2025年前半の金融為替市場展望と北米・欧州・オセアニア3大陸通貨ペアの留意点

3大陸通貨相場大予想

<2024年の金融為替市場の振り返りと2025年前半の展望>

2024年は内外の金融政策に大きな動きがあった。円安や商品市況の上昇による物価上昇が社会問題に。インフレ率が安定的に2%を上回る状況となり、春闘で大幅な賃上げが明確になると、日銀は3月にマイナス金利を解除。超金融緩和政策の修正に動き始めた。7月には追加利上げを実施し政策金利を0.25%とした。一方、欧米では高騰していたインフレ率が3%~2%台へと顕著に低下。海外先進各国ではインフレ抑止のため高金利政策を解除する機運が高まった。ECBは6月に利下げに転じ、カナダ中銀も同じく6月に利下げを開始、イギリス中銀は8月に利下げに転じた。FRBは政策金利(FF金利誘導水準)を2023年7月以降長らく5.25%~5.50%に維持してきたが、9月にようやく利下げに転じ、初回は0.50%の大幅利下げを実施して4.75%~5.00%とし、その後も追加利下げを実施した。

こうした変化を受けて為替相場の流れにも変化が生じた。2022年以降、海外の中央銀行が軒並み急速な金融引き締めに転じるなか日銀が超金融緩和政策を維持してきたため、円安が加速し円全面安の流れが続いていた。しかし海外中銀が利下げに転じ、日銀が超金融緩和政策の修正に転ずるとようやく円安には歯止めがかかり始めた。ドル円相場は6月末から7月初にかけて160円台に上昇したが、米国の利下げ転換が明確になり、日銀が追加利上げに踏み切ると一時140円割れまでドル安円高が進んだ。ドル円相場、ユーロ円相場、ともに2022年以来の円安トレンドをブレークし、ひとまず中期的な円安トレンドが一服したことを確認した。
ただ秋以降は米国景気が底固さを示し、大統領選挙でトランプ氏が次期大統領に確定すると景気刺激策への期待で米国景気への楽観的な見方が一段と強まった。FRBは12月会合でも0.25%の利下げを実施した。しかしメンバーの政策金利予測では2025年の利下げを9月会合時点の4回から今会合では2回へ半減。年間で0.50%の利下げに止めるとし、利下げペースを緩める方針を数値として明確にした。こうした動きを前広に織り込んで米長期金利は反発していたがさらに上昇。ドルは支えられている。米国経済のひとり勝ち観測、ドル金利の相対的優位性、などを背景にドル独歩高ともいえる状況だ。

2025年前半を展望すれば、米国景気の相対的優位性は維持されそうだ。FRBは余裕をもって緩やかな利下げを続けるとみられるが、そのペースは極めて緩慢となりそうだ。年前半に0.25%の利下げを2回ほど、合計0.50%の利下げが実施され一旦休止か。あるいは0.25%の利下げを年前半と年後半の2回となりかろうじて緩和基調が維持されるか。年後半に関しては、トランプ政権の政策効果が顕在化し始める。景気刺激的な政策が実行に移されることが決まれば年央に向けて楽観的な見方が強まる可能性がある。逆に想定されたほど景気刺激的な政策が実施されなければ景気減速基調は続くだろう。景気の底固さは維持されそうだが強弱いずれに振れるか不透明感は強まっている。トランプ政策の影響は見極めにくく、FRBの金融政策判断は困難を増し予測が困難に。不確実性は高まっている。

