スイスフラン円-2023年相場予想と戦略

スイス中銀と日銀の金融正常化、ウクライナ情勢や日本の国際収支次第

※本記事は2022年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2022年のスイスフラン円相場を振り返って】

 2022年のスイスフラン円相場は、堅調な上昇となりました。

 年初は、NY株が史上高値を更新するなどリスクオン・ムードでスタートしましたが、突然ともいえるロシアのウクライナ侵攻が、大きなショックを巻き起こし、西側先進諸国がロシアに対する経済制裁を次々と実施。大口の資源供給国であるロシアからの供給が滞るとの見方で原油や天然ガス価格が高騰、他の天然資源や穀物価格の上昇にもつながり、各国のインフレ率が押し上げられて世界的に中央銀行が金融引き締め政策を開始、一方で日銀が強力な金融緩和政策に固執したこともあって、円の独歩安や地政学リスク回避がスイスフラン円相場を支えました。

 スイスフラン円相場は、年初の123.54を安値として、ドル円相場が、FRBが利上げ政策に転換したことで、2015年6月以来の高値となる125.85を越えて上昇を強めたことなどから、136.18まで上値を拡大。ウクライナ情勢を嫌気して株価が大きめの下げを演じたことで、127.50まで調整も、その後は原油価格が2008年来の高値まで上昇、スイス中銀が2007年7月以来の利上げに踏み切ったことで、143.75まで上昇、夏場は安倍首相の襲撃事件、ECBの11年ぶりの利上げもあって、揉み合い気味の展開となりましたが、欧州天然ガスが史上高値を更新、トラス政権の大幅減税策を嫌気したポンド相場の急落、ノルドストリームの破壊工作、ドル円相場が1998年の高値となる146.66に迫る動きとなったことで、151.49の今年の高値まで上昇しました。ただ、スイス中銀がマイナス金利を解除するも、ドル円相場が、151.95の24年ぶりの高値を付けると日本の財務省・日銀が、1998年以来の円買い市場介入に踏み切り、更に本年最後の日銀金融政策決定会合で、YCC政策による10年物国債変動幅の拡大を決定したことが、事実上の利上げと市場に捉えられ、ドル円相場が130円台まで急落、スイスフラン円相場も上げ渋る形で2022年の取引を終了しようとしています。 

【2023年の主な材料】

 以下が現在、知り得る2023年のイベントや材料です。注目度の高いものは太字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので、変更されることがあります。

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2022年は、米国の中間選挙を始め、欧州や日本の選挙、中国の共産党大会など大きなイベントがありましたが、2023年は材料の少ない年となりそうです。

 一応2023年は、政治的にはスペインの地方選挙ぐらい、その他も大きな材料に薄く、やはり、FRBの利上げ姿勢の継続、スイス中銀や日銀の金融政策の行方、株価動向やウクライナ情勢次第となりそうです。 

【2023年の注目点】

 2022年の相場環境を踏まえて、2023年のスイスフラン円相場の注目点をまとめてみました。

  • スイス中銀の金融正常化
  • 日銀の政策スタンスに変更はあるのか?
  • 日本の国際収支
  • スイス日金利差との連動性
  • ユーロ円との連動性
  • ウクライナ情勢
〇スイス中銀の金融正常化

 スイス中銀は、原油・資源価格の上昇を受けた国内物価の上昇を受けて、6月には、2007年9月以来の利上げに踏み切りました。それまで▲0.75%から▲0.25%としていた政策金利を0.50%引き上げ、声明では「インフレを安定させるため、当面は政策金利の更なる引き上げが必要となる可能性を否定せず」と継続的な利上げを示唆しました。特にこの時の驚きは、同時に「適切な金融環境を確保するため、必要に応じて外国為替市場にも積極的に関与」と声明で表明、ジョーダン総裁は、「スイスフランが下落すれば外国通貨売却を検討する可能性がある」と述べたことです。

 それ以前スイス中銀は、輸出振興の意味で、スイスフラン高を避けるためにスイスフラン売り、ユーロ買いの介入政策を継続的に実施していましたが、今度はスイスフラン高が輸入物価を押し上げることを懸念して、100%政策転換をしたようです。

