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<2025年の金融為替市場の振り返りと2026年の展望>-世界通貨セレクト編-

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本記事は、深谷幸司氏にご執筆いただいた2部編成の記事の後編にあたります。
執筆は、マーケットの第一線で豊富な実務経験を有する深谷幸司氏にご担当いただきました。
前編では2025年の金融・為替市場の動向を振り返りましたが、本稿ではそこから得られた示唆を踏まえ、2026年の世界通貨セレクトの展望ついて解説していただきます。
今後の投資戦略やリスク管理の参考として、ぜひご一読ください。
深谷 幸司氏
1984年、東京大学法学部卒。同年、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、債券ディーリング、本店営業部を経て、1995年より為替アナリストとして活躍。2000年から5年連続で『ユーロマネー誌 日本版東京外国為替市場調査』顧客投票・長期予測部門で第1位を獲得。2004年6月から経済調査部チーフエコノミスト。
2007年にはドイツ証券にシニア為替ストラテジストとして参画。2010年、クレディ・スイス証券に外国為替調査部長兼チーフ通貨ストラテジストとして加わる。2013年にはFPG証券代表取締役に就任。
現在は、オフィスFUKAYA代表、株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー フェローとして、為替市場の分析・発信を続けている。 これまでにブルームバーグ、ロイター、日本経済新聞をはじめ多数のメディアで寄稿を行い、テレビ東京「モーニングサテライト」や日経CNBCなどの経済番組にも出演。

1.米ドル/カナダドル

 米ドル/カナダドル相場は2022年以降の米ドル高/カナダドル安傾向は一服し、2025年はかつてのレンジの中央である1.35近辺に戻ってきた。しかし、その水準を下回り米ドル安カナダドル高サイドへ下落し定着するのは難しかった。今後を展望しても同様の状況が続く可能性が高い。これはカナダ経済に構造的な変化が生じているためだ。米国の貿易政策、トランプ関税によって両国間の貿易に変化が生じ、米国経済とカナダ経済の連動性、カナダ経済が米国経済の恩恵を受ける度合いが以前より低下し始めたことが主因と考える。

 トランプ政権によって課された高率関税はカナダ経済に構造的なダメージとなって効き始めたようだ。トランプ政権は貿易収支改善のため依然として近隣のカナダとメキシコに対して厳しい態度をとっており、カナダ経済への悪影響が今後も懸念される。カナダのカーニー首相は対米報復措置を発動するなど対立姿勢を強めていたが、経済への悪影響は回避しえないままだ。カナダ経済はトランプ関税の悪影響が顕在化する前から循環的な減速局面にあったが、そこにトランプ関税がのしかかり景気悪化基調が強まった。労働市場は輸出関連を中心に弱含みであった。企業と家計の慎重姿勢は強まり、インフレは商品価格の上昇や関税の影響で一時は低下が一服したものの景気悪化で足元では鎮静化した。総合指数は前年同月比で2%近辺、コア指数でも3%近辺で安定している。今後を展望すれば徐々に2%近辺の目標値に落ち着くと想定されている。このためカナダ中銀にとっての課題は、インフレ抑止から経済の構造転換を金融緩和で支えるスタンスにシフトしたとみられる。中銀は2024年6月以降、急速に政策金利を引き下げてきた。政策金利は5.00%から足元で2.25%まで引き下げた。インフレ率と同水準まで利下げを完了したことで、中銀はひとまず金融緩和は十分として政策金利を当面は据え置き、様子見を続けるとみられるが、景気低迷への目配せが続く。

 一方の米国ではFRBは夏場以降の雇用悪化が明確になったことで、政策スタンスがインフレ警戒から雇用悪化への配慮に転じている。9月に利下げを再開すると12月まで3会合連続で利下げを実施し、FF金利誘導水準は3.50~3.75%へ引き下げられた。ただFRB内の意見は大きく割れている。メンバー予測の中央値は、2026年に利下げ1回、2027年にも1回となっているが、予測値の分布は上下に広がる。極めて予測が難しいが、鍵を握るのは景気悪化、雇用悪化のペースと、議長交代による影響だろう。なおも利下げ継続の可能性は高いが、そのペースは不透明だ。米国とカナダの金融政策動向と今後のバイアスを確認すれば、カナダが先行して利下げを実施し様子見に転じ、米国が遅れて利下げを実施し、なお、利下げバイアスにある。この点からは、今後、米国とカナダの金利差が縮小して米ドル安カナダドル高に振れる可能性がある。しかし、構造要因がカナダ経済に不利に働き続ける点を加味すれば、メインシナリオとしては大幅な縮小が見込み難い。ファンダメンタルズおよび金利面からは1.35~1.40のレンジにやや上方シフトした可能性を考慮する必要があるだろう。中国経済が依然として低迷している点もカナダドル高を抑制する要因だ。

