豪ドル円-2023年相場予想と戦略-

【RBAと日銀の金融正常化VS日本の国際収支】

※本記事は2021年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2022年の豪ドル円相場を振り返って】

 2022年の豪ドル円は堅調な展開となりました。
 年初は、NY株が史上高値を更新するなどリスクオン・ムードでスタートしましたが、突然ともいえるロシアのウクライナ侵攻が、大きなショックを巻き起こし、西側先進諸国がロシアに対する経済制裁を次々と実施。大口の資源供給国であるロシアからの供給が滞るとの見方で原油や天然ガス価格が高騰、他の天然資源や穀物価格の上昇にもつながり、各国のインフレ率が押し上げられて、世界的に中央銀行が金融引き締め政策を開始、一方で唯一日銀は強力な金融緩和政策に固執したこともあって、円の独歩安が豪ドル円相場を支えました。

 豪ドル円は、年初の80.37を安値として、RBAがそれまでの緩和政策として実施していた債券購入プログラムを終了。ドル円相場もFRBが利上げ政策に転換したことで、2015年6月以来の高値となる125.85を越えて上昇を強め、豪ドル円も96.75まで上昇しました。ただ、5月3日にRBAが2010年以来となる0.25%の利上げに踏み切ったが、株価が大きく調整したことで、リスクオフの動きに87.31まで一時調整しましたが、その後RBAが利上げ幅を0.50%に拡大、6月FOMCでも過去に例をみない単一会合での0.75%の利上げが実施されたことで、ドル円相場が139.39まで高値を更新、豪ドル円も96.89まで上値を拡大しました。しかしながら夏場は、安倍総理の襲撃事件などリスクオフの動きもあって、揉み合い気味の展開に留まりましたが、再び9月にドル円相場が1998年の高値となる146.66に迫る動きとなり、豪ドル円は、第2四半期のCPIが前年同期比で6.1%の上昇、豪失業率が48年ぶりの低水準まで低下したことなどもあり、98.55の今年の高値まで上値を拡大しました。

 ただ、豪ドル/NZドル相場が1.1490の年初来高値を示現後、RBAが利上げペースを落としたことなどが失望となり下落トレンド入り、また10月にはドル相場が一時151.95まで上昇も急速な円安を懸念する財務省・日銀が、1998年以来の円買い市場介入に3度踏み切ったこと、暗号資産取引所のFTXのチャプター11申請を受けた仮想通貨の暴落、米長期金利の低下や株価の調整に加えて、本年最後の日銀金融政策決定会合で、YCC政策よる10年物国債変動幅の拡大を決定したことが、事実上の利上げと市場に捉えられ、ドル円相場が130円台まで急落、豪ドル円相場は、上げ渋る形で2022年の取引を終了しようとしています。 

【2023年の主な材料】

 以下が現在、知り得る2022年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。 

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2022年は、米国の中間選挙を始め、欧州や日本の選挙、中国の共産党大会など大きなイベントがありましたが、2023年は材料の少ない年となりそうです。
そうなると2023年は、RBAや日銀の金融政策の行方、パンデミックで失速する中国経済の影響、ウクライナ情勢次第となりそうです。 

【2023年の注目点】

 2022年の相場環境を踏まえて、2023年の豪ドル円相場の注目点をまとめてみました。

・ RBAの金融正常化
・ 日銀の政策スタンスに変更はあるのか?
・ 日本の国際収支
・ ウクライナ情勢
・ 原油価格との連動性
・ 豪日金利差との連動性

〇 RBAの金融正常化

  豪準備銀行(RBA)は、2022年、それまで実施していた景気対策となる低金利政策や債券購入を止め、5月3日には2010年11月来の0.25%の利上げを実施、それまでの0.10%のキャッシュ・ターゲットを0.35%とした後も、6月会合から9月まで4会合連続で0.50%の利上げを発表、10月から12月は、0.25%に利上げ幅を留めましたが、2022年は最終的に3.1%まで政策金利となるキャッシュ・ターゲットを引上げました。

