
ECBとポーランド中銀の利下げ姿勢次第
※本記事は2024年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。
【2024年のユーロズロチ相場を振り返って】
2024年のユーロ・ズロチ相場は揉み合い気味も、ポーランド中銀が年間で政策金利を据え置いた一方、年央からECBが政策金利の引き下げを続けたことで、2023年からの軟調気味な展開が継続しました。
年初ユーロ・ズロチ相場は4.4125を高値に、欧州委がポーランド向けEU資金の凍結を解除したことで4.2530まで下落。ただポーランド地方選で、野党のPiSが勝利したことでツゥスク政権に不安感が高まり一時4.3727まで反発も、一方で仏下院選挙で連立与党が大敗。ECBが2019年以来の0.25%の利下げを実施し、再度0.4271まで下落しました。ただ、ポーランドでも、欧州議会選挙で10年ぶりに市民連立が勝利、4.3810まで反発後は、ポーランド国内では内需が好調なこともあって4.2483まで再下落、その後も4.3311を戻り高値に、夏場は揉み合い気味の展開に留まりました。
9月に入ると4.2533を下値に、ポーランドで起きた洪水の影響もあり、一時4.3756まで反発しましたが、トランプ氏が米大統領選で勝利、ドイツと貿易で関係の深い中国に対して追加で関税をかけると宣言、景気浮揚策で意見が対立したことで、ショルツ独首相がリントナー財務相を罷免、3党連立政権が崩壊、独企業の相次ぐリストラの発表、仏でも予算審議が難航し、ミシェル・バルニエ内閣に対する不信任決議案が賛成多数で可決と悪材料が連鎖的に続いたことで、ユーロポンドは直近(12月13日現在)で、安値圏まで再下落しています。

【2025年の主な材料】
以下が現在、知り得る2025年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。

リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、やはり年初から大注目となるのは、1月20日からスタートするトランプ次期政権です。トランプ氏は、既に追加関税など多くの発言をしていますが、就任当日から多くの「大統領令」に署名する見通しです。その内容次第では、市場を大きく混乱させることは間違いなさそうです。トランプ氏の政策に関しては後述しますが、2025年の相場を考える上で、特に注意を払っておく必要があるでしょう。
また、2024年は「選挙の年」でしたが、2025年にはあまり大きな選挙はありません。ただ、ショルツ独首相の連立政権が崩れたことで、2月には独連邦議会選挙が、前倒しで実施されます。2024年、世界各国で与党勢力がことごとく選挙で敗退しています。この潮流は止まりそうもありません。保守派与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が大敗するようなら、大きな混乱を招きそうです。その場合ユーロ相場の圧迫要因となることは留意しておきましょう。
一方日本では、7月に参議院選挙と東京都議会選挙が行われます。都議会選挙の影響は直接的にはありませんが、昨年の解散衆議院選挙では、裏金問題などから自民・公明両党が過半数を割れたことで、日本の政局も混乱しています。一部では衆参同時選挙の可能性も指摘されていて状況次第では、再び自公連立が過半数を維持できない可能性もありそうです。その場合石破総理の総理存続も難しくなりそうです。金融面では政局不安が、株価に悪影響を与えるでしょう。為替に対する影響は不透明としても、通常なら株価の下落がリスク・オフの円買いにつながる可能性を考慮しなければなりません。ただ、もしこれが株安、債券安、円安と「トリプル安の日本売り」に繋がるなら大惨事となりそうです。2025年は日本の政局にも注意を払っておきたいと思います。
その他では、1月から再び米国の債務上限の期限を迎えます。この問題は、12月13日現在あまり話題となっていませんが、恐らく年内に延長され直ぐには問題にならないでしょう。ただ、2025年初頭には再び大きくクローズ・アップされる可能性があり、問題が長引けば米国債の格下げのリスクとなります。毎年のことで若干食傷気味の話題ですが、特に2025年はイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」がスタートします。「小さい政府」を目指す共和党が、本当に米国の財政問題を解決できるのか、それとも混乱につながるのか注視しておきましょう。