 過去においても、スイス中銀は、2015年に、それまで「対ユーロで1.2を割り込むような下落があれば永続的に介入を行う」としていた政策を突然放棄。ユーロ・スイスフラン相場が一気に41%暴落した「スイスフラン・ショック」を起こしており、ドラスティクな政策で有名ですが、その効果か、スイスフランの対ドル相場は、ウクライナ情勢を懸念したリスクオフの動きもあって、ユーロやポンドの下落に比して比較的抑えられたようです。

 それはさておきその後も、9月0.75%の利上げ、12月には0.50%の利上げを実施して、現在の政策金利の中央値は1.0%となっています。

 また、12月最後の声明では、「物価安定のためのさらなる利上げを排除せず」としています。これも今後の物価次第ですが、以下の現状のスイスの消費者物価指数の推移を見ると、原油価格の上げ止まりもあって、若干低下傾向も見えています。また、スイス中銀の2023年のインフレ見通しは、2.4%程度となっています。他の中銀と異なり、スイス中銀の政策金利決定会合は、年4回しかありません。急いで利上げを継続する可能性は低いのかもしれません。

以下は、スイス国立銀行の政策金利の公表日です。声明や会合後のジョーダン総裁の発言なども注目しておきましょう。

03月23日

06月22日

09月21日

12月14日

〇 スイス中銀の金融正常化

 スイス中銀は、原油・資源価格の上昇を受けた国内物価の上昇を受けて、6月には、2007年9月以来の利上げに踏み切りました。それまで▲0.75%から▲0.25%としていた政策金利を0.50%引き上げ、声明では「インフレを安定させるため、当面は政策金利の更なる引き上げが必要となる可能性を否定せず」と継続的な利上げを示唆しました。特にこの時の驚きは、同時に「適切な金融環境を確保するため、必要に応じて外国為替市場にも積極的に関与」と声明で表明、ジョーダン総裁は、「スイスフランが下落すれば外国通貨売却を検討する可能性がある」と述べたことです。

 それ以前スイス中銀は、輸出振興の意味で、スイスフラン高を避けるためにスイスフラン売り、ユーロ買いの介入政策を継続的に実施していましたが、今度はスイスフラン高が輸入物価を押し上げることを懸念して、100%政策転換をしたようです。

 過去においても、スイス中銀は、2015年に、それまで「対ユーロで1.2を割り込むような下落があれば永続的に介入を行う」としていた政策を突然放棄。ユーロ・スイスフラン相場が一気に41%暴落した「スイスフラン・ショック」を起こしており、ドラスティクな政策で有名ですが、その効果か、スイスフランの対ドル相場は、ウクライナ情勢を懸念したリスクオフの動きもあって、ユーロやポンドの下落に比して比較的抑えられたようです。

 それはさておきその後も、9月0.75%の利上げ、12月には0.50%の利上げを実施して、現在の政策金利の中央値は1.0%となっています。

 また、12月最後の声明では、「物価安定のためのさらなる利上げを排除せず」としています。これも今後の物価次第ですが、以下の現状のスイスの消費者物価指数の推移を見ると、原油価格の上げ止まりもあって、若干低下傾向も見えています。また、スイス中銀の2023年のインフレ見通しは、2.4%程度となっています。他の中銀と異なり、スイス中銀の政策金利決定会合は、年4回しかありません。急いで利上げを継続する可能性は低いのかもしれません。

以下は、スイス国立銀行の政策金利の公表日です。声明や会合後のジョーダン総裁の発言なども注目しておきましょう。

03月23日

06月22日

09月21日

12月14日

〇 日銀の政策スタンスに変更はあるのか?