 また最後の会合の声明では、「今後一定期間、さらに利上げを行うことを想定」としていますが、これも「将来の利上げの規模とタイミングは、引き続き今後のデータとインフレ、労働市場の見通しに関する理事会の評価によって決定」としていて、やはり来年の利上げスタンスは、豪州経済次第となりそうです。

 特に豪州経済の足元では、物価高と金利高、世界経済の減速懸念も重なってスタグフレーションに陥る懸念が高まっています。また高騰していた不動産市況も、中銀の断続利上げで一転頭打ちの動きを見せているようです。

 一方この時の議事録では、「経済状況とインフレ見通しを評価する間、一定期間金利を据え置く用意がある」ともしていますので、今後もインフレ動向次第ですが、2023年に利上げを一定期間停止する可能性や更に急速な利上げの悪影響で、経済が圧迫されるなら利下げの可能性も残っていることは留意しておいた方が良いでしょう。

 以下は、豪州の消費者物価の動向です。RBAがターゲットする2-3%を大幅に越えて、第3四半期では、前年同期比で7.4%まで上昇しています。更に上昇が無ければ、利上げペースを拡大することはないでしょうが、下落傾向がはっきりと見えない限り、今後もゆるやかな利上げ姿勢は続きそうです。

 また以下は、2023年の豪準備銀行の政策会合及び政策金利の発表予定日です。1月を除いて毎月ありますので、必ず声明や2週間後に発表される議事録も合わせてチェックしておきましょう。


()は議事録公表日
02月07日(02月21日)
03月07日(03月21日)
04月04日(04月18日)
05月02日(05月16日)
06月06日(06月20日)
07月04日(07月18日)
08月01日(08月15日)
09月05日(09月16日)
10月03日(10月17日)
11月07日(11月21日)
12月05日(12月19日)

〇 日銀の政策スタンスに変更はあるのか?

 2022年12月20日の日銀金融政策決定会合で決定した「国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を、従来の±0.25%程度から±0.50%程度に拡大するとの措置は、市場に大きなサプライズとなりました。これ以前に黒田総裁は、「YCCの変動幅の拡大は、実質利上げになる」と話していただけに、市場は日銀のスタンスの変貌と捉えたようです。ただ、同総裁は記者会見において、「これは利上げではない」と明言しています。

 この真意は不透明ですが、直近では東京市場で、10年物国債の取引が成立しない日があったり、国債入札で応札が募集に満たない「札割れ」が発生したりと、日本の国債市場で流動性の低下が発生していました。確かに日銀が、日本国債の発行残高の半分も買ってしまっていることで、市場流動性が低下するのは必然といえますが、あくまで市場の健全な育成を司る金融当局としては、由々し難い事実であり、今回の措置はあくまで、流動性を確保するためのテクニカルな措置であったともいえそうです。そうなると日本銀行が、現在のマイナス金利政策を放棄し本当の利上げに踏み切ると考えるのは時期尚早なのかもしれません。

 一方来年4月には、黒田総裁の任期が到来します。2023年2月頃には、この候補者が絞り込まれる見通しですが、現在日銀のプリンスと呼ばれてきた雨宮正佳現副総裁と幅広い国際的人脈を持つ前副総裁の中曽宏大和総研理事長、財務省からは浅川アジア開発銀行総裁、岡本元事務次官、また初の女性総裁として翁日本総合研究所理事長などが有力候補とされています。 

 過去日銀総裁人事は、財務省と日銀の出身者がたすき掛けで総裁に就く慣例がありましたが、黒田総裁の評価は高かったとしても、財務省畑の出身であり、現実的にも異例の2期10年となる過去最長の就任期間に、インフレ目標やデフレの克服ができたとは言えません。次の総裁としては、特に次の総裁には、現在行っている異例規模の国債買入や世界的に唯一マイナス金利を導入している日銀の出口戦略が大きな課題となりそうです。テクニカル面でも相当難しい判断が迫られそうです。その面では、副総裁を経験した日銀プロパーの2名となる可能性が高く、その場合本当の意味で、日銀が利上げスタンスに変貌する日が訪れるかもしれません。そうなるとドル円相場にも大きなインパクトを与えると思います。