また、欧州関連では、7月からブルガリアが、通貨ユーロを導入する予定を表明しています。現在の情報ではまだ確定しているわけではありませんが、もし今後決定するようなことがあれば、ユーロを取引する場合には注意が必要です。EUの参加国が、新たにユーロを導入する場合、導入日に一気に通貨が変更されます。ブルガリアの場合、元来2025年から予定されていましたが、7月1日に一旦延期されたようです(過去の通例では1月1日に導入するのが基本)。その場合6月末のコンバージョン・ファクター(交換率)によって、一気にブルガリア内の資産・負債が、ブルガリア・シフからユーロに代わります。つまり、ブルガリアの企業や個人などは、この変更によって大きな為替リスクを負うことになります。当然それを避けるために、事前にヘッジしようとうする行為が自然に行われると思います。つまり、ユーロ・シフ相場では、7月に近づくにつれてユーロ買いが増加しユーロを押し上げる形になります。
近年では、エストニア(2011年)、ラトビア(2014年)、リトアニア(2015年)、クロアチア(2023年)の導入時に、国の規模により影響度は限られますが、このような傾向がユーロ相場の動きに見えています。まだ2026年からの導入となる可能性がありますが、どちらにしても、もし決定された場合のユーロの動きにも注目しておきましょう。
加えて、近年では年初から大きく世界を変えるような事件や事象が起きています。2020年にはパンデミック、2022年はロシアのウクライナ侵攻、2024年は元旦から能登半島地震、年央からはイスラエルのガザ侵攻など金融市場に大きな影響を与える「リスク」が発生しています。2025年もそのような「ブラック・スワン」が起きるかは誰にもわかりません。起きて欲しくはないですが、奇しくも2025年はアストロ的に、太陽の黒点数がピークに達します。以下のチャートをご参考頂きたいのですが、太陽の黒点の数は、約11年周期で増加・減少を繰り返しています。そして増加のピークと減少のピーク時(半期)には、ぴったりではありませんが、過去ドル暴落、ブラック・マンデーやリーマン・ショックなど多くの金融ショックの発生と重なっています。これが2025-26年にピークをつけて、2031年まで減少過程に入ります。

特に黒点のピーク時は、太陽内で水爆の100万個分相当の爆発が発生し、太陽フレアによる電磁波が地球にも大きな影響を与えるとされています。それが地球を回る衛星を破壊・損失させたりすれば、GPSや通信、インターネット回線や携帯端末に過大な影響を与えるかもしれません。それが世界的に発生した場合、どういった混乱となるか恐ろしい気がしますが、特に金融関連で考えるとインターネットやコンピューターを取引の基盤としている「仮想通貨取引」に大きな影響を与えるかもしれません。それでなくても異常な高値となっていて危険ゾーンにあるような気がしますが、2024年、10万ドルを超えたビットコイン相場が暴落でもすれば、その影響は世界的な資産クラッシュの動きにつながりそうです。
またこれは蛇足ですが、日本の干支をベースとした相場格言に、「辰巳天井」という言葉があります。これは辰年と巳年の間に株価が大きなピークをつけて、下落相場に転換するというものです。日本の格言が米国や海外株式市場でも適応されるかは疑問も多いですが、辰年の2024年のNYダウやナスダック指数、日経平均株価の歴史的な高値更新やこの黒点のピークと合わせて考えると2025年、大きな金融ショックが起きる可能性も捨てきれません。悲観的過ぎるかもしれませんが、少なくとも近年は、温暖化の影響もあってか、自然災害、加えてウクライナや中東紛争などの世界的な軍事紛争が続き、自然・地政学リスクが市場の混乱につながっています。2024年7月13日に起きたトランプ氏の暗殺未遂と共に考え合わすと、トランプ氏が神がかり的に生還し、更に大統領選で勝利するという運命の不思議が、2025年以降の世界の分かれ目となるのかもしれません。
あくまで個人的な妄想ですから、信じて頂く必要はありません。ただ、それでなくとも、自然災害や紛争、金融リスクは突発的に起こることで、準備することはできませんが、常にこういったリスクも念頭に入れて、相場に臨む姿勢を維持しておいた方が得策かもしれません。
【2025年の注目点】
2024年の相場展開を踏まえて、2025年のユーロ・ズロチ相場の注目点をまとめてみました。
- トランプ次期大統領の政策は実現するのか?
