ドル円-2023年相場予想と戦略-

FRBと日銀の政策転換、日本の国際収支次第

※本記事は2021年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2022年のドル円相場を振り返って】

 2022年のドル円相場は、予想外の円安相場となりました。
年初は、NY株が史上高値を更新するなどリスクオン・ムードでスタートしましたが、突然ともいえるロシアのウクライナ侵攻が、大きなショックを巻き起こし、西側先進諸国がロシアに対する経済制裁を次々と実施。大口の資源供給国であるロシアからの供給が滞るとの見方で原油や天然ガス価格が高騰、他の天然資源や穀物価格の上昇にもつなり、各国のインフレ率が押し上げられ、世界的に中央銀行が金融引き締め政策を開始、一方で唯一日銀は強力な金融緩和政策に固執したこともあって、円の独歩安相場となりました。

 ドル円は、年初の113.47を安値として、米FOMCのスタンスが、昨年8月のジャクソンホール会議における「インフレは一過性」との見解を大きく覆す形から、3月のFOMCでは、遂に2018年12月以来の利上げを発表。ドル円相場は4月には2015年6月以来の高値となる125.85を越えて上昇を強めました。また、その後も6月FOMCでは、過去に例をみない単一会合での0.75%の利上げが実施されたことで、139.39まで高値を更新しました。ただ、これも安倍総理の襲撃事件を受けて、リスクオフの動きも見えましたが、下値は130.39で支えられて、更にFOMCがその後も7月会合で連続0.75%の利上げを実施、軟調な株価を受けたリスクオフの動き、英国の政局不安によるポンド相場の急落などもあって着実に円売りが進みました。9月には140円台へ上昇、1998年の高値となる146.66に迫る動きとなりました。

 こういった展開を受けて、急速な円安を懸念する財務省・日銀が、1998年の円買い市場介入に踏み切りましたが、本邦輸入勢の高水準の円売りニーズや黒田日銀総裁が強力な金融緩和スタンスを明確にしたことで、10月には一時151.95の高値をつけました。しかしながら、これも急速に拡大する円安に警戒感を強めていた財務省の神田財務官が、異例となる海外市場で円買い買いを実施、週明けにはこちらも異例となる早朝から連続円買い介入を実施しました。強力な姿勢を示したことで、ドル円は上げ渋りを見せました。その後は、暗号資産取引所のFTXのチャプター11申請を受けて仮想通貨相場が暴落、11月まで4会合連続で0.75%の利上げ実施していたFOMCが12月会合で利上げ幅を0.50%に縮小、米長期金利の低下に加えて、本年最後の日銀金融政策決定会合で、YCC政策よる10年物国債変動幅の拡大を発表したことで、これが事実上の利上げと市場に捉えられたことで、再度130円台まで突入して、2022年の取引を終了しようとしています。 

 それでは過去12年のドル円の年間レンジ表を見てみましょう。特に今年はこの12年で、無いようなレンジ幅の動きや大きく円安となりましたが、この展開が続くかどうかが、2023年も大きな注目となりそうです。
この表を参考にすれば、一応前年が陽線、それ以前は4年連続で陰線、その前は4年連続で陽線となっています。必ず同じになるわけではないですが、後2年陽線が続くことになるかもしれません。また、過去の年間平均変動幅が、15円程度であることから、来年の相場予想レンジにもこれを反映しています。

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【2023年の主な材料】

 以下が現在、知り得る2023年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。 

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2022年は、米国の中間選挙を始め、欧州や日本の選挙、中国の共産党大会など大きなイベントがありましたが、2023年は材料の少ない年となりそうです。

 その面では、日銀の黒田総裁の任期が訪れることで、日銀総裁人事が大きな注目を集めそうです。特に年末突然の日銀の変貌で、市場は大きな思惑に傾いています。新総裁が誰になるか?先進国に遅れて、金融正常化に走るのか、来年のドル円相場を大きく動かす要因となりそうです。

