豪ドル円-2022年相場予想と戦略-

【金融正常化期待もテクニカルは保合示唆】            

※本記事は2021年12月末時点に作成しております。文中の内容は作成時点の情報に基づくものとなっております。

【2021年の豪ドル円相場を振り返って】


 2021年の豪ドル円相場は、新型コロナウィルスの感染拡大が続くも、ワクチンが開発されたことでワクチン接種が拡大、コロナ後の経済回復を睨んで、総じて株価が堅調な推移となったことで、リスクオンの堅調な展開で終了しようとしています。
 年初は、豪州ではロックダウン、日本でも緊急事態宣言の発令が続いたことなどから、リスクオフ気味の展開からスタートしましたが、豪ドル円相場は、77.90円を安値に反転地合いとなり、バイデン大統領の大規模なインフラ投資計画の発表もあって、米長期金利が急騰したことでドル円相場が110.97円まで一時反発、対NZドルでの買いも追い風となり、豪ドル円も85.46円まで上昇しました。ただ、長らく進んでいた円高で、機関投資家などからのやれやれの利食いも出易い位置となったようです。これもその後NYダウが、史上初の3万5千ドル台に上昇、豪ドル円も85.81円まで高値を更新しました。
 しかしながら6月のFOMCでパウエルFRB議長が、「テーパリングの協議を開始する」と発言したことがサプライズとなり、早期の金融引き締めの懸念で株価が急落し、また、豪州中銀が債券プログラムの延長を決定したことで、豪州産ワインに中国が追加関税をかけました。このことを豪州がWTIに提訴したことで、中国との関係悪化に対する懸念が生じました。更に中国が「共同富裕」政策を打ち出したことが、中国経済に悪影響になるとの見方が重なり、豪ドル円はじり安を辿り、一時77.90円まで売りに押されました。丁度この時日本の感染者数が、急拡大したこともあって、ドル円が108.72円まで調整したことも豪ドル円の上値を抑えたようです。
 9月に入ると自民党総裁選を睨んで、菅総理が突然退陣表明したことがサプライズとなり新政権に対する期待感から日経平均が31年ぶりの高値をつけました。これを受けて、ドル円もリスクオンの動きを強め、豪ドル円も86.26円の年間の高値をつけました。一方で米国のインフレ率の強い上昇で、11月のFOMCでテーパリングが本格的にスタートし、来年3回の利上げを織り込む形で、豪ドルの対ドル相場が0.6994ドルまで下落を強めました。このことから、豪ドル円も78.79円まで再調整となりましたが、南アフリカで発見されたオミクロン株の拡大懸念の中でも、株価が比較的堅調な推移となったことが、豪ドル円の下値を支えています。

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【2022年の主な材料】

 以下が現在、知り得る2022年のイベントや材料です。注目度の高いものは赤字で表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更される可能性があることは、ご了承ください。 

 レポートの作成時点では、情報量が少ないのは残念ですが、2022年は米国の中間選挙を始めとして、欧州の選挙や日本の参議院選挙など選挙が多く予定されています。政治の為替市場に与える影響は不透明ですが、株価面では財政出動などの期待が高まり易く、その場合為替市場でも、リスクオン・オフの動きに一定の影響を与える可能性には注目しておきましょう。ただ、近年の米中対立の姿や豪州も中国との関係悪化を考えると中国の全国人民代表大会や共産党大会での決定に、緊張を高める内容が見えた場合、株価や豪ドル相場に一定の影響を与える可能性には注意となりそうです。
 一方金融政策では、アフターコロナを睨んで、FOMCや豪州準備銀行が、「金融正常化」という難題をどう安定的に消化していけるかが大きな注目となりそうです。世界的に上昇を続けるインフレに対して、金融引き締めを更に強めるといった長期金利や株価の動向に大きく影響を与える可能性があるので、中央銀行の声明や政策変更、中銀の要人発言には、最大の注目を払って対応した方が良いでしょう。
 その面で、来年の豪ドル円相場の大きな注目は、年間を通して豪州準備銀行の姿勢の変化、また、対ドル相場では、年前半はFRBの金融引き締めの行方、年後半は米国の中間選挙にスポットを当てた相場の流れとなりそうです。 

【2022年の注目点】

 2021年の相場環境を踏まえて、2022年の豪ドル円相場の注目点をまとめてみました。

・豪州のファンダメンタルズ
・商品価格の上昇は続くのか?
・豪州準備銀行の政策スタンスは?