 カナダドル高サイドに定着するとすれば、FRBの利下げが想定より大きくなるケースがある。FRB議長交代によるハト派シフトも可能性のひとつだ。逆に米ドル高サイドに再び振れるのは、米国景気は堅調に推移しFRBが早々に利下げ打ち止め、ドル金利先高観が台頭するケースであり、2026年後半にはその可能性がある。突発的なリスクとしては米金融市場の混乱によるドル安が挙げられる。ただリスク回避はカナダドルにも逆風となり大幅な米ドル安は見込みにくい。

<2026年の予想レンジ> 

米ドル/カナダドル 1.32~1.42

<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>

2.ユーロ/ポンド

 ユーロ/ポンド相場はレンジ中心からユーロ高方向へ上昇した。現在はかつてのレンジ上限0.88付近にある。この上昇に寄与した一因はドル安だ。ドル安の裏側で恩恵をもっとも受けたのがユーロだ。2025年前半のユーロ高ポンド安はドル安の後押しが大きく、ユーロ独自の要因、ユーロ高要因ではなかった。しかし、2025年後半は景況格差・金融政策格差がユーロ高ポンド安バイアスを強めた。2026年を展望しても同様の傾向が続くだろう。ECBはすでに利下げ打ち止めを明確にしているが、一方、BOEはなおも利下げ局面にある。こうした金融政策格差を受けてさらにユーロ高ポンド安方向に動く余地がある。これまでよりもユーロ高ポンド安方向にレンジの目線を修正しておく必要はありそうだ。

 ECBとBOEの金融政策はパラレルに動いてきたが、ここにきてスタンスに相違が明確になってきた。利下げペースはECBの方が急で、7会合連続の利下げで2025年6月には中銀預金金利を2.00%まで引き下げた。インフレ率も低下して2%近辺で推移しているが、ほぼ同水準まで引き下げ、景気にとって引き締め的ではなくなった。ピーク4.00%からの利下げ幅は合計2.00%に及ぶ。一方でBOEの利下げペースは相対的に緩慢で、政策金利は現状4.00%とピーク5.25%からの利下げ幅は1.25%にとどまった。金融政策委員会のメンバーの意見は割れている。インフレ警戒の意見は根強く、直近11月の会合では5対4の僅差で現状維持となった。こうした違いをもたらしているのは景気物価動向の格差、さらにトランプ関税による景気への悪影響度合いの違いもその背景にある。

 イギリス経済はサービス業の比重が高く、また貿易収支は赤字であるためその影響は他国に比べて相対的に受けにくい。対米貿易収支は赤字、米国サイドの黒字であるためトランプ政権の関税政策の標的とはなりにくい。実際、イギリスが先進国ではもっとも早く米国と関税合意に達している。トランプ関税による直接的な悪影響は少なく、インフレ圧力も生じにくい。そうした中、BOEはコロナ禍後の景気過熱とインフレへ対応した金融引き締めの解除を漸進的かつ慎重に進めており、なお途上にある。現状は着地点を模索する段階にあり、様々な見方があるなか、3%程度が終着点との見方が大勢となりつつある。なお1%の利下げ余地があるということにはなる。

 ユーロ圏経済はトランプ関税の悪影響を直接受ける可能性があり、また米中対立によって中国経済にダメージが生じた場合には間接的なダメージも受ける。ドイツを中心に外需の中国依存度を高めてきたことが、さらにトランプ関税の影響で裏目に出ており、かつて欧州経済を主導してきたドイツが域内で相対的に不振に陥った。こうした状況を踏まえ、ECBは景気重視で積極的な利下げを行ってきた。ただ、政策金利は2.00%に達しインフレ率同水準まで引き下げられ、景気悪化に歯止めがかかり、底打ちの気配がみえてきたことで、利下げ打ち止め姿勢が明確となってきた。さらに次の一手が利上げとの見方が市場には台頭しており、ECB当局者も否定はしていない。2026年、ユーロ圏とイギリスの金利差はさらにユーロ有利に展開する可能性があり、ユーロ高ポンド安バイアスをかけることになりそうだ。