トランプ政策の目玉である関税引き上げ策に、国境を接するカナダやメキシコ、そして最大のライバルとみられている中国は戦々恐々だ。欧州でも悪影響が懸念されている。欧州経済を牽引してきたドイツは中国依存を高めてきたことがここにきて裏目に出ている。中国経済は不動産不況による消費下押し圧力がかかるなか、米国による関税引き上げの悪影響が追い討ちをかけると懸念されている。今後も低迷が続くとみられ欧州経済の足かせとなりそうだ。欧州では政治も不安定さを増している。フランスでは財政健全化を推進しようとする内閣が不信任に。ドイツでも財政政策を巡る対立から連立政権が崩壊した。財政支出拡大圧力がかかるが、政策実行の遅れは経済に悪影響を及ぼす恐れがある。欧州景気にはなお失速懸念が漂う。FRBと対照的にECBの利下げ姿勢は明確。利下げ幅も大きくなろう。
一方、日銀は慎重ながらも利上げを継続するとみられる。米国経済には及ばないものの、インフレ率が安定的に推移してきたこと、実質金利は大幅なマイナスを維持しておりなお景気刺激的であることから、日本の景気は底固く推移しそうだ。トランプ政権の標的、経済的仮想敵国とはなっておらず、トランプ関税による悪影響は相対的に少ないとみられる。25年央には政策金利は0.50%ないし0.75%に、年末には0.75%ないし1.00%に引き上げられるとみられる。ECBの政策金利は年央には2%台半ばないし前半に低下している可能性が高い。日欧金利差は1%台へ縮小する方向感だ。スイス中銀は政策金利をすでに0.50%まで引き下げた。利下げ継続姿勢を維持していることから2025年半ばには日本とスイスの政策金利は同水準、ないし逆転している可能性がある。

25年は日本の政策金利だけが特別に低いという状況からさらに脱することになる。その他各国の利下げで内外金利差は全般的に縮小。円安修正を後押ししそうだ。ユーロ円相場ほかクロス円相場には円高圧力がかかりやすい。欧米間の景況格差は日本を挟んで強弱が顕著となりユーロ安ドル高を促しそうだ。ユーロ安は反面でドル高につながる。ドル円相場は緩やかな金利差縮小に応じて緩やかにドル安円高となりそうだ。ドルが円以外の通貨に対して底固く推移することもドル安円高を抑制する可能性がある。
ドル円相場は年央で145円~150円のレンジ内と予想する。ユーロドル相場は欧米景況格差・金融政策格差を背景に1.00割れのユーロ安ドル高となる可能性がある。ユーロ円相場は150円割れに下落する可能性が高そうだ。留意点は、地政学的リスクの高まりや株価調整によるリスク回避。この場合は想定より円高に振れる要因となるため注意が必要だ。

日米10年債金利差とドル円相場の図
図:深谷氏 作成
日独10年債金利差とユーロ円相場の図
図:深谷氏 作成

<2025年前半の3大陸近隣通貨間トレードの留意点>

1.米ドル/カナダドル

米ドル/カナダドル相場は足元で長期的なレンジの米ドル高サイドにある。また2022年以降は緩やかな米ドル高/カナダドル安傾向が続く。2022年からの利上げ局面ではFRBとカナダ中銀はほぼ歩調を合わせて利上げを続けていたが、2023年春以降は政策金利にブレが生じ始めた。カナダ中銀の利上げがFRBの利上げに追いつかず金利差が拡大。金利面では米ドル優位の状況が続いた。さらにカナダ中銀はFRBに先んじて6月に利下げを開始。5会合連続で利下げを実施した。6月のあと、7月、9月、と0.25%の利下げ、10月、12月はいずれも0.50%の大幅利下げを実施した。合計で1.75%の利下げ幅となる。FRBも9月に利下げを開始し初回は0.50%の利下げとなったが、その後は0.25%の利下げに留まっている。その結果、金利差は急速に米優位に拡大している。
カナダ中銀の急速な利下げの背景にあるのは個人消費の鈍化を中心とする成長率の低下。一段と景気配慮に傾く必要が生じたため。インフレ率は2%を下回りつつあり目標に到達したことから中立金利に戻す必要があるとの認識だ。政策金利は現状3.25%だが、これは中立金利の上限に達したとみられている。なお利下げの余地があり、移民減少の影響や消費税引き上げの一時的影響を見極めたいとしている。ここからの利下げペースは0.25%に戻るとみられるが、なお数回の利下げが想定されている。