〇 豪州のファンダメンタルズ

 豪州も新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、一時大きく景況感が悪化しました。
 以下は豪州のウェストパック消費者信頼感指数の推移ですが、過去ほぼ▲10%から+10%の範囲で推移していたものが、ロックダウンの影響などもあって、▲17%以下に落ち込んだ後、プラス18%と上下しています。大きな調整からの反動の動きとなっています。
 ただ、現状はこういった景況感などの経済指標を見てもあまり参考になりませんが、今後新型コロナウィルスの感染が終息に向かうなら、経済指標が正常値に戻って行くと思います。豪経済を判断するのは、それまで待つ必要がありそうです。 

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 一方 豪州経済は、資源輸出を通じて中国経済の影響を受け易いことは、皆さんよくご存じだと思います。
 トランプ政権に続いたバイデン政権も、中国に対して、ウイグルの人権問題や香港や台湾の問題、安全保障や知的財産権の侵害問題等、中国系企業に対する規制や制裁を強化しています。一方豪州自体も、モリソン豪首相が新型コロナウィルスの起源を調べるための独立調査機関の設立を呼び掛けたことで中国がこれに反発し、中国商務省が豪州産大麦やワインに反ダンピング関税や豪州牛肉にも輸入規制を導入し、豪州産石炭や鉄鉱石に輸入にも圧力をかけていて、亀裂が高まっています。今後もこういった面が、豪ドル経済や豪ドル相場に大きな影響を与える可能性には注意しておきましょう。 

 以下は豪州の経常・貿易収支と主な輸出先を示したチャートです。
 過去赤字傾向だった豪州の経常・貿易黒字は近年プラス圏に転じています。これもリーマンショック以降、大きく対中貿易が拡大したことが要因です。また現状、中国が豪州からの輸入品には、4兆元の経済対策を打ち出し、世界経済が大きく低迷する中で唯一強い経済を維持していました。2009年以降対中貿易が、拡大し始めていることを見ても、豪州経済が特にこの恩恵を受けてきたことは明白です。 
 注目は、下段の輸出先別の対貿易額ですが、前述のように中国との軋轢が聞こえる中、拡大が続いていることです。

 そうなると中国経済が、今後も飛躍拡大できるかが、豪ドル相場には、大きな関心材料となります。
 以下は中国の財新が発表している製造業PMIの推移です。
新型コロナウィルスの感染で、一時大きく下落後、感染の終息を受けて大きく戻すも、再度景気の分水嶺を示す「50」割れを伺う展開です。この要因としては、中国共産党が今年8月に採択した「共同富裕」政策が一因していると言われています。
 習近平総書記は、「広がった貧富の差を是正し、共同富裕を実現するために、三次分配を制度的に配置する」としています。この三次の分配とは、「一次分配(市場メカニズムによる分配)、二次分配(税制、社会保障による分配)、三次分配(寄付、慈善事業)」と表現されています。高収入の調整を強化して、合法的な収入を保護し、過度の高収入を合理的に調整し、高収入の人々と企業にさらに多く社会還元するよう奨励することを目指す政策となっています。
 この政策が株価への圧迫や、企業の投資活動にも悪影響を与える可能性が指摘されています。こういった政策の強化で、今後中国経済に緊縮や減速感が見えと豪州経済や豪ドル相場にも悪影響となるので注意しておきましょう。 

〇 商品価格の上昇は続くのか? 