 リスクとしては、ドルの見通しが改善しドル高に転じた場合が挙げられる。その裏側で進んだユーロ高は一服、反転下落する可能性があり2026年の後半にはその可能性がある。ただそれと同時にECBの利上げ観測が高まる可能性があり影響は緩和される可能性がある。リスクはユーロ高サイドの状況が続きそうで、目線を修正しておく必要があろう。

<2026年の予想レンジ> 

ユーロ/ポンド 0.84~0.92

<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>

3.豪ドル/NZドル

 現在の豪ドル/NZドル相場は1.05~1.10のレンジを豪ドル高方向に突き抜け現在は1.15近辺で推移している。両国の金融政策格差、政策金利差は拡大したまま縮小に転ずる兆しがみえず、金利差からみた豪ドル高NZドル安を正当化している。こうした状況は2026年にかけても解消せず、金利差は縮小するよりもなお拡大するリスクがある。これらの状況を踏まえれば、かつてのレンジに回帰することは難しいと想定され、豪ドル高サイドに水準を切り上げた新たなレンジを想定する必要があるだろう。

 中央銀行であるオーストラリア準備銀行(RBA)とニュージーランド準備銀行(RBNZ)の政策金利は、コロナ禍後の景気持ち直し・インフレ局面からインフレ鈍化局面に転じた局面で対応に差異が際立った。RBNZが急速に利下げ、RBAは利下げ開始を渋ったため2024年末には金利が逆転し、豪ドル金利がやや高い状態となった。RBAは2025年2月にようやく利下げを開始したが、利下げペースはRBNZより緩慢なため、政策金利は豪ドルがNZドルを上回ったまま水準を徐々に切り下げている。RBAがRBNZにキャッチアップするかたちで利下げを実施し金利差が縮小すると予測されたが、実際には逆に拡大した。

 いずれの中銀ともに重視するインフレについては順調に鈍化していた。NZで2%台前半に鈍化したのに遅れて豪州でも2%台前半に低下した。しかし、足元で両国ともにインフレ率が。3%台にリバウンドしている。こうした中、景気とインフレのいずれを重視するか、インフレファイターとしてのタカ派度合いの違いが、両中銀の対応の相違を生んでいる。景気面ではトランプ関税により中国経済がダメージを受ける可能性は高く、とくに製造業部門が不調となれば、対中輸出を通じた悪影響を受けやすいのは豪州ではある。しかし、内需が底固く、雇用情勢も堅調でもある。そうした中、インフレ率が総合指数で3%台後半まで反発してきた動きは懸念材料となっている。こうした状況を踏まえRBAはタカ派姿勢を強めつつある。2月、5月、8月、と3会合連続で利下げしたあとだけに焦りもあるだろう。11月は政策金利を据え置き、2月には一転して利上げとの見方も強まっている。一方、RBNZは2.25%まで利下げを実施しているが、さすがに利下げは打ち止めとするものの、景気見通しがそれほど芳しくないことから利上げまでは想定されない。結局、当面金利据え置きとなりそうだ。

 もうひとつ、マクロの視点から豪ドルの優位が続きそうな要因を挙げるとするならば、それは資源価格の動向だ。世界的なAIブームや電力需要拡大の見方から、鉱物資源やエネルギー価格は堅調に推移すると想定される。これは中国の景気動向による需要に左右されない要因だ。ニュージーランドが資源国とはいえ農産品中心であるために、相対的に豪ドルが優位な状況が続きそうだ。

 先々の政策金利動向を反映した2年債の金利差は、RBNZの利下げが先行する局面で豪ドル金利が上回り、想定外の政策金利格差見通しとなったことで豪ドル/NZドルを一気に1.15近辺まで押し上げた。今後を見通しても金利水準は豪ドル優位の状況が続きそうだ。その結果、豪ドル/NZドルのレンジは豪ドル高サイドに修正してみておく必要がある。一方、金融政策が逆行するわけではないことから、ここからトレンドとしてさらに豪ドル高が一方的に進むリスクは少ないとみる。AI関連株が大幅に調整する局面では連想から豪ドル安に働く可能性には留意しておきたい。

