米大統領選の行方と相場展望

なぜ暴言を繰り返し、人格的に大統領候補として不適格と思われるドナルド・トランプ候補が最終決戦まで残ったのか?

これは誰もが普通に抱く疑問だと思います。
アメリカの街頭インタビューで半数近くの人々が対立候補のヒラリー・クリントン氏を”嫌い、うそつき”と答え、また、不正メール問題など、好感度が非常に低いことも一因であることは間違いありません。

しかし、トランプ候補はこれを考慮に入れてもさらに大統領候補としての人格に疑問を持たれている人物です。

このトランプ現象といわれる本質は二人の大統領候補の人格や大統領としての適性ではなく、もっと深い所に起因しているのでしょう。

即ち、リーマンショック後のアメリカが中・低所得者層の生活を置き去りにして、”金持ち優遇”策を軸とした新自由主義、保守主義へとまい進した結果、大きな副作用が生じていることが要因ではないかと。
リーマンショック後の大胆な量的金融緩和政策の導入や減税措置は企業業績の早期回復や、スーパーリッチと呼ばれる一部の偏った層をさらにリッチにし、この結果アメリカは先進国に先駆けていち早く景気が回復して、金融政策の正常化への一歩を踏み出すことに成功しました。

しかし、その一方でアメリカ国内での貧富の差はさらに拡大し、製造業に携わる労働者だけではなく、一般就労者全体の実質所得がほとんど増えない状況がさらに長期化することになりました。

また、今日ではメキシコや中国からの移民の増加が安い労働力となって全体の労働賃金をさらに抑える状況となっています。

こうした基調は既に30年あまりに及んでいますが、途中の2008年に起こったリーマンショックがさらにこの傾向を加速させ、貧富の格差を広げる結果に繋がったものと見られます。
これが白人の一般労働者の不満の高まりとなり、さらに大きなうねりとなってトランプ現象に繋がったのではないでしょうか。

従って、11月8日の大統領選でトランプ候補が当選してもしなくても共和党の保守主義はもはやアメリカの一般大衆には受け入れられず、彼らは仕方なく左に舵を切らざるを得なくなるでしょう。

この結果、金持ち優遇政策から一般大衆を顧みるリベラルな政策へと流れを変えて行くことになり、新大統領を据えたアメリカの政策は民主党寄りになり、国民の社会福祉へと目が向けられ、お金をばらまいてでも、低・中流層の消費喚起を促す政策を進めて行く動きが強まって行くことになることが予想されます。
少数の大金持ちによる高額商品の消費より、より多くの”普通”の人々の幅広い分野での需要を喚起する政策が必要だからです。
この流れはアメリカだけではなく、予想外のBrexitを選んだイギリスにも言えることでしょう。

大統領選後の対外貿易政策

こうした潮流は、大統領選後の対外貿易政策でもはっきり表れてくると見られます。
即ち、貿易面でも、アメリカの国益を守る観点から保護主義的な姿勢が強まることが予想され、その一要因となる為替相場についても、ドル高を容認して来たこれまでの姿勢に変化が生ずることは容易に予想がつきますから、ドル急伸時における政府高官のトークダウン発言にも注意する必要がありそうです。

また、例年4月、10月に発表される米財務省の”為替報告書”では日本が、為替操作国として名が挙げられていますから、ドル/円相場について言えば、円が急騰した場合でも日銀によるドル買い/円売り介入には厳しい目が向けられることが予想され、円高阻止に対して日本は難しい対応を迫られることになると見られます。また、アメリカの企業収益は既に昨年末から悪化し始めており、企業業績と株価の整合性が乖離し始めています。

大統領選という大きなイベントを消化した後に、高止まり傾向にあった株式相場が大きな調整局面を迎えてもおかしくありませんから、この面からも為替市場への影響に注意する必要がありそうです。

テクニカル面

テクニカルで見ると、ドル/円相場は、1月29日のマイナス金利導入発表直後の2月初めから大きく流れを変えており、中・長期トレンドはドル安/円高の流れに入っています。
短期的には6月24に付けた99円台で一旦底打ち、反転の流れに入っていますが、104.60~106.60ゾーンには中期的な上値抵抗が控えており、これを上抜け切れずに反落に転ずる可能性にも注意する必要がありそうです。

一方で、100~101円ゾーンは長期的な下値抵抗ポイントにあたっており、6月以降の月足の実体ベースではこれを守って推移していることから、当面は101~106円±1円でのレンジ内での推移となることが予想されます。

但し、100円台を維持出来ずに越週するか、値動きの中で99円割れを見た場合は、長期的な下値抵抗を下抜けることにより、新たなドル下げエネルギーが生じて、ドルの下落余地が95~96円台までさらに拡がり易くなります。

逆に106円超えで越月することが出来れば、下値リスクが軽減されてドルの上昇余地がもう一段拡がり易くなりますが、この場合でも長期トレンドが弱いことに変わりなく、110円台は大きな壁となるでしょう。

ドル/円【月足】:(10/17現在31ヶ月移動平均線は112.98にあり長期トレンドはドル弱気の流れ)

(執筆時:2016年10月18日)