カナダ経済は中国経済の影響、原油価格などエネルギー価格の影響を受けやすい。中国景気は低迷が続いており、これが成長鈍化の一因とみられる。原油価格WTIは70ドル近辺で推移し安定。カナダドルを押し上げる要因とはなっていない。一方の米国では景気が底固く、とくに個人消費がサービス支出を中心に堅調だ。さらにトランプ政権が景気刺激策をとれば米景気がなお堅調に推移する可能性がある。米国とカナダの景況格差は現状でも米優位に拡大しているが、さらに格差が拡大する可能性がある。一方、政策金利差の拡大は、カナダ中銀の利下げペースダウンでここからは緩慢となりそうだ。ただFRBの利下げもペースダウンが想定されており、金利差が開いた状況が続くとみられる。先々の政策金利水準を織り込んだ2年債金利差も拡大したままとなり、カナダドル高に反転する可能性が短期的には望みにくい。
トランプ政権がカナダに課そうとしている高率関税は気がかりだ。実際に導入されればダメージは大きい。政権も揺れている。トランプ対策に備えるため足元での拙速な財政支出は控えよとして閣僚が辞任。混乱している。カナダ中銀のマックレム総裁は、トランプ関税は新たな大きな不確実性、と述べた。ここまでの利下げには関税の悪影響は考慮されていない。当面は、米国/カナダ景況格差の拡大、ひいては金利差拡大、米ドル高/カナダドル安のリスク、に留意は必要だ。逆に確度の低いシナリオだが、米景気への楽観の後退、関税政策の穏健化、FRBの利下げ継続、となれば、米ドル高が一服することになろう。

米国とカナダの政策金利の図
図:深谷氏 作成
米国-カナダ2年金利差と米ドル/カナダドル相場の図
図:深谷氏 作成

2.ユーロ/ポンド

ユーロ/ポンド相場はレンジ相場の下限、ユーロ安/ポンド高の水準にある。2023年以降は緩やかにユーロ安ポンド高傾向が続いている。ECBとBOEの金融政策はパラレルに動いているが、足元ではやや相違が生じている。いずれも利下げに転じているが、初回利下げのタイミングはECBが6月会合、BOEが8月1日の会合でBOEが遅い。利下げ幅はECBが1.00%なのに対し、BOEは0.50%にとどまる。ECBは12月に0.25%の利下げを実施したが、メンバーには0.50%の大幅利下げを主張する意見もあった。一方、BOEは利下げに慎重だ。その背景は景気物価動向の格差だ。
欧州経済には失速懸念が根強い。中国経済への傾斜を強めてきたために、中国景気低迷のあおりを受けている。また環境政策の推進によってドイツは原発を全廃した。ロシアとの関係が悪化するなかエネルギー問題は深刻化している。今後の景気持ち直しのきかっけがつかみにくい。中国経済が長引く不動産不況に加え米国の関税引き上げに見舞われれば欧州にも悪影響が及ぶ。先々もリスクが大きい。一方、イギリス経済はサービス業の比重が高く、中国経済の影響は軽微だ。米国経済の影響、金融ビジネスの好不況の影響がユーロ圏に比べ相対的に大きい。物価動向、サービス業に起因するインフレ圧力、構造は米国に似ている。政策金利動向も米国と類似した状況となりやすい。相関関係から米国景気物価動向にも留意が必要だ。ただトランプ政策の影響が英国と米国との違いをもたらすことから、この先は米国よりもユーロ圏に近寄る可能性がある。

結果、当面のリスクバイアスはなおユーロ安ポンド高に傾いている。ECBの利下げが休止するまで金利差が拡大しユーロ安ポンド高を後押しする可能性があり、レンジの下限に張り付き、あるいは直近安値を更新していくリスクに留意したい。一方、イギリス経済が低迷を続ければECBよりも利下げが長期化する可能性もある。そのタイミングでレンジ回帰の可能性は高まるが、25年前半には見通しにくいのが現状だ。

