
トランプ政権出現でメキシコは窮地も、日墨金利差が支える?
※本記事は2024年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。
【2024年のメキシコペソ円相場を振り返って】
2024年のメキシコペソ円相場は、前年に続き堅調なスタートも、年央からは軟調な展開となりました。
年初は8.290円の安値からスタート。3月にメキシコ中銀が昨年11.25%まで引き上げていた政策金利を0.25%引き下げるも、円が軟調な展開を続けたことで、9.350円まで上昇。ただ、バイデン政権が、中国の不公正な慣行から米国の鉄鋼と造船業界を保護するための新たな施策を発表。鉄鋼・アルミニウム製品に賦課されている1974年通商法301条に基づく追加関税率を3倍に引き上げる検討や、同法に基づく造船分野での調査開始、追加関税回避を目的としたメキシコからの製品流入への対処など、広範な措置が含まれることから、一時8.555円まで急落しました。
ただ、日経平均株価がバブル期の最高値38915円を超えて4月19日には、41087円の高値を示現しました。3月の日銀金融政策決定会合で政策金利を0.10%引き上げ、マイナス金利から脱出。量的緩和策の解除の方針も示されましたが、同時に利上げを急がない姿勢が強調されたこともあって、ドル円相場が160.17の高値まで上昇、メキシコペソ円も2008年10月以来の9.463円まで上昇しました。
ただゴールデン・ウィークを前に、円安に懸念を強める財務省が、4月29日と5月1日の2日間で、9兆8千億円相当の強力な円買い介入を実施したこともあって、5月3日には、ドル円が151.86まで下落。一方6月2日に行われたメキシコ大統領選挙では、与党・国家再生運動のクラウディア・シェインバウム前メキシコ市長が大差で当選。同日に行われた上下両院議員選挙および州知事選挙では、ともに与党連合が大勝となりましたが、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール現大統領が掲げる司法改革が実現し易くなるとの見方から、メキシコペソ円も8.222円まで急落しました。しかしながら、このレベルでは本邦輸入勢や投機筋からの値ごろ感の円売りも強く、米財務省が半期為替報告書で日本を再び「監視国」に認定したことで市場介入に踏み切り難くなるとの見方が強まりました。、
6月のFOMCでは政策金利が据え置かれるも、FOMCメンバーのFF金利見通しが、前回の年内2回利下げ見通しから1回に後退、7月3日には直近高値を超えて161.95まで高値を更新、メキシコペソ円も9.102円まで再反発しました。円安に懸念を示す神田財務官が、自身の退任を控えた7月11-12日に、再び5兆5千億円規模の円買い介入に踏み切ったこと。7月31日の日銀金融政策決定会合での利上げ思惑の高まりや米7月雇用統計が弱い結果となったこと。、米国の景気後退懸念が高まったこと、日経平均株価が過去最大の下げ幅となる前日比で4753円の下落となったことなどから、リスク・オフの動きを誘発、8月5日にはドル円が141.70まで売り込まれ、メキシコペソ円も7.083円まで急落しました。
株価の急落に批判が高まったことで、内田眞一日銀副総裁が、「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要」、「金融市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と発言したことが安心感を誘い、日経平均株価が大きく反発。ドル円も8月15日には149.39、メキシコペソ円も8.016円まで反発しました。しかし、米労務省2024年3月末までの一年間の非農業部門雇用者数の数値を大幅に下方修正し、FOMCでの更なる利下げの思惑が高まったことで、9月16日にはドル円が139.58と2024年の安値まで下落。メキシコペソ円も7.000円の2024年の最安値まで急落しました。
その後は年末に向けて再び本邦需給筋の円売りニーズ、自民党の総裁選や米大統領選に対する思惑もあって、日本の長期金利が上昇基調を強めるも、米国の大統領選挙では、接戦が伝えられていたトランプ氏が大差をつけて勝利。米上下院も共和党が、過半数を上回ったことで、「トリプル・レッド」が実現したことが、メキシコペソ相場の上値を押さえています。現にトランプ氏は大統領就任後初日に、メキシコとカナダからの全輸入品に25%の追加関税を課すと宣言しています。両国からの違法薬物や移民の流入がなくなるまで同関税を維持するとしています。メキシコペソ円は、戻り高値を7.791円で限定して、現状(12月13日現在)は、調整気味の展開となっています。

