ユーロ円-2025年相場見通しと戦略-

政局不安、ECBの利下げ姿勢が焦点、ウクライナの情勢の変化には注意

※本記事は2024年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2024年のユーロ円相場を振り返って】

  2024年のユーロ円相場は、前年に続き上昇を継続しました。

年初は155.93からスタート。能登半島地震発生により経済に影響を与える懸念はありましたが、新NISA制度スタートによる株価の上昇期待などから、円がじり安の展開となりました。日経平均株価は、バブル期の最高値38915円を超えて4月19日には、41087円の高値を示現しました。3月の日銀金融政策決定会合では、政策金利が0.10%引き上げられ、マイナス金利から脱出。量的緩和策の解除の方針も示されましたが、同時に利上げを急がない姿勢が維持されたこともあって、4月29日にドル円相場が160.17の高値をつけ、ユーロ円相場も2008年7月の高値を超える171.56まで上昇しました。

ただ、ゴールデン・ウィークを前に、円安に懸念を強める財務省が、4月29日と5月1日の2日間で、9兆8千億円相当の強力な円買い介入を実施したこともあって、5月3日には、ドル円が151.86まで下落、ユーロ円も164.02まで急落しました。しかしながら、このレベルでは、本邦輸入勢や投機筋からの値ごろ感の円売りも強く、米財務省が半期為替報告書で、日本を再び「監視国」に認定、市場介入に踏み切り難くなるとの見方もともない、6月のFOMCでは政策金利が据え置かれるも、FOMCメンバーのFF金利見通しが、前回の年内2回利下げ見通しから1回に後退、7月3日には直近高値を超えて161.95まで高値を更新、ユーロ円も、仏下院選挙で与党が大敗、ECBが6月の理事会で、2019年9月以来の0.25%の利下げを実施するも2024年の高値となる175.43まで上昇しました。

しかしその後円安に懸念を示す神田財務官が、自身の退任を控えた7月11-12日に、再び5兆5千億円規模の円買い介入に踏み切ったこと、7月31日の日銀金融政策決定会合での利上げ思惑の高まりや米7月雇用統計が弱い結果となり、米国の景気後退懸念が高まったこと、日経平均株価が過去最大の下げ幅となる前日比で4753円の下落となったことがリスク・オフの動きを誘発、8月5日にはドル円が141.70まで売り込まれ、ユーロ円も、高値から1か月もたたないうちに21円の下落幅となる154.42まで急落しました。

株価の急落に批判が高まったことで、内田眞一日銀副総裁が、「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要」、「金融市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と発言したことが安心感を誘い、日経平均株価が大きく反発。ドル円も8月15日には149.39まで反発、ユーロ円が163.88まで反発しました。しかし、米労務省が2024年3月末までの一年間の非農業部門雇用者数の数値を大幅に下方修正し、FOMCでの更なる利下げの思惑が高まったことなどから、9月16日にはドル円が139.58と2024年の安値まで下落、ユーロ円も155.15まで再下落しました。実際9月18日のFOMCでは、想定外の0.50%の利下げが実施され、ドット・チャートでは年内にあと2回の利下げが想定されました。、

その後は年末に向けて再び本邦実需筋の円売りニーズ、自民党の総裁選や米大統領選に対する思惑もあって、日本の長期金利が上昇基調を強めるも、米国の大統領選挙では、接戦が伝えられていたトランプ氏が大差をつけて勝利。米上下院も共和党が、過半数を上回ったことで、「トリプル・レッド」が実現したことで、新大統領が政策を推進し易くなることから、トランプ氏が主張する中国などに対する大幅関税強化が、対中貿易で利を得ているドイツ経済に悪い影響を及ぼすとの見方が強まりました。実際、独連立政権の崩壊や仏の政局不安、独企業の相次ぐリストラ策の発表、ウクライナ戦争の激化に加え、11月のユーロ圏の製造業とサービス業PMIが予想より悪かったことにより、ユーロドル相場が、2024年の安値となる1.0335まで一時急落しました。その後トランプ氏は、大統領就任後直ぐに、中加墨に追加関税を実施すると発言しています。ユーロ円は、戻り高値を166.69に限定して、現状(12月13日現在)は、調整気味の展開となっています。

2025年の主な材料】

以下が現在、知り得る2025年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。

 

 リポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、やはり年初から大注目となるのは、1月20日からスタートするトランプ次期政権です。トランプ氏は、既に追加関税など多くの発言をしていますが、就任当日から多くの「大統領令」に署名する見通しです。その内容次第では、市場を大きく混乱させることは間違いなさそうです。トランプ氏の政策に関しては後述しますが、2025年の相場を考える上で、特に注意を払っておく必要があるでしょう。

 また、2024年は「選挙の年」でしたが、2025年にはあまり大きな選挙はありません。ただ、ショルツ独首相の連立政権が崩れたことで、2月には独連邦議会選挙が、前倒しで実施されます。2024年世界各国で与党勢力がことごとく選挙で敗退しています。この潮流は止まりそうもありません。保守派与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が大敗するようなら、大きな混乱を招きそうです。その場合ユーロ相場の圧迫要因となることは留意しておきましょう。 