 豪州は資源国ということで、豪ドル相場も資源価格の動きに、強い影響を受けます。
 以下は豪ドルの対ドル相場の推移と金、鉄鉱石、石炭、原油価格の推移と比べたものです。
 現状は金や鉄鉱石の上昇が強く、豪ドル相場は出遅れた形となっています。一方原油価格は、世界的な需要減退懸念で、軟調気味となっています。
 金価格と豪ドルは、過去は比較的連動性が高いようですが、現状は少し乖離しています。鉄鉱石と豪ドルは、連動性は高いですが、現状は鉄鉱石の上昇が強い形のようです。また、石炭価格と豪ドルは、過去思ったほど連動性が高くない時期があります。一方最後の原油価格と豪ドルは、びっくりとするほど連動性が高いようです。そうなると来年も原油価格の動向が、豪ドル相場に大きな影響を与える可能性に注目しましょう。

 従って原油価格のテクニカルをチェックしておきましょう。
 以下は、2000年からの原油価格の月足チャートです。
 2006年に147.27ドルの高値示現後は、軟調気味な展開を続けています。一昨年に、期近の先物価格が歴史上初めてマイナスとなったのは例外としても、現状の反発も85ドルで抑えられています。76.90ドルと85.41ドルが、テクニカル的にダブル・トップと見なされると更に上昇も厳しそうです。またもし超える動きがあっても、100ドル近辺はレジスタンスも控えて上値を押さえそうです。
 一方下値は、40ドルから60ドルゾーンに一種の窓が開いています。この上限となる60ドル前後が維持されると強く、割れても下限の40ドルは維持されそうです。リスクは、33.4ドルの戻り安値割れとなりそうです。
 長期的に、環境問題から二酸化炭素の排出制限など、各国がクリーン・エナジー政策を推進している中、逆に新たな設備投資が手控えられたことで、今年は予想外の原油価格の上昇となりました。ただ、クリーン・エナジーの動きが止まることはないでしょう。下値に示したスロー・ストキャスティクスも反転下落を示していることもあって、更に強い上昇は現状想定されず、当面60-80ドルぐらいで揉み合いを想定しています。もし60ドルを割れても40ドルは底堅いと考えています。そうなると原油価格との連動性から、来年の豪ドル相場も、更に強い上昇は難しく、総じて揉み合いの展開となるか注目しましょう。 

〇 豪州準備銀行のスタンス

 豪州準備銀行は、歴史的な低金利となる0.10%に、2020年11月に政策金利となるキャッシュ・ターゲットを1年以上維持しています。
 ただ、来年には新型コロナウィルスの感染拡大が終息に向かう見通しで、先進国が金融正常化を推し進めています。来年豪州も正常化に向けて、動き出すかが注目されます。
 一応豪州準備銀行は、2023年まで利上げしないと声明で繰り返していますが、一方でロウ総裁は、理事会で「2月以降のテーパリングと5月終了を協議した」と表明しています。新しく発見されたオミクロン株の影響次第ですが、来年は豪州準備銀行も金融正常化に向かうと見られます。こういった面が、豪ドル相場を支えるかが注目されます。 

 また、豪州の消費者物価指数も見ておきましょう。
一時新型コロナウィルスの蔓延で、マイナス圏まで沈むも、現在は回復を示しています。ただ、これは大幅調整の反動とみられています。今後も豪州中銀がインフレ目標とする「2%~3%」に安定的に推移するまでは、利上げは想定さてませんが、状況次第では思わぬタカ派に変化する可能性もありそうです。今後も豪州準備銀行の政策会合や中銀要人のスタンスの変化には注目しておきましょう。 

 また、以下は豪州と日本の10年物国債利回り差と、豪ドル円相場の推移を示したチャートです。水色の時期は若干離れていますが、総じて連動する動きとなっています。
 現在は金利差が最低限の水準にありますが、今後数年日本は政策金利を引き上げる可能性は低く、一方豪州準備銀行が金融正常化を来年スタートするなら、金利差は拡大方向へ動くでしょう。そうなると豪ドル円相場が、支えられる可能性に注目しましょう。

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 以下が豪州準備銀行の金融政策会合の予定日です。ご参考にしてください。
02月01日
03月01日
04月05日
05月03日
06月07日
07月05日
08月02日
09月06日
10月04日
11月01日
12月06日