【2025年の主な材料】
以下が現在、知り得る2025年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。

リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、やはり年初から大注目となるのは、1月20日からスタートするトランプ次期政権です。トランプ氏は、既に追加関税など多くの発言をしていますが、就任当日から多くの「大統領令」に署名する見通しです。その内容次第では、市場を大きく混乱させることは間違いなさそうです。トランプ氏の政策に関しては後述しますが、2025年の相場を考える上で、特に注意を払っておく必要があるでしょう。
また、2024年は「選挙の年」でしたが、2025年にはあまり大きな選挙はありません。ただ、ショルツ独首相の連立政権が崩れたことで、2月には独連邦議会選挙が、前倒しで実施されます2024年世界各国で与党勢力がことごとく選挙で敗退しています。この潮流は止まりそうもありません。保守派与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が大敗するようなら、大きな混乱を招きそうです。その場合ユーロ相場の圧迫要因となることは留意しておきましょう。
一方日本では、7月に参議院選挙と東京都議会選挙が行われます。都議会選挙の影響は直接的にはありませんが、昨年の解散衆議院選挙では、裏金問題などから自民・公明両党が過半数を割れたことで、日本の政局も混乱しています。一部では衆参同時選挙の可能性も指摘されていて状況次第では、再び自公連立が過半数を維持できない可能性もありそうです。その場合石破総理の総理存続も難しくなりそうです。金融面では政局不安が、株価に悪影響を与えるでしょう。為替に対する影響は不透明としても、通常なら株価の下落がリスク・オフの円買いにつながる可能性を考慮しなければなりません。ただ、もしこれが株安、債券安、円安と「トリプル安の日本売り」に繋がるなら大惨事となりそうです。2025年は日本の政局にも注意を払っておきたいと思います。
その他では、1月から再び米国の債務上限の期限を迎えます。この問題は、12月13日現在あまり話題となっていませんが、恐らく年内に延長され直ぐには問題にならないでしょう。ただ、2025年初頭には再び大きくクローズ・アップされる可能性があり、問題が長引けば米国債の格下げのリスクとなります。毎年のことで若干食傷気味の話題ですが、特に2025年はイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」がスタートします。「小さい政府」を目指す共和党が、本当に米国の財政問題を解決できるのか、それとも混乱につながるのか注視しておきましょう。
また、欧州関連では、7月からブルガリアが、通貨ユーロを導入する予定を表明しています。現在の情報ではまだ確定しているわけではありませんが、もし今後決定するようなことがあれば、ユーロを取引する場合には注意が必要です。EUの参加国が新たにユーロを導入する場合、導入日に一気に通貨が変更されます。ブルガリアの場合、元来2025年から予定されていましたが、7月1日に一旦延期されたようです(過去の通例では1月1日に導入するのが基本)。その場合6月末のコンバージョン・ファクター(交換率)によって、一気にブルガリア内の資産・負債が、ブルガリア・シフからユーロに代わります。つまり、ブルガリアの企業や個人などは、この変更によって大きな為替リスクを負うことになります。当然それを避けるために、事前にヘッジしようとうする行為が自然に行われると思います。つまり、ユーロ・シフ相場では、7月に近づくにつれてユーロ買いが増加しユーロを押し上げる形になります。
近年では、エストニア(2011年)、ラトビア(2014年)、リトアニア(2015年)、クロアチア(2023年)の導入時に、国の規模により影響度は限られますが、このような傾向がユーロ相場の動きに見えています。まだ2026年からの導入となる可能性がありますが、どちらにしても、もし決定された場合のユーロの動きにも注目しておきましょう。
加えて、近年では年初から大きく世界を変えるような事件や事象が起きています。2020年にはパンデミック、2022年はロシアのウクライナ侵攻、2024年は元旦から能登半島地震、年央からはイスラエルのガザ侵攻など金融市場に大きな影響を与える「リスク」が発生しています。2025年もそのような「ブラック・スワン」が起きるかは誰にもわかりません。起きて欲しくはないですが、奇しくも2025年はアストロ的に、太陽の黒点数がピークに達します。以下のチャートをご参考頂きたいのですが、太陽の黒点の数は、約11年周期で増加・減少を繰り返しています。そして増加のピークと減少のピーク時(半期)には、ぴったりではありませんが、過去ドル暴落、ブラック・マンデーやリーマン・ショックなど多くの金融ショックの発生と重なっています。これが2025-26年にピークをつけて、2031年まで減少過程に入ります。