 一方日本では、7月に参議院選挙と東京都議会選挙が行われます。都議会選挙の影響は直接的にはありませんが、昨年の解散衆議院選挙では、裏金問題などから自民・公明両党が過半数を割れたことで、日本の政局も混乱しています。一部では衆参同時選挙の可能性も指摘されていて状況次第では、再び自公連立が過半数を維持できない可能性もありそうです。その場合石破総理の総理存続も難しくなりそうです。金融面では政局不安が、株価に悪影響を与えるでしょう。為替に対する影響は不透明としても、通常なら株価の下落がリスク・オフの円買いにつながる可能性を考慮しなければなりません。ただ、もしこれが株安、債券安、円安と「トリプル安の日本売り」に繋がるなら大惨事となりそうです。2025年は日本の政局にも注意を払っておきたいと思います。

 その他では、1月から再び米国の債務上限の期限を迎えます。この問題は、12月13日現在あまり話題となっていませんが、恐らく年内に延長され直ぐには問題にならないでしょう。ただ、2025年初頭には再び大きくクローズ・アップされる可能性があり、問題が長引けば米国債の格下げのリスクとなります。毎年のことで若干食傷気味の話題ですが、特に2025年はイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」がスタートします。「小さい政府」を目指す共和党が、本当に米国の財政問題を解決できるのか、それとも混乱につながるのか注視しておきましょう。

 また、欧州関連では、7月からブルガリアが、通貨ユーロを導入する予定を表明しています。現在の情報ではまだ確定しているわけではありませんが、もし今後決定するようなことがあれば、ユーロを取引する場合には注意が必要です。EUの参加国が、新たにユーロを導入する場合、導入日に一気に通貨が変更されます。ブルガリアの場合、元来2025年から予定されていましたが、7月1日に一旦延期されたようです(過去の通例では1月1日に導入するのが基本)。その場合6月末のコンバージョン・ファクター(交換率)によって、一気にブルガリア内の資産・負債が、ブルガリア・シフからユーロに代わります。つまり、ブルガリアの企業や個人などは、この変更によって大きな為替リスクを負うことになります。当然それを避けるために、事前にヘッジしようとうする行為が自然に行われると思います。つまり、ユーロ・シフ相場では、7月に近づくにつれてユーロ買いが増加しユーロを押し上げる形になります。

 近年では、エストニア(2011年)、ラトビア(2014年)、リトアニア(2015年)、クロアチア(2023年)の導入時に、国の規模により影響度は限られますが、このような傾向がユーロ相場の動きに見えています。まだ2026年からの導入となる可能性がありますが、どちらにしても、もし決定された場合のユーロの動きにも注目しておきましょう。

加えて、近年では年初から大きく世界を変えるような事件や事象が起きています。2020年にはパンデミック、2022年はロシアのウクライナ侵攻、2024年は元旦から能登半島地震、年央からはイスラエルのガザ侵攻など金融市場に大きな影響を与える「リスク」が発生しています。2025年もそのような「ブラック・スワン」が起きるかは誰にもわかりません。起きて欲しくはないですが、奇しくも2025年はアストロ的に、太陽の黒点数がピークに達します。以下のチャートをご参考頂きたいのですが、太陽の黒点の数は、約11年周期で増加・減少を繰り返しています。そして増加のピークと減少のピーク時(半期)には、ぴったりではありませんが、過去ドル暴落、ブラック・マンデーやリーマン・ショックなど多くの金融ショックの発生と重なっています。これが2025-26年にピークをつけて、2031年まで減少過程に入ります。

特に黒点のピーク時は、太陽内で水爆の100万個分相当の爆発が発生し、太陽フレアによる電磁波が地球にも大きな影響を与えるとされています。それが地球を回る衛星を破壊・損失させたりすれば、GPSや通信、インターネット回線や携帯端末に過大な影響を与えるかもしれません。それが世界的に発生した場合、どういった混乱となるか恐ろしい気がしますが、特に金融関連で考えるとインターネットやコンピューターを取引の基盤としている「仮想通貨取引」に大きな影響を与えるかもしれません。それでなくても異常な高値となっていて危険ゾーンにあるような気がしますが、2024年10万ドルを超えたビット・コイン相場が暴落でもすれば、その影響は世界的な資産クラッシュの動きにつながりそうです。

またこれは蛇足ですが、日本の干支をベースとした相場格言に、「辰巳天井」という言葉があります。これは辰年と巳年の間に株価が大きなピークをつけて、下落相場に転換するというものです。日本の格言が米国や海外株式市場でも適応されるかは疑問も多いですが、辰年の2024年のNYダウやナスダック指数、日経平均株価の歴史的な高値更新やこの黒点のピークと合わせて考えると2025年、大きな金融ショックが起きる可能性も捨てきれません。悲観的過ぎるかもしれませんが、少なくとも近年は、温暖化の影響もあってか、自然災害、加えてウクライナや中東紛争などの世界的な軍事紛争が続き、自然・地政学リスクが市場の混乱につながっています。2024年7月13日に起きたトランプ氏の暗殺未遂と共に考え合わすと、トランプ氏が神がかり的に生還し、更に大統領選で勝利するという運命の不思議が、2025年以降の世界の分かれ目となるのかもしれません。

あくまで個人的な妄想ですから、信じて頂く必要はありません。ただそれでなくとも、自然災害や紛争、金融リスクは突発的に起こることで、準備することはできませんが、常にこういったリスクも念頭に入れて、相場に臨む姿勢を維持しておいた方が得策かもしれません。

2025年の注目点】

 2024年の相場展開を踏まえて、2025年のユーロ円相場の注目点をまとめてみました。

  • トランプ次期大統領の政策は実現するのか?
  • ECBの利下げどこまで?
  • 日銀はどこまで利上げするのか?
  • 続く日本の貿易赤字
  • 円買い介入の可能性は?