 2022年12月20日の日銀金融政策決定会合で決定した「国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を、従来の±0.25%程度から±0.50%程度に拡大するとの措置は、市場に大きなサプライズとなりました。これ以前に黒田総裁は、「YCCの変動幅の拡大は、実質利上げになる」と話していただけに、市場は日銀のスタンスの変貌と捉えたようです。ただ、同総裁は記者会見において、「これは利上げではない」と明言しています。

 この真意は不透明ですが、直近では東京市場で、10年物国債の取引が成立しない日があったり、国債入札で応札が募集に満たない「札割れ」が発生したりと、日本の国債市場で流動性の低下が発生していました。確かに日銀が、日本国債の発行残高の半分も買ってしまっていることで、市場流動性が低下するのは必然といえますが、あくまで市場の健全な育成を司る金融当局としては、由々し難い事実であり、今回の措置はあくまで、流動性を確保するためのテクニカルな措置であったともいえそうです。そうなると日本銀行が、現在のマイナス金利政策を放棄し本当の利上げに踏み切ると考えるのは時期尚早なのかもしれません。

 一方来年4月には、黒田総裁の任期が到来します。2023年2月頃には、この候補者が絞り込まれる見通しですが、現在日銀のプリンスと呼ばれてきた雨宮正佳現副総裁と幅広い国際的人脈を持つ前副総裁の中曽宏大和総研理事長、財務省からは浅川アジア開発銀行総裁、岡本元事務次官、また初の女性総裁として翁日本総合研究所理事長などが有力候補とされています。 

 過去日銀総裁人事は、財務省と日銀の出身者が、たすき掛けで総裁に就くという慣例がありましたが、黒田総裁の評価は高かったとしても、財務省畑の出身であり、現実的にも異例の2期10年となる過去最長の就任期間に、インフレ目標やデフレの克服ができたとは言えません。特に次の総裁には、現在行っている異例規模の国債買入や世界的に唯一マイナス金利を導入している日銀の出口戦略が大きな課題となりそうです。テクニカル面でも相当難しい判断が迫られそうです。その面では、副総裁を経験した日銀プロパーの2名となる可能性が高く、その場合本当の意味で、日銀が利上げスタンスに変貌する日が訪れるかもしれません。そうなるとドル円相場にも大きなインパクトを与えると思います。

 2023年は、長らく市場から全く注目を集めなかった日銀金融政策決定会合が、大きな注目となる1年となりそうです。以下は2023年の日銀金融政策決定会合や議事録の公表日です。しっかりと押さえておきましょう。

日銀金融政策決定会合(議事録公表日)

(01月23日)

01月17日-18日+展望リポート(03月10日)

03月09日-10日(05月08日)

04月08日:黒田総裁任期

04月27日-28日+展望リポート(06月21日)

06月15日-16日(08月02日)

07月27日-28日+展望リポート(09月27日)

09月21日-22日(3月10日)

10月30日-31日+展望リポート(12月22日)

12月18日-19日

〇 日本の国際収支

 日本の国際収支は、過去長らく黒字を維持していましたが、2014年には、東北大震災の影響もあって一時赤字に転落。その後回復も見えていましたが、新型コロナウィルスの蔓延を受けたワクチンの購入や訪日外国人観光客の激減、更にロシアのウクライナ侵攻を受けた資源・商品価格の上昇、加えて大幅な円安の悪影響もあって、再び赤字転落が定着化してきています。

 一応2023年に向けては、資源・商品価格の落ち着き、円安によるJカーブ効果などもあって、一定の改善が期待されますが、直近ではまた、懸念材料が持ち上がっています。

 それは、岸田政権が打ち出した「防衛費2倍」政策です。

 過去歴代政権が、軍事費の目安としてきた「GDP比1%枠」の倍増を目指すもので、「5年で43兆円」の財源が不足するとされています。この財源に関しては、法人税や復興税の活用が話題となっていますが、一方為替市場の影響を考えると、この増額分のほとんどが、装備等購入費や維持費に充当されると見られています。しかも、この90%は海外からの調達となるようです。具体的にどういったタイミングで決済されるかは不透明ですが、現在の想定では、来年以降年間で5兆円程度の海外調達が実施され、しかもこれが全てドルで決済されることになりそうです。

 この代金に関しては、過去潤沢に日本政府が保有する外貨準備を利用することはなく、市場からのドル調達で賄われています。来年以降、訪日外国人数はある程度回復するとしても、この防衛費の増額が、円の上値を抑える可能性には、注目しておきましょう。

