米大統領選を受けた今後の相場展望

《サプライズ》

11月8日に実施された米国の大統領選では、事前の世論調査で有利と言われた民主党候補のクリントン氏を破り、共和党候補のトランプ氏が勝利しました。
直前では、クリントン氏のメール私用問題をFBIが訴求しないと明らかにしたことで、クリントン氏が優勢との見方が強かっただけに、一時市場に、大きくショックが走りました。
ただ、米国市場では、この結果を好感する形で、株式市場が大幅に反発。
またトランプ氏が主張する政策は、インフレを強めるとの見方から米長期金利が大幅上昇したことで、ドル円相場を押し上げる形となりました。

《この動きは続くのか?》

相場の動きは市場の想定通り、ファースト・アクションはリスク・オフとなりましたが、この巻き戻しがあまりに早いことは、強い驚きとして捉えられています。
ただ、注意しておきたいことは、大統領に決まっても、実際のトランプ氏の就任は、来年の1月20日であること。また、その後の大統領教書や予算演説などが行われるまで、トランプが掲げた政策が、本当に実行に移されるのかは不透明で、今回議会選挙において共和党が上下院で過半数を獲得したことで、政策が通り易くなるとの見方がある一方、一部の共和党議員は、トランプ氏に対して、反旗を翻しており、共和党内での軋轢が、「あらわに」なると議会運営も難しくなるリスクが残っていることは留意しておきたいと思います。
大統領選での勝利宣言が、比較的温和であったことが好感されているようですが、流石に現時点で、過激な発言をする必要もないと思われます。
ただ、未だ閣僚人事も決まっておらず、今後も同氏の性格を考えると、はみ出した発言も飛び出しそうです。少なくとも相場を追いかけるのは避けて置いた方が無難だと考えます。

《トランプ氏が公約する政策》

来年以降の相場を睨むとやはりトランプ氏が、公約している政策がポイントとなります。一応解釈が微妙ではありますが、個人的な偏見も含めてまとめてみました。
以下が、その詳細です。右側の矢印は、「」は上昇、「」が下落、「」は中立または影響が良く分からないことを示しています。

しかし、この表を見ても、残念ながら全体像は見えてきません。

個別の政策を精査する形となりますが、これも法案を通す過程などを考えると直ぐに実行できるものは少なく、影響が再来年以降となる可能性もあることは留意しておいてください。
ただ、減税やインフラ投資拡大は、強くドルや株価を支えると思います。特にトランプ氏が推奨する企業減税の中で、米国投資法(HIA=ホームランド・インベストメント・アクト)に関しては、大きなドル買いに繋がる可能性があります。これは2005年に1年限りの時限立法として実施された経緯がありますが、米企業が海外で稼ぐ利益金や配当金、余剰資金などを国内に還元した場合、大幅に減税するという政策です。

減税策

今回は35%の税率を10%まで引き下げるとしています。その場合米企業が、大量にドルを買って、米国に資金を還流(レパトリ)することとなり、実際2005年の年後半には、ドルが13%も上昇しました。現在米国は、海外に2兆ドル近いこういった資産を持っていると言われています。このうち10%が還元されるだけで、2000億ドルのドル買い要因となる可能性があります。

TPP

TPPに関しては、現在オバマ政権最後の議会で、この批准が討議される予定ですが、今回成立できない場合、トランプ氏が強く反発しており、来年以降の成立が困難になる可能性があり、これは株価やドルにはマイナスの影響がありそうです。

金融政策

金融政策に関しては、現在規制緩和として、オバマ政権時2010年に制定されたドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法の廃止を主張しています。
この法律は、リーマン・ショックを契機として、金融危機に対応するため、金融規制監督を大幅に強化した法律で、銀行による自己勘定取引の禁止、店頭デリバティブ規制の強化、ヘッジファンドなどの私募ファンドの助言業者の規制強化、上場会社の規律の強化など金融取引の手足を縛る法律であることから、廃止された場合株価などが好感する可能性があります。

一方FRB批判に関しては、議長の交代を示唆したり、利上げに反対していますが、大統領権限では難しく現実味は低いです。ただ、現在FRBの理事が2名欠員しており、早々と自分の意向を反映する人物を送り込むことは可能となりますが、金融市場に対する影響が出るかは不透明です。一応利上げに反対の立場を示していることで、ドル売り材料としています。

その他

その他では、日本に米軍の駐留費や軍事費負担を要求する可能性がありますが、もしこの話が現実となった場合、現在、日本が保有する外貨準備を流用しないなら、新たなドル買い要因となる可能性には注意しておきたいです。

結論

結論としては、相場は日欧米の中央銀行の金融政策や経済の今後の行方、Brexitや地政学などのリスクで、相場が変化しますから一概には言えません。ただ言えるのは、大幅なインフラ投資や本国投資法が決定された場合、大きく株高やドル買い進むと思います。この点だけは、十分注意しておいてください。