特に黒点のピーク時は、太陽内で水爆の100万個分相当の爆発が発生し、太陽フレアによる電磁波が地球にも大きな影響を与えるとされています。それが地球を回る衛星を破壊・損失させたりすれば、GPSや通信、インターネット回線や携帯端末に過大な影響を与えるかもしれません。それが世界的に発生した場合、どういった混乱となるか恐ろしい気がしますが、特に金融関連で考えるとインターネットやコンピューターを取引の基盤としている「仮想通貨取引」に大きな影響を与えるかもしれません。それでなくても異常な高値となっていて危険ゾーンにあるような気がしますが、2024年10万ドルを超えたビットコイン相場が暴落でもすれば、その影響は世界的な資産クラッシュの動きにつながりそうです。
またこれは蛇足ですが、日本の干支をベースとした相場格言に、「辰巳天井」という言葉があります。これは辰年と巳年の間に株価が大きなピークをつけて、下落相場に転換するというものです。日本の格言が米国や海外株式市場でも適応されるかは疑問も多いですが、辰年の2024年のNYダウやナスダック指数、日経平均株価の歴史的な高値更新やこの黒点のピークと合わせて考えると2025年は、大きな金融ショックが起きる可能性も捨てきれません。悲観的過ぎるかもしれませんが、少なくとも近年は、温暖化の影響もあってか、自然災害、加えてウクライナや中東紛争などの世界的な軍事紛争が続き、自然・地政学リスクが市場の混乱につながっています。2024年7月13日に起ききたトランプ氏の暗殺未遂と共に考え合わすと、トランプ氏が神がかり的に生還し、更に大統領選で勝利するという運命の不思議が、2025年以降の世界の分かれ目となるのかもしれません。
あくまで個人的な妄想ですから、信じて頂く必要はありません。それでなくとも、自然災害や紛争、金融リスクは突発的に起こることで、準備することはできませんが、常にこういったリスクも念頭に入れて、相場に臨む姿勢を維持しておいた方が得策かもしれません。
【2025年の注目点】
2024年の相場展開を踏まえて、2025年の注目点をまとめてみました。
- トランプ大統領の政策は実現するのか?
- メキシコ中銀の利下げは続くのか?
- 日銀の利上げは?
- 墨日金利差とメキシコペソ円相場
〇 トランプ次期大統領の政策は実現するのか?
トランプ氏は大統領当選前から、様々な発言をしています。どこまで本気でやるつもりなのかは分かりませんが、一応現在彼が掲げている政策を以下にまとめてみました。
1. 移民政策:不法移民の強制送還、「出生地主義」の廃止
2. 経済政策:トランプ減税の延長または恒久化、法人税の引き下げ、 全ての輸入品に10~20%の関税、中国からの輸入品には最大60%の追加関税、CHIPS法に否定的
3. 外交政策:ウクライナへの支援縮小、NATO加盟国の負担増・必要に応じて米国の関与の見直し
4. エネルギー政策:「国家エネルギー会議」を新設、化石燃料の推進や輸出の後押し、再生可能エネルギーへの移行を遅らせる
5. 環境問題: パリ協定からの離脱、IRA法の見直し(EV補助金の廃止など)
6. 教育政策:教育省の廃止、教育政策の管理を州や地方に委譲
7. 社会政策:連邦レベルでの中絶禁止法案に対する拒否権行使、中絶の権利は各州が決定すべき、LBGT+Qの権利に関するプログラムの廃止
8.「政府効率化省(DOGE)」の新設:連邦政府の規制撤廃、行政部門の縮小、歳出削減
特に米上下院の共和党勝利で、「トリプル・レッド」となったことで、トランプ次期大統領が掲げる政策が実現し易くなるとの見方が主流です。ただ、実際一部の共和党議員は、CHIPS法やIRA法の見直しに否定的とされています。この「トリプル・レッド」も実際は、2025年の補欠選挙によって変わる可能性が残っています。まだ盤石とはいえないことは、考量しておきましょう。
この中で特に、金融市場に大きな影響があると思われる3つの課題に関して、注目されるポイントを見ておきましょう。
≪ウクライナ問題≫
トランプ次期米大統領が、2025年2月で3年目に突入するウクライナ戦争の終結に向けて元陸軍中将のキース・ケロッグ氏をウクライナ・ロシア特使に指名しました。彼が提唱する和平交渉案は以下の通りです。
1.停戦によって前線を凍結、非武装地帯を設置
2.停戦後は、英仏独軍などが治安維持のため非武装地帯を管理
3.ウクライナのNATO加盟を10年間延長
4.和平協定の締結に伴い、ロシアに対する経済制裁を段階的に解除
5.ウクライナに対する軍事援助と安全保障の継続
6.ただしウクライナが拒否した場合軍事援助の打ち切りもある、一方ロシアが拒否した場合、米国はウクライナ支援を強化する
これを両国が受け入れるかは不透明ですが、既にトランプ氏は2024年12月7日、ノートルダム大聖堂の再開式典において、マクロン仏大統領の仲介で、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しています。一部にここで一定の合意があったとの可能性も指摘されています。
特にトランプ次期大統領は、以前から「就任後24時間以内にウクライナ戦争を終結させる」と発言しています。ロシアと水面下で交渉が進んでいる可能性もあって、これが本当に実現すれば、トランプ次期大統領の「MEGA」の実現に大きな支援となり、ノーベル賞受賞の期待感にもつながりそうです。
その場合金融市場はどういういった反応を示すでしょう?
当然株価などは好感すると思われますが、ドルが買われるかはわかりません。ウクライナ戦争での懸念が、過去3年上値を押さえていた欧州通貨、特にユーロ、スウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネ、ポーランド・ズロチなどの対ドルでの買い戻しにつながる可能性で見ています。また、原油や金には利食いが出てくるでしょう。
ただ、個人的には簡単ではないと考えています。トランプ氏は、プーチン露大統領と仲が良いとしていますが、彼はもっとしたたかです。また、ロシア国民は、これまで大きな犠牲を払っており、簡単に許すとも思えませんし、経済制裁の段階的な解除がされるとしても、得るものは少ないでしょう。ともかく、プーチンがカギを握ることを考えると、交渉の決裂の可能性は考慮しておきたいと思います。
≪トランプ氏が主張する関税強化策≫
「タックス・マン」を自称するトランプ氏は、既に大統領選での勝利後、早々と「メキシコとカナダからの全ての輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す」と表明しています。以前は「全世界からの輸入に一律10~20%、中国には100%の関税を課す」と述べていて、若干数字的に矛盾があるようです。
これは米国の関税に関しては、通商法や通商拡大法の規定があって、議会での決定がなければ、トランプ次期大統領の一存だけでは変えることはできません。トランプ大統領第1期の時も、就任後直ぐには追加関税は実施できませんでした。ただ、この「メキシコとカナダの25%、中国に10%の追加関税」に関しては、米国で大きく問題となっている「フェンタニル」という麻薬密輸に関して、十分な措置が講じられていないという「国家安全保障上」の理由を適応することによって、直ぐに実施出来る料率のようです。その場合はやはり、当該通貨に売りが強まる可能性には注意が必要となります。(参照:以下の米国の主要輸入国の表)
ただ、「全世界からの輸入に一律10~20%」の追加関税となると、話は複雑となりそうです。北米では、北米通商条約(NAFTA)を2018年に「USMCA」に切り替えています。既に世界的には、様々なFTAやFAが締結しており、自由貿易の流れが強まっていることや、実際追加関税によるコストは、米国民が負担することになります。トランプ氏は、あくまで「ディール的な駆け引き」として利用している可能性もあって、2025年早々この問題に大きな懸念を持つ必要はないようです。