 2023年は、長らく市場から全く注目を集めなかった日銀金融政策が、大きな注目となる1年となりそうです。以下は2023年の日銀金融政策決定会合や議事録の公表日です。しっかりと押さえておきましょう。

日銀金融政策決定会合(議事録公表日)
(01月23日)
01月17日-18日+展望リポート(03月10日)
03月09日-10日(05月08日)
04月08日:黒田総裁任期
04月27日-28日+展望リポート(06月21日)
06月15日-16日(08月02日)
07月27日-28日+展望リポート(09月27日)
09月21日-22日(3月10日)
10月30日-31日+展望リポート(12月22日)
12月18日-19日

〇 日本の国際収支

 日本の国際収支は、過去長らく黒字を維持していましたが、2014年には、東北大震災の影響もあって一時赤字に転落。その後回復も見えていましたが、新型コロナウィルスの蔓延を受けたワクチンの購入や訪日外国人観光客の激減、更にロシアのウクライナ侵攻を受けた資源・商品価格の上昇、加えて大幅な円安の悪影響もあって、再び赤字転落が定着化してきています。

 一応2023年に向けては、資源・商品価格の落ち着き、円安によるJカーブ効果などもって、一定の改善が期待されますが、直近ではまた、懸念材料が持ち上がっています。

 それは、岸田政権が打ち出した「防衛費2倍」政策です。
 過去歴代政権が、軍事費の目安としてきた「GDP比1%枠」の倍増を目指すもので、「5年で43兆円」の財源が不足するとされています。この財源に関しては、法人税や復興税の活用が話題となっていますが、一方為替市場の影響を考えると、この増額分のほとんどが、装備等購入費や維持費に充当されると見られています。しかも、この90%は海外からの調達となるようです。具体的にどういったタイミングで決済されるかは不透明ですが、現在の想定では、来年以降年間で5兆円程度の海外調達が実施され、しかもこれが全てドルで決済されることになりそうです。

 この代金に関しては、過去潤沢に日本政府が保有する外貨準備を利用することはなく、市場からのドル調達で賄われています。来年以降、訪日外国人数はある程度回復するとしても、この防衛費の増額が、円の上値を抑える可能性には、注目しておきましょう。

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〇 ウクライナ情勢

 2022年2月24日に、ロシアがウクライナへ侵攻。一時はロシアが圧倒的なパワーで、ウクライナを短期に制圧して侵攻を完了すると見られていましたが、欧米の多大な支援もあって、現状はウクライナが攻勢を強めています。
2022年は、この影響で原油価格や天然ガスなどのエネルギー価格が大幅上昇、更に穀物市況の高騰につながり、世界的に物価高騰が、マーケットの大きな材料となりました。 2023年には、どういった形であれ、この戦況が終息を迎えることが出来るのか大きな焦点となりますが、2020年のパンデミック・リスク、2022年はウクライナ侵攻と、連続で、市場の想定しない「ブラック・スワン」がマーケットに出現、市場を大混乱に招いています。そうなると2023年もこの「ブラック・スワン」が、市場に降り立って来るのか大注意となりそうです。

 ただ、確かに「ブラック・スワン」は、誰も「想定しないリスク」のことを指していますが、ロシアの苦戦から戦術核兵器を使用する可能性が残っていることを考えると、まだまだ安心できる状況ではありません。もし大規模な戦争にまでで拡大するなら、金融市場に大激震が走るでしょう。こういったことが起こらないことを切に望みますが、その場合株価の暴落などリスクオフの動きが強まることは留意しておきましょう。

〇 原油価格との連動性

 豪ドル相場は、資源国通貨ということもあって、資源価格と連動性が高い通貨です。
 以下は2000年からの豪ドルの対ドル相場とWTI原油価格の推移を比較したチャートです。総じて連動している形が見て取れると思います。ただ、直近は原油は上昇するも、豪ドルの対ドル相場は下落していて、整合性が見えていません。恐らくロシアのウクライナ侵攻で、原油価格が想定以上の高騰した一方、有事のドル買いが発生したことで、豪ドルの対ドル相場が下落を強めたことが要因のようです。 