〇 トランプ次期大統領の政策は実現できるのか?

 トランプ氏は大統領当選前から、様々な発言をしています。どこまで本気でやるつもりなのかは分かりませんが、一応現在彼が掲げている政策を以下にまとめてみました。

1. 移民政策:不法移民の強制送還、「出生地主義」の廃止

2. 経済政策:トランプ減税の延長または恒久化、法人税の引き下げ、 全ての輸入品に10~20%の関税、中国からの輸入品には最大60%の追加関税、CHIPS法に否定的

3. 外交政策:ウクライナへの支援縮小、NATO加盟国の負担増・必要に応じて米国の関与の見直し

4. エネルギー政策:「国家エネルギー会議」を新設、化石燃料の推進や輸出の後押し、再生可能エネルギーへの移行を遅らせる

5. 環境問題: パリ協定からの離脱、IRA法の見直し(EV補助金の廃止など)

6. 教育政策:教育省の廃止、教育政策の管理を州や地方に委譲

7. 社会政策:連邦レベルでの中絶禁止法案に対する拒否権行使、中絶の権利は各州が決定すべき、LBGT+Qの権利に関するプログラムの廃止

8.「政府効率化省(DOGE)」の新設:連邦政府の規制撤廃、行政部門の縮小、歳出削減

 特に米上下院の共和党勝利で、「トリプル・レッド」となったことで、トランプ次期大統領が掲げる政策が実現し易くなるとの見方が主流です。ただ、実際一部の共和党議員は、CHIPS法やIRA法の見直しに否定的とされています。この「トリプル・レッド」も実際は、2025年の補欠選挙によって変わる可能性が残っています。まだ盤石とはいえないことは、考慮しておきましょう。

 この中で特に、金融市場に大きな影響があると思われる3つの課題に関して、注目されるポイントを見ておきましょう。 

≪ウクライナ問題≫

 トランプ次期米大統領が、2025年2月で3年目に突入するウクライナ戦争の終結に向けて元陸軍中将のキース・ケロッグ氏をウクライナ・ロシア特使に指名しました。彼が提唱する和平交渉案は以下の通りです。

1.停戦によって前線を凍結、非武装地帯を設置

2.停戦後は、英仏独軍などが治安維持のため非武装地帯を管理

3.ウクライナのNATO加盟を10年間延長

4.和平協定の締結に伴い、ロシアに対する経済制裁を段階的に解除

5.ウクライナに対する軍事援助と安全保障の継続

6.ただしウクライナが拒否した場合軍事援助の打ち切りもある、一方ロシアが拒否した場合、米国はウクライナ支援を強化する

 これを両国が受け入れるかは不透明ですが、既にトランプ氏は2024年12月7日、ノートルダム大聖堂の再開式典において、マクロン仏大統領の仲介で、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しています。一部にここで一定の合意があったとの可能性も指摘されています。

 特にトランプ次期大統領は、以前から「就任後24時間以内にウクライナ戦争を終結させる」と発言しています。ロシアと水面下で交渉が進んでいる可能性もあって、これが本当に実現すれば、トランプ次期大統領の「MEGA」の実現に大きな支援となり、ノーベル賞受賞の期待感にもつながりそうです。

 その場合金融市場はどういういった反応を示すでしょう?

 当然株価などは好感すると思われますが、ドルが買われるかはわかりません。ウクライナ戦争での懸念が、過去3年上値を押さえていた欧州通貨、特にユーロ、スウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネ、ポーランド・ズロチなどの対ドルでの買い戻しにつながる可能性で見ています。また、原油や金には利食いが出てくるでしょう。

 ただ、個人的には簡単ではないと考えています。トランプ氏は、プーチン露大統領と仲が良いとしていますが、彼はもっとしたたかです。ロシア国民はこれまで大きな犠牲を払っており、簡単に許すとも思えませんし、経済制裁の段階的な解除がされるとしても、得るものは少ないでしょう。ともかく、プーチンがカギを握ることを考えると、交渉の決裂の可能性は考慮しておきたいと思います。

≪トランプ氏が主張する関税強化策≫

 「タックス・マン」を自称するトランプ氏は、既に大統領選での勝利後、早々と「メキシコとカナダからの全ての輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す」と表明しています。以前は「全世界からの輸入に一律10~20%、中国には100%の関税を課す」と述べていて、若干数字的に矛盾があるようです。

 これは米国の関税に関しては、通商法や通商拡大法の規定があって、議会での決定がなければ、トランプ次期大統領の一存だけでは変えることはできません。トランプ大統領第1期の時も、就任後直ぐには追加関税は実施できませんでした。ただ、この「メキシコとカナダの25%、中国に10%の追加関税」に関しては、米国で大きく問題となっている「フェンタニル」という麻薬密輸に関して、十分な措置が講じられていないという「国家安全保障上」の理由を適応することによって、直ぐに実施出来る料率のようです。その場合はやはり、当該通貨に売りが強まる可能性には注意が必要となります。