《テクニカル面》

ドル円

まず、ドルの価値を示すドル・インデックスで見てみましょう。

このチャートは1971年からのドル・インデックスの月足チャートです。上がドル高で、下がドル安ですが、実際ドルは1985年のプラザ合意以降、延々と安い状況が続いています。ただ、現在は2008年の安値からの三角保合いを抜けて、一応反転過程にあります(右側の水色の丸)。
チャートの形状からは今回の反発も1978年時の三角保合いからの上昇と全く同じ形となっており、前回は保合いの上値抜け後3年1カ月に、再度の保合い(左側の水色の丸)を経て上昇を強めています。現在も丁度その状況と一緒で、この期間と同様の保合いを続ける前提なら、あと1年ドル・インデックスは、99.00(99.50)から100.00での保合いが続く可能性が示唆されています。
結論としては、ドルはまだ今後一年は大きく上昇出来ず、この点はFOMCが、今年12月に利上げをしても、来年後半まで再利上げが出来ない可能性が示唆されることを意味していると考えています。
つまり、関連するドル円の上昇も大きなものになりづらく、ユーロドルもあまり下げないと見ています。

次にドル円ですが、これはドル円の月足チャートです。

このチャートからは、2015年8月の高値125.86をトップとしたH&Sの形が見えると思います。 現在はこのショルダーの右肩の位置にありますが、これは左肩の上部(ピンクの位置)と同じ状況にあります。レンジ的にはざっくりと99円から105.50で推移していましたが、9日にトランプ氏が大統領選に勝利後、レンジの上値抜けが実現しました。
つまりテクニカル面では、「レンジ・ブレイク」が発生しており、強い形となる可能性を示唆しています。
ただ、一時的な「トランプ・ショック」相場として「騙し」になる可能性がありますが、それでも、今回下値は100円前後がサポートとして、堅い位置であることが確認されています。
もし騙しとしても、左肩の期間と同期間の揉み合いが継続する可能性があり、来年3月までは100円方向の下値は守られそうです。
上値は、しっかりと上方ブレイクが確認できれば、まず107.49の戻り高値、これを超えると、直近レンジのフィボナッチ・リトレースメント(99.09-125.86)からは38.2%の109.27、また緩やかなレジスタンス・ゾーンからは110円を目指す動となりますが、前述のドル・インデックスが当面もみ合いが続くことを考えると、こういった位置は当面上値を抑えられると見ています。
あくまで、このレンジの下限として、99-100円ゾーンが下方ブレイクするケースのみ、H&Sの形状や月足の雲の位置から95-96円方向への調整となります。

ユーロドル

一方ユーロドルですが、なかなか調整出来ていませんが、前回「米大統領選の行方とその後の相場展望」で示した見方から変わっていません。
ここで再掲すると以下の通りとなります。

ユーロドルを支える3つの重要なポイントがあります。

ポイント1

一つ目は、下記チャートにあるように、エリオット波動からは、現在の相場の位置が、第5波の安値の可能性があります。青い部分は高値からのABC調整で、その後赤い矢印の通り、現状が5波の安値となっている可能性が指摘されます。

ポイント2

二つ目は、相場の買われ過ぎ、売られ過ぎを示すオシレーター指標が、既に買いサインを示しています。(チャート下段部分)

ポイント3

三つ目は、案外重要です。
下記チャートにあるように、ユーロドルは取引スタートした後、2000年10月に最安値となる0.8225まで売り込まれましたが、これを起点に三角保合いを形成した後、保合いを上放れて、大きく反発しました(Aの部分)。

現在も2015年3月に1.0457の安値をつけた後、似たような保合いを形成しています(Bの部分)。だからと言って、また上昇?とは言えませんが、前回の保合いが、安値から20カ月で反転となっています。これを今回に当てはめると、今年の11月が安値からの20カ月目に相当します。もし11月にこの月足の三角保合いのブレイクが発生した場合、大きなトレンドが発生する可能性があるので注意となります。

現状このレジスタンスは、1.1561から12月までに1.1539まで下げてきます。一方サポートは1.0596から1.0611まで上がってきますが、こういった位置をブレイクする動きが出た場合、特に11月には米大統領選挙もあるので、相場の動きに逆らっては危険かもしれません。

その場合の上値の目途は、月足のネック・ラインとフィボナッチ・リトレースメント50%に相当する1.1228(上のチャートのピンクの部分)が、良いターゲットとなります。
ただ、逆に割り込んだ場合は、この下落チャンネルの下限で、月足の横足と合致する0.96まで落ちる可能性があります(上のチャートの黒い横足部分)。ともかく11-12月に、保合いをブレイクするなら注意してください。

一応前述の三つの理由に加えて、前述のドル・インデックスが未だ揉み合いが続くことを考えると、ユーロドル相場は、上がる方向で考えていますが、相場に絶対はないので、一番良い方法は、買いたいなら上抜けを確認してから、参入するのが安全かもしれません。または、しっかりとストップを入れて対応して、逆に割れるなら度転・倍返しの戦略も一考となりそうです。