南アランド円-2021年相場予想と戦略-

当面SARBの利上げは期待できない?

【2020年の南アランド円相場を振り返って】

 2020年の南アランド円相場は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の悪化や世界的な株価の下落によるリスク回避の動きも、年後半に向けては、総じて巻き戻しの展開となりましたが、年初の高値を回復することは出来ませんでした。
年初南アランド円は、前年の金価格の上昇や国営電力会社エスコムの救済支援に対する期待感から7.76の高値からスタートしましたが、新型コロナウイルスの急速な感染拡大で、世界各国が緊急事態を宣言、ロックダウンなどの対応策が実施されたことで、世界的に株式市場が暴落。ドル円相場が、3月9日に101.19まで急落し、南アフリカでも、順次外出禁止令やロックダウン対策が実施されましたが、それまで唯一投資適格を守ってきた米ムーディーズが、南アフリカの格付けを投資適格から投資不適格に引き下げたこともあって、南アランド円相場は、4月6日に5.61の年間安値まで下落しました。
 その後は、FOMCや世界の中央銀行が利下げや資産買い入れなどの金融緩和策を発表、南ア準備銀行(SARB)も、6.50%としていた政策金利を3.50%まで引き下げ、徐々に新型コロナウイルスに対しての警戒感が薄れたことや株価の下げ止まりもあって、南アランド円も反転に転じました。
 ただ、南アフリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか収まらないこと、経済対策を順次打ち出すもラマポーザ大統領に対する批判は消えず、国営の南ア航空やエスコムの経営悪化が重しとなり、金価格の史上高値更新にも、夏場の南アランド円相場は、ほぼ6.57から5.96での揉み合いの推移に留まりました。
 秋口に入ると米国の大統領選を睨んだ相場展開となりましたが、予想外にバイデン氏が勝利するも、米国の追加経済対策の期待感から、株価が年初来の高値を更新、リスクオンのドル売りが強まる形から、南アランド円相場も7.12まで値を回復して、2020年の取引を終了しました。 

【2021年の主な材料】

以下が現在、判明している今年のイベントや材料です。注目度の高いものはマーカーで表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更されることがあります。

01月01日:ポルトガル・EU議長国就任
01月05日:米ジョージア州上院議員決戦選挙
01月06日:米大統領選における選挙人投票結果開票(上下院合同会議)
01月16日:独キリスト教民主同盟党(CDU)党首選挙
01月18日:日本・通常国会、アジア金融フォーラム(香港、19日まで)
01月20日:米大統領就任式
01月24日:ポルトガル大統領選挙
01月25日:ダボス会議(29日まで)
01月XX日:米大統領・一般教書演説(26日頃?)、IMF・世界経済見通し公表

02月XX日:米大統領予算教書・経済報告書公表
02月20日:米パリ協定復帰
02月27日:G20財務相・中央銀行総裁会合
02月XX日:南ア大統領施政方針演説、南ア財務省2021/2022年度予算案発表

03月XX日:中国第13期全国人民政治協商会議第4回全体会議、第13期全国人民代表大会第4回全体会議(北京)
03月09日:南ア2020年第4四半期GDP発表
03月14日:独バーデン・ビュルテンベルク、ラインラント・プファルツ州議会選挙
03月17日:オランダ下院選挙
03月25日:東京オリンピック・聖火リレー開始(最終的オリンピックの開催可否を決定?)
03月26日:米通商代表部・外国貿易障壁報告書公表
03月XX日:バイデン政権・気候サミット開催、ECBパンデミック緊急購入プログラム期限

04月07日:G20財務相・中央銀行総裁会合(8日まで)
04月09日:IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
04月XX日:国連・世界経済状況予測公表

05月06日:英地方議会選挙(ウェールズ、スコットランド)、英ロンドン市長・ロンドン議会選挙
05月19日:欧州復興開発銀行年次総会(アルメニア・エレバン、20日まで)
05月25日:世界経済フォーラム特別年次会合(シンガポール、28日まで)
05月XX日:G7サミット(英国)、米財務省・半期為替報告書公表

06月06日:独ザクセン・アンハルト州議会選挙、メキシコ連邦下院議員・州知事選挙、イラク国民議会選挙(予定)
06月08日:南ア2021年第1四半期GDP発表
06月18日:イラン大統領選挙(予定)
06月28日:G20外務相会合(イタリア・マテーラ、29日まで)
06月30日:IMF・世界経済見通し公表
06月XX日:フランス地域圏議会選挙・県議会選挙、世界銀行・世界経済見通し発表、WTO閣僚会議(カザフスタン・ヌルスルタン)、OPEC総会