<2026年の予想レンジ>

豪ドル/NZドル 1.12~1.18

<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>

4.豪ドル/カナダドル、NZドル/カナダドル

 2026年を展望すれば、まず3通貨の中では豪ドルが抜けて堅調に推移する可能性が高い。豪ドル/NZドル相場は同通貨ペアの項目で記したとおり、豪ドル高バイアスがかかった状態が続きそうだ。唯一、次の一手が早々に利上げとなる可能性が高い。そのためカナダドルに対しても堅調に推移するとみられる。豪ドル/カナダドル相場は現在これまでのレンジ上限に近づいているが、今後も底固く推移すると見込まれ、予想レンジはこれまでより豪ドルサイドに引き上げてみておく必要があるだろう。

 一方、カナダドルとNZドルの力関係は金利面からは中立だ。両国の金融政策はほぼパラレルに、同一水準で推移してきた。現状の政策金利はいずれも2.25%で並んでいる。今後の方向性についても、当面は利下げ打ち止め、様子見が続く可能性が高い。金融政策面からの強弱感はさほどない。予想レンジは従来と大きく変える必要はないだろう。

 金融政策に影響を与える景気動向が当面は焦点になりそうだ。カナダはトランプ関税による直接的な影響を受け、足元では米国依存の経済構造の修正に取り組み始めたところだ。徐々に関税による構造的なダメージを克服するとみられるが、なお時間はかかりそうだ。一方で、そうした中でも米国景気が足元の減速から持ち直し局面に移行した場合には、一定の恩恵を受ける可能性もある。オーストラリアやニュージーランドはトランプ関税の直接的な影響は相対的に小さい。むしろ中国経済の影響を受けやすく、今後も外需については中国経済の低迷による悪影響は続くとみられる。ただそのインパクトは以前から緩やかに続いており、トランプ関税ほどの劇的変化ではない。トランプ関税による中国への悪影響懸念も、米中合意により米中貿易摩擦がいわば休戦状態となったことで、一時ほどの深刻さはない。またオーストラリアに関しては中国の一般的な景気動向というより、厳密には石炭および鉱物系の資源需要動向の影響を受ける。消費低迷による影響とはまた異なる面からみる必要がある。さらにオーストラリアは足元で内需が堅調な点が他の2国との違いだ。インフレリバウンドに対する警戒感は強く、金融政策がタカ派に傾きやすい。景気動向においては、ニュージーランドも景気回復の兆しがややみえている  一方、カナダはなおトランプ関税の影響を受けた構造調整の過程にある。今後、2026年後半に米国経済が持ち直す過程で恩恵を受けられるようなら、カナダ経済もひと息つくかたちとなりそうだ。ただ好影響をどれほど受けられるか、これまでよりも米国依存度合いは低くなっていることは確かだ。

 一方、資源国という側面からみると、カナダはその産出物が原油やガスなどエネルギー中心である。オーストラリアもエネルギー産出国ではあるが、石炭や天然ガスが中心であり、やや異なる趣となる。また、ニュージーランドは農産品、とくに乳製品が中心である。エネルギー価格の動向を展望すると、足元では景気減速の影響で需要見通しが鈍化したことで原油価格は調整気味だ。供給面ではOPECが来年に向けて増産方針を示しており、これも上値を抑えている。来年後半には景気が持ち直すとみられ需要が増加しそうだが当面は安定推移が見込まれる。この点は、エネルギー価格に連動性の高いカナダドルにとって、対豪ドル比で不利な点とみえる。オーストラリアは鉱物資源と天然ガスがメインであり、この点が相対的な優位性を維持し続ける要因だろう。ニュージーランドは農産品とくに乳製品が主体となるため、3か国のなかではいわゆる一般的な資源価格上昇による恩恵は最も受けにくい。

 総じてみれば、豪ドルが堅調でレンジを今までより豪ドル高方向に修正、NZドルとカナダドルは大きな差異がなく従来のトレンド内との見立てとなる。

<2026年の予想レンジ> 

豪ドル/カナダドル 0.89~0.95

NZドル/カナダドル 0.77~0.85

<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>

5.ノルウェー・クローネ/スウェーデン・クローナ (NOK/SEK)