≪「政府効率化省(DOGE)」の行方≫
トランプ次期米政権で政府外の助言機関として、実業家のイーロン・マスク、ビベック・ラマスワミ両氏が主導して2025年から発足します。
この「DOGE」の役割は、連邦政府の規制撤廃、行政部門の縮小、歳出削減の3本柱として、少なくとも年間5000億ドル(約77兆7千億円)の歳出削減を目指します。また国際機関への拠出金を削減し、政府機関の余剰人員を減らすために民間企業への転職を促す方針も明らかにしていて、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)とも連携し、建国250周年を迎える2026年7月までに一連の改革を行う計画です。
米国の財政赤字が巨額であることを考えると実際にこういった削減が実現できれば、米経済に良い効果を与えることになるでしょう。ただ、一方で中央政界の既得権益層からは大反対が起きる可能性が高く、米国の分断と2極化を拡大させ経済社会的な大きな混乱の要因となる可能性にも注意が必要です。
以上簡単にまとめてみましたが、現状市場で考えらえている「トランプ政権→景気の過熱→インフレ→ドル高・株高」という「トランプ・トレード」シナリオもあまり期待を強めない方が良いかもしれません。その面では、関税強化策や政府効率化省の問題は、先行きの長い話として、直ぐに影響は見えないでしょうが、就任時に本当にトランプ次期大統領が、ウクライナ戦争を終わらせることが出来るかは大きな注目です。
実現できるなら政権の評価や威信は高まるでしょうが、もし失敗するようならトランプ次期政権の失望に変わりそうです。こういった面に関しては、相場がどういった反応を示すかは不透明ですが、トランプ氏は態度をころころ変えることも多く、第1期トランプ政権の時と同様、2025年も荒れた相場展開となる可能性に注意して対応するのが良いかもしれません。
〇 メキシコ中銀は利下げを継続するのか?
メキシコ中銀は、インフレの高騰を受けて、2021年6月の4%から2023年3月までに、11.25%まで政策金利を引き上げました。ただ、2024年には、消費者物価指数の落ち着きもあって、3月0.25%の金利引下げからスタート、8月、9月、11月、12月と続けて0.25%の引き下げを実施し、年内は10.0%まで政策金利を引き下げています。