【2023年の注目点】

2022年の相場展開を踏まえて、2023年の注目点をまとめてみました。

・FRBの金融正常化の行方
・ 日銀の政策スタンスに変更はあるのか?
・ ウクライナ情勢
・ 米国のインフレ事情
・ 日本の国際収支

〇 FRBの金融正常化の行方

 2022年は、米FOMCの金融正常化が一気に加速したことで、ドル高が大きく進みまた。特に3月の0.25%の利上げ後は、6月から4会合連続で、過去異例となる0.75%幅の利上げを実施。12月は0.50%に留まり一応市場には、そろそろFOMCが通常ペースに戻すとの期待感が高まっていますが、これもあくまで今後のインフレ動向次第となることから安心はできません。

 ただ、12月FOMCで、公表されたFOMCメンバーのFF金利見通しとなる下記に示したドッド・プロットでは、2023年の「ターミナル・レート」が5.1%と想定されています。これを基準に考えると次の2月1日に発表されるFOMCで、0.50%の利上げが決定されるなら、3月のFOMCでは0.25%に利上げとなり、これで利上げのサイクルが一旦終了となりそうです。または、2月1日が0.25%とするなら、3月に0.25%、更に5月まで続いて0.25%の利上げでサイクルが一旦終了する形となりそうです。これも今後のインフレの上昇が落ち着くことが確認できればとの前提ですが、3月の公表されるドッド・プロットを確認しなければならないでしょう。一方で2024年の見通しは4.1%となっています。これを参考にすると2024年には、1%程度の利下げが実施されることになります。そうなると現在のドル高相場も、こういった時期には一旦落ち着きを取り戻す可能性があることは、念頭に入れておいた方が良いでしょう。

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 加えて米長期金利の動向もチェックしておきましょう。以下は米国10年物国債利回の月足チャートです。

 米10年物国債利回りは、4.332%まで上昇も一旦トピッシュな上ヒゲをつけて、調整が3.402%まで拡大しています。既に市場は、FOMCの大幅利上げを受けて、2023年の米経済の減速や年後半には、利下げが実施されるとの思惑を織り込んで下落しているようです。

 一方テクニカル面からは、スロー・ストキャスティクスが、金利面では上昇し過ぎからデッド・クロスを示しています。一旦ピークをつけた可能性は高いですが、更に下方では3.133-176%にギャップが控えています。現状のFF金利が4.25%から4.50%、更に2023年には5.00%まで引き上げられる可能性が高いこと、もし短期で資金調達して運用する場合、逆ザヤとなることから、テクニカル面からは、反発は限定されるとしても、更に低下幅を拡大するかは不透明です。

 また、以下は日米の10年物国債利回り差とドル円相場の動きを2005年から比較したチャートです。

 一般的に、ドル円相場は、日米金利差に連動すると言われています。下のチャートの水色の部分が比較的連動している時期です。ただ一方で連動していない時期も多くあります。この連動していない時期を見ると、リーマン・ショック、欧州信用不安、アベノミクスにおいて「黒田バズーカ」による円安が進んだ時期、パンデミック・ショックなど市場が大きくリスクオフに傾いた場合は、非連動となっているようです。
 つまりドル円相場が日米金利差との連動するのは、「有事」でないケースに限られているということです。「有事」の場合は、リスク回避の円買いが進み易く、あくまで大きな問題がない時だけ、ドル円相場は、日米金利差に連動すると考えてください。
 そうなると現在は、パンデミックが一定の落ち着きを見せており、FOMCの強力な利上げもあって、日米金利差に連動する動きとなっています。2023年も大きなリスクオフの材料が出なければ、引き続き日米金利差にドル円相場が連動すると見て対応することになりますが、過去の事例からは日米金利差が、もし縮小しても1.50%以下になる可能性は低く、そうなるとドル円相場の下値の堅い状況は続くと思われます。

以下が2023年度の、FOMCに関連する予定日です。
 今後の金融引き締めスタンスの変更など、FOMCやパウエルFRB議長の発言など、2023年も相場の大注目となるので、この日程をしっかりと押さえておいてください。

01月25-26日:新たな地区連銀総裁参加
(議事録公表日01月04日)
01月31日-01日(議事録公表日02月22日)

02月:パウエルFRB議長・議会証言

03月21日-22日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(04月12日)

05月02日-03日(議事録公表日05月24日)

06月13日-14日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(07月05日)

07月:パウエルFRB議長・議会証言
07月25日-26日(議事録公表日08月16日)

08月:カンザス連銀金融シンポジウム(ジャクソンホール)

09月19日-20日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表(10月11日)

10月31日-01日(議事録公表日11月22日)

12月12日-13日+FRBスタッフの経済見通しとFOMCメンバーのFF金利見通し公表

〇 日銀の政策スタンスに変更はあるのか?