07月01日:オセアニア圏・新会計年度開始、スロベニア・EU議長国就任
07月09日:G20財務相・中央銀行総裁会合(イタリア・ベネチア、10日まで)
07月23日:東京オリンピック開催(8月8日まで)、中国共産党結党100周年
07月31日:米債務上限の適用停止期限
07月XX日:中国北戴河会議、IMF・改訂版世界経済見通し発表

08月24日:東京パラリンピック(9月5日まで)
08月XX日:カンザス連銀シンポジウム(ジャクソンホール)

09月05日:香港立法議会選挙
09月08日:南ア2021年第2四半期GDP発表
09月13日:ノルウェー議会選挙
09月19日:ロシア下院選挙・統一地方選挙
09月26日:独連邦議会選挙、英国労働党大会(ブライトン。29日まで)
09月30日:菅自民党総裁任期満了、独議会・任期満了
09月XX日:東方経済フォーラム(ウラジオストク開催)、中国一帯一路サミット、メルケル首相退任、仏2022年政府予算案・社会保障会計法案発表

10月01日:ドバイ万国博覧会(2022年3月31日まで)、米新会計年度開始
10月15日:IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC、17日まで)、G20財務相・中央銀行総裁会合(ワシントンDC、16日まで)
10月XX日:英国保守党大会(バーミンガム)
10月21日:衆議院議員・任期満了
10月24日:アルゼンチン中間選挙
10月XXX:カナダ・ヌナブト準州選挙
10月30日:G20首脳会合(ローマ、31日まで)
10月XX日:中国共産党中央委員会全体会議(5中全会)

11月01日:国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(英グラスゴー、12日まで)
11月XX日:APEC閣僚・首脳会議、カナダ・ユーコン準州選挙
11月29日:スイス国民議会議長・全州議会議長選挙
11月XX日:米財務省・半期為替報告書公表

12月08日:スイス連邦大統領・連邦副大統領選挙、南ア2021年第3四半期GDP発表
12月XX日:中国・中央経済工作会議
12月XX日:OECD経済見通し公表、OPEC総会

【2021年の注目点】

 2020年の相場環境を踏まえて、2021年の南アランド円相場の注目点をまとめてみました。

・ 南アフリカ経済
・ 南アフリカの格付け
・ 金価格との連動性
・ 南ア中銀(SARB)のスタンス

〇南アフリカ経済

 南アフリカは、かつて有色人種に対する人種差別(アパルトヘイト)で知られていましたが、1990年台に入って、ネルソン・マンデラの登場後は、アパルトヘイトを廃止。イギリス連邦と国連に復帰、民主化の中アフリカ最大の経済大国となっています。
 資源では、金やダイヤモンドの世界的産地で、アフリカ大陸で最大のトウモロコシ生産国でもあり、アフリカ唯一のG20参加国です。近年では、ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲンや日産自動車などが輸出拠点として、同国に工場を置いています。
 ただその一方では、エイズの蔓延、教育水準の低い非白人の極端な貧困と格差、高失業率などにより治安の悪化が指摘されています。また、アパルトヘイト廃止後の電力需要の急増にも、発電所の建設が10年以上行われなかったため、2007年ごろから電力不足が大きな問題となっています。この電力不足が、鉱山の操業停止につながり、恒常的にストなどが発生、国民の政治に対する不安感を高めています。
 政治面では、アフリカでも数少ない複数政党制が機能する民主主義国家のひとつですが、2009年に大統領に就任したズマ大統領が、私邸の改修に多額の公金を使ったことや武器取引に関連して783件以上の汚職疑惑で辞任に追い込まれました。その後鳴り物入りで就任したラマポーザ大統領に対する期待感が一時高まりましたが、政策面では、国営企業の改革に失敗しており、低迷する経済や高失業率が続き失望に変わっているようです。
 また昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大が、経済の悪化に追い打ちをかけています。

 以下が直近の南アフリカの失業率の推移です。元来高失業率ですが、その要因として、人種差別の悪影響が残っていること、雇用教育制度の不整備、隣国からの安い労働力の流入などが指摘されていますが、現在は過去最大の30.8%まで上昇しています。今後も失業率の悪化は、政治不安につながり易いことで、南アランド相場にも良い影響はありません。

