アメリカのマーケット展望【2020年11月度】

■短期の相場見通し

S&P500指数の向こう1カ月のターゲットは3400とします。

出典:ヤフー・ファイナンス

いよいよ11月3日は大統領選挙の投票日です。アメリカでは「大統領選挙直前の三ヵ月のS&P500指数のパフォーマンスがマイナスであれば現職大統領は勝てない」というジンクスがあります。

8月3日の引け値が3294.61で10月28日の引け値が3271.03なので株式市場は現職大統領が敗北することを織り込んでいると言えるかも知れません。

10月28日現在の大統領選挙有権者投票意向調査ではジョー・バイデンの支持率が51.1%、ドナルド・トランプの支持率が43.6%となっています。

出典:リアルクリアポリティクス

選挙戦終盤に入り、争点がハッキリしてきました。それは「新型コロナを取るか、それとも景気を取るか?」ということです。

いま米国の新型コロナ新規陽性者数は過去7日間の平均で毎日6万7千人のペースであり、過去最高に近いです。1日平均の死者数は500人です。

地域的にはこれまで余り新型コロナが波及していなかった中西部がひどいです。

このため有権者は再び新型コロナ問題にフォーカスしています。もし徹底的に新型コロナを抑え込むのであればある程度景気は犠牲にせざるを得ません。これがジョー・バイデンの立場です。

一方、ドナルド・トランプは市民の活動を抑制せず、景気回復を優先する政策をとっています。

その他、各候補の公約をまとめると下記の通りです。

【ジョー・バイデンの政策】

政策影響を受ける株成立に必要な条件
トランプ減税を廃案に、キャピタルゲイン増税すべての株式下院承認、上院51%
景気支援法案すべての株式下院承認、上院60%
オバマケア(ACA)の拡大恩恵:アンセム、ユナイテッドヘルス、ヒューマナ、テネット下院承認、上院60%
メディケアによる薬価交渉容認ネガティブ:イーライリリー、メルク、ブリストルマイヤーズ、アムジェン、テバ下院承認、上院60%
地球温暖化ガス規制強化ネガティブ:エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップス、オクシデンタル、シュランベルジェ下院承認、上院60%
グリーン・エネルギー奨励恩恵:ファーストソーラー、サンパワー、JKソーラー下院承認、上院60%
銀行規制強化ネガティブ:バンクオブアメリカ、シティ、ウエルズファーゴ、JPモルガン、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー大統領令、最高裁判所が阻止可能
刑務所民営化の廃止ネガティブ:コアシビック、ジオグループ下院承認、上院60%
インフラ投資恩恵:フルアー、ヴァルカン・マテリアルズ、マーティン・マリエッタ・マテリアルズ、キャタピラー下院承認、上院60%
ネット企業規制強化ネガティブ:アップル、フェイスブック、アマゾン、アルファベット、ツイッター大統領令、最高裁が阻止可能
マリファナ規制緩和恩恵:キャノピーグロース、クロノス、ティルレイ下院承認、上院60%
2年間の大学無料化恩恵:ナヴィエント、サリーメイ下院承認、上院60%
最低賃金を15ドルに引き上げネガティブ:ダラーゼネラル、ダラーツリー、ウォルマート、ターゲット下院承認、上院60%
防衛予算拡大恩恵:ノースロップグラマン、ロッキードマーチン下院承認、上院60%
中国・関税強化ネガティブ:半導体、小売、工業、自動車、農業大統領令

【ドナルド・トランプの政策】

政策影響を受ける株成立に必要な条件
現行の税制の維持全ての株
財政出動全ての株下院承認、上院60%
石油探索規制緩和・拡大恩恵:エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップス、シュランベルジェ大統領令、最高裁が阻止できる
オバマケア(ACA)の拡大恩恵:アンセム、ユナイテッドヘルスケア、ヒューマナ、テネット下院承認、上院51%
オバマケア(ACA)の廃止ネガティブ:アンセム、ユナイテッドヘルスケア、ヒューマナ、テネット下院承認、上院60%
薬価規制強化ネガティブ:イーライリリー、メルク、ブリストルマイヤーズ、アムジェン、テバ大統領令
アサルトウエポンを規制しない恩恵:スミス&ウエッソン、ストラム・ルガー
銀行規制緩和の継続恩恵:バンクオブアメリカ、シティ、ウエルズファーゴ、JPモルガン、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー大統領令
インフラストラクチャ投資恩恵:フルアー、ヴァルカン・マテリアルズ、マーティン・マリエッタ・マテリアルズ、キャタピラー下院承認、上院60%
輸入関税強化ネガティブ:半導体、小売、工業、自動車、農業大統領令
ネット企業への規制強化ネガティブ:アップル、フェイスブック、アマゾン、アルファベット大統領令
防衛支出の拡大恩恵:ノースロップグラマン、ロッキードマーチン議会承認、上院60%

マーケットにとって一番悪いシナリオは僅差で勝敗が判然とせず、「再集計」のような混乱が起きるシナリオです。2000年の大統領選挙で実際にフロリダ州が再集計し、その間、マーケットが下がりました。

次に悪いシナリオは「ブルー・ウエーブ」つまり民主党が下院、上院、大統領の全てを制するシナリオです。これだと政府が暴走しやすいからです。

それ以外のシナリオでは、どちらの候補者が勝とうが、市場参加者は余り頓着しないと思います。その場合、むしろ11・12・1月は季節的に米国株式市場がとりわけ強い季節なので、年末年始の相場に向けて投資家の姿勢は積極的になると思われます。

■米国経済の現況

米国経済は新型コロナで外出禁止令が出た春ごろは大いに懸念されたのですが、その後、V字型に戻ってきています。

しかし今は逆に「これだけ景気が戻ってきたのだから追加景気支援法案など必要ない」という楽観論が台頭し、議会で何も決まらない状態になっています。

折悪く新型コロナの新規感染者は増加に転じているわけですからもう一度景気が暗転する、いわゆる「ダブルディップ」のリスクも出てきていると思います。

■企業業績

10月23日までにS&P500採用企業のうち27%が2020年第3四半期の決算発表を終えています。そのうち84%の企業がEPSで、81%の企業が売上高で、それぞれポジティブ・サプライズを出しています。つまり事前のコンセンサス予想に対して、決算はおおむね良い感じで入って来ているということです。

現在、S&P500の向こう12ヵ月の予想一株当たり利益に基づく株価収益率は21.7倍です。これは過去5年の平均値17.3倍より割高です。

■注目ETF

例年、11月・12月・1月は米国の株式市場が強い時期として知られています。従ってここからはロング、すなわち「買い」から入るトレード戦略に徹するべきです。ジョー・バイデン、ドナルド・トランプどちらの候補が勝っても強気のシナリオは変わらないと思います。

SPDR S&P500ETF(コード:SPY)が最もトレードに適した流動性の高いETFです。この他パワーシェアーズQQQ信託シリーズ1(コード:QQQ)もロングするのに良いと思います。

さらにアグレッシブな投資をするならプロシェアーズ・ウルトラプロQQQ(コード:TQQQ)プロシェアーズ・ウルトラS&P500(コード:SSO)Direxionデイリー米国金融株ブル3倍ETF(コード:FAS)などを買うストラテジーもあると思います。