【テクニカル面】

 まず、豪ドル円相場を形成する、豪ドル/ドル相場の月足からチェックしておきましょう。
 豪ドル/ドル相場を大きく見ると0.4775ドルの史上再安値から上昇が1.1083ドルで、史上高値をつけて、昨年0.5580ドルまで下ヒゲを描いていますが、現状はこの位置を守って、反発しています。ただ、この戻りも0.8008ドルでCAPされています。特にこの位置は、フィボナッチ・リトレースメント(0.4775ドル-1.1083ドル)となる50%を前に上げ渋っていることは注目です。また、0.8135ドルと0.8008ドルがダブル・トップとして意識されると上昇も厳しそうです。0.7500ドル-0.7800ドルのゾーンが抑えるとレジスタンスから弱い形が想定されます。あくまでこういった位置を超えて、0.8660ドル-0.8911ドルのゾーン、0.9196ドル-0.9402ドルのゾーンが視野となりますが、0.9205ドルの戻り高値を越えるまでは、あらなる上昇は期待できそうもありません。
 一方下値は、現状の安値0.6994ドルの維持では良いですが、維持できない場合、0.6878ドル、0.6747ドル、0.6373ドルの戻り安値が順次視野となります。ただ、維持では更に突っ込み売りはできませんが、0.5510ドルや0.47745ドルの最安値圏を割れると相場が崩れてしまうので注意です。また、下段のスロー・ストキャスティクスが、現状デッドクロスとなっていて、早期は上値が重そうです。 
従って、例年の豪ドル/ドル相場の想定レンジを0.6500ドルから0.8000ドルとします。最大でも0.6300ドルから0.8300ドルとします。 

次に豪ドル円を構成するドル円を見てみましょう。期間を変えたドル円相場の3つの月足チャートをベースに分析しています。

① 1ドル360円時代、1971年からの超長期月足チャート

 ドル円相場が、過去固定相場だったという話も、現在意識している人はほとんどいないと思いますが、第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍総司令部)が打ち出した物価安定・緊縮財政政策「ドッジ・ライン」によって、1米ドルは、360円に固定されていました。どうして360円に決定されたかは、諸説入り混じるところですが、「円は丸なので、丸なら360度だから1ドル360円にした」という本当かウソかわからない話があります。
 これは余談ですが、歴史的に1973年に変動相場制に移行した時点からドル円相場を考察してみましょう。(1971年に、米国がドルと金の交換を停止した「ニクソン・ショック」後、「スミソニアン協定」によって、一度1ドル=308円に切り下げられています。)
 
 どうして、この話からスタートするかと言いますと、実は古くから為替でディーラーやアナリストの間では、「ドル円相場の半値説」というのが存在します。
 これは1ドル360円の時代から、ざっくりと180円に下落、次の戻り高値の278円から139円、160円から80円、148円から74円というように動いているという話です。下記のチャートをご覧頂くと、100%ぴったりとした価格ではありませんが、総じて整合性があることが見て取れると思います。この事実は若干驚きですが、今後も円高のトレンドが継続すると仮定するなら、次のドル円相場のターゲットは、高値125.86円の半値の63円となります。この説を信じて良いのかは、未だ断言はできませんが、波動的にも、1ドル360円からの下落が、一旦120.45円で止まって、現在が160.35円からの第5波の過程にあるとすれば、まだ円高の流れが続いているとも見えます。こういった見方が、世間で円高説を唱える多くの専門家の根拠となっているように思われます。
 一応この仮定を踏まえて、次のチャートをチェックしてみましょう。

② 第2の波動となる1990年からの長期月足チャート

 では、再度この160.35円からの波動を見てみましょう。
 ここで注意しなければならないことは、良くテクニカル分析で利用される「エリオット波動」に関しての見解です。エリオット波動とは、簡単に言うと「相場は5つの波動(上昇または下落)とその終了後に、ABCの3波の大きな上下波動を形成して、ひとつの相場のサイクルが終了する」という説です。
 当然この一言でエリオット波動を全て解釈することはできません。またエリオット波動論は、株式市場で生まれたテクニカル分析手法ですので、為替市場でも適応できるかは、賛否が分かれるところです。加えて波動のカウントの仕方やスタート地点で、人によって見方が変わってしまいます。特に最後に出るABCの3波は、なかなか綺麗に出ることが少ないので、個人的は、単純なカウントを利用して見ています。この見方とすると為替市場では、たびたび7波や9波で、相場のトレンドが変わることが多いと感じています。
 この見方が正しいかはさておいて、これを前提に160.35円からの波動を、更に詳細に見てみると以下のチャートで示した波動の動きのようにも捉えることが出来ます。つまり現状は160.35円から75.31円で第7波の位置にあって、一旦円高が終了しているとの見方も出来るということです。
 この理由としては、前述の超長期のチャートで見た第3波の位置を詳細にカウントするとこの位置だけなら、綺麗な5波を完了しています。不透明なのは75.31円から125.86円のABCの動きが、はっきりとしないことで、判断が分かれることです。