 ただ、「全世界からの輸入に一律10~20%」の追加関税となると、話は複雑となりそうです。北米では、北米通商条約(NAFTA)を2018年に「USMCA」に切り替えています。既に世界的には、様々なFTAやFAが締結しており、自由貿易の流れが強まっていることや、実際追加関税によるコストは、米国民が負担することになります。トランプ氏は、あくまで「ディール的な駆け引き」として利用している可能性もあって、2025年早々この問題に大きな懸念を持つ必要はないようです

≪「政府効率化省(DOGE)」の行方≫

 トランプ次期米政権で政府外の助言機関として、実業家のイーロン・マスク、ビベック・ラマスワミ両氏が主導して2025年から発足します。 

 この「DOGE」の役割は、連邦政府の規制撤廃、行政部門の縮小、歳出削減の3本柱として、少なくとも年間5000億ドル(約77兆7千億円)の歳出削減を目指します。また国際機関への拠出金を削減し、政府機関の余剰人員を減らすために民間企業への転職を促す方針も明らかにしていて、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)とも連携し、建国250周年を迎える2026年7月までに一連の改革を行う計画です。

 米国の財政赤字が巨額であることを考えると実際にこういった削減が実現できれば、米経済に良い効果を与えることになるでしょう。ただ、一方で中央政界の既得権益層からは大反対が起きる可能性が高く、米国の分断と2極化を拡大させ経済社会的な大きな混乱の要因となる可能性にも注意が必要です。

 以上簡単にまとめてみましたが、現状市場で考えらえている「トランプ政権→景気の過熱→インフレ→ドル高・株高」という「トランプ・トレード」シナリオもあまり期待を強めない方が良いかもしれません。その面では、関税強化策や政府効率化省の問題は、先行きの長い話として、直ぐに影響は見えないでしょうが、就任時に本当にトランプ次期大統領が、ウクライナ戦争を終わらせることが出来るかは大きな注目です。

実現できるなら政権の評価や威信は高まるでしょうが、もし失敗するようならトランプ次期政権の失望に変わりそうです。こういった面に関しては、相場がどういった反応を示すかは不透明ですが、トランプ氏は態度をころころ変えることも多く、第1期トランプ政権の時と同様、2025年も荒れた相場展開となる可能性に注意して対応するのが良いかもしれません。

〇 ECBの利下げどこまで?

ECBは、パンデミックでマイナス金利まで引き下げていた政策金利を、ウクライナ紛争の影響を受けた原油・資源価格の上昇を背景に、2022年6月から引き上げを開始。2023年9月の会合では、4.50%まで引き上げましたが、2024年6月から利下げを開始。7月の会合では据え置きましたが、9月、10月、12月と3会合連続の利下げを実施、3.15%まで政策金利を引き下げています。

 主な要因としては、中国の景気減速が、中国との貿易取引の多いドイツ経済に悪影響を与えており、加えて電気自動車への転換が遅れたことです。2024年7月には世界第4位の自動車部品製造企業であるZFフリードリヒスハーフェンが、2028年末までにドイツの従業員数を最大1万4千人削減する計画を発表。2024年8月には、自動車部品とタイヤのコンチネンタルが、オートモーティブ部門の分離の検討を発表。2024年9月には、フォルクスワーゲンが、国内3工場を閉鎖、数万人の従業員を解雇、残りの国内工場も縮小する計画を発表。2024年11月には、世界最大の自動車部品のサプライヤーであるボッシュが、世界で中期的に約5千5百人の人員削減の計画を発表しています。

 また、政治的不安も経済に影を投げかけています。

仏では、2024年6月9日の欧州議会選挙で与党が右派政党に大敗したことを受けて、マクロン大統領が国民議会を解散し総選挙を実施しましたが、2024年7月の選挙では左派連合が最大勢力となり、マクロン大統領率いる中道の与党連合は議席数を大幅に減らしました。

 このため予算審議が難航、2024年12月に右派のバルニエ氏が首相に就任しましたが、少数連立内閣であることもあって、翌日に内閣不信任案が可決され総辞職に追い込まれています。

 一方ドイツでも、景気後退懸念からショルツ首相が財政拡張を主張するも、自由民主党のリントナー財務相がこれに反対。ショルツ首相が同氏を解任したことで、社会民主党、FDP、緑の党の3党連立政権が事実上崩壊。ドイツ連邦議会でショルツ首相の信任投票が行われましたが、反対多数で否決されたことで、2025年の総選挙が前倒しされ2025年2月23日に実施されることになっています。

 ユーロ圏2大大国である独仏の混乱が続くなら、ユーロ圏経済には厳し状況が続きそうです。

それでは、実際にユーロ圏の景況感をみておきましょう。以下はユーロ圏の製造業とサービス業PMIの推移です。

現状景気の分水嶺となる「50」を挟んだ動きとなっており、それほど悪い形には見えません。ただ、通常米英などは、製造業よりサービス業PMIが強い傾向を示しますが、製造業中心のドイツを主軸としたユーロ圏のPMIは、総じて製造業PMIの方が強い傾向となっています。そのため製造業の方が、景気の分水嶺となる「50」を割り込み、指数が「デッド・クロス」していることは問題です。この状況が続くなら今後もユーロ圏経済の足かせとなりそうです。