2024年最後の会合の声明では、「ディスインフレの進捗状況を考慮し、一部でより大きな下方調整が検討される可能性があるものの、制限的な姿勢は維持される」としています。
以下は、政策金利とメキシコ消費者物価指数の推移ですが、消費者物価指数は、前年同月比で8.70%をピークに4%手前まで調整しています。
ただ、足下の景気はインフレ鈍化による内需下支えに加え、外需の堅調さも重なり、未だ中銀目標の1-3%を上回る水準に留まっています。特に米大統領選でのトランプ氏が勝利したことに加え、トランプ氏はメキシコからのすべての輸入品に25%の追加関税を課す方針を示しています。メキシコ政府も報復に動く可能性がありますが、その場合実体経済への悪影響が警戒されます。同声明では、「ディスインフレの進捗状況を考慮し、一部でより大きな下方調整が検討される可能性があるものの、制限的な姿勢は維持される」として、2025年も利下げの可能性を示唆していますが、メキシコ中銀は、総じてFRBの金融政策に追従することが多く(参照:以下米墨政策金利の推移)、一方の12月のFOMCでは、政策金利の引き下げに消極的な姿勢がみられています。今後もデータ次第ですが、トランプ政権の出方を見るまでは、様子見を続ける可能性もありそうです。


一方メキシコの景況感を以下の2012年からの製造業PMIのチャートから確認してみましょう。

やはりパンデミックで大幅に落ち込む時期はありましたが、総じて良好が維持されています。ただ、現状は景気の分水嶺となる「50」を割り込んでいて、どうもインフレ対策による高金利が圧迫しているようです。更に加えて、実際2025年初頭からトランプ氏の追加関税が課せられると、自動車産業中心に米国に輸出している企業の景況感は圧迫されそうです。
確かに、その面ではメキシコ中銀は、難しい判断を迫られそうです。
メキシコ中銀の金融政策決定会合は年8回、米国のFOMCに準じて開催されます。現在はまだ詳細の日程が公表されていませんが、金融政策決定会合での今後の行方には、注意を払っておきましょう。
〇 日銀の利上げは?
2024年は、日本が30年にわたるデフレ経済から脱却したことで、遂に3月の日銀会合で、マイナス金利から政策金利を0.10%引き上げ、量的緩和策の解除、YCCやETF購入の停止を表明しましたが、7月に政策金利を0.25%まで引き上げた後は、現状(12月13日現在)据え置きを続けています。12月の会合で政策金利を引き上げるか注目ですが、リポート作成時では、「トランプ政権の誕生で米経済の先行きに不透明感が高まっているうえ、春闘の賃上げ動向を確認したい考えで、利上げを急ぐ必要はないとの判断に傾きつつある」、「消費者物価は前年比で、2025年度以降は2%に届かない可能性がある」として未だ政策金利の引き上げを躊躇しているようです。
以下日本の2013年からの全国総合物価指数のチャートをご覧ください。