〇 スイス日金利差との連動性

 それでは両国の金利差とスイスフラン相場の比較をみてみましょう。以下のチャートは、2006年からの両国の10年物国債利回り差とスイスフラン円相場の推移です。 

 2014年までは、リーマンショックによるリスク回避志向の時期ですが、比較的両国の金利差に、スイスフラン円相場は連動した動きとなっています。ただ、2014年から2016年は、この連動性が全く機能していません。この要因は、一概には言えませんが、恐らくアベノミクスによる日本の景気拡大やトランプ政権で強まったリスク回避の動きが、相場に影響を与えている可能性がありそうです。

 再び2017年からは、若干連動性が見えていますが、年末の日銀のサプライズ的なYCC政策の転換によって、日本の長期金利の上昇リスクが高まっていることは留意しましょう。

〇 ユーロ円との連動性

 スイスフラン相場は、ユーロ諸国に囲まれていることもあって、特にユーロ相場と連動性が高い通貨ペアとなっています。

 以下のチャートは、2000年からのスイスフラン円相場とユーロ円相場を比較したチャートです。乖離のレベルは、その時々の地政学リスクの状況で異なりますが、総じて同じような展開が続いています。

そうなるとスイス円相場は、ユーロ円相場を参考にトレードしても良さそうです。

 では、以下のユーロ円相場の月足チャートを見てみましょう。

 ユーロ円相場は、169.97の史上高値示現後は、94.12で下値を支えて、その後は149.79の高値から109.57まで値を下げた後も保合気味の展開が続いています。

また、テクニカル面でも不透明な点が多く、94.12から109.57を結んだサポートを割れるも、114.41で下げ止まりを見せて、169.97から149.79を結んだレジスタンスを越える状況となっています。

 総じてABCで、不揃いなH&Sとして見ても、このネック・ラインとなるACの上抜けからも更に上昇を拡大出来ていません。また下限のスロー・ストキャスティクスも買われ過ぎ圏で横ばいにあって、大きなトレンドが出るかは不透明な状況が続いています。強いて言えば、132.65-39の戻り安値圏、割れても114.41から124.40の下ひげを結んだサポートが維持する130円前後が維持されると堅調が続きそうですが、一方で148.40の高値を越えるかは不透明で、超えてもBのトップとなる149.79を上抜けるような展開とならない限りは、150円を超える動きも想定しづらいでしょう。

 こういった面から2023年のユーロ円の想定レンジを、133.00から145.00としています。ただ、テクニカル的に不透明感が強いことから最大レンジで130.00から150.00まで見込んでおいた方が良いかもしれません。  そうなると2023年のスイスフラン円も、不整合な揉み合いが継続する可能性でみておいた方が良いかもしれません

〇 ウクライナ情勢

 2022年2月24日に、ロシアがウクライナへ侵攻。一時はロシアが圧倒的なパワーで、ウクライナを短期に制圧して侵攻を完了すると見られていましたが、欧米の多大な支援もあって、現状はウクライナが攻勢を強めています。

2022年は、この影響で原油価格や天然ガスなどのエネルギー価格が大幅上昇、更に穀物市況の高騰につながり、世界的に物価高騰が、マーケットの大きな材料となりました。 2023年には、どういった形であれ、この戦況が終息を迎えることが出来るのか大きな焦点となりますが、2020年のパンデミック・リスク、2022年はウクライナ侵攻と、連続で、市場の想定しない「ブラック・スワン」がマーケットに出現、市場を大混乱に招いています。そうなると2023年もこの「ブラック・スワン」が、市場に降り立って来るのか大注意となりそうです。

 ただ、確かに「ブラック・スワン」は、誰も「想定しないリスク」のことを指していますが、ロシアの苦戦から戦術核兵器を使用する可能性が残っていることを考えると、まだまだ安心できる状況ではありません。その場合地政学リスクでは、スイスフラン買いとの連想もあるかもしれませんが、スイスは地理的に近いこともあって、この限りではありません。