 一方以下は、豪ドル円とWTI原油を比較した同期間のチャートです。
 連動する形は、豪ドルの対ドル相場と同様ですが、興味深いのは、前述の通り豪ドルの対ドル相場と原油の整合性が低下しているにも関わらず、豪ドル円では、未だ連動性が維持されていることです。これは、恐らく原油価格の高騰が、ドル円の上昇に大きく寄与している影響とみられます。そうなると2023年の豪ドル円相場も、原油の動きから目が離せない状況が続きそうです。

 原油価格の動向が豪ドル円相場に大きな影響を与えるなら、原油価格のテクニカルもチェックしておきたいところです。
 以下は、2020年から直近の原油価格の月足チャートです。
 WTI原油先物価格は、6.20ドルの安値から綺麗に波動を描いて上昇していますが、しっかりと130.50で第5波の高値をつけて現状は調整しています。ただ、下値はこのフィボナッチ・リトレースメント50%となる68.35ドル、また割れても4波の下限の61.74ドルが支えると堅調が続きそうです。ただ、こういった位置も割れると次の47.78ドルから33.64ドルを目指す動きとなるので注意です。
 一方上値は、まず93.74ドルの戻り高値が押さえると弱く、越えてもファンラインとなる100ドル前後、レジスタンスが位置する105-110ドルが押さえると、下段のスロー・ストキャスティクスも下落傾向を示しており、売りとなり易そうです。
ともかく原油相場は、ウクライナ情勢次第の面がありますが、当面60-100ドルぐらいの推移を想定します。
そうなると連動性が高い、2023年の豪ドル円は、堅調なレベルを維持すると考えられます。 

〇 豪日金利差との連動性

 以下は豪州と日本の10年物国債利回り差と、豪ドル円相場の推移を示したチャートです。豪州金利と日本の金利差に、総じて豪ドル円相場が連動する動きとなっています。

 そうなると2023年もこの金利差が広がるか、それとも狭まるかで、豪ドル円相場が左右される可能性がありそうです。
そこでポイントは、豪州準備銀行が今後も利上げ姿勢を続けるとして、前述の通りペース・ダウンや利上げを一時的に停止する可能性があることは注意です。一方で日銀に関しては、長らく低金利を維持してきたこと、また更に緩和を強化する方策もなく、どちらかというと2023年は、海外中銀に遅れた分、金融正常化に動き出す可能性が高そうです。そうなると豪日金利差は縮小に向かい、豪ドル円相場の上値を抑える可能性には、留意しておいた方が良いでしょう。

【テクニカル面】

 まず、豪ドル円相場を形成する、豪ドル/ドル相場の月足からチェックしておきましょう。
 豪ドル/ドル相場を大きく見ると0.4775の史上最安値から上昇が、1.1083で史上最高値をつけて、0.5510で下ヒゲを描いた後は、反発も0.8008で抑えられて再調整気味です。

 この0.8136-と0.8008がダブル・トップ気味となっていますが、これは恐らく、フィボナッチ・リトレースメント(0.4775-1.1083)となる50%や1.10-83の高値からレジスタンスが上値を押さえていて、現状は0.7284から0.7662の戻り高値圏にあるレジスタンスが押さえると弱い状況が続きそうです。あくまで、0.8135と0.8008のダブル・トップを越えて、0.8660-0.8911ゾーン、0.9196-0.9402ゾーンが視野となりますが、0.9205の戻り高値を越えるまでは、更なる上昇は期待できそうもありません。