  一方物価指数も見ておきましょう。

 一時はパンデミックやロシアのウクライナ侵攻による原油や天然ガスの急騰などの影響で10.70%まで上昇していた消費者物価指数ですが、現在はECBがインフレ・ターゲットとしている2%割れまで下落しており、ECBが金利を引き下げ易い状況となっています。

 12日に行われた2024年最後の理事会の声明では、「基調インフレのほとんどの指標は、インフレが理事会の中期目標である2%付近で持続的に落ち着くことを示唆」、ラガルドECB総裁の記者会見では、「最新のデータは経済の勢いが失われつつあることを示唆」、「0.50%の利下げを検討する意見もあった」としています。確かに「ECBはデータに依存し、会合ごとに政策金利を決定する」のでしょうが、恐らくECBのインフレ・ターゲットとする2%に限りなく近いレベルまで、2025年も利下げスタンスを継続しそうです。

参考に2025年のECB理事会の開催日程を掲載します。特に2025年前半は、ECBの利下げが続く可能性が高いことで、注目しておいて下さい。

ECB理事会(議事録公表日)

01月30日(02月27日)

03月06日(04月03日)

04月17日(05月15日)

06月05日(07月03日)

07月24日(08月21日)

09月11日(10月09日)

10月30日(11月27日)

12月18日(01月15日)

〇 日銀はどこまで金利を引き上げるのか?

 2024年は、日本が30年にわたるデフレ経済から脱却したことで、遂に3月の日銀会合で、マイナス金利から政策金利を0.10%引き上げ、量的緩和策の解除、YCCやETF購入の停止を表明しましたが、7月に政策金利を0.25%まで引き上げた後は、現状(12月13日現在)据え置きを続けています。12月の会合で政策金利を引き上げるか注目ですが、リポート作成時では、「トランプ政権の誕生で米経済の先行きに不透明感が高まっているうえ、春闘の賃上げ動向を確認したい考えで、利上げを急ぐ必要はないとの判断に傾きつつある」、「消費者物価は前年比で、2025年度以降は2%に届かない可能性がある」として未だ政策金利の引き上げを躊躇しているようです。

以下日本の2013年からの全国総合物価指数のチャートをご覧ください。

 このチャートは、2020年を基準とした物価の動向を「インデックス」で示したチャートです。通常物価を見る場合に、前年比で判断するのが基本です。現に日銀も「物価が2%で安定的に推移するまで金融緩和を継続する」としていました。しかしながら、この見方の場合、既に前年の物価が上昇していると翌年同月の物価は、あまり上昇していない形に見えます。これを以下のチャートのように、「インデックス自体」で見ると様変わりします。

 2022年までのデフレ状態が続いていましたが、黒田総裁の任期最後の1年前から、物価はレンジ・ブレイクしている形が見えると思います。一方政策金利の方は、植田総裁就任後1年を経てやっと引き上げに変わっていますが、この出遅れ感は異常です。

また、先ほどの全国総合物価指数のチャートを見てドル円レートと比較してみましょう。2022年からの物価の強い上昇が、円安とともに拡大している姿が見えると思います。日銀は円安を食い止めるためにも、早期に利上げを実施すべきだと思います。また、適切な時期に金利を引き上げておかないと、再び景気が悪化した場合に、金利を引き下げるという「伝家の宝刀」という手段も錆びついてしまうでしょう。 

 また、次のチャートは、2024年のドル円の日足チャートに、日銀金融政策決定会合の結果発表の日を、赤い矢印で示したチャートです。

 パターン的には、円買い介入後の日銀の0.15%の利上げで、日経平均株価が4000円以上の急落を示現した時を除くと、日銀金融政策決定会合に向けて円安が進み、結果発表後は利食いによって一時的にドル円は下落するも、そこが再び起点となって円安が拡大しています。

つまり、これらを総合して考えると日銀の政策修正の遅れが、明らかに円安を招いていることは明白です。今後日銀がどこまで利上げするのかはわかりませんが、こういった金利修正の遅れが、更に円安を招くなら2025年は円安が止まるまで、日銀の利上げは続かなければなりません。あくまでこれは想定ですが、以下の過去の日米政策金利差とドル円レートの関係から見ると、ドル円相場の安定水準となる105-125円ゾーンまで押し下げるためには、政策金利差は最大なら2%として、2025年FOMCが3.50%まで利下げすると仮定するなら、1.50%まで政策金利を引き上げる必要があるようです。

ただ、こういった可能性は、現状の日銀のスタンスを見ると難しそうです。政策金利差の面からは、2025年も円の軟調な展開が続くと見るのが妥当でしょう。 

以下が2025年の日銀金融政策決定会合や議事録の公表日です。日銀の政策の行方が、2025年のドル円相場を左右するでしょう。しっかりと押さえておきましょう。

日銀金融政策決定会合(議事録公表日)

01月24日+展望リポート公表(03月25日)

03月19日(05月08日)

05月01日+展望リポート公表(06月20日)

06月17日(08月05日)

07月31日+展望リポート公表(09月25日)

09月19日(11月05日)

10月30日+展望リポート公表(12月24日)