 2022年12月20日の日銀金融政策決定会合で決定した「国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を、従来の±0.25%程度から±0.50%程度に拡大するとの措置は、市場に大きなサプライズとなりました。これ以前に黒田総裁は、「YCCの変動幅の拡大は、実質利上げになる」と話していただけに、市場は日銀のスタンスの変貌と捉えたようです。ただ、同総裁は記者会見において、「これは利上げではない」と明言しています。

 この真意は不透明ですが、直近では東京市場で、10年物国債の取引が成立しない日があったり、国債入札で応札が募集に満たない「札割れ」が発生したりと、日本の国債市場で流動性の低下が発生していました。確かに日銀が、日本国債の発行残高の半分も買ってしまっていることで、市場流動性が低下するのは必然といえますが、あくまで市場の健全な育成を司る金融当局としては、由々し難い事実であり、今回の措置はあくまで、流動性を確保するためのテクニカルな措置であったともいえそうです。そうなると日本銀行が、現在のマイナス金利政策を放棄し本当の利上げに踏み切ると考えるのは時期尚早なのかもしれません。

 一方来年4月には、黒田総裁の任期が到来します。2023年2月頃には、この候補者が絞り込まれる見通しですが、現在日銀のプリンスと呼ばれてきた雨宮正佳現副総裁と幅広い国際的人脈を持つ前副総裁の中曽宏大和総研理事長の2名が有力候補とされています。 

 過去日銀総裁人事は、財務省と日銀の出身者がたすき掛けで総裁に就く慣例がありましたが、今回の候補2名は日銀のプロパーです。黒田総裁の評価は高かったとしても、財務省畑の出身で、現実的にも異例の2期10年となる過去最長の就任期間に、インフレ目標やデフレの克服ができたとは言えません。次の日銀出身総裁に対する期待感も高まりそうです。また次の総裁には、現在行っている異例規模の国債買入や世界的に唯一マイナス金利を導入している日銀の出口戦略が、大きな課題となりそうです。新総裁就任後、本当の意味で日銀が利上げスタンスに変貌する日が訪れるかもしれません。その場合ドル円相場にも大きなインパクトを与えると思います。

 2023年は、長らく市場から全く注目を集めなかった日銀金融政策が、大きな注目となる1年となりそうです。
 以下は2023年の日銀金融政策決定会合や議事録の公表日です。しっかりと押さえておきましょう。 

日銀金融政策決定会合(議事録公表日)
(01月23日)
01月17日-18日+展望リポート(03月10日)
03月09日-10日(05月08日)
04月08日:黒田総裁任期
04月27日-28日+展望リポート(06月21日)
06月15日-16日(08月02日)
07月27日-28日+展望リポート(09月27日)
09月21日-22日(3月10日)
10月30日-31日+展望リポート(12月22日)
12月18日-19日

〇 ウクライナ情勢

 2022年2月24日に、ロシアがウクライナへ侵攻。一時はロシアが圧倒的なパワーで、ウクライナを短期に制圧して侵攻を完了すると見られていましたが、欧米の多大な支援もあって、現状はウクライナが攻勢を強めています。

 2022年は、この影響で原油価格や天然ガスなどのエネルギー価格が大幅上昇、更に穀物市況の高騰につながり、世界的に物価高騰が、マーケットの大きな材料となりました。 2023年には、どういった形であれ、この戦況が終息を迎えることが出来るのか大きな焦点となりますが、2021年のパンデミック・リスク、2022年はウクライナ侵攻と、2年連続で、市場の想定しない「ブラック・スワン」がマーケットに出現、市場を大混乱に招いています。そうなると2023年も3年連続で、この「ブラック・スワン」が、市場に降り立って来るのか大注意となりそうです。

