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2025年下半期の相場展望『前編』 | 金融為替市場と世界通貨セレクト7通貨ペア

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本記事は、2025年上半期の金融・為替市場を総括的に振り返り、その特徴や注目すべき変化を整理することを目的としています。
執筆は、マーケットの第一線で豊富な実務経験を有する深谷幸司氏にご担当いただきました。
本稿は【前後編】のうちの前編となっており、後編では2025年下半期に向けた世界通貨セレクト7通貨ペアの展望について詳しくご紹介します
深谷 幸司氏
1984年、東京大学法学部卒。同年、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、債券ディーリング、本店営業部を経て、1995年より為替アナリストとして活躍。2000年から5年連続で『ユーロマネー誌 日本版東京外国為替市場調査』顧客投票・長期予測部門で第1位を獲得。2004年6月から経済調査部チーフエコノミスト。 2007年にはドイツ証券にシニア為替ストラテジストとして参画。2010年、クレディ・スイス証券に外国為替調査部長兼チーフ通貨ストラテジストとして加わる。2013年にはFPG証券代表取締役に就任。 現在は、オフィスFUKAYA代表、株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー フェローとして、為替市場の分析・発信を続けている。 これまでにブルームバーグ、ロイター、日本経済新聞をはじめ多数のメディアで寄稿を行い、テレビ東京「モーニングサテライト」や日経CNBCなどの経済番組にも出演。

2025年下半期の相場展望『前編』 | 金融為替市場と世界通貨セレクト7通貨ペア

2025年前半は金融為替市場全体がトランプ関税に振り回された。年初はトランプ大統領就任を前に、大統領選勝利から続く米国第一主義による米国経済ひとり勝ち期待のなか始まった。
しかし早々に米国内の製造業の強化、製造業の国内回帰を図るべく関税を大幅に引き上げる相互関税を導入するとの方針が明らかになり市場の楽観ムードは一変した。高率関税によるインフレと景気後退の併存、スタグフレーションへの懸念が台頭。リスク回避が強まった。

加えてトランプ大統領が利下げを要求してFRBの金融政策あるいはパウエル議長を解任しようとの姿勢を示すと市場はこれを嫌気。米国株安、米国債安・米長期金利上昇、ドル安、のトリプル安が強まった。ただその後は利下げ要求を継続しつつも、FRB人事への介入は停止。トランプ大統領には株価動向を気にする姿勢がうかがわれ、高率の相互関税導入に90日間の猶予期間を設けて当面は10%の引き上げに留め、その間に交渉を続ける方針を打ち出した。

一方、自動車・自動車部品や鉄鋼・アルミニウムへの関税は引き上げ。また対中関税は中国が報復に出たことで互いに100%を超える事態となり、米中貿易摩擦の強まり、米国経済さらには世界経済への懸念が強まり市場のリスク回避が強まった。
ただここでもトランプ大統領は交渉のための猶予期間を設けて一部引き上げに留めた。米中関税交渉が開始されたことで何らかの合意への期待感が市場心理を支えている。

ドルインデックスは年初に109ポイント台だったが4月後半には98ポイント台へ下落。その後ドル安は一服したが反発には至らず。足元で100ポイントを割り込んだまま。背景には投資家のドル離れが指摘されている。
トランプ政権は減税を含む財政拡大策を打ち出しているが、コロナ禍で財政赤字が急拡大したあと、さらなる財政悪化が懸念され、米国債の信認が低下しつつある。これがトランプ政策、米国経済への懸念、とあいまって、ドルの重石となっている。

一方、円相場は円安が一服したもののなお勢いを欠いている。トランプ関税による景気不透明感から日銀の利上げが遅延するとの見方が強まり円高の勢いを削いでいる。
ドル円相場は年初の157円台から一時はトリプル安による混乱で140円割れまで下落したが、その後は下げ止まり140円~145円を中心に上下。ユーロ円相場は年初に163円近辺だったが、ドル安の裏側でユーロ高ドル安が進むなかで底固く、足元では165円を上回り底固い。総じてドル以外の通貨に対して円高にはなっていない。