 一方下値は、0.6171で下げ止まりを見せて、下段のスロー・ストキャスティクスも売られ過ぎで反転気味です。現状は0.6400から0.6550ゾーンが維持されると短期足からは強い形です。ただ、スロー・ストキャスティクスの反転に若干不透明感が残っていることで、この位置を維持出来ない場合、更に調整する可能性はあります。それでもサイコロジカルな0.60前後が支えると長期サポートからも更に突っ込み売りは出来ません。リスクは0.5982を割れるケースで、その場合0.5510の安値を目指すリスクとなります。
従って、2023年の豪ドル/ドル相場の想定レンジを0.6400から0.7300とします。最大でも0.6000から0.7500で見ています。 

 次に豪ドル円を構成するドル円相場を見てみましょう
ドル円相場は、1990年の160.35の高値から、2011年10月の75.31まで下落後、2022年10月には、160.35の高値と、147.66や125.86の高値を結んだレジスタンスを越えて、151.95まで急反発しました。

 特にこのチャートで注目して頂きたいのは、チャート形状から「F」の75.31をボトムとしたリバースH&Sを形成していることです。また現状は、このショルダー部分となるネック・ラインとなる「D」と「C」をクリアして、151.95の上ヒゲで、アーム部分「H」の形成を完了しています。このチャートの75.31の安値を基準に、ロールシャッハ・テストのように、左右対称を考えると次の展開は、再び「B」と同様に「I」の位置まで相場が下落する可能性があるということです。ただ、過去そこまで、チャート形状がぴったりとなるケースは、記憶にありませんので、今後の焦点は「D」と「G」のネック・ラインを維持できるのか、それとも割れる動きがあるのか、来年の相場では、大きな注目点となりそうです。

 一応このネック・ラインが維持されるなら、再度「J」を目指す可能性も残っていますが、ネック・ラインを割れて来ると特に過去の動きでは急激な円高となっており、スピードが加速する可能性に注意しましょう。

 また次のチャートは、同様のチャートから一定の波動を見たチャートです。 
160.35の高値から75.31まで下落しましたが、波動からは第7波で一旦底値を見ているようです。この話を聞くと若干不思議に思う方もいると思います。一般的にエリオット波動からは、5つの波動とABCの上下波動で最終的に完了することが定説とされています。ただ、私の経験からは為替市場では、7波や9波で相場を完了するケースが多くあります。またこの考えを除いても、既に151.95まで上昇した相場であれば、160.35からの下落は一旦終わっているはずで、そうなると次の注目は75.31からどういった波動形成となるかです。

 ただ、その場合も①の上昇後の②波の位置が、最初の段階で①を越えておらず、不透明な感じとなっています。そのため、現在では99.02と102.59を「②と②‘」として勘案しています。これは次の展開を見なければなりませんが、少なくとも①の高値が、逆に下値を支えると次の第5波の上昇に迎えることができるでしょう。その場合③の151.95を越える160.35がターゲットとなります。つまり前述のリバースH&Sのケースで申し上げたネック・ラインが、こちらでも重要で、2023年の相場は、これが維持されるのか、割れるのかで相場付きが大きく変わることは留意しておいてください。
 ただ、割れる動きがあっても過去の波動の中心値(赤と青の枠の価格)の平均値が114.97となりますが、総じてこういった位置は底堅い可能性に注目しましょう。 

 こういった面を考慮して、ドル円相場の来年の想定レンジを、126.00から140.00とします。 

 以下は豪ドル/ドル相場とドル円相場の想定レンジから算出したマトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)です。 
 豪ドル/ドルの想定レンジを0.6400~0.7300、ドル円の想定レンジを126.00~140.00としましたので、これから算出された豪ドル円相場の最大想定レンジは、80.64~102.20なります。ただ、広すぎることで、適正値として84.80~85.57とします。

 それでは最後に豪ドル円の長期の月足チャートです。
 豪ドル円相場は、以前から指摘していましたが、「C」をトップとして「B」と「D」をショルダーとした超長期のH&Sを形成していましたが、これが「E」の59.91の下ヒゲで、アームを形成してこのH&Sを完成。その後反発が、過去の「BD」のネック・ラインを越えて反発しましたが、現状は「F」でトピッシュな形となっています。

