米大統領選挙の行方と相場展望

いよいよ11月8日に本投票

米国大統領選挙はいよいよ11月8日に本投票を迎えます。
今回の選挙では民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補が対決します。現在の支持率はクリントンが48.1%、トランプが41.4%です。

実際の選挙戦は選挙人投票(Electoral vote)というポイント数を巡って戦われます。
各州の人口の大きさに応じて、カリフォルニア州は55ポイント、テキサス州は38ポイント、ニューヨークならびにフロリダ州は29ポイント、イリノイならびにペンシルバニア州は20ポイント……という風に点数が決まっています。その州で勝った候補に、全部のポイントが入る仕組みです。

おおまかに言って、西海岸と東海岸は民主党寄りで、内陸は共和党寄りです。

全部で選挙人投票ポイントは538ですので、過半数を獲得するには270ポイントが必要です。
10月15日現在、クリントンは256ポイント、トランプは170ポイント、接戦すぎてどちらが勝つかわらかない州が112ポイントとなっています。

別の言い方をすれば、クリントンはあと14ポイント確保するだけで過半数に達するわけです。

現在、上のグラフの灰色部分にカテゴライズされている「接戦州」の主なところを列挙すれば:

  • フロリダ(29ポイント)→クリントンが+2.9%ポイントのリード
  • オハイオ(18ポイント)→クリントンが+1.6%ポイントのリード
  • ノースカロライナ(15ポイント)→クリントンが+2.9%ポイントのリード
  • アリゾナ(11ポイント)→トランプが+1.0%ポイントのリード
  • インディアナ(11ポイント)→トランプが+4.5%ポイントのリード
  • ミネソタ(10ポイント)→クリントンが+4.3%ポイントのリード

となっています。

このうちフロリダ、オハイオ、ノースカロライナ州はそれぞれ15ポイント以上の配分になっているので、現在の他の州における勢力図に全く変更が無い場合、これらの3州のうちのひとつでクリントンが勝てば、過半数に達するという計算になります。

このうちフロリダ州はかなり安定的にクリントンが優勢で推移してきました。オハイオ州ではこれまでトランプが優勢だったのですが、ここへきてクリントン優勢にひっくり返りました。

したがってテレビで開票速報を見る場合は、上に書いた接戦州での開票結果が最も重要となります。

市場参加者はどんなシナリオを持っている?

次に市場参加者はどう考えているかについて述べます。

まず大まかに言えば、クリントンは「現状維持」の候補であり、トランプは「変化を求める」候補と言えます。このためクリントン勝利のシナリオでのマーケットのボラティリティー(=相場のブレのこと)は、トランプ勝利の場合よりも小さいと考えるのが自然です。

実は11月8日には大統領選挙と並行して下院・上院の議員選挙も執り行われます。
下院の総議席数は435で、現在、共和党が247、民主党が186を占めています。空席は3です。今回の選挙では共和党が楽勝で下院の過半数をキープできると見られています。

次に上院の総議席数は100で、現在、共和党が54、民主党が44を占めています。独立は2です。今回の選挙では、やや接戦が予想されるものの、共和党が何とか過半数をキープすると見られています。

するとクリントンが大統領に選ばれた場合、大統領は民主党、上院・下院は共和党になります。それは大統領のイニシアチブを議会がブロックし、逆に議会の法案に対して大統領が拒否権を発動することを意味します。つまり「なにも決まらない」わけです。

実は投資家はこの「なにも決まらない」という状況に安心感を抱きやすいです。もっと言えば、市場は、これをたぶん好感するということです。
つまり大統領候補が選挙戦を戦う過程でぶち上げた、いろいろな公約は、実際には殆ど実行に移せなくなる可能性が高いのです。

これは、決して悪い事ではありません。

たとえばクリントンは年収500万ドルを超える裕福層の税率を43.6%へ引き上げることを提唱しています。
また相続税控除額を現行の545万ドルから350万ドルへ引き下げるとともに、相続税率も現行40%のところを45%から最高65%まで引き上げるとしています。

これらは株式市場にとって歓迎せざる提案です。だから(議会にブロックして欲しい)と投資家の多くは願うはずです。

大統領選挙後の「やれやれ」の上げ相場は、短命に終わる

これまで書いてきたことをまとめると、大統領選挙はクリントンが勝利する可能性が高いです。
でも議会は共和党が牛耳るでしょう。すると「なにも決まらなくなる」ので、大統領の公約の大部分は実行に移されないと考えるのが自然です。

株式市場はこれを好感し、一度は上昇するかも知れません。

しかしそこから先は連邦準備制度理事会(FRB)は「通常運転」に戻らなければいけません。
それが何を意味するか? と言えば、これまでは大統領選挙に遠慮してFRBは利上げを控えてきました。

しかし選挙が終わってしまえば、いよいよ12月14日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げをしなければいけないのです。

普通、大統領選挙の翌年は四年間の大統領選挙サイクルのうち、最も相場が悪い年として知られています。

つまり2017年の米国株は、あまり多くを期待しない方が良いということです。

(執筆時:2016年10月16日)