- ECBの利下げどこまで?
- ポーランド中銀の金融政策は?
- ユーロとポーランド・ズロチの金利差
〇 トランプ次期大統領の政策は実現できるのか?
トランプ氏は大統領当選前から、様々な発言をしています。どこまで本気でやるつもりなのかは分かりませんが、一応現在彼が掲げている政策を以下にまとめてみました。
1. 移民政策:不法移民の強制送還、「出生地主義」の廃止
2. 経済政策:トランプ減税の延長または恒久化、法人税の引き下げ、 全ての輸入品に10~20%の関税、中国からの輸入品には最大60%の追加関税、CHIPS法に否定的
3. 外交政策:ウクライナへの支援縮小、NATO加盟国の負担増・必要に応じて米国の関与の見直し
4. エネルギー政策:「国家エネルギー会議」を新設、化石燃料の推進や輸出の後押し、再生可能エネルギーへの移行を遅らせる
5. 環境問題: パリ協定からの離脱、IRA法の見直し(EV補助金の廃止など)
6. 教育政策:教育省の廃止、教育政策の管理を州や地方に委譲
7. 社会政策:連邦レベルでの中絶禁止法案に対する拒否権行使、中絶の権利は各州が決定すべき、LBGT+Qの権利に関するプログラムの廃止
8.「政府効率化省(DOGE)」の新設:連邦政府の規制撤廃、行政部門の縮小、歳出削減
特に米上下院の共和党勝利で、「トリプル・レッド」となったことで、トランプ次期大統領が掲げる政策が実現し易くなるとの見方が主流です。ただ、実際一部の共和党議員は、CHIPS法やIRA法の見直しに否定的とされています。この「トリプル・レッド」も実際は、2025年の補欠選挙によって変わる可能性が残っています。まだ盤石とはいえないことは、考慮しておきましょう。
この中で特に、金融市場に大きな影響があると思われる3つの課題に関して、注目されるポイントを見ておきましょう。
≪ウクライナ問題≫
トランプ次期米大統領が、2025年2月で3年目に突入するウクライナ戦争の終結に向けて元陸軍中将のキース・ケロッグ氏をウクライナ・ロシア特使に指名しました。彼が提唱する和平交渉案は以下の通りです。
1.停戦によって前線を凍結、非武装地帯を設置
2.停戦後は、英仏独軍などが治安維持のため非武装地帯を管理
3.ウクライナのNATO加盟を10年間延長
4.和平協定の締結に伴い、ロシアに対する経済制裁を段階的に解除
5.ウクライナに対する軍事援助と安全保障の継続
6.ただしウクライナが拒否した場合軍事援助の打ち切りもある、一方ロシアが拒否した場合、米国はウクライナ支援を強化する
これを両国が受け入れるかは不透明ですが、既にトランプ氏は12月7日、ノートルダム大聖堂の再開式典において、マクロン仏大統領の仲介で、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しています。一部にここで一定の合意があったとの可能性も指摘されています。
特にトランプ次期大統領は、以前から「就任後24時間以内にウクライナ戦争を終結させる」と発言しています。ロシアと水面下で交渉が進んでいる可能性もあって、これが本当に実現すれば、トランプ次期大統領の「MEGA」の実現に大きな支援となり、ノーベル賞受賞の期待感にもつながりそうです。
その場合金融市場はどういういった反応を示すでしょう?