【テクニカル面】

テクニカル面からまず、スイスフラン円を構成するドルスイス相場の長期月足をチェックしておきましょう。

 ドルスイスは、1.0328-1.0344-1.0237が上値を押さえて、調整が0.8758まで拡大もこれを維持して、再度1.0148まで反発しましたが、これも過去の高値圏を前に上げ渋って、再調整となっています。下段のモメンタムを示すスロー・ストキャスティクスが、買われ過ぎでデッド・クロスを見せています。上値は、既に過去のレンジの50%となる0.9522-55が押さえると弱い状況で、超えても0.9781の窓の上限がCapされると売りが出易そうです。あくまで1.0148を越えて、1.0328-1.0344-1.0237のトリプル・トップが視野となりますが、当面上値を押さえそうです。

 一方下値は現状の安値0.9211を維持するなら良いですが、割り込むと0.9019-0.9150、0.8870-0.8925の戻り安値圏が視野となりますが、総じて過去のレンジ相場を踏襲すると0.8700-0.88758のダブル・ボトムの位置は、若干のオーバー・シュートがあっても維持されるでしょう。リスクは0.7712の節目を割れるケースですが、0.7406や0.7072は、ドルスイスの歴史的な安値圏であって、これを割れるようなケースは、余程のことが無い限りなさそうです。  従って、ドルスイスの今年の想定レンジを0.8700から0.9800とします。

次にドル円相場も見ておきましょう

 ドル円相場は、1990年の160.35の高値から、2011年10月の75.31まで下落後、2022年10月には、160.35の高値と、147.66や125.86の高値を結んだレジスタンスを越えて、151.95まで急反発しました。

 特にこのチャートで注目して頂きたいのは、チャート形状から「F」の75.31をボトムとしたリバースH&Sを形成していることです。また現状は、このショルダー部分となるネック・ラインとなる「D」と「C」をクリアして、151.95の上ヒゲで、アーム部分「H」の形成を完了しています。このチャートの75.31の安値を基準に、ロールシャッハ・テストのように、左右対称を考えると次の展開は、再び「B」と同様に「I」の位置まで相場が下落する可能性があるということです。ただ、過去そこまで、チャート形状がぴったりとなるケースは、記憶にありませんので今後の焦点は「D」と「G」のネック・ラインを維持できるのか、それとも割れる動きがあるのか、来年の相場では、大きな注目点となりそうです。

 一応このネック・ラインが維持されるなら、再度「J」を目指す可能性も残っていますが、ネック・ラインを割れて来ると特に過去の動きでは急激な円高となっており、スピードが加速する可能性に注意しましょう。

 また次のチャートは、同様のチャートから一定の波動を見たチャートです。 

 160.35の高値から75.31まで下落しましたが、波動からは第7波で一旦底値を見ているようです。この話を聞くと若干不思議に思う方もいると思います。一般的にエリオット波動からは、5つの波動とABCの上下波動で最終的に完了することが定説とされています。ただ、私の経験からは為替市場では、7波や9波で相場を完了するケースが多くあります。またこの考えを除いても、既に151.95まで上昇した相場であれば、160.35からの下落は一旦終わっているはずで、そうなると次の注目は75.31からどういった波動形成となるかです。

 ただ、その場合も①の上昇後の②波の位置が、最初の段階で①を越えておらず、不透明な感じとなっています。そのため、現在では99.02と102.59を「②と②‘」として勘案しています。これは次の展開を見なければなりませんが、少なくとも①の高値が、逆に下値を支えると次の第5波の上昇を迎えることができるでしょう。その場合③の151.95を越える160.35がターゲットとなります。つまり前述のリバースH&Sのケースで申し上げたネック・ラインが、こちらでも重要で、2023年の相場は、これが維持されるのか、割れるのかで相場付きが大きく変わることは留意しておいてください。

 以上を勘案して、ドル円相場の2023年の想定レンジを126.00から140.00とします。

 加えてドルスイスとドル円の想定レンジから、マトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を作成しています。

 ドルスイスのレンジを0.8700から0.9800、ドル円を126.00から140.00としましたので、これから算出されるスイスフラン円の最大想定レンジは、128.57から160.92となりますが、広すぎるので134.38から153.76とします。