2025年後半を展望すれば、市場全体のリスクマインドは引き続き抑制された状況が続く可能性が高い。トランプ関税の行方は依然として不透明。当初の過激な高率関税案は緩和しそうだが、すでに一部引き上げは実施されており完全撤廃とならないだろう。
関税の悪影響は当初の懸念より緩和したが次第に経済に及ぶとみられる。実際、雇用情勢には悪化を示す指標が散見され始めた。米国景気はトランプ関税以前に減速基調にあったが、そのペースがどの程度速まるか、ここから見極める時間帯となる。

FRBは関税の影響を見極めるべくなお様子見姿勢で利下げには慎重だ。財政政策が足元で関税を中心に緊縮的、金融政策が現状維持でやや引き締め的に維持されるなか、景気後退リスクこそトランプ政権のスタンスが柔軟化したことで小さくなったが、景気減速基調はやや強まると予想される。
関税によるインフレ圧力は一時的とみられ、FRBは9月にも利下げに踏み切ると予想される。減税を中心とする財政拡張は、財政赤字拡大により米国債の信認が揺らぐなかでは限界があり、景気安定化は自ずと金融緩和頼みとなりそうだ。
市場がリスク選好を回復するとすれば、FRBの利下げ再開はひとつの要因となろう。
こうした状況では緩やかなドル安基調は続くと予想される。ドルインデックスは足元で100ポイントを割り込み再び軟調だ。95ポイント割れから90ポイント程度までの下落があってもおかしくない。

ユーロドル相場が1.15ポイントを超えて上昇し始めたが、その傾向が続くかがポイント。欧州ではECBが利下げを継続してきたが、中銀預金金利を2.00%まで引き下げたところで、やや様子見姿勢に傾いている。FRBが後追いで利下げを開始すればユーロ高ドル安の後押しとなる可能性がある。
いわゆるドル離れの動きにも留意が必要だ。2024年末にかけては米国ひとり勝ち観測からいわゆる「トランプラリー」で投資資金が米国、ドル資産に集中した。その反動で足元ではその調整が生じている。米国経済に不透明感が漂いはじめ、リスク分散の必要性が高まっている、との認識が背景だろう。
積極的な米国売りというよりも、ドル一極集中の見直しが続き、ドルの強さに陰りが生じ、ドル高には回帰しにくいとみられる。ユーロが足元で堅調に推移しているのはそうした動きの表れだろう。さすがにユーロ高、ドルインデックスの下落、は次第にペースダウンするとみられるが基調はなお続きそうだ。

日本では日銀が利上げ継続スタンスを維持している。足元の不透明感から当初より遅延しているが、2025年末ないし2026年年初にに利上げが実施される可能性が高い。内外金融政策の方向感は逆行しており円安に歯止めをかける要因だ。
対外収支をみると、貿易サービス収支は改善し赤字幅は均せば5,000億円程度に収まっている。貿易黒字となる月も散見されるが定着するには至らず円高圧力に転じたとまでは言い難い。
注目されるのは投資資金の動向。個人投資家の海外証券投資は一時より沈静化した。米国株の右肩上がりが一服し、外貨投資一辺倒だったスタンスに変化がみられる。
より重要なのは企業の対外直接投資。国内回帰や国内での賃上げ人員確保の側面からは以前より国内に資金を落とす可能性が高い。ただ個別案件としては大型買収案件も散見され、実現すれば円高の勢いを削ぎそうだ。

シカゴ通貨先物のポジションをみると、投機筋はドルをやや売り越している。円は過去最大の買い越しを維持したままだ。相場観は円高に傾いたままだが、イベントリスクが生じた場合は手仕舞いにより短期的に円安に振れやすく、円相場は今後もボラティリティの高い展開が続きそうだ。
水準としては、ドル円相場は2025年末に140円を試す展開、ユーロドル相場は底固く1.15~1.20のレンジでの推移、ユーロ円相場は165円程度と想定する。

<いずれもブルームバーグより筆者作成>

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