当然株価などは好感すると思われますが、ドルが買われるかはわかりません。ウクライナ戦争での懸念が、過去3年上値を押さえていた欧州通貨、特にユーロ、スウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネ、ポーランド・ズロチなどの対ドルでの買い戻しにつながる可能性で見ています。また、原油や金には利食いが出てくるでしょう。
ただ、個人的には簡単ではないと考えています。トランプ氏は、プーチン露大統領と仲が良いとしていますが、彼はもっとしたたかです。ロシア国民はこれまで大きな犠牲を払っており、簡単に許すとも思えませんし、経済制裁の段階的な解除がされるとしても、得るものは少ないでしょう。ともかく、プーチンがカギを握ることを考えると、交渉の決裂の可能性は考慮しておきたいと思います。
≪トランプ氏が主張する関税強化策≫
「タックス・マン」を自称するトランプ氏は、既に大統領選での勝利後、早々と「メキシコとカナダからの全ての輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す」と表明しています。以前は「全世界からの輸入に一律10~20%、中国には100%の関税を課す」と述べていて、若干数字的に矛盾があるようです。
これは米国の関税に関しては、通商法や通商拡大法の規定があって、議会での決定がなければ、トランプ次期大統領の一存だけでは変えることはできません。トランプ大統領第1期の時も、就任後直ぐには追加関税は実施できませんでした。ただ、この「メキシコとカナダの25%、中国に10%の追加関税」に関しては、米国で大きく問題となっている「フェンタニル」という麻薬密輸に関して、十分な措置が講じられていないという「国家安全保障上」の理由を適応することによって、直ぐに実施出来る料率のようです。その場合はやはり、当該通貨に売りが強まる可能性には注意が必要となります。
ただ、「全世界からの輸入に一律10~20%」の追加関税となると、話は複雑となりそうです。北米では、北米通商条約(NAFTA)を2018年に「USMCA」に切り替えています。既に世界的には、様々なFTAやFAが締結しており、自由貿易の流れが強まっていることや、実際追加関税によるコストは、米国民が負担することになります。トランプ氏は、あくまで「ディール的な駆け引き」として利用している可能性もあって、2025年早々この問題に大きな懸念を持つ必要はないようです
≪「政府効率化省(DOGE)」の行方≫
トランプ次期米政権で政府外の助言機関として、実業家のイーロン・マスク、ビベック・ラマスワミ両氏が主導して2025年から発足します。
この「DOGE」の役割は、連邦政府の規制撤廃、行政部門の縮小、歳出削減の3本柱として、少なくとも年間5000億ドル(約77兆7千億円)の歳出削減を目指します。また国際機関への拠出金を削減し、政府機関の余剰人員を減らすために民間企業への転職を促す方針も明らかにしていて、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)とも連携し、建国250周年を迎える2026年7月までに一連の改革を行う計画です。
米国の財政赤字が巨額であることを考えると実際にこういった削減が実現できれば、米経済に良い効果を与えることになるでしょう。ただ、一方で中央政界の既得権益層からは大反対が起きる可能性が高く、米国の分断と2極化を拡大させ経済社会的な大きな混乱の要因となる可能性にも注意が必要です。
以上簡単にまとめてみましたが、現状市場で考えらえている「トランプ政権→景気の過熱→インフレ→ドル高・株高」という「トランプ・トレード」シナリオもあまり期待を強めない方が良いかもしれません。その面では、関税強化策や政府効率化省の問題は、先行きの長い話として、直ぐに影響は見えないでしょうが、就任時に本当にトランプ次期大統領が、ウクライナ戦争を終わらせることが出来るかは大きな注目です。
実現できるなら政権の評価や威信は高まるでしょうが、もし失敗するようならトランプ次期政権の失望に変わりそうです。こういった面に関しては、相場がどういった反応を示すかは不透明ですが、トランプ氏は態度をころころ変えることも多く、第1期トランプ政権の時と同様、2025年も荒れた相場展開となる可能性に注意して対応するのが良いかもしれません。
〇 ECBの利下げどこまで?
