アメリカのマーケット展望【2020年9月度】

■短期の相場見通し

S&P500指数の向こう1カ月のターゲットは3260とします。

S&P500指数は8月28日の時点で年初来+8.6%でした。米国の株式市場が新型コロナにもかかわらず堅調に推移してきた理由は1. 連邦準備制度理事会(FRB)による大胆な利下げと2. 議会が財政出動を決めたことによります。

このうち1. に関してはジェローム・パウエルFRB議長が8月27日にスピーチし、政策金利を決定する際のフレームワーク(枠組み)を変更したと表明しました。具体的にはこれまでFRBが行ってきた、予防的な利上げをおこなわず、インフレ率が確実に2%を超えてから鷹揚に利上げを開始する旨が表明されました。

この発表が投資家にとって持つ意味は「FRBによる利上げは、とうぶん心配しなくて良い」ということです。それはドル安、株高要因でもあります。

つぎに2. に関してですが、こちらの方はやや雲行きがおかしくなっています。米議会は新型コロナで株式市場が大きく崩れた2月から3月にかけて大急ぎでその対策を協議し、2.2兆ドルにのぼる大型の景気支援法案をテキパキ可決しました。しかしその中には「通常の失業保険に加えて、失業者に対し毎週600ドルの支援金を上乗せする」という規定が盛り込まれていました。これは失業者にとってはもちろん大歓迎の政策なのですが、労働者の中には「真面目に働くより家に居て失業保険をもらった方が有利だ」という人が続出しました。つまり勤労に対するモチベーションを大幅に殺ぐ政策だったのです。

共和党上院議員の中にはこの規定を苦々しく思う者が少なからず居ました。法案を票決に付した当時は株式市場が高値から-30%以上も急落し、あたかもアメリカ経済が1930年代の大恐慌時代のような厳しい状況に陥ることが懸念されていたので、しぶしぶ同法案に賛同しなければいけなかったけれど、今は株式市場も新値圏にあることだし、危機は去ったという認識から「二度とあのような大盤振る舞いの法案は通さない!」と彼らは考えているわけです。

実際、先の2.2兆ドルの景気支援法案は、たいへん民主党寄りの、リベラル色の強い法案でした。だからあたかもあの法案をまとめた手柄は、トランプ大統領や共和党議員にあるのではなく民主党の尽力によるものだという印象を醸し出しているのです。

そのような理由から5月に民主党が3.5兆ドルの追加景気支援法案を下院で可決し上院に回した際、共和党はこれを無視し、ずっと放置してきました。先月ようやく共和党から対案が示されたのですが、その予算案はわずか0.5兆ドルであり両者の間には大きな隔たりがあります。

9月7日のレーバーデーが明け、ワシントンDCで同法案の審議が再開されれば、紛糾はまぬがれないと思います。

ちなみにこの追加景気支援法案がどのくらい米国経済にインパクトを持つか? を知るおおまかな目安として2020年第2四半期の米国のGDPは4.2兆ドルでした。追加景気支援法案が最終的に1兆ドルだろうが3兆ドルだろうが、これは全体に大きく影響することがお分かり頂けると思います。

従って9月相場は議会の審議にかかっていると言っても過言ではありません。

トランプ大統領にとっては11月3日の大統領選挙本投票日に向けて重要な局面を迎えます。この時期に株式市場がギクシャクすると選挙の結果にも影響しかねないというわけです。

私が9月相場に慎重な意見を持つのはそのような理由からです。

■米国経済の現状

米国経済はだいぶ混乱を収拾したと思います。下は新規失業保険申請者数です。

クレジットカードによる買い物の状況などのリアルタイム・データを見ても経済はゆっくりと、しかし着実にノーマルな状態に戻り始めています。

一方住宅着工件数を見ると折からの低金利で力強くリバウンドしていることが分かります。

■企業業績

8月28日までにS&P500採用企業のうち98%が決算発表を終え、そのうち84%が一株当たり利益(EPS)で事前のコンセンサス予想を上回りました。これは過去最高でした。

米国企業の多くは新型コロナでガイダンスを出すことを控えました。業績を予想する際の手掛かりが無い中、アナリスト達はわざと保守的な業績予想を立てるしか無かったのです。今回、ポジティブ・サプライズがとても多かったのはこのような特殊事情によると思います。

いずれにせよ企業業績が底打ちしはじめていることには変わりありません。

■注目ETF

トライオートETFは「売りから入る」ことも出来ます。もしマーケットが下落するシナリオでは「売りから入る」ことの出来る金融商品の真価が発揮されます。

下落相場を取るという目的で、もっとも普通のトレードをするなら単にSPDR S&P500ETF(コード:SPY)を売り立てすればよいでしょう。

追加景気支援策が議会を通過しないというシナリオでは銀行の融資ポートフォリオで焦げ付きが増えることが予想されます。銀行株の下落に賭けるならDirexionデイリー米国金融株ブル3倍ETF(コード:FAS)を売り立てる方法があります。これはボラティリティが高いETFなのでトレードの際は細心の注意を払い、損したらすぐに手仕舞ってください。

このところ上昇率が大きかったテクノロジー株の下落に賭けるならテクノロジー・セレクト・セクターSPDRファンド(コード:XLK)を売り立てることも出来ます。

米国株式市場が下落するシナリオでは石油株などエネルギー・セクターも下落が予想されます。その場合エネルギー・セレクト・セクターSPDRファンド(コード:XLE)を売り立てる方法があります。

議会が何も決められず財政出動が出来ないということになれば景気を支えるのはFRBだけになります。その場合、FRBは量的緩和政策の強化、フォーワード・ガイダンスの強化を打ち出すと思います。それは金価格にとってプラスです。SPDRゴールドシェア(コード:GLD)を買い持ちする手があると思います。