〇南アフリカの格付け

 昨年、3月27日に、米ムーディーズが、南アフリカの長期外貨建て債務の投資格付けを、投資不適格としたことが、大きく失望につながっています。
 以下は現在の南アフリカに対する主な格付け会社が発表している「格付け」です。
ムーディーズが「Ba2」、S&Pが「BB-」、フィッチ・レーティングが「BB-」と投資不適格に格付けしています。
 特に重要なのは海外からの投資を集めるために利用される、「長期外貨建て債務」の格付けですが、今後一部に更に引き下げられる可能性が指摘されています。また引き下げまではないとしても、新型コロナウイルスの感染が収まらないと、S&Pなどが見通しを「安定的」から「ネガティヴ」に引き下げる可能性もあるかもしれません。
そうなると更に南アランド円相場の売り圧力となる可能性があるかもしれません。ただ、既にジャンク債同様に「投資不適格」となっています。
投資不適格となった場合、大手の機関投資家は、社内ルールによっては、南アの保有債券を売却しなければなりません。また売却まではしないとしても、新たに投資することはできません。
つまり南アランド相場には、昨年既にこういった面が、織り込まれている可能性がありそうです。今年も南アランド投資では、大手格付け会社格付ニュースには、注意しなければなりませんが、逆説的には、そういった下落では、良い買い場を与えてくれるかもしれません。

〇金価格との連動性

 南アフリカは、金、ダイヤモンド、プラチナなど鉱物資源が豊富ですが、特に金は世界の産出量の半分を占めています。
以下は金価格と南アランドの対ドル相場のチャートです。
2005年から2008年は、リーマン・ショックの影響やそれまで12%まで引き上げていた政策金利を、大幅に引き下げたことなどが影響したと見られています。
2009年から2018年は、総じて連動している形が見えていますが、直近では連動性が見えていません。特に金価格の上昇に南アランドの上昇が追いついていないようです。
通常こういった連動性は、平常時に連動し易く、「緊急時=リスク回避」の動きの時は、連動し難くなるという傾向があります。
ちょうど2018年以降は、米国のトランプ大統領が、中国の大幅な貿易黒字に懸念を示して、対中圧力を強めた時期です。一部での「第2の冷戦」とまで囁かれるほど緊張が強まりました。この時期から金価格の独歩高が進んでいます。恐らくリスク回避資産として、金の需要が高まったようです。

  今後も金価格の動向に注目されますが、以下の2000年からのNY金価格の月足チャートを見ておきましょう。
 昨年8月には過去の高値を越えて、歴史的な水準となる2075ドルまで一時上昇しました。歴史的な高値でこの位置が上値つきかは不透明ですが、ただ、一旦トピッシュとなっていること。またモメンタムを示すスロー・ストキャスティクスが買われ過ぎから反転下落となっています。ダイバージェンス(乖離)の可能性もあって、米金利やドルの今後の動向次第ですが、一旦調整気味な展開が続きそうです。
 ただ、下値は現状の安値1764ドルの維持は不透明ですが、維持できれば堅調としても1900ドル前半が再度上値を抑えるとレジスタンス形成となり易いので注意しておきましょう。また割れても1366-1433ドルの上昇前の高値圏は、ネック・ラインで逆サポートとして機能しそうです。またこの位置にはマイナー・サポートも控えています。買いが入り易そうですが、割れると1300ドルなどへの調整もあるかもしれません。ただ、この位置も最終サポートが支えそうです。リスクは1112-1160ドルの戻り安値を維持出来ずに、1046ドルを割れるケースとなります。
 従って、今年の金相場は、パンデミックの状況次第としても、米国のワクチン普及もあって、一部のFRB要人が「今年のテーパリングの可能性」に言及しています。マイナス金利の引き下げなどの追加の緩和策はなさそうです。そうなると低金利が支えている金価格も1400-1900ドル程度の揉み合いに留まるかもしれません。また、南アランド相場の現状は、金価格とあまり連動していないこともあって、ある程度調整しても、金価格が暴落とならない限り、相場に悪影響はないでしょう。 

〇南ア準備銀行(SARB)のスタンス

 南アランド相場は、過去新興国の中でも高金利通貨として人気を博してきました。確かに13.5%の金利は、新興国通貨に対する投資リスクを勘案しても魅力的な水準でした。それも2008年の12.0%を境に、政策金利の引き下げが始まり、南アランド円相場も、金利の低下に準じて下落しています。
現在のように、流石に年利3.5%となると、新興国のリスクを取るのはなかなか厳しいでしょう。今後も政策金利の更なる引き下げはないとしても、低水準が続くなら南アランド円相場の強い上昇は期待しづらそうです。