ECBは、パンデミックでマイナス金利まで引き下げていた政策金利を、ウクライナ紛争の影響を受けた原油・資源価格の上昇を背景に、2022年6月から引き上げを開始。2023年9月の会合では、4.50%まで引き上げましたが、2024年6月から利下げを開始。7月の会合では据え置きましたが、9月、10月、12月と3会合連続の利下げを実施、3.15%まで政策金利を引き下げています。

主な要因としては、中国の景気減速が、中国との貿易取引の多いドイツ経済に悪影響を与えており、加えて電気自動車への転換が遅れたことです。7月には世界第4位の自動車部品製造企業であるZFフリードリヒスハーフェンが、2028年末までにドイツの従業員数を最大1万4千人削減する計画を発表。8月には、自動車部品とタイヤのコンチネンタルが、オートモーティブ部門の分離の検討を発表。9月には、フォルクスワーゲンが、国内3工場を閉鎖、数万人の従業員を解雇、残りの国内工場も縮小する計画を発表。11月には、世界最大の自動車部品のサプライヤーであるボッシュが、世界で中期的に約5千5百人の人員削減の計画を発表しています。
また、政治的不安も経済に影を投げかけています。
仏では、2024年6月9日の欧州議会選挙で与党が右派政党に大敗したことを受けて、マクロン大統領が国民議会を解散し総選挙を実施しましたが、2024年7月の選挙では左派連合が最大勢力となり、マクロン大統領率いる中道の与党連合は議席数を大幅に減らしました。
このため予算審議が難航、2024年12月に右派のバルニエ氏が首相に就任しましたが、少数連立内閣であることもあって、翌日に内閣不信任案が可決され総辞職に追い込まれています。
一方ドイツでも、景気後退懸念からショルツ首相が財政拡張を主張するも、自由民主党のリントナー財務相がこれに反対。ショルツ首相が同氏を解任したことで、社会民主党、FDP、緑の党の3党連立政権が事実上崩壊。ドイツ連邦議会でショルツ首相の信任投票が行われましたが、反対多数で否決されたことで、2025年の総選挙が前倒しされ2025年2月23日に実施されることになっています。
ユーロ圏2大大国である独仏の混乱が続くなら、ユーロ圏経済には厳し状況が続きそうです。
それでは、実際にユーロ圏の景況感をみておきましょう。以下はユーロ圏の製造業とサービス業PMIの推移です。

見てみると現状景気の分水嶺となる「50」を挟んだ動きとなっており、それほど悪い形には見えません。ただ、通常米英などは、製造業よりサービス業PMIが強い傾向を示しますが、製造業中心のドイツを主軸としたユーロ圏のPMIは、総じて製造業PMIの方が強い傾向となっています。そそのため製造業の方が、景気の分水嶺となる「50」を割り込み、指数が「デッド・クロス」していることは問題です。この状況が続くなら今後もユーロ圏経済の足かせとなりそうです。
一方物価指数も見ておきましょう。
一時はパンデミックやロシアのウクライナ侵攻による、原油や天然ガスの急騰などの影響で、10.70%まで上昇していた消費者物価指数ですが、現在はECBがインフレ・ターゲットとしている2%割れまで下落していおり、金利を引き下げ易い状況となっています。

12月に行われた2024年最後の理事会の声明では、「基調インフレのほとんどの指標は、インフレが理事会の中期目標である2%付近で持続的に落ち着くことを示唆」、ラガルドECB総裁の記者会見では、「最新のデータは経済の勢いが失われつつあることを示唆」、「0.50%の利下げを検討する意見もあった」としています。確かに「ECBはデータに依存し、会合ごとに政策金利を決定する」のでしょうが、恐らくECBのインフレ・ターゲットとする2%に限りなく近いレベルまで、2025年も利下げスタンスを継続しそうです。
参考に2025年のECB理事会の開催日程を掲載します。特に2025年前半は、ECBの利下げが続く可能性が高いことで、注目しておいて下さい。
ECB理事会(議事録公表日)
01月30日(02月27日)
03月06日(04月03日)
04月17日(05月15日)
06月05日(07月03日)
07月24日(08月21日)
09月11日(10月09日)
10月30日(11月27日)
12月18日(01月15日)
〇 ポーランド中銀の金融政策は?