 ノルウェー・クローネ(NOK)とスウェーデン・クローナ(SEK)の間の為替相場NOK/SEKは現状0.91台まで下落しており、想定されるレンジ0.90~1.10の下限に近づいている。やや振り返ると2022年以降、レンジ上限の1.10近辺からNOK安SEK高方向に推移し、2024年以降は概ね1.00を下回って推移し、レンジトレードというより終始NOK安SEK高基調で推移してきた。2025年に入って4月の市場混乱時には0.90台へ下落。その後は0.95より上が重くなっている。結論を先取りすれば、2026年も当面はNOK/SEKの低迷は続きそうだがk下落基調は早晩止まると想定する。ただ、想定レンジは0.90~0.95を挟んだ0.88~0.97に、今までより下方修正してみておく必要はあろう。

 金利動向をみれば、ノルウェー中銀が利下げに慎重だったのに対して、スウェーデン中銀は積極的で、金利差はNOK優位SEK不利に動いてきた。しかし、NOK/SEKは金利差とは逆行してNOK安SEK高が進んだ。一方、原油価格とNOK/SEKの相関は維持されている。原油価格が軟調に推移しており、原油価格との相関を保つ形でNOK安SEK高が進んでいる。また、NOKが資源国通貨、SEKがユーロとの相関が強い通貨であることも、この間のNOK安SEK高のひとつの要因となった可能性がある。ユーロ高がSEK高に影響したとすれば、ユーロドル相場の動向、それが表象するドルそのものの強弱も想定する必要がある。2026年のNOK/SEKの行方を展望するにあたっては、原油価格動向およびユーロドル相場の行方すなわちドルの強弱を検討する必要があるだろう。

 原油価格軟調の背景はふたつある。ひとつは世界経済の減速、とくに米国景気の減速基調が続いてきたことである。2025年に入って夏前まではトランプ政権による高率関税による悪影響が景気悪化懸念、さらには市場の混乱を招いて原油価格を下押した。その後は関税に対する過度な懸念は解消したが、FRBがインフレ懸念から政策金利を引き締め的に維持したことで景気減速、雇用悪化が足元まで続いている。中国景気の低迷にも大きな変化はない。こうした需要面の不振が原油価格軟調のひとつの要因だ。

 もうひとつは供給サイドの問題である。OPECは来年に向けて増産の意向を示している。米国経済および世界経済がようやくソフトランディングしつつある局面での供給増が原油価格の上値を重くしている。

 2026年を展望すれば、米国経済は累積的な利下げの効果、さらにはトランプ減税がスタートすることなどで、年後半には底打ちから持ち直し基調と想定される。原油価格は当面低迷しそうだが、年後半には景気持ち直しにともなう需要増観測から上昇基調に転ずる可能性がある。これにより、年後半はNOK高SEK高基調となることが想定される。レンジ下限を試す動きから持ち直し予想となる。

 またユーロドル相場の動向、ドルそのものの強弱についても、2025年のようなドル安懸念は次第に一服するのではないかと想定される。ドル離れはすでに一巡したようにみえ、ドルインデックスはなお100ポイント割れのままだが、下落基調は終了したようだ。ユーロドル相場は1.15~1.20で安定的に推移することが想定される。ECBは大幅利下げのあとすでに利下げ打ち止めを明確にしているが、FRBの利下げ余地も限られているようだ。今後、米国経済が予想外に失速、あるいは米金融市場の混乱が生じない限り、大幅なドル安は見込みにくい。ドル安の裏側でユーロ高が一服すればSEK高基調にも歯止めがかかろう。 リスクがあるとすれば、ユーロ圏経済の想定外の持ち直し、また、それにともなったECBの想定外の早期利上げであろうか。ユーロ高ドル安が進めば、連動するようにSEKが対NOKで堅調となる可能性がある。ノルウェーはEU非加盟国、スウェーデンはEU加盟国、という相違がある。スウェーデンは工業生産と輸出を通じて欧州ほか世界全体の消費動向から受ける影響が相対的に大きい。欧州の景気持ち直し、ECBの利上げが明確となり、欧米間の景況格差・金利差がユーロ有利に動く局面では、NOK/SEKにもなお下押し圧力がかかりそうだ。原油価格動向を巡る波乱としては地政学的リスクの動向が挙げられる。目下のところ、ウクライナ問題、パレスチナ問題、が注目される。仮に停戦合意となれば、原油価格にはネガティブな影響となりNOK/SEKには下押し要因となり得る。また、ウクライナ問題が復興の局面に移行した場合、工業国であるスウェーデンに有利に働く。こうしたリスクはなお確度の低いシナリオだが頭の片隅には入れておく必要があるだろう。