ユーロ圏とイギリスの政策金利の図
図:深谷氏 作成
ドイツ-英国2年金利差とユーロ/ポンド相場の図
図:深谷氏 作成

3.豪ドル/NZドル

現在の豪ドル/NZドル相場はレンジの豪ドル高サイドにある。中央銀行であるオーストラリア準備銀行(RBA)とニュージーランド準備銀行(RBNZ)の政策金利は総じてRBNZの金利が高い状態が続いてきた。コロナ禍のあとのグローバルなインフレ高騰局面ではいずれも急速な利上げを実施したが、その間もRBNZの金利がRBAの金利を上回って推移してきた。今回の利上げ局面ではRBNZが23年5月に5.50%に引き上げたのを最後に利上げ打ち止め。RBAはそれに遅れ23年11月に4.35%で利上げを打ち止めた。RBNZが先に利上げを停止したことで、利下げも先になるとの思惑が強まった。先々の政策金利動向を織り込む2年債利回りは豪ドル優位・NZドル劣位で金利差が縮小。
その後のインフレ鈍化局面ではRBNZが8月に利下げを開始し0.25%引き下げ。さらに10月、11月にはいずれも0.50%の大幅利下げを実施した。一方、RBAは利下げ開始を渋り現状もなお政策金利を4.35%で維持している。背景にあるのは景気物価動向の格差、とくにインフレ鈍化ペースの違いだ。NZでは2%台前半まで鈍化しているが、豪州では2%台後半まで低下したにとどまりRBAはインフレ鈍化が捗々しくないとの判断を続けてきた。

中国景気の低迷の影響をいずれも受けるが相違もある。豪州は企業部門の影響を受けやすく、鉱物資源価格、エネルギー価格の動向にも左右される。NZは農産物を中心として家計部門の影響を受けやすい。中国の家計部門、消費が低迷していることから、悪影響はNZの方が大きいともいえる。また豪州はNZに比べサービス業が発展していることから、インフレ率が低下しにくい。こうしたことが景気物価動向の相違を生み、政策金利動向の相違をもたらしたと考えられる。先々の政策金利動向を反映した2年債の金利差は縮小し、足元で豪ドル/NZドルをレンジ上限に押し上げた。現在、政策金利はわずかに豪ドルが上回るかたちでほぼ同水準に。2年債金利は明確に逆転し豪ドル金利が0.5%ほど高い。金利差からみればなお豪ドル高圧力が強い状況が当面は続きそうだ。金利差との相関からはなお豪ドル高に振れる可能性があるようにもみえる。
ただレンジ上限からレンジ内に収斂する可能性が相応にありそうだ。先行したRBNZが利下げを先に打ち止め、RBAが遅れて利下げを開始して利下げ局面が長引くケースだ。豪優位に推移した金利差が逆転してNZ優位に向かう。RBAは直近の政策決定会合で政策金利を据え置いたが、政策は十分に制限的である必要がある、というタカ派的な文言を削除した。豪州景気に急減速の気配もみられる。こうしたことからその蓋然性を注意深くみていく必要がある。

オーストラリアとニュージーランドの政策金利の図
図:深谷氏 作成
豪州-NZランド2年金利差と豪ドル/NZドル相場の図
図:深谷氏 作成

<まとめ>

2025年は、米国経済ひとり勝ちに加え、トランプ政権の始動、と、特異な状況を迎えることになる。各国間の景況格差や金利差が通常よりも拡大しやすい。ドル独歩高が続くリスクがあり、またその他の通貨間の相場が格差に応じて過去のレンジから逸脱しやすい環境が続く可能性がある。3大陸通貨ペアにおいてもこうしたことは十分に留意する必要はありそうだ。米ドル/カナダドルやユーロ/ポンドはレンジから逸脱するリスクが通常よりは高い。そうしたなか、豪ドル/NZドルは、ドル独歩高の影響は少なく、景況格差・金利差拡大によるレンジ逸脱リスクが相対的に少なそうだ。なおレンジ内に収まり、上限/下限から中央へ回帰する動きとなる可能性もある。その点で、豪ドル/NZドルのペアは、3通貨ペアのなかでレンジトレードの有効性が相対的に高い、他のペアに比べ優位性があるといってよさそうだ。
このように、レンジブレークのリスクが高まる状況が生じることも踏まえれば、ペアトレードのポートフォリオを構築しリスク分散する意味がある。いわゆる裁定取引、たとえば割安買いの割高売り、は相場動向に左右されずに収益を得やすいとされる。ただ株式の場合がそうであるように、割安な銘柄がさらに売られ、割高な銘柄がさらに買われる可能性もあり、また変動要因も様々だ。同様に、レンジトレードが有効とみられるペア通貨相場の変動要因もそれぞれ異なる。その意味で、ペアトレードのポートフォリオを構築してリスク分散をすることは可能と考えられ、意味があるだろう。とくに足元のような不透明感が高まっている状況ではなおさらだ。