 では、南ア準備銀行の現在のスタンスを見てみましょう。
 以下は、2015年からの南アフリカの消費者物価指数の前年比のチャートです。
 物価上昇率は7%前後を上値に、直近では、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、一時3%を割れています。
 現在南ア準備銀行は、3-6%のインフレ目標を掲げています。確かに今後も新型コロナウイルスの感染状況次第ですが、南アフリカでは、直近変異種が発見されています。アフリカ諸国は、衛生環境も悪く、更に拡大するリスクもありそうです。
一応1月下旬には、アストラゼネカ製ワクチンが到着する予定のようです。アストラゼネカは英国の会社ですので、旧英連邦の南アフリカには、迅速にワクチンの供給が行われるようです。ただ、米ファイザーやモデルナなどのワクチンは、新興国までは、十分配布されるのは、まだまだ時間がかかるでしょう。そうなると南アフリカの今年の景気回復もままならず、インフレ率の上昇も難しくなりそうです。
また、昨年11月の南アフリカ準備銀行の声明では、「インフレ見通しに対する全体的なリスクは、短期的には下向きだが中期的にバランスがとれているようだ」、クガニャ南ア準備銀行総裁も、「パンデミック前の経済活動に戻るには時間がかかる。金融政策は引き続き緩和的、今後の決定はデータ次第」と述べています。
確かに経済指標次第でしょうが、もし、パンデミックが一定の落ちつきを見せて、短期的にインフレ率がターゲットの上限を超えても、FRBや他の中央銀行も今年は、直ぐに利上げをしない方針を示しています。南ア準備銀行も、当面利上げスタンスを取る可能性は低く、南アランド円相場の押上げ要因として期待するのは難しそうです。 

以下は、南ア準備銀行理事会及び政策金利公表予定日です。
声明や政策の変更には注意しておきましょう。
01月10日~23日
03月23日~25日
05月18日~20日
07月20日~22日
11月16日~18日
※1月17日時点の予定となります。

【テクニカル面】

テクニカル面からまず、南アランド円を構成するドル南アランド相場の長期月足をチェックしておきましょう。
 ドル南アランド相場は、2011年頃から延々に堅調に推移しています。ズマ前大統領のやりたい放題の政策に対する国民の不満が高まったころから、特に上昇基調を強めています。一旦ラマポーザ大統領に対する期待感から17.2443から売り戻しも入っていますが、逆に期待感が強すぎたせいでしょうか、11.5028を安値に、ラマポーザ大統領就任直後から、再び上昇を強め、今年の新型コロナウイルスの感染拡大によるリスク回避の動きで、19.3365まで上昇した後は、落ち着きを取り戻しています。
 波動的には、
第1波=5.5857→11.7710
第2波=11.7710→6.5520
第3波=6.5520→17.2443
第4波=17.2443→11.5028
第5波=11.5028→19.3365
A下落=19.3365→?A
B上昇=?A→?B
C下落=?B→?C

 以上のように想定されます。現在は第5波の高値を示現後、ABC下落の形成過程です。だた、現状の安値15.0935がA下落の底値かは確定できませんが、更に調整しても、14.000前後は、6.5520の安値からのサポートと17.2443からのファン・ラインが控えていますので、一旦下げ止まりの位置と見られます。
 問題は、このA下落が完了した後の、B上昇がどの程度まであるかです。第5波が完了している前提でこの高値を越えないとすれば、水色のゾーンなどがターゲットとなります。この位置は16.3980から17.7796ゾーンで、この位置が上値を押さえて、A下落の底値を割れるとC下落が形成されます。その場合の下落目途としては、5.5857から19.3365の上昇のフィボナッチ・リトレースメント50%として、12.4611または、それ以前の高値の11.7710や戻り安値11.5028などが想定されますが、B上昇が、揉み合い気味とる可能性もあって現状は不透明です。
従って、ドル南アランド今年の想定レンジを、14.0000~18.0000としておきます。 

次にドル円相場も見ておきましょう。まず長期の月足です。
 1989年の163.65の高値からのチャートですが、上値は147.66、145.86できっちりとレジスタンスに抑えられて、現状このレジスタンスは、115円前後にあると考えらえます。今後もこういった位置が抑えると弱い状況が続きそうです。
 特に長期のエリオット波動からパターンを想定すると、
第1波=163.65-79.75
第2波=79.75-147.66
第3波=147.66-75.31
第4波=75.31-125.86
第5波=125.86- ?