ポーランド国立銀行はインフレの上昇を背景に、それまで0.10%としていた政策金利を2021年10月から随時引上げ、2022年9月に6.75%まで政策金利を引き上げました。ただ、その後は2023年8月に6.00%、10月に5.75%まで引き下げ、2024年を通じてこの政策金利を据え置きました。
2024年11月のポーランド国立銀行の会合では、前回からインフレ率予想を3.6%から3.7%に上方修正する一方、GDP成長率予想を3.1%から2.3%に下方修正しました。
ポーランドのインフレ率は、2023年2月に前年同月比10.7%をピークに鈍化し、2024年には中銀の目標レンジである1.5%~3.5%の範囲に低下しましたが、ここ数カ月は再び上昇傾向を示しています。
中銀は声明で、家庭向けエネルギー関連価格の動向に不確実性があると指摘し、特に2025年初めにエネルギー価格がさらに上昇した場合、今後数四半期のインフレ率が高止まりする可能性があると指摘しています。
米国の金融政策やエネルギー価格の動向などの外的要因がポーランド経済に大きな影響を与えることで、中銀は当面の間、政策金利を据え置くスタンスを維持する見込みとなっています。
尚グラピンスキ・ポーランド中銀総裁は、「利下げ議論は2025年3月から10月まで延期される可能性がある」と述べています。
それでは、ポーランドの政策金利と消費者物価指数のチャートを見てみましょう。

パンデミック後、ロシアのウクライナ侵攻で10.7%まで上昇後、▲13.2%まで一時低下しています。これは大きく上昇した後の反動としても、総じて過去はマイナス5%からプラス5%の範囲で落ち着いた動きになっています。確かにウクライナ情勢やトランプ新政権の政策次第でしょうが、ポーランド国立銀行は少なくとも2025年は利下げに入ることは間違いなさそうです。
景況感を見るために、ポーランドの消費者信頼感指数の推移をチェックしてみましょう。

消費者物価指数と同様にパンデミックやロシアのウクライナ侵攻で、▲45.5まで下落した数値はどうにか▲12.0まで回復しましたが、現状は再度低下気味です。ポーランド国立銀行が、高金利を維持すれば、企業活動や家計に良い影響を与えず、こちらの面でも政策金利の引き下げは、必要と見られます。
〇 ユーロ圏とポーランドの金利差
以下は、ECBとポーランドの政策金利差、ドイツ10年物国債利回りとポーランド10年物国債利回り差の推移に、ユーロ・ズロチ相場をプロットしたチャートです。

2025年ポーランドでは、政策金利の引き下げが行われると申し上げましたが、一方でECBも利下げスタンスを継続する見通しです。ただ、御覧のようにユーロ・ズロチ相場には、政策金利差はほとんど影響を与えていません。この点は注意です。
また、10年物国債利回りとの金差を見てみると、リーマン・ショック後は一時連動から離れていますが、それ以降2021年代までは、ほぼ連動する動きが見えています。

ただ、現在はロシアのウクライナ侵攻を受けたインフレの急騰やポーランドの地政学リスクで、金利差から離れ、ユーロ高・ズロチ安の局面です。
これが過去のように、2025年以降長期の金利差連動に戻ることが出来るか大きな焦点となりますが、これもウクライナ情勢次第でしょうか?