 結局現状の相場が、未だ第5波の下落の中にあるのか?それとも75.31円で円高が、一旦終了して、次の波動に中にあるのかの判断が不透明なことが、現在の相場の膠着感の要因なのかもしれません。そうなると来年以降ドル円相場が、一定のチャート・ポイントをブレイクできるのかが、将来的なドル円相場の見通しを左右しそうです。

 その面で、特に注目して頂きたいのが、160.35円の高値と125.86円の高値を結んだレジスタンスの位置です。この位置は一応計算式からは、チャート上の青い矢印の位置となります。月間ベースですのでブレはありますが、2021年12月の時点の117.29円から来年末に向けて、115.97円まで降りてきます。現状のドル円相場の戻り高値は115.52円ですが、この位置を来年以降超える動きがあるのか?または、超えられないで、逆に下値を支えている102.59円や更に99.02円を割れてしまうのかで、はっきりと「円高の長期トレンドが終了するのか」、それとも「未だ円高のトレンドが続くのか」結論が出て来るでしょう。

③ 史上再安値を付けた後の2011年からの月足チャート

 最後に直近2011年の歴史的な安値75.31円からの月足を見てみましょう。
 一応こちらもエリオット波動からみましょう。75.31円の安値を基準として、カウントすると現状の相場が、下記チャートのように、最後の第5波の上昇過程にある可能性があります。実は、この見方に整合性があるかは、少し自信がありません。また、現状の高値が、フィボナッチ・リトレースメント(125.86円から99.02円の61.8%)の位置となる115.52円で、上値を抑えられていますが、フィボナッチ・リトレースメントの有効性はあまり高くないこともあって、この位置がこの5波のトップとなるのかも断言はできません。
 この面では、チャートの下段に表示しているモメンタムを示す「スロー・ストキャスティクス」を見てみることが良さそうです。
 こちらは上昇を継続していますので、来年も底堅い展開が続きそうです。ただ、若干たれ気味であることから、この115.52円の直近高値が上値を抑え続ける状況が続いた場合、いずれこのスロー・ストキャスティクスが、デッドクロスに向かう可能性があることは注意しておきましょう。あくまで現在の高値115.52円をしっかりと超える動きが見えてから、②のチャートのレジスタンスを目指す動きとなります。その場合戻り高値からは118.66円がひとつの重要なポイントで、更にはフィボナッチ・リトレースメントの76.4%となる119.53円などが視野となる形です。
 一方下値は、107.45円から109.51円の位置(ピンクのゾーン)が、サポート圏として支えると堅調な相場が続きそうです。この位置は前述のフィボナッチ・リトレースメントの38.2%や23.6%と整合性がある位置です。リスクは、こういった位置を維持で出来ないケースです。その場合サポート圏は未だ低い位置ですが、将来的に②のチャートの水色で示したネック・ラインとなる102.59円や99.02円と重なることになりそうです。従って、107.45円-109.51円ゾーンを割れても、このサポートが維持されると更に下落は拡大しないでしょう。ただ、もし割り込むと大きな円高のリスクとなります。

 こういった面を考慮して、ドル円相場の来年の想定レンジを、113.50円に±5円として、108.50円~118.50円とします。 

 以下は豪ドル/ドル相場とドル円相場の想定レンジから算出したマトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)です。 
 豪ドル/ドルの想定レンジを0.6500ドル~0.8000ドル、ドル円の想定レンジを108.50円~118.50円としましたので、これから算出された豪ドル円相場の最大想定レンジは、70.53円~94.80円なります。