 それでは、最後にスイス円の月足を見てみましょう。

 スイスフラン円は、過去58.80の安値から2015年の1月のスイスフラン・ショックで、一時155.37の歴史的高値を示現しましたが、流石にこれは大きな上ヒゲで終わっています。その後、下値を102.00や106.66で支えて、151.49まで上昇しました。この位置は若干不透明感が残りますが、上ヒゲとなっていることや下段のスロー・ストキャスティクスが、買われ過ぎで下落的な感じとなっていることで、特に148.52-149.09ゾーンがレジスタンスとして機能するなら一旦上値つきの可能性は高そうです。150.55や151.49の高値を超えて、史上最高値となる155.37がターゲットとなります。

 一方下値は、現状の安値141.03が維持されと強いですが、137.16の戻り安値を割れると134.01、127.05-50の上昇前の窓の下限がターゲットとなりますが、上昇サポートから維持されると堅調が続きそうです。リスクは122.13-124.25の戻り安値圏割れで、その場合サイコロジカルな120.00、117.53や116.93の戻り安値を割れると111.82-115.91ゾーンまでターゲットとなりますが、サポートからは堅調な位置です。リスクは108.68や106.93の安値割れとなります。

 従って、2023年のスイスフラン円の想定レンジを、135.00から148.00とします。最大でも130.00から150.00で見ておきたいと思います。

【予想レンジと戦略】

 それでは以上を踏まえて、スイスフラン円相場の来年の戦略についてお話します。

 一応来年は、過去のような新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナの情勢が更に悪化しないとの前提でお話させて頂きます。

 来年のスイスフラン円の想定レンジの基本を135.00から148.00としました。

次に戦略の前提としては

・スイス中銀は、利上げ姿勢を継続すると見られるが、来年ペースを鈍らせる可能性がある一方、日銀が金融正常化に舵を切る可能性が残ることで、スイスと日本の金利差縮小リスクがある。

・日本の国際収支の悪化や原油・資源高が、円の上値を抑える可能性がある。

・テクニカルからスイスフラン円は、若干不透明もドル円の月足のスロー・ストキャスティクスが、デッド・クロスを示しており、早期は下落リスクが高そう。

・注意点としては、やはりウクライナ情勢です。もし、プーチン大統領が核の使用などに走った場合、リスクオフですが、スイスは隣国であることから、スイスフラン買いにはなりづらいでしょう。また一方で早期に停戦合意となった場合は、リスクオンですので、今まで堅調であったスイスフランに売りが出易いことは、留意しておきましょう。

また、タイミング的な注意点は

  • 1-3月期は、本邦のレパトリ・シーズンで円高気味となり易いこと。
  • 株価面では、来年前半は今年の流れを引き継いで弱い可能性があり、リスクオフが広がり易い。ただ、年後半に向けては、FRBの利上げ停止などが株価を支え、リスクオンの動きが期待される。
  • ドル円は、例年アノマリー的に、8月中旬に瞬間的な円高が示現することが多いことは注意です。ただ逆にこの時の急な円高は、年末に向けて絶好の円の売り場となることも、覚えておいてください。
  • 9月のレイバーデー明けからは、年末に向けて方向性が出易い時期です。この時期に一定の動きが見えた場合、逆張りで向かわないようにしましょう

基本的なスィング・トレードの戦略は、2023年も地政学的なリスクが常に意識されることで、スイスフラン円は堅調気味な展開となりますが、一方でテクニカル面では、上値をつけていることで、早期は慎重に戻り売りを考えましょう。

 上値は、突っ込み売りは避けて148円方向への上昇を睨みながら売り上がって、ストップは150円越えや151.49の高値越えとします。ターゲットは、現状の141.03が維持されると利食いながらですが、割れるなら134.01-137.16ゾーンなどでは、利食いを優先します。またこの位置からの買いは130円まで買い下がりのスタンスで、ストップは127.05-50割れとします。この買いの利食いは、こういった下落からは、144.55などが重くなりそうですので、これを手前に上げ渋りではしっかりと利食って、また売り直すなど回転売買が良さそうです。

※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。