まれていますが、この数字が小さければ上で述べたようにテスラの社債に不安が走ると思います。

412日(木)にはフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが下院の公聴会に呼ばれ、ケンブリッジ・アナリティカの事件に関し説明を求められます。

注目ETF

テクノロジー・セレクト・セクターSPDRファンド(XLKは今、ボラティリティーが高くなっているテクノロジー株を組み入れたETFなので、ロング、ショートどちらでもトレードしがいのあるETFだと言えます。同様のことはパワーシェアーズQQQ信託シリーズ1QQQにも言えます。

LIBORの上昇が消費セクターに対して与える影響を切り口にトレードしたい方には一般消費財セレクト・セクターSPDRファンド(XLYが手頃だと思われます。

米中貿易戦争に対する懸念から資本財セレクト・セクターSPDRファンド(XLIも注目を浴びています。

また今日紹介したテスラの社債の問題との絡みではiシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債ETFHYGも注目されるでしょう。

まとめ

米国株式市場は「二番底」を試した後、反騰局面にあります。テスラの「モデル3」生産の遅延と絡めて同社の社債が売られており、それが他の借入れの多い企業にも影響しないか注目されます。またLIBORの上昇でクレジットカード金利をはじめとする消費者の様々な金利が上昇する懸念があり、それが消費に与える影響が懸念されます。