 ただ、確かに「ブラック・スワン」は、誰も「想定しないリスク」のことを指していますが、ロシアの苦戦から戦術核兵器を使用する可能性が残っていることを考えると、まだまだ安心できる状況ではありません。もし大規模な戦争にまでで拡大するなら、金融市場に大激震が走るでしょう。こういったことが起こらないことを切に望みますが、その場合株価の暴落などリスクオフの動きが強まることは留意しておきましょう。

〇 米国のインフレ事情

 米国の消費者物価指数は、2021年の新型コロナウィルスの世界的な拡大による雇用環境の変化もあって、2021年3月に、FRBがインフレ目標とする2%を越え、更に2022年のロシアのウクライナ侵攻を受けた資源・穀物価格の上昇が加わり、6月の消費者物価指数は前年比で9.1%、卸売物価指数は11.3%まで上昇を拡大しました。一方これを受けたFOMCでは、4連続会合で0.75%の利上げを実施。米10年物国債利回りは、一時4%台まで上昇を強めドルを押し上げました。

 現在は、一旦物価の上昇に陰りも見えていますが、2023年も米国のインフレが高止まりするかどうかが、FOMCの金融政策を左右しそうです。来年も米国のインフレ事情が、相場の大きなテーマとなることから、米国の消費者物価指数の発表日は、相場荒れる日が続く可能性に注目しておきましょう。 

以下は2023年の米消費者物価指数の発表日です。

01月12日:12月消費者物価指数
02月14日:01月消費者物価指数
03月14日:02月消費者物価指数
04月12日:03月消費者物価指数
05月10日:04月消費者物価指数
06月13日:05月消費者物価指数
07月12日:06月消費者物価指数
08月10日:07月消費者物価指数
09月13日:08月消費者物価指数
10月12日:09月消費者物価指数
11月14日:10月消費者物価指数
12月12日:11月消費者物価指数

〇 日本の国際収支

 日本の国際収支は、過去長らく黒字を維持していましたが、2014年には、東北大震災の影響もあって一時赤字に転落。その後回復も見えていましたが、新型コロナウィルスの蔓延を受けたワクチンの購入や訪日外国人観光客の激減、更にロシアのウクライナ侵攻を受けた資源・商品価格の上昇、加えて大幅な円安の悪影響もあって、再び赤字転落が定着化してきています。

 一応2023年に向けては、資源・商品価格の落ち着き、円安によるJカーブ効果などもって、一定の改善が期待されますが、直近ではまた、懸念材料が持ち上がっています。

 それは、岸田政権が打ち出した「防衛費2倍」政策です。
過去歴代政権が、軍事費の目安としてきた「GDP比1%枠」の倍増を目指すもので、「5年で43兆円」の財源が不足するとされています。この財源に関しては、法人税や復興税の活用が話題となっていますが、一方為替市場の影響を考えると、この増額分のほとんどが、装備等購入費や維持費に充当されると見られています。しかも、この90%は海外からの調達となるようです。具体的にどういったタイミングで決済されるかは不透明ですが、現在の想定では、来年以降年間で5兆円程度の海外調達が実施され、しかもこれが全てドルで決済されることになりそうです。

 この代金に関しては、過去潤沢に日本政府が保有する外貨準備を利用することはなく、市場からのドル調達で賄われています。来年以降、訪日外国人数はある程度回復するとしても、この防衛費の増額が、円の上値を抑える可能性には、注目しておきましょう。

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【ドル円の季節性】

 次にドル円相場の季節的な動きを見てみましょう。
2015年から2021年までの四半期ごとの動きを2015年の1月、4月、7月、9月のオープン・レートを基準に、各年のレートを調整してプロットしたものです。 

 まず、1-3月の季節性ですが、通常この時期は、3月末の本邦の決算に向けて、レパトリの円買いが出易い時期です。ただ、最初の黄色いゾーンで、赤い矢印で示した位置のように、2月には一時的に円安になるケースが度々見えています。この要因としては、多く外債に投資する生損保などの機関投資家は、購入した債券の為替差損を避けるために、保有外債に為替ヘッジをかけています。「為替ヘッジ」とは先物のドル売りですが、3月の決算を控えて、こういったポジションの調整的なドルの買い戻しを行います。その動きが2月に円売りに繋がっているようです。