 ただ下値は86.26の「G」のトップを前に、87.31-02の戻り安値が支えていて、この位置の維持では堅調が続きそうですが、特に下段のスロー・ストキャスティクスが、デッド・クロス気味となっています。もし、しっかりと割れるとサポート圏が控える80円、更には、70円までの可能性が見えてきます。

 もし、そういったケースが見えた場合は、再度「F」をトップに、「GH」でショルダーを形成する短期間のH&Sを形成する可能性となります。こういった形がぴったりとなるかは不透明ですが、過去CをトップとしたH&Sを形成しているだけに、来年「GH」を割れる動きがあれば注意となります。その場合Gの期間が、2020年5月から2022年3末までの1年10カ月であることを考えると今月から1年10か月後の2023年2月には70円処、更に「I」のアームまで形成するリスクとなるので注意が必要です。

 一方上値は92円から96円ゾーンは重く、こういった位置を越えて、98.55の高値を越えるまでは、更なる上昇期待は持てませんが、超えるなら100円のレジスタンスを目指す動きとなりそうです。
 従って、2023年の想定レンジを、マトリックス・チャートも参考にすると85.00から96.00、最大で見ると80.00から96.00とします。

【予想レンジと戦略】

 それでは以上を踏まえて、豪ドル円相場の来年の戦略についてお話します。
 一応来年は、過去の新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナの情勢が更に悪化しないとの前提でお話させて頂きます。

 2023年の想定レンジを、マトリックス・チャートからは85.00から96.00、最大で見ると80.00から96.00としました。

 次に戦略の前提としては
・RBAは、2023年に金融正常化を終了する一方、日銀は金融正常化をスタートする可能性があり、豪日金利は縮小に向かう。
・原油価格は、更に上昇するというより、保合気味となると想定して、豪ドル円も底堅い動きが続く。
・ただ、豪ドル円やドル円の月足のスロー・ストキャスティクスが、デッド・クロスとなっていることで、上値は重く一定の下値トライが発生する。
・ 注意点としては、やはりウクライナ情勢です。もし、プーチン大統領が核の使用などに走った場合、リスクオフの動きに注意ですが、一方で早期に停戦合意となった場合は、リスクオンの動きが強まるので、このようなケースは、相場に動きに逆らわないことが重要となりそうです。

 また、タイミング的な注意点は
① 1-3月期は、本邦のレパトリ・シーズンで円高気味となり易いこと。
② 株価面では、来年前半は今年の流れを引き継いで弱い可能性があり、リスクオフが広がり易い。ただ、年後半に向けては、FRBの利上げ停止などが株価を支え、リスクオンの動きが期待される。
③ ドル円は、例年アノマリー的に、8月中旬に瞬間的な円高が示現することが多いことは注意です。ただ逆にこの時の急な円高は、年末に向けて絶好の円の売り場となることも、覚えておいてください。
④ 9月のレイバーデー明けからは、年末に向けて方向性が出易い時期です。この時期に一定の動きが見えた場合、逆張りで向かわないようにしましょう。 

 従って基本的なスウィング・トレード戦略は、早期は戻り売り狙いから、十分押し目を待って、買い場探しです。

 早期の戦略は、突っ込み売りは避けて、しっかりと96円方向への上昇を待って売り狙いです。ストップは98.55越えで対応しましょう。また超えても100円台は売り直しを検討するのが良いでしょう。ターゲットは、現状の87円台の安値が維持されると買い戻しですが、割れる動きが見えた場合、慎重に85円から80円と段階的に買い下がります。この場合のストップは77.90割れが良いでしょう。ただ、もし、こういった下落が示現した場合は、既にそれまで支えていた87円台が重くなると利食いで、超えても91円は利食い優先や売り直しです。

 また、もし77.90を割れると75円や70円がターゲットとなりますが、こういった位置も買いが狙えそうです。この場合のストップは、67.30などが検討されますが、現状不透明ですが、こういった下げではしっかりと反発があれば、しっかりと利食って置くのが良いでしょう。 

※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。