このチャートは、2020年を基準とした物価の動向を「インデックス」で示したチャートです。通常物価を見る場合に、前年比で判断するのが基本です。現に日銀も「物価が2%で安定的に推移するまで金融緩和を継続する」としていました。しかしながら、この見方の場合、既に前年の物価が上昇していると翌年同月の物価は、あまり上昇していない形に見えます。これを以下のチャートのように、「インデックス自体」で見ると様変わりします。

過去の2022年までのデフレ状態から、黒田総裁の任期最後の1年前から、物価はレンジ・ブレイクしている形が見えると思います。一方政策金利の方は、植田総裁就任後1年を経てやっと引き上げに変わっていますが、この出遅れ感は異常です。
現状12月20日現在、日銀は、トランプ次期政権の不透明感や春闘の賃上げの情報を待ちたいと政策金利を据え置いています。ただ、円安が続くと日本の物価の上昇は続きそうです。2024年、電気代や水道代、10月には郵便料の引き上げが実施されました。また2025年にはJRが平均で7.8%の運賃の値上げを予定しています。最低でも政策金利が0.50%や0.75%程度への引き上げはあると思います。特に交通費の上昇は、全ての物価に影響を与えそうです。
以下が2025年の日銀金融政策決定会合や議事録の公表日です。日銀の政策の行方が、2025年のドル円相場を左右するでしょう。しっかりと押さえておきましょう。
日銀金融政策決定会合(議事録公表日)
01月24日+展望リポート公表(03月25日)
03月19日(05月08日)
05月01日+展望リポート公表(06月20日)
06月17日(08月05日)
07月31日+展望リポート公表(09月25日)
09月19日(11月05日)
10月30日+展望リポート公表(12月24日)
12月19日
〇 日墨金利差とメキシコペソ円相場
以下は、メキシコ10年物国債利回りと日本の10年物国債利回りに、メキシコペソ円をプロットした2006年からのチャートです。

リーマン・ショックの時期、2017年から2021年には、離れた動きが見えていますが、総じて連動する姿が確認されます。
2025年は、日銀は利上げ方向。メキシコ中銀は、若干トランプ政権の誕生で不透明ですが、利下げ姿勢は維持する見通しです。そうなると金利差は縮小傾向を示すことが想定されます。ただ、それであっても比較的高金利差が維持されることで、メキシコペソ円相場は、下値を支えられそうです。
【テクニカル面】
≪ドル・メキシコペソ≫
テクニカル面からは、メキシコペソ円を構成するドル・メキシコ相場の月足をチェックしておきましょう。

ドル・メキシコペソは、25.7895の高値示現後は、16.2613まで下落も、この位置は9.8560からサポートの位置で支えられて、下段のスロー・ストキャスティクスも売られ過ぎから反転、上昇気味の展開となっています。
上値は、現状20.8340までですが、この位置はファン・ラインとマイナー・レジスタンスが位置して、抑えると弱い形です。超えると21.2672や22.1577の上ヒゲ圏が視野となりますが、この位置は最終のレジスタンスが抑える可能性がありそうです。ただ、超えると23.2294から24.8931まで視野となりますが、上値は不透明です。リスクは歴史的な高値となる25.7895越えですが、その場合どこまで上昇するかは全く五里霧中となります。
一方下値は、19.1112、18.4253、17.6048、16.9163と戻り安値が維持されるとサポートが有効です。リスクは16.2613の安値割れですが、それでも過去の高値圏からは、14.5932-15.5990ゾーンは支えられそうです。割り込むケースのみ、11.4841-11.9366などがターゲットとなります。
従って、ドル・メキシコペソの2025年の想定レンジを17.5000から21.5000とします。
≪ドル円≫
次にドル円の2011年からの月足チャートをみてみましょう。