<2026年の予想レンジ> 

NOK/SEK 0.88~0.97 

<ブルームバーグより筆者作成>
<ブルームバーグより筆者作成>

6.米ドル/スイスフラン

 米ドルとスイスフランはともに安全通貨としてリスク選好・リスク回避に応じて同一方向に動く側面があり、これがレンジ相場を形成しやすい要因だ。一方、強弱が生ずる場合も多々ある。ドルそのものの信認が揺らぐ場合、米国のファンダメンタルズが上下に振れて他国や他地域と大きな差異を生じる場合、それに関係するが金融政策にも同様に大きな差異が生じる場合、スイス中銀はスイスフランとユーロの安定を重視することからユーロドル相場が大きく変動する場合などだ。

 安全資産・安全通貨の側面からみれば、ドル、スイスフラン、と並んで金(gold)もその中立性・独立性や流動性の高さから安全通貨の一種と考えられる。安全通貨のなかで序列をつければ、金、スイスフラン、ドル、となるだろう。ここ数年の相場動向をみると金が一貫して上昇基調を続け、とくに足元では独歩高であり、スイスフランは追随できていない。金相場はすべての通貨に対して上昇している。これは、コロナ後の急激なインフレによる先進国全般の通貨価値下落、財政拡張路線による通貨の信認低下、通貨供給拡大による通貨価値の希薄化、などが背景にあるだろう。

 2025年の米国の特殊要因としては、トランプ政策に対する懸念やFRBの独立性に対する棄損などがドル離れを生じ、一時的に安全通貨としてのドルの価値を棄損したことが挙げられる。ドル全面安のなかでドル安スイスフラン高が進み、0.90近辺から0.80近辺へと大きく下落し、それまでのおおむね0.85~0.90を中心としたレンジを突き抜けた。ユーロ高ドル安基調が続いており、それもスイス高に寄与したとみられる。金利面ではスイスは早々に利下げを実施して現在はゼロ金利に復帰した。ただ安全通貨にとって金利はさほど意味をなさない。金(gold)に金利がつかないものの堅調に推移していることから理解は容易だろう。むしろ価値の安定そのものが強みとなる。スイスではインフレ率が早々に抑制され現在のインフレ率はゼロ近傍にある。インフレ率を基準に考えれば通貨価値は極めて安定しており、インフレによって棄損していない。政策金利はゼロだがインフレ率もゼロであり、実質金利もまたゼロだ。日本のようにインフレ率を政策金利がなお大幅に下回り実質金利が大幅なマイナスとなっている通貨とは大きな違いだ。

 2026年を展望すると、米ドル/スイスフラン相場が大きくドル高方向に反発する可能性は低いのではないだろうか。ユーロ圏経済は底打ち感が出ており、ECBは次の一手が利上げとの見方を強めている。一方、米国景気はやや減速基調にあり雇用悪化はなお進展している。FRBは利下げに慎重ながら、なお追加利下げのタイミングを計る状況にある。その結果、ユーロドル相場はユーロ高が一服したものの、反転して大きくドル高に転ずる可能性は低そうだ。そのことが米ドル/スイスフランでのドル高も抑制し得る。一方、ドル離れは一服したようだ。関税問題はひとまず落ち着きトランプ政権の政策への懸念は緩和し、投資家のアロケーション調整も一巡したとみられる。2026年後半には米国経済が持ち直すと想定すれば、ドル高方向への動きもありえるだろう。総合すれば、米ドル/スイスフラン相場は従来よりもドル安サイドで新たな落ちつきどころで、レンジを形成すると予想する。短期的には0.80中心の狭いレンジで推移し、年を通してみればややドル高サイドに振れる可能性があるのではないだろうか。

<年内の予想レンジ> 

米ドル/スイスフラン 0.77~0.88

<ブルームバーグより筆者作成>

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