もしウクライナで停戦や休戦の兆候が見えた場合の、ポーランド・ズロチの買い戻しには、注意しておきましょう。
【テクニカル面】
≪ユーロ・ドル≫
まず、ユーロ・ズロチ相場を構成するユーロ・ドル相場のテクニカルをチェックしておきましょう。 1999年からの月足チャートです。

歴史的な高値1.6040からの調整を、1.0341の安値で一旦支えるも、反転が2018年2月の1.2555や1.2349の戻り高値でダブル・トップを形成。その後0.8225からのサポートを割れて、0.9536まで下値を拡大しました。ただ、この位置はユーロドルの歴史的な安値からの反発時のネック・ラインとなる0.9596-0.9601を若干割れた位置で、一定の反発が実現しましたが、これも1.1276と1.1214で小さなダブル・トップをつけて再度調整気味の展開です。ただ、下段のスロー・ストキャスティクスが上昇を終了、反転下落となっており、今後は軟調な展開が想定されそうです。
上値は、1.0602-1.0763-1.0937の戻り高値圏が押さえると弱い状況で、あくまで1.1276と1.1214のダブル・トップを超えて、上昇期待となりますが、それでも1.1603-1.1704ゾーンは、マイナー・レジスタンスとして上値を抑える位置となりそうです。
一方下値は、1.0094-1.0198に0.9536まで下落時の節目があって、維持出来ると更に調整は拡大しませんが、割り込むとサイコロジカルな1.0000、もし0.9536を割れると、下落は0.9298や0.9568,更に0.8344,最悪のケースは、0.8225のユーロドルの歴史的な安値割れとなります。
直近ユーロ相場は、悪材料が多く軟調な展開が続く可能性が指摘されていますが、2024年の相場レンジも、たかだか0.0879、2023年も0.0828幅しか動いておらず、ユーロ安は輸出にメリットがあることもあって、2025年も動意が薄ければ、更に大きな下落は想定しづらいのかもしれません。
以上を踏まえるとユーロドルの2025年の想定レンジは1.0000から1.1000を中心に考えます。ただ、もしウクライナ情勢に大きな変化が出た場合、この戦争が起きた2022年にユーロドル相場は、0.1959幅動いていることから、0.9500-1.1500ぐらいのレンジとなるかもしれません。当然解決の道筋が見えた場合は、爆発的な上昇が想定され、一方でロシアが戦術核を使うようなパニックとなった場合は、下値トライとなることを前提としています。
≪ドル・ズロチ≫
次にユーロ・ズロチ相場を構成するドル・ズロチ相場をチェックしておきましょう。
2000年からのドル・ズロチ相場の月足です。

5.0612まで上昇しましたが、一旦上ヒゲをつけています。
波動的は、以下を想定します。
第1波=2.0190から3.9157
第2波=3.9157から2.6403
第3波=2.6403から4.1562
第4波=4.1562から3.2074
第5波=3.2074から5.0612
第5波の完了から調整が3.7985まで拡大も、サポート圏を前に下げ止まりを見せています。下段のスロー・ストキャスティクスも売られ過ぎから反転上昇を示しており、上昇期待となります。
下値は3.7985が維持されると堅調です。ただ何かのイベントで、割り込む局面があっても、3.7000前後はサポートで維持される見通しですが、3.6158を割れると3.5000のサイコロジカルがターゲットとなりますが、2.0190から5.0612までの上昇のフィボナッチ・リトレースメント50%となる3.5401などが支える可能性が残りそうです。リスクは、第3波の安値となる3.3074を割れるケースで、その場合相場が崩れ2.6403や2.2500までターゲットとなります。
一方上値は、4.2038から4.2526の戻り高値、4.4517が押さえると更なる上昇も厳しいでしょう。超えて4.5117から4.8345の戻り高値がターゲットとなりますが、第5波の高値を超えることができるかは不透明で、こういった位置でレジスタンス形成となるなら戻り売場となります。