75.31の歴史的な安値から125.86まで反発後、102.59が下値を支えてサポート形成から、151.95の高値、127.23を支え、161.95まで上値拡大しています。
エリオット的な波動からざっくりと見れば、75.31から125.86を第1波、125.86から102.59を第2波、102.59から151.95を第3波、151.95から127.23を第4波とするなら、現状の上昇が第5波の渦中にあることは意識してください。
また下段に表示したスロー・ストキャスティクスが、買われ過ぎから反転下落しています。ダイバージェンスの可能性はありますが、上値は161.95を中心に、151.91や157.93がトリプル・トップとして意識されるなら上値つきの可能性が高まります。
こういった面を考慮すると総合的には上値付きと考えるのが妥当に見えます。ただ、これも161.95を越えないことが必要です。一方で下落トレンドがスタートするためには、ネック・ラインとなる140.25-139.58を割れるケースが必要です。その場合の下値のターゲットは、127.23の戻り安値から125.86の過去の戻り高値となります。
従って、ドル円の2025年の想定レンジを140.00から160.00とします。
≪メキシコペソ円≫
以下は、2007年からのメキシコペソ円の月足チャートです。

メキシコペソ円は、11.512から下落が4.232まで拡大も、これを維持して反発が9.463まで拡大しましたが、この位置では上値を押さえられて調整が7.000を維持する形です。
ただ、既にスロー・ストキャスティクスが反転下落しており、上値は7.936、8.182、9.102と戻り高値が押さえるとレジスタス形成から弱い状況が続きそうです。あくまで9.463を越えて、9.763、更には10.991や11.512がターゲットとなります。
下値は、7.000が維持されると堅調が続きますが、6.597を割り込むと6.377、6.021-6.438のネック・ゾーンまで調整しますが、維持では堅調が保てそうです。このリスクは5.387や5.135を割れるケースとなります。
≪マトリックス・チャート≫
それでは、ドル・メキシコペソ相場とドル円相場の想定レンジから作成したマトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を確認しておきましょう。

ドル・メキシコペソの2024年の想定レンジを17.5000~21.5000、ドル円を140.00~160.00としましたので、ここから算出されるメキシコペソ円の最大想定レンジは6.512から9.143となります。
【予想レンジと戦略】
それでは、以上を踏まえてメキシコペソ円相場の2025年の見通しと戦略についてお話します。2025年のメキシコペソ円の想定レンジを6.50~8.50とします。
≪2025年の注意点≫
・株価やビッドコイン、米国の不動産市況の悪化を背景としてバブルがはじけるケース
・トランプ次期政権を睨んで荒れた展開となる可能性
・ただ、トランプ政権に大きな失望が出るケース、ウクライナや中東情勢が更に混迷を深めるケース(プーチンが戦術核を使うなど)の場合、リスク・オフの動きに注意しましょう、
・円安が更に拡大した場合、再度財務省から円買い介入が入る可能性があります、しかしメキシコペソ円に対する影響は限られるでしょう。
・クロス円の場合、ストレートの動き次第では、テクニカル的なポイントと合致するとは限りません、オーバー・シュート的な騙しの動きも留意してください
≪2025年の具体的な戦略≫
メキシコペソ円の中期的戦略としては、一旦上値がついている可能性があり、戻り売りとなりますが、突っ込み売りは避けなければなりません。特に現状はトランプ関税の思惑で売り込まれているだけに、年初この話がなし崩しとなる可能性もありそうです。その場合一定の反発も期待値ですが、慎重に8円台があれば売り上がる戦略を検討しましょう。ストップは9.463円越えとなることで、9円方向まで売り上がる余裕を持って対応しましょう。下値は7.000前後が維持されると利食い優先。あくまで7.000を割れて、6.597、6.021-6.438がターゲットとなりますが、この位置はしっかり利食いましょう。またこの位置からは買い場探しです。できればストップは5.387や5.135割れてとなることで、慎重に余裕を持って対応しましょう。こういった買いの利食いは、逆レジスタンスとして、それまでの戻り高値が押さえると利食いが良いでしょう。
以上、一応テクニカルやファンダメンタルズ面からシナリオをたてましたが、ひとつの例として考えてください。この通りとなるほど、相場は簡単ではありません。あくまで私個人の35年来の経験則から想定したイメージ的なものですので、ご理解頂ければ幸いです。