豪ドルの特徴

豪ドル(AUD)は、世界で6番目に取引量が多い通貨(2022年時点)であり、資源輸出国通貨の代表格です。
鉄鉱石や液化天然ガスをはじめとした豊富な資源を背景に、世界経済や資源市況の動きに敏感に反応します。
高い流動性と安定した政治経済環境を持つことから、投資家や企業に広く利用される通貨のひとつです。
世界通貨セレクトにもNZドルやカナダドルと通貨ペアで採用されています。
本記事では、豪ドルの歴史から経済の特徴、為替に影響を与える要因、そして国際的な位置付けまでを解説します。
豪ドルの歴史

豪ドルには、100年以上かけて積み重ねられてきた銀行制度の歴史があります。
1911年にオーストラリア連邦銀行(Commonwealth Bank of Australia)が設立、翌1912年に営業を開始します。
業務は民間銀行やクイーンズランド州政府から引き継がれましたが、中央銀行としての機能はありませんでした。
転機は1920年。コモンウェルス銀行法の改正により、中央銀行としての金融政策や紙幣発行の機能が付与され、1924年には紙幣発行権そのものが委ねられました。これにより、オーストラリア連邦銀行は事実上の中央銀行としての機能を有します。
1945年にはコモンウェルス銀行法は、オーストラリア連邦銀行の中央銀行機能を明文化し、名実ともに中央銀行としての役割を担うこととなります。
1959年、準備銀行法により中央銀行機能は商業銀行業務から分離され、オーストラリア準備銀行(RBA)が発足。
商業業務は新設のコモンウェルス銀行公社に引き継がれることとなりました。
これにより、オーストラリアに現代的な中央銀行制度が誕生します。
その後もRBAは時代の変化に合わせて進化します。
1983年の豪ドル変動相場制への移行で為替管理は廃止され、金融政策の運営は市場志向へ。1990年代にはインフレ率2〜3%の目標を掲げ、政府との合意で明確化しました。
1998年には銀行監督機能を新設のオーストラリア健全性規制機構(APRA)に移管し、RBAは決済システムの安定と効率に注力。近年も透明性と独立性を高める改正を進めています。
豪ドルの裏には、制度整備と市場環境の変化に応じて歩みを重ねてきた中央銀行の歴史があります。
この積み重ねこそが、今の豪ドルの信頼と安定を支えています。
オーストラリア経済の特徴
オーストラリアは、世界でも高い生活水準を誇る国です。
これは人口が世界のわずか0.3%ほどであるにもかかわらず、豊富な天然資源と高度に発展したサービス産業を持っていることに支えられています。
経済は開放的で、貿易依存度が高い国です。
雇用の約5分の1が貿易関連に支えられ、30か国・地域と18本の自由貿易協定(FTA)を締結しており、輸出と市場アクセスを後押ししています。
2020年にはインドネシアや香港、ペルーとのFTAに加え、PACER Plus(オーストラリア、ニュージーランドおよび太平洋諸国との自由貿易協定)も発効しています。
鉱業もオーストラリア経済の重要な基盤です。
名目GDPは約1.71兆米ドル。このうち鉱業は約12.2%を占め、製造業や建設業と並ぶ産業の柱です。(下図参照)。

(出典:外務省よりインヴァスト証券作成)
第二次産業と比較しても、鉱業はおよそ44%を占め、他の分野を大きく上回っています(下図参照)

(出典:外務省よりインヴァスト証券作成)
また、オーストラリアは世界有数の「ワイン大国」としても知られています。
同国はラベル表示の真実性を法的に担保する制度を世界に先駆けて導入。
ワインづくりの歴史はおよそ200年と比較的浅いものの、近代的なブドウ栽培や醸造技術を早くから導入したことで、現在では品質の高いワインを安定的に生産しています。
輸出志向が強いのも特徴です。
オーストラリア農業水産林業省(DAFF)によれば、生産量の約6割が海外に出荷されています。
さらに、国際的なワイン貿易ルールの形成にも積極的に関与しており、World Wine Trade GroupやOIV(国際ブドウ・ワイン機構)と協調することで、ラベリングや認証に関する国際基準を整備し、貿易上の摩擦を軽減しています。
生産規模を見ても、その存在感は大きいものです。
2023〜24年度の圧搾量は約140万トンへ増加。
付加価値は約10億豪ドルと規模感が大きく、南オーストラリア州が約半分を占める主要産地です。
そして、もうひとつ経済を静かに押し上げるのが「会いに行きたくなる存在」です。
コアラはその最たる“顔”で、観光の看板が実際の支出と雇用に置き換わっていきます。
ニューサウスウェールズ州の公式解説は、コアラが年間11億〜25億豪ドルの観光消費と9,000超の雇用に結びつくとの推計を示しています。
観光資源は施設や景勝地に限られません。
象徴的な生き物が、旅の目的を生み、財布の紐を緩め、地域に雇用を残す、そんな循環が数字として確認できるのです。
政策金利の推移
RBAは、インフレ率を2〜3%の範囲に安定させ、経済成長と雇用を維持することを目的に、キャッシュレートを主要な金融政策手段として運用しています。
キャッシュレートは短期金融市場の基準金利であり、豪ドルの為替相場にも直接影響を与える重要な指標です。

(出典:Reserve bank of Australia「Cash Rate Target」よりインヴァスト証券が作成)
金融政策決定会合
オーストラリアの金融政策は、金融政策委員会が担っており、この委員会は総裁、副総裁、財務省事務局長の3名の職務上メンバーに加え、財務大臣が任命する6名の非常勤委員メンバーで構成されており、計9名で運営されています。
会合は年8回開催され、多数決により政策金利が決定されます。
豪ドルの値動きに影響を与える要因
豪ドルは、世界で広く取引される通貨のひとつです。値動きには多様な要因が絡みますが、特に大きいのが金利差と資本の流れです。
豪州と他国の金利差が拡大すれば、高い利回りを求める資金が流入し、豪ドルは買われやすくなります。逆に相対的な金利低下は資金の流出を招き、通貨は弱含みやすくなります。
もう一つの重要な要素が資源価格と貿易条件です。
鉄鉱石・石炭・天然ガスの輸出はオーストラリア経済の大きな柱で、価格上昇は交易条件を改善し外貨収入を押し上げるため、決済に用いられる豪ドルの需要も高まりやすくなります。
国際的な位置づけと強み
豪ドルは、為替市場で世界第6位の取引量を誇る、流動性の高い通貨です。
オーストラリアは外国資本の出入りに制限が少なく、さらに国内の年金基金(スーパアニュエーション)が世界中の資産に積極的に投資しているため、豪ドルは国際的に広く取引されています。
加えて、堅固な金融制度と健全な財政基盤が通貨の信頼性を支えています。
豪ドルは、国際的な外貨準備の通貨構成において数%程度にとどまりますが、米ドルやユーロを補完する通貨として認識されています。
投資家からは、金利が高い局面で投資対象となりやすいことに加え、資源輸出国ゆえにコモディティ価格と連動する特性、そして世界第6位の取引量を誇る流動性の高さが評価されています。
こうした要素が重なり、豪ドルは安定性と取引機会の両面で広く選ばれ続けています。
出典
Reserve Bank of Australia
DFAT
外務省
Government of Australia
DAFF
Wine Australia