アメリカのマーケット展望【2023年12月度】

短期の相場見通し

S&P500指数の向こう1カ月のターゲットは4700とします。

長期での米国経済の強さを振り返った場合、過去30年は、ITとヘルスケアという高付加価値産業においてアメリカのイノベーション(技術革新)が他国をリードしてきたことが勝因でした。

イノベーションと言えば今世界の人々の注目を集めているのが人工知能(AI)です。

先々週、ChatGPTを運営しているオープンAIという企業で内紛劇があり、それが話題になりました。

ChatGPTは大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる自然言語処理の手法を援用したAIです。これを運営しているのがオープンAIという会社なのですが、AI技術が人類のためになるよう健全な育成をすることが重要だという観点から非営利団体の体裁を採用しています。

しかし実際のLLMの運用に際してはたくさんインプットさせることで先ずAIをかしこくさせないといけません。それには莫大な先行費用がかかります。それでオープンAIは非営利団体の下部組織として営利子会社を設立、マイクロソフトに援助を仰ぎました。

この提携を進めたのはオープンAIのCEOのサム・アルトマンですが、共同創業者のひとり、イリヤ・スツキバーはサムがあまりにも商業化への道を邁進するので、この調子でどんどんAIがパワーアップし、汎用人工知能(AGI)が完成してしまえば、AGIが人間に危害を与える恐れがあると考え、非営利団体を監視している理事会を招集し、サム・アルトマンを首にしてしまったのです。

しかし理事会の突飛な決議はオープンAIの社員大多数から猛然とした反発を喰い、理事会は決定を翻し、サム・アルトマンの復帰を請い、理事のメンバー2名は理事の立場を追われました。

この騒動は、ある意味、「結果として、なにも変わらなかった」という風にも捉えることができますが、実際には大きなインパクトがあったと思います。

つまり(AIがオープンAIだけによって推進されている現状はリスク分散の見地から健全ではない。代替案となる、第2,第3の企業の育成を急がなければいけない)という認識がシリコンバレーに芽生えたのです。

これはグーグルやアマゾンにチャンスが回ることを意味しますし、AIスタートアップにたくさん投資をしてきたベンチャー・キャピタル界にとり、投資先の若い企業が注目を浴びるチャンスを提供したという点で「渡りに船」の出来事だったと言えます。

結論的にはオープンAIの内紛はAIブームを抑制するのではなく、加速させるキッカケとなったと言えます。

これは我々一般投資家にとってなぜ重要なのでしょうか?

その理由は、AIの開発が加速すると米国の生産性が劇的に向上する可能性があるからです。

いま米国経済は「ソフトランディングするのか?」ということが言われていますが、第二次世界大戦以降の米国経済を振り返った場合、ソフトランディングが成功したケースはたったの1回しかありません。それは1996年頃で、当時はインターネット・ブームで米国の労働者の生産性が劇的に向上しました。

ネットがホワイトカラーの仕事の能率を劇的にUPしたからこそ、インフレを誘発することなく米国は成長を維持できたということです。

AIは知的労働者がこれまで請け負ってきた「エクセルをカタカタやる」式の作業を大幅に省略します。するとこれから「ちょっとITリテラシーがある」ワーカーが、どんどん不要になるのです。これはホワイトカラーの賃金や雇用に大きなプレッシャーを与えます。具体的には弁護士事務所、戦略コンサル、投資銀行などが一番影響を受けます。

それは目先ソフトランディングが起こる可能性が高まったことに他なりません。

前回米国経済がソフトランディングしたとき株式市場は長期に渡る強気相場を演じました。したがって今回も株式をめぐる環境は一層良好になったと言えるでしょう。

米国経済の現況

米国経済は主に消費の好調に支えられて着実に成長しています。先週は感謝祭の週で、ブラックフライデーの売上高は前年比+7.5%と良い成績でした。つまり消費に異変はありません。

企業業績

第3四半期決算発表シーズンはS&P500採用銘柄の94%が決算発表を終え、EPSでは82%、売上高では62%の企業がポジティブサプライズを出しました。また四半期EPSは前年同期比+4.3%でした。これらのことから米国の企業業績はボトムをつけ、再加速に入ったと考えられます。

注目ETF

米国株には強気を堅持したいと思います。iシェアーズ・ラッセル2000ETF(IWM)は小型株のETFで目先堅調が予想されます。パワーシェアーズQQQ信託シリーズ1ETF(QQQ)はナスダック100指数のETFです。これもロングすべきです。SPDR S&P500 ETF(SPY)は米国を代表する大型株指数、S&P500指数採用銘柄に投資するETFです。トレーディングに好適です。テクノロジー・セレクト・セクターSPDRファンド(XLK)はテクノロジー関連株に投資するETFです。こちらも買いです。一般消費財セレクト・セクターSPDRファンド(XLY)はウォルトディズニー、スターバックスのような一般消費財の銘柄を組み入れたETFです。こちらも買い時だと思います。