12月19日

〇 続く日本の貿易赤字

 日本の貿易収支は、過去長らく黒字を維持していましたが、2011年には、東北大震災の影響もあって赤字に転落。その後2016年に回復も見えていましたが、新型コロナウィルスの蔓延を受けたワクチンの購入や訪日外国人観光客の激減、更にロシアのウクライナ侵攻を受けた資源・商品価格の上昇、加えて大幅な円安の悪影響もあって、2021年以降再び、大きく赤字幅が拡大しています。

 一応2022年10月以降は、資源・商品価格の落ち着き、訪日外国人観光客の持ち直し、円安の効果などもあって、一定の改善が示されていますが、これが2025年に黒字転換できるか保証はありません。

貿易赤字には様々な要因があって、一言で示すことはできません。訪日外国人はある程度回復していますが、過去のような中国勢の爆買いが見えていないこと、自動車産業を中心とした輸出の拡大も頭打ちとなっており、あまり期待するのは難しそうです。 

一方で日本では、再生エネルギーへの転換が遅れていて、電気自動車の普及も拡大せず、2025年以降も高水準の原油・天然ガスなど石化エネルギーの輸入が続きそうです。まだ全貌は明らかになってはいませんが、2022年12月に決定した43兆円規模の防衛費の拡大政策によって、今後毎年5兆円弱の海外調達が実施されるようです。その場合当然ドルで決済されるはずですが、これが決定した当時は、1ドルが135円程度であったものの、もし現在の150円台の為替レートで支払われるなら、毎年円ベースで約1兆円程度の支払い増となるようです。2025年から国民の税負担がスタートしますが、こういった面からのドル需要が、2025年以降の円の上値を押さえそうです。

 以下は2009年10月からの通関ベースの貿易収支と円ドル相場(下方が円安)ですが、通関ベースの貿易収支が、赤字転換したタイミングで、しっかりと円安が進んでいる形が見えています。

これを黒字に改善できれば、また円高の再来も期待できるのでしょうが、2013年から2021年の間、どうにか黒字を維持している時期でも、円ドルレートは、円高というより、円安傾向での揉み合いの動きに留まっています。国際収支との関連もあって、一概には言えませんが、貿易の代金決済は、直接的に為替市場に影響を与えることもあって、あくまでこの貿易収支が、過去のような黒字レベルを回復しないと、大幅な円高を期待するのは難しいでしょう。

〇 円買い介入はあるのか?

 2024年も、2022年に続いて財務省が強力な円買い介入を実施したことで、どうにかドル円の一過性の上昇を食い止めています。ただ、需給面からの円売りニーズが下値を支えて、なかなかドル円が下がらない状況が続いています。

 過去、当局の介入は「短期的には効果があるが、中期的には効果はない」と指摘されるように、相場のトレンドを変えることはありません。ただ超長期で考えると1995年の超円高時期の円売り介入、2003-4年の溝口介入と結果的に効果を示したと言えます。こういった介入は全て「円売り介入」であって自国通貨である円はであれば無尽蔵に介入が可能ですが、他国通貨である「ドル売り」介入には限界があると言えます。

 それでは「ドル売り」介入の原資となる日本の外貨準備の状況を見てみましょう。

 以下は直近介入前の2022年からの外貨準備と「円買い介入」の状況をプロットしたチャートです。

 2022年の介入後外貨準備はある程度増額しています。また、2024年も959億ドル程度の介入を実施しましたが、それほど外貨準備額は減少していません。若干決済の時差やスワップ取引などを利用していた場合、増減の具体的な要因は把握できませんが、外貨準備のほとんどが米国債で運用されています。つまり、「円売りドル買い介入」を実施しない場合でも、米国債からの運用益で外貨準備は増加します。これはざっくりとした計算ですが、もし年2%の運用利回りと仮定した場合で、毎年200億ドル程度、3%なら300億ドル程度外貨準備が増える計算になります。2022年の介入額は約426億ドル、2024年は959億ドルで、これを短期で続けながら1兆ドルレベルを維持するのは難しいとしても、この運用収入分を考慮すれば、まだ「円買い介入」の余地はあると思います。

 一方介入レベルに関しては、「急激な変動を避けるため」と言っても、財務省や財務官がどういうレベル感や論理でタイミングを決めているか知る由もありません。ただ、実際の介入実績から2022年は恐らく150円の防衛、2024年は160円の防衛が主眼となっているように感じられます。そうたびたび出来るわけではありませんが、少なくとも次の170円は間違いなく介入してくるでしょう。問題は、次に160円をトライした場合でも、再び介入してくるのか、大きなポイントとなりそうです。(個人的には160円は再び防衛ラインだと思います)

 実際この点に関しては、ある意味グレーだと思いますが、少なくとも2025年も円安が一過性に進んだ場合も、安易に上値を追いかけるのは避けておいた方が良いでしょう。近年「円買い介入」が実施された場合、一気にドル円相場は、4-5円の円高が進んでいます。あくまでこういったタイミングで円を売る方が、メリットが大きいことは覚えておいてください。

【金利差とユーロ円】

 日本とドイツの金利差が、ユーロ円相場にどういった影響を与えるか下記の日独10年物国債利回りとユーロ円相場の2006年からの動きを見ておきましょう。

 2014-16年は、若干連動性が低いですが、これはアベノミクス・黒田バズーカで、大幅に日経平均が上昇し円安が進んだ時期です。その他では総じて連動性が高い形が見えていると思います。ただ、現在は再び連動性が大幅に低下しています。これも円安が行き過ぎていることが要因ですが、アベノミクス・黒田バズーカの時でさえ、これほどの乖離はありませんでしたから、逆説的に言えば、今の円安がどれだけ異常かといいう事になりそうです。