となります。現在は、最後の第5波の下落過程にありますが、その場合第3波の安値となる75.31を将来的に割り込むという想定が基本となります。ただ、第5波が短くなる可能性があること。また超長期ですから、そういった下落が実現するとしても、まだまだ先となる可能性もあることは、留意しておいてください。
また、オレンジの安値で示した101.25、101.67、99.02の安値は、一種のネック・ラインを形成しています。今後下げてもこの99.02-101.67ゾーンは、一旦支えられる可能性が高いと考えられます。このレベルが維持されると下落は、直ぐに進みませんが、ただ割り込んだ場合、75.31の安値から結ばれた最終サポートの位置となる95円前後がターゲットとなります。この位置もサポートが控えていますので、下げ止まる可能性が高いです。ただ、更に割り込むなら85-90円ゾーンまでターゲットとなります。
また、こういった円高では、一部に当局の市場介入を警戒する話が必ず出ますが、ただ、今回の円高のスピードが総じて鈍いこと。また円独歩高ではなく、ドル安であることを考えると米国から市場介入のコンセンサスを得ることは難しいでしょう。個人的には、このレベル程度なら市場介入は出来ないと思います。

 次により短期の月足チャートを見てみましょう。
 こちらは110円前後がレジスタンスとなっています。前のチャートと合わせても、110-115円は引き続き上値を抑える位置となりそうです。
 一方下値は下落チャンネルの下限と、75.31のサポートがクロスする95円前後が、一定のターゲットとなりますが、この位置は、フィボナッチ・リトレースメント(75.31から125.86)の61.8%の94.62と合致する位置です。100円のサイコロジカルを前にした50%の100.58や100円をしっかりと割り込むなら、こういった下落の可能性があることは注意しておきましょう。ただ、モメンタムを示すスロー・ストキャスティクスの力が弱く、下落には、相当時間がかかりそうです。今年もじりじりとした相場展開が続きそうですが、一応今年の想定レンジを100.00~110.00とします。  

 以下にドル南アランドとドル円の想定レンジから、マトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を作成しています。
 ドル南アランドのコア・レンジを14.0000~18.0000、ドル円を100.00~110.00としましたので、ここから算出される南アランド円の最大想定レンジは5.56から7.86となります。

 それでは、最後に南アランド円の月足を見てみましょう。
5.61の安値まで下落しましたが、現状はこの安値で下げ止まりを見せています。ただ、歴史的な安値圏にあって、これが最安値となるかは不透明ですが、下値はサポートとして、6.50前後を支えるとスロー・ストキャスティクスの反転上昇から強い結果が見えます。ただ維持できない場合、再度6円前後が視野となりますが、維持できれば良いですが、6円を割れて5.61の安値まで割り込むと調整が深まる可能があります。現状想定は難しいですが、6.40から9.30の上昇幅の2.90を7.50から下げた4.60などの可能性が指摘されます。
一方上値は、長期のレジタンスAと6.40の安値からのファン・ラインが重なる位置が7.50前後にあります。この位置が上値を抑えると上昇もおぼつかないでしょう。超えて7.83から8.36の戻り高値ゾーンへの上昇期待となりますが、売りが出易そうです。9.30を超えるまでは、長期レジスタンスを超えることはなく、最大上昇しても9.00程度が限界と考えています。

【予想レンジと戦略】

 それでは、以上を踏まえて、南アランド円相場の今年の見通しと戦略についてお話します。
 ただ、あくまで新型コロナウイルスの感染が、最悪の事態まで再拡大しないことを前提としています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ファンダメンタルズ面での比較は、為替市場であまり意味をもたなくなっています。世界が正常に戻るまでは、こういった状況が続くでしょう。従ってテクニカル面を中心に、2021年の戦略を考察しています。  

前述のマトリックス・チャートからは5.56~7.86が算出結果となっています。一応モメンタムから現状の安値を割れない前提で、上値は戻り高値の7.83と8.36の中間値と仮定して、今年の南アランド円の想定レンジの基本を6.00~8.00とします。

基本的に、戦略は押し目買いですが、くれぐれも上値追いは止めましょう。狙い目は6.50前後から6円まで買い下がって、ストップは5.61割れとして、ターゲットは、7.83-8.36ゾーンでは利食いながら、また下がれば買い直しなどを検討する形です。またもし、7.83-8.36ゾーンを超えても、9円を前にしっかりと利食っておきましょう。 
注意点としては、
① 1-3月期は、本邦のレパトリ・シーズンで円高気味となり易いこと。
② 堅調な株価が続いていますが、5-6月に株価にピークが訪れる可能性が、アストロ的に指摘されています。アノマリー的にも「セル・イン・メイ」が意識される時期です。くれぐれも株価の動向には注意して対応しましょう。 
③ 夏場は、基本揉み合い気味の展開となり易いですが、8月中旬に例年一時的な円高となるケースが散見されることで、油断しないようにしておきましょう。
④ 9月のレイバーデー明けからは、年末に向けて方向性が出易い時期です。この時期の動きには逆張りで向かわないようにしましょう。