 また、一番右の黄色いゾーンの黒い矢印の部分に注目して下さい。期末には、決算に絡めて様々なフローが出ますが、外貨資産の評価を高めるために、例年ドル高に持って行こうとする動きが出易いようです。1-3月の時期は、基本はレパトリで円高気味ですが、2月の上旬から中旬、3月月末の当日は、一時的な円安に注意しておきましょう。

 次に4-6月期ですが、この時期は通常、機関投資家が新年度に向けた外債投資の準備を始める時期です。基本は円安気味で見る時期ですが、ただ、黄色ゾーンの日本のゴールデン・ウィークの時期を見て頂くと、相場が案外荒れた時期が目立っています。過去はこの時期に輸出企業が上値に輸出予約を入れて、休暇に入るケースが多く、ドル円の上昇を抑える要因となっていました。ただ、現在は日本の貿易黒字が減少していることで、こういった影響はあまりないようですが、この時期海外の投機筋が、本邦の不在を狙って、仕掛け的な動きを強めることが要因となっています。どちらに仕掛けて来るかは、その時の状況次第ですが、少なくともゴールデン・ウィークの時期の荒れた動きには注意しておきましょう。 

 7-9月期は、やはり夏場のホリデー・シーズンが焦点となります。
 相場の閑散期ですが、黄色のゾーンは、8月の中旬ですが、矢印のように急速に円高が進むケースが散見されています。この要因としては、かつては8月の中旬に米国の30年物国債の償還が集中したことが、円買いの一因と指摘されていました。現在は米国債の償還期が分散されていることで、直接的な影響は減少しているようです。しかしながら、実際8月の中旬に一時的な円高になるケースが多く、恐らくですが9月中間決算に向けて、45日前に投資信託などの益出しなどが出ている可能性はありそうです。一言でこの要因を評価することはできませんが、アノマリー的には「高い確率」があるので、十分注目しておきましょう。ただ、逆説的には、この時期の急速な円高は、年末に向けての絶好の円の売り場となることも多いことは、留意しておきましょう。

 最後に10-12月ですが、例年米国のレイバー・デー明けから、夏休みで休暇を取っていたファンド・マネージャーやディーラーが、仕事に復帰することで、相場が動き出す時期です。今回のチャートでは、米国の大統領選でトランプ大統領が勝利した2016年に大きく円安が拡大したことで、全体的に見難くなっていますが、基本は円安に進み易い時期です。これは年末に向けて、世界的にドル資金需要が高まることが一因です。ただ、注意はこういった思惑で、例年事前に円安が拡大する傾向が強いことで、矢印のように、11月後半から12月前半に利食いに押されるケースが多いことは、覚えておいてください。

【テクニカル面】

 テクニカル面からは、1989年からのドル円相場の月足チャートを見てみましょう。
 ドル円相場は、1990年の160.35の高値から、2011年10月の75.31まで下落後、2022年10月には、160.35の高値と、147.66や125.86の高値を結んだレジスタンスを越えて、151.95まで急反発しました。

 特にこのチャートで注目して頂きたいのは、チャート形状から「F」の75.31をボトムとしたリバースH&Sを形成していることです。また現状は、このショルダー部分となるネック・ラインとなる「D」と「C」をクリアして、151.95の上ヒゲで、アーム部分「H」の形成を完了しています。このチャートの75.31の安値を基準に、ロールシャッハ・テストのように、左右対称を考えると次の展開は、再び「B」と同様に「I」の位置まで相場が下落する可能性があるということです。ただ、過去そこまで、チャート形状がぴったりとなるケースは、記憶にありませんので、今後の焦点は「D」と「G」のネック・ラインを維持できるのか、それとも割れる動きがあるのか、来年の相場では、大きな注目点となりそうです。

 一応このネック・ラインが維持されるなら、再度「J」を目指す可能性も残っていますが、ネック・ラインを割れて来ると特に過去の動きでは急激な円高となっており、スピードが加速する可能性に注意しましょう。