しかしながら、2025年もECBは利下げ姿勢を継続すると思います。一方日銀は、長いデフレ経済の弊害でしょうか、植田総裁は慎重過ぎるように見えます。ただ、最低でも2025年利下げする可能性は低く、独日の金利は縮小傾向を維持するでしょう。それでも現状のユーロ円高が続くかは不透明です。少なくとも金利差の縮小が相場の上値を抑える可能性に注意しておきましょう。

【テクニカル面】

≪ユーロドル≫

それでは、ユーロ円を構成するユーロドル相場の1999年からの月足チャートを見てみましょう。

歴史的な高値1.6040からの調整を、1.0341の安値で一旦支えるも、反転が2018年2月の1.2555や1.2349の戻り高値でダブル・トップを形成。その後0.8225からのサポートを割れて、0.9536まで下値を拡大しました。ただ、この位置はユーロドルの歴史的な安値からの反発時のネック・ラインとなる0.9596-0.9601を若干割れた位置で、一定の反発が実現しましたが、これも1.1276と1.1214で小さなダブル・トップをつけて再度調整気味の展開です。ただ、下段のスロー・ストキャスティクスが上昇を終了、反転下落となっており、今後は軟調な展開が想定されそうです。

上値は、1.0602-1.0763-1.0937の戻り高値圏が押さえると弱い状況で、あくまで1.1276と1.1214のダブル・トップを超えて、上昇期待となりますが、それでも1.1603-1.1704ゾーンは、マイナー・レジスタンスとして上値を抑える位置となりそうです。

一方下値は、1.0094-1.0198に0.9536まで下落時の節目があって、維持出来ると更に調整は拡大しませんが、割り込むとサイコロジカルな1.0000、もし0.9536を割れると、下落は0.9298や0.9568,更に0.8344,最悪のケースは、0.8225のユーロドルの歴史的な安値割れとなります。

直近ユーロ相場は、悪材料が多く軟調な展開が続く可能性が指摘されていますが、2024年の相場レンジも、たかだか0.0879、2023年も0.0828幅しか動いておらず、ユーロ安は輸出にメリットがあることもあって、2025年も動意が薄ければ、更に大きな下落は想定しづらいのかもしれません。

以上を踏まえるとユーロドルの2025年の想定レンジは1.0000から1.1000を中心に考えます。ただ、もしウクライナ情勢に大きな変化が出た場合、この戦争が起きた2022年にユーロドル相場は、0.1959幅動いていることから、0.9500-1.1500ぐらいのレンジとなるかもしれません。当然解決の道筋が見えた場合は、爆発的な上昇が想定され、一方でロシアが戦術核を使うようなパニックとなった場合は、下値トライとなることを前提としています。 

≪ドル円≫

次にユーロ円を構成するドル円相場の、1989年からの長期月足チャートを見てみましょう。

 ドル円相場は、1990年の160.35の高値から、2011年10月の75.31まで下落後、2022年10月には、160.35の高値と、147.66や125.86の高値を結んだレジスタンスを越えて、151.95まで急反発しました。ただ、この位置から127.23まで急落。チャート形状から「E」の75.31をボトムとして、「C」と「G」をアームとした「リバースH&S」が一旦確定したと見られました。

ただ、下値は「D」と「F」のネックラインが逆サポートして、更に反転がこの「G」の高値を超えて、161.95まで上昇する形からは、このリバースH&Sが崩れた形となっています。2024年の相場見通しもこれを前提に見通しを述べていますが、これが全く誤った形で、そうなると140円前後が今後も維持されると、更なる上昇と見るしかない形となります。その場合161.95を越えると次のターゲットは、1978年の安値177.06、更には1981年の安値199.06となります。

強いて上げ止まりの可能性を言えば、日柄からの判断となりますが、「C」の高値から「E」安値の期間が、13年2ヵ月ですので、次の「E」からの次の同期間が、2024年12月となりますので、もし、この12-1月にこのトップが維持され続け、更に140円前後のネックラインを割れるなら相場の天井を示唆する可能性が残っていることは、留意しておいてください。

次により近い2011年からの月足チャートをみてみましょう。

 75.31の歴史的な安値から125.86まで反発後、102.59が下値を支えてサポート形成から、151.95の高値、127.23を支え、161.95まで上値拡大しています。

 エリオット的な波動からざっくりと見れば、75.31から125.86を第1波、125.86から102.59を第2波、102.59から151.95を第3波、151.95から127.23を第4波とするなら、現状の上昇が第5波の渦中にあることは意識してください。

 また下段に表示したスロー・ストキャスティクスが、買われ過ぎから反転下落しています。ダイバージェンスの可能性はありますが、上値は161.95を中心に、151.91や156.75がトリプル・トップとして意識されるなら上値つきの可能性が高まります。

 こういった面を考慮すると総合的には上値付きと考えるのが妥当に見えます。ただ、前述の通り、今後12月から1月の間に161.95を越えないことが必要です。一方で下落トレンドがスタートするためには、ネック・ラインとなる140.25-139.58を割れるケースが必要です。その場合の下値のターゲットは、127.23の戻り安値から125.86の過去の戻り高値となります。

