世界経済が混乱している時に上昇する金相場〜金ETFで分散投資をする方法〜

株安の一方で、金ETFへの資金流入が急増

2016年は年初から株価が急落し波乱のスタートとなりましたが、こうしたなかで金を裏付けとする上場投資信託(ETF)への資金流入が続いています。金価格は2016年2月26日現在、年初来の騰落率が15.7%上昇と、世界的に株安・商品安が進行しているなかで、例外的な上昇をみせています。この金価格の上昇を支えているのが、金ETFへの投資急増なのです。

世界最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェア(GLD)の金保有高が、2016年初から2月26日までで18.7%増加するなど、主な金ETFの金保有高は軒並み増加が伝えられています。

安全な資金の逃避先として不安な投資家の受け皿に

もともと「有事の金」として有名ではありますが、危機の時こそ金が買われる理由は、いつでもどこでも換金できる利便性にあります。また、比較的持ち運びにも便利です。金融市場で不安定な動きが続いたことから、投資家はどこか安全な避難先はないかと不安になり、金はその受け皿となりました。

具体的にいうと、人民元の切り下げ観測、世界的な株安、日銀や欧州中央銀行(ECB)によるマイナス金利の導入、連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げの見送り観測、このすべてが金ETFへの資金流入の背景となりました。通貨や資産の価値を守るといった観点のほか、金利を生まない金にとっては、金利の低下や利上げの先送りは買い材料となります。

ブルームバーグ通信によると、ETFへの年初来の資金流入は金と公益セクターがもっとも多く、情報技術(IT)、金融、ヘルスケアからの流出が目立ったとしています。

ETFの最大の魅力は低コスト

金ETFの人気が高まっているとお話ししましたが、そもそもETFとはなんでしょうか。ETFとは取引所に上場している投資信託のことで、その魅力は投資コストが安いことです。投資信託と比べ、ETFは売買手数料や運用報酬などのコストが大幅に安いことが多く、売買手数料はETFが0.3%程度、なかにはゼロというものもあります。これに対し、投資信託は証券会社や銀行の販売手数料が高く、3%前後のものが多いです。また信託報酬も多くのETFが年間0.5%以下なのに対し、投資信託では0.5%~2.5%となります。端的にいうと、購入初年度の年間コストはETFが1%未満であるのに対し、投資信託では4~5%程度になります。10年物の国債利回りがマイナスとなっている現状で、投資信託で着実な利益を出すのは簡単なことではありません。

また、ETFは小額からも投資ができ、数千円から1万円台で買えるものが多いのも魅力です。加えて、ETFは株式のみならず、債券や商品など種類も豊富にあり、インド、中国などの新興国や原油や不動産といった実物資産への投資も可能です。

ETFなら小額でも分散投資が可能

ETFを使うと、分散されたポートフォリオを小額で構成することができます。日経平均などの株価インデックスに連動するETFを軸に、外国株式や米債券に連動するETFを組み合わせることで幅広く分散された資産ポートフォリオを作成することができます。さらに、金などの長期的に株や債券との相関性が低い資産を加えることで、分散効果をより高めることもできます。

金地金に裏付けされた投資信託が金ETF

金ETFは金価格に連動した上場投資信託で、裏付けとして投資家の購入額に応じて金地金を購入する仕組みとなっていますので、万一取扱会社が破綻しても保護されます。他のETFと同様、小額での投資が可能であり、取引所に上場されていますのでリアルタイムで取引ができます。また、保管コストもかかりません。

日本で上場されている代表的な金ETFとしては、ETFS 金上場投信<1672>、純金上場信託<1540>、SPDRゴールド・シェア<1326>などが挙げられます。価格はそれぞれ1万3890円、4375円、1万3340円となっており、かなりお手ごろな金額から投資が始められます(2016年2月26日現在)。

金ETFは長期保有が基本

金ETFでの投資は長期投資が基本です。短期で利益を上げることも可能ではありますが、長期に持ち続けることで、リスクを分散する効果がより期待できます。また、これまでは株価が急落しても一般の投資家はただ回復を祈るだけでしたが、今後は一旦株を売って金ETFに資金を回すといったリスクヘッジにも利用できます。

リスクを抑えてコツコツと貯めるのがコツ

長期投資でリスクを抑えたいときに使われる投資手法として「ドルコスト平均法」と呼ばれるものがあります。一度にすべてを購入せずに、資金を均等に分割して定期的に投資することから、定額購入法とも呼ばれています。価格が高いときには購入量が少なく安いときには多くなるため、数量を分割する場合にくらべて有利になるといわれています。コツコツと長期的な視野で投資する人にはお勧めです。

金への投資需要は堅調、景気減速の穴を埋める

金の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、世界最大の金消費国である中国の2015年の金需要は、景気の減速で宝飾向けが前年比3%減少したものの、地金などの投資向けは株価の下落や人民元安で安全資産として買い求める動きが強まり、前年比21%の大幅増となりました。また、世界経済の先行きに対する不透明感が強まるなか、分散投資先として外貨準備に金を積む動きが強まり、中央銀行による金購入量も前年から1%増加しています。

2016年も世界的な景気の減速で、宝飾品などの需要は引き続き苦戦が予想されますが、その穴を埋める投資需要の増加が引き続き期待できそうです。

日銀のマイナス金利導入が金投資に拍車

2月の金先物価格は記録が残る1975年以降で最大の上昇率を記録しており、金への資金流入は年初から衰えをみせていません。さらに、日銀が導入したマイナス金利も金の投資需要に拍車をかけたもようです。マイナス金利は個人の預金金利には適用されないものの、「安心して銀行にお金を預けることはできない」との見方が広がり、預金の一部を金に置き換える動きがみられています。また、日銀のマイナス金利導入は、「金融緩和の行き詰まり」と解釈され、将来の不安に備えて金を購入する動きもでています。

資産防衛のための最適ツールとしての金ETF

株価や資源価格が軒並み下落したなかで、金は輝きを取り戻しました。「有事の金」の面目躍如といったところでしょう。長期的にみれば、景気の拡大が永遠に続くことはありませんので、景気後退や金融市場の不安定な動きは避けて通れません。個人資産を守るためには、金融市場が不安的なときこそ役立つ資産も、全体の一部としてもつことが大切です。そしてこの役割を担うのが金であり、そのツールとしてETFは非常に便利であるといえます。

株価が急落してしまってからあたふたとしないように、長期的な視点からコツコツと金ETFの購入を始めてみてはいかがでしょうか。