 また次のチャートは、同様なチャートから、一定の波動を見たチャートです。 
 160.35の高値から75.31まで下落しましたが、波動からは第7波で一旦底値を見ているようです。この話を聞くと若干不思議に思う方もいると思います。一般的にエリオット波動からは、5つの波動とABCの上下波動で最終的に完了することが定説とされています。ただ、私の経験からは為替市場では、7波や9波で相場を完了するケースが多くあります。またこの考えを除いても、既に151.95まで上昇した相場であれば、160.35からの下落は一旦終わっているはずで、そうなると次の注目は75.31からどういった波動形成となるかです。

 ただ、その場合も①の上昇後の②波の位置が、最初の段階で①を越えておらず、不透明な感じとなっています。そのため、現在では99.02と102.59を②と②‘として勘案しています。これは次の展開を見なければなりませんが、少なくとも①の高値が、逆に下値を支えると次の第5波の上昇に迎えることができるでしょう。その場合③の151.95を越える160.35がターゲットとなります。つまり前述のリバースH&Sのケースで申し上げたネック・ラインが、こちらでも重要で、2023年の相場は、これが維持されるのか、割れるのかで相場付きが大きく変わることは留意しておいてください。

 ただ、割れる動きがあっても過去の波動の中心値(赤と青の枠の価格)の平均値が114.97となりますが、総じてこういった位置は底堅い可能性に注目しましょう。 

【予想レンジと戦略】

 それでは、以上を踏まえてドル円相場の来年の見通しと戦略についてお話します。
 一応来年は、過去の新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナの情勢が更に悪化しないとの前提でお話させて頂きます。

 直近の日足チャートから見ておきましょう。
 151.95の高値から財務省・日銀の3回の円買い介入もあって、調整が130.58まで再拡大しています。現状は8月2日の安値130.41やサイコロジカルな130円前に下げ止まりを見せており、こういった位置の維持では直ぐに下落は進まないでしょう。ただ、もしクリアに、こういった位置を割れる動きがあった場合は注意です。その場合は、126.35や125.09の次のポイント(水色のゾーン)を目指す可能性がありそうです。また、これは現状分かりませんが、こういった位置も割れるなら120円のサイコロジカル、更には前述の月足の波動からみた115円が視野となりそうです。

 一方上値は、短期のレジスタンスや一目均衡表の雲の位置からは、138.17-139.89が押さえると弱く、142.48の戻り高値を越えて、145.11-145.90の位置(黄緑のゾーン)がターゲットとなりますが、抑えると弱い状況は継続しそうです。あくまで150円のサイコロジカル、151.95を越えて、160.35がターゲットとなります。

 従って、2023年の想定レンジを126.00から140.00とします。ただ、最大で見るなら115.00から146.00円程度と考えています。

〇 次に年後半に向けての戦略ですが、例年夏場に円高のピークが訪れ易く、年後半に向けて需給面で円安になり易いことを前提とした戦略となります。ただ、現状はこの時期に大きなイベントがなく、材料的は不透明ですが、コロナウィルスの感染拡大やウクライナ情勢が更に拡大しないとの前提で、株価も戻り歩調となればリスクオンの動きに期待します。

 レベル感的には、微妙ですが年前半とした買い戦略同様、125-6円、更に120円までの買い場があれば理想的です。115円まで下落したら、更に買うというのも一考でしょう。ただ、この場合のストップは、それ以前の高値114.50割れや上昇前の安値112.50割れが理想的となります。 

 一応時期を決めてシナリオをたてましたが、この通りとなるほど、相場は簡単ではありません。あくまで私個人の30年来の経験則から想定したイメージ的なものです。
 ただ、年間を通して、FOMCが利下げに踏み切る可能性は低く、もし、利下げスタンスに入ったとして、現在のインフレの状況から過去のようなゼロ金利政策まで実施する可能性は低いでしょう。一方日銀が、金融スタンスを若干タカ派に変えたとしても、日本の財政赤字から政策金利を大幅に引き上げる可能性は低く、前述の国際収支の状況や日米金利差の面からも、110円や100円を割れるリスクは低いでしょう。

 また、蛇足ですがもし、ロシアが核を使用するケースでは、大きなリスクオフの動きで、ドル買いが強まるでしょう。一方ウクライナとロシアが、停戦で合意するケースがあれば、リスクオンのドル売りが強まると考えて対応しましょう。 

※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。