従って、ドル・ズロチの2025年の予想レンジを3.7000から4.5000とします。
≪ユーロ・ズロチ≫
最後にユーロ・ズロチの1995年からの月足チャートです。

2009年の3.4787の高値や3.1986の安値から上下波動を繰り返した後は、3.8233を下値に堅調な上昇波から、5.0029と一時歴史的な高値まで上昇しました。ただ、この位置からは売りに押され、現状は4.2471まで調整しています。
この位置は3.8233からのサポートの位置で、下段のスロー・ストキャスティクスも売られ過ぎから反転の兆しが見えており、堅調が維持されそうです。ただ、維持出来ない場合、4.2134から4.1298の戻り安値、3.9671の戻り安値が順次視野となりますが、総じて3.1986から5.0029のフィボナッチ・リトレースメントの50%となる4.1008を前後とした緑のゾーンになります。こういった位置は下支えされる可能性が高そうです。最大のリスクは、3.8233のサポートの起点割れで、その場合大きく3.5000まで窓が開いていることで、急落のリスクとなる可能性は留意しておきましょう。
一方上値は、4.4066や4.5000のサイコロジカルが押さえると弱い状況ですが、超えると4.5021、4.7993などが視野となりますが、一時の上ヒゲ5.0029を無視しても、高値の4.8935を越えるかは不透明です。
≪マトリックス・チャート≫
加えて、ユーロドルとドル・ズロチから想定したマトリックス・チャート(価格帯によるクロスの位置)を確認しておきましょう。

ユーロドルの想定レンジを1.0000~1.1000、ドル・ズロチを3.7000から4.5000しましたので、これから算出されるユーロ・ゾロチの最大想定レンジは、4.0700から4.5000となります。
【予想レンジと戦略】
それでは、以上を踏まえてユーロ・ズロチ相場の2025年の見通しと戦略についてお話します。
上記を勘案して、ユーロ・ズロチ相場の2025年の想定レンジを、4.1000から4.5000とします。
≪取引の前提≫
・スロー・ストキャスティクスからは、ユーロもポーランド・ズロチも対ドルでは売りが示唆されますが、ユーロ対ズロチで考察すると、ユーロが比較的強いという仮定になります
・もし、ウクライナ情勢に、休戦や停戦など明るさが見えるなら、今までこのリスクで売り込まれてきた、ポーランド・ズロチに買い戻しが入るでしょう、その場合のユーロ・ズロチの買いは注意しましょう
・逆に、もしトランプ次期大統領の交渉が失敗に終わり、ロシアがウクライナ戦況で苦戦、戦術核を使用するようなことがあれば、ユーロやポーランド・ズロチの両方に悪影響がありますが、より西側にあるユーロ相場に分があるでしょう
・クロス相場の場合、ストレートの動き次第では、テクニカル的なポイントと合致するとは限りません、オーバー・シュート的な騙しの動きも留意してください
≪具体的な戦略≫
それでは、具体的なユーロ・ズロチ相場の中期的なスウィング・トレード戦略ですが、押し目買いを基本とします。
4.30前後から買い下がりは、4.2471や4.2134を割れるなら止めるか、4.1000やサイコロジカルな4.0000までは買い下がり場を探して、ストップは3.9671や3.8233割れとなります。ターゲットは、4.4065や4.5000が押さえると利食い優先で、こういった位置は売りも狙いますが、この場合のストップは4.5021越えです。超えても4.8935をストップに、4.7993まで売り直しを検討しましょう。また、売った場合のターゲットは、その時点までの戻り安値では、しっかりと利食いましょう。もし仮に大きく下げても4.0000-4.1000は売りの場合も利食い場となります。 以上、テクニカルやファンダメンタルズ面からシナリオをたてましたが、ひとつの例として考えてください。この通りとなるほど、相場は簡単ではありません。あくまで私個人の35年来の経験則から想定したイメージ的なものですので、ご理解頂ければ幸いです。