以上を勘案して、ドル円の2025年の想定レンジを140.00から160.00とします。

≪ユーロ円≫

最後にユーロ円自体の月足チャートです。

 ユーロ円相場は、169.97の史上高値示現後は、94.12で下値を支えて、149.79の高値から109.57まで値を下げた後、114.41でサポートを形成、2020年以降は堅調な上昇を続け歴史的な高値を超える175.43まで上昇しました。

ただ、現状はこの位置が上値を抑えて若干揉み合い気味の展開です。一応下段のスロー・ストキャスティクスが反転下落傾向を示していますので、下方リスクの方が高いとみられますが、それも現状のレンジとなる154.42の下値と166.69の戻り高値のブレイクからの流れとなりそうです。

上値は166.69を越えても、170円のサイコロジカル前後が押さえる可能性は残っていて、あくまで175.43を越えて更なる上昇となる形ですが、この場合の上値は、歴史的な高値圏であり、想定は出来ません。

下値は154.42や153.14をクリアに割れると、過去の戻り高値と②のサポートである148.41-149.79ゾーン、サイコロジカル的には150円などがターゲットとなりますが、更に割れると次の③のサポートからは、146.13や137.50-141.06ゾーンがターゲットとなります。こちらもサイコロジカル的には140円前後という見方で良いと思いますが、こういった位置は維持される可能性が高そうです。リスクは、134.13-137.39などを割れるケースです。

≪マトリックス・チャート≫

 また、ドル円とユーロドルの2025年の想定レンジから、マトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を確認しておきましょう。

 ユーロドルの想定レンジを1.0000~1.1000、ドル円を140.00~160.00としましたので、これから算出されるユーロ円の最大想定レンジは133.00~184.00となります。ただ、ここまで大きなレンジは想定できないので、157.50を中心として、144.00から171.60がレンジとして想定されそうです。

【予想レンジと戦略】

 以上を勘案して、2025年のユーロ円の想定レンジを、150.00から170.00とします。

≪2025年の注意点≫

・ビットコインの暴落、または米国の不動産市況の悪化を背景としてバブルがはじけるケース

・トランプ次期政権を睨んで荒れた展開となる可能性。

・ウクライナ情勢が終息する、この場合ユーロは大きな買い戻しになるでしょう

・円高になるためには①原油価格の下落などを背景に、日本の貿易収支が大幅に改善する②日欧金利差が大幅に縮小する③トランプ政権に大きな失望が出る、④世界的に株価が調整局面に入る⑤ウクライナや中東情勢が更に混迷を深める(プーチンが戦術核を使う)が想定されます、こういった局面があればユーロ円の買いは厳しい状況になるかもしれません

・ドル円の160円前後または161.95を守るために、再度財務省から円買い介入が入ると考えています、超えても170円では介入してくると思います

 ・クロス円の場合ストレートの動き次第では、テクニカル的なポイントと合致するとは限りません、オーバー・シュート的な騙しの動きも留意してください

≪2025年のユーロ円の戦略≫

 それでは、ユーロ円相場の2025年の具体的な中期戦略についてお話します。

 レンジ的な動きを前提として基本は逆張りとなります。前述の通り154.42-166.69をファースト・ゾーンとして逆張りでしっかりと利食う形から、もしブレイクがあった場合でも追いかけるのは避けた方が良く、150.00-170.00での再逆張りを考えましょう。その場合の上値のストップは、歴史的な高値の175.43越え、下値は一旦149.79や148.41の戻り高値割れでの対応となります。

歴史的な高値を超えるケースの場合も、追いかけるのは避けておきましょう。その時のドル円のレベルにもよりますが、財務省の円買い介入が入る可能性が高いからです。逆に言うと常に財務省介入後の急落は、買い場となるケースが多いので、そういったチャンスを待つのも一考となります。また、介入時は2024年の平均で4.77円下落しています。この程度の下落を想定して対応しましょう。

一方150円を割れるケースでも、深押しは買い狙いがトライできますが、もし150円もしっかりと割れる動きの場合、本格的に175.43が歴史的な高値となるケースが想定されることで、戻りはしっかりと利食いながら対応しましょう。 

また、タイミング的な注意点は以下となります。こういった面も勘案しながら、戦略を立てて頂ければと存じます。(詳細は、ドル円相場の2025年見通しの「ドル円の季節性」を参照ください)

  • 1-3月期は本邦のレパトリ・シーズンで円高気味となり易いこと
  • 4月からは本邦の新年度入りもあって、円売りが入り易い
  • 一方ドル円でも例年アノマリー的に、7月や8月中旬に瞬間的な円高が示現することが多いことは注意ですが、逆にこの時の急な円高は、年末に向けて絶好の円の売り場となることも、覚えておいてください
  • 9月のレイバーデー明けからは、年末に向けて方向性が出易い時期です、この時期に一定の動きが見えた場合、逆張りで向かわないようにしましょう 

 以上、一応テクニカルやファンダメンタルズからシナリオをたてましたが、ひとつの例として考えてください。この通りとなるほど、相場は簡単ではありません。あくまで私個人の35年来の経験則から想定したイメージ的なものですので、ご理解頂ければ幸いです。