 最後に豪ドル円の長期の月足チャートです。
 下値を59.91円で下ヒゲとして、102.85円からの長期のレジスタンスを越えるも、反発が86.26円でCAPされて、更に上昇できていません。この位置に特段のテクニカル・ポイントはありませんが、豪ドル円相場は以前から指摘していましたように、「C」をトップとして、「B」と「D」をショルダーとした超長期のH&Sを形成しています。
 直近では、「D」のゾーンの動きが「B」の期間より長くなったことで、若干不透明感がありましたが、「E」でしっかりと「A」と同様のアームを形成したことで、完全にH&Sを完成したこととなります。
 そうなると次の注目は、「E」をボトムとしたリバースH&Sの形成過程となり、今後は当面「F」のリバースの右肩形成が続く前提での対応となります。このゾーンは、「B」と「D」の若干不透明な上下を考慮すると、下限が69.97円-74.03円レンジ、上限が88.10円-90.73円レンジとなり、これをブレイクするまでは、来年以降「F」のゾーンでの動きとなりそうです。
 時間的に見ると「D」の期間が、2015年8月から2020年3月の55カ月となっています。こういったH&Sで日柄がぴったりと来るとは思っていませんが、同様の仮定をするなら、次は2024年10月まで続く可能性となることは、一応覚えておいてください。また、現状下段に示したスロー・ストキャスティクスも買われ過ぎから反転下落となっています。これを要因に大きく調整するとは見ていませんが、この86.26円が上値を抑える状況が続くならサポート圏への調整の可能性が残っています。この位置は月足の戻り安値からは、77.90円の今年の安値を割れると76.54円、71.60-73.15円、更に64.41円-67.63円ゾーンまでターゲットとなりますが、パラレルなサポートの最終からは、70円-71円は下がっても支えられる位置で、前述の「F」の想定ゾーンと合致します。
 従って、2022年の豪ドル円の想定レンジを76.00円から89.99円とします。(マトリックス・チャート上は、オレンジで囲った75.97円-88.83円ゾーンを参考にしています。)

【予想レンジと戦略】

 それでは以上を踏まえて、豪ドル円相場の来年の戦略についてお話します。
 一応新型コロナウィルスの感染が、終息に向かう前提で予想をしています。もし、更に強いウィルスが出現して、再び経済が大きく落ち込んだり、株価の大幅調整があった場合は、見直しの必要があるかもしれません。また、こういった年間の見通しは、簡単に当たるものではありません。あくまで現在の見通しの基づくものであって、くれぐれも自己責任でご参考として頂ければ幸いです。 

 豪ドル円相場の2022年の想定レンジを、76.00円~89.00円としました。
 今年の年間レンジが、8.86円ですので、若干広い感じはしますが、2010年から2020年の豪ドル円の年間平均レンジは、14.94円ですので、これに準じています。

 次に戦略の前提としては、
・2022年は、FOMCの金融正常を睨んで、ドルの堅調、円の軟調を前提とします。
・その場合、豪ドル円に対しては、単純に中立ですが、一方でペースは鈍いとしても、豪州も金融性正常化に向かうことが想定されますので、豪ドル円でも押し目買いが有効となると見ています。
・ただ、現状の豪ドル円の月足のスロー・ストキャスティクスが、デッドクロスとなっていることで早期は調整気味な展開となりそうです。またリバースH&Sの形からは、下限を目指す動きも想定されること、あくまで十分押し目を待って買いを狙う形が良いでしょう。

また、タイミング的な注意点は
① 1-3月期は、2月を除いて本邦のレパトリ・シーズンで円高気味となり易いです。
② 株価面では、アノマリーから5月の「セルインメイ」、米国の中間選挙を睨んで、年央にNY株が調整入りし易く、地政学リスクなどリスク回避の動きに注意しましょう。
③ 一方ドル円が、例年アノマリー的に、8月中旬に瞬間的な円高が示現することが多いことは注意です。ただ逆にこの時の急な円高は、年末に向けて絶好の円の売り場となることも、覚えておいてください。
④ 9月のレイバーデー明けからは、年末に向けて方向性が出易い時期です。この時期に一定の動きが見えた場合、逆張りで向かわないようにしましょう。 

 従って基本的なスウィング・トレード戦略は押し目買いです。
 ただ、現状は一定の高いレベルにある可能性があることで、上値追いは避けますが、まず、77.90円の安値が維持されるか確認する必要があります。下げないリスクを勘案するなら、この維持では、手前から買う形ですが、これもあくまで86.26円の戻り高値をしっかりと超えないなら、利食いながら対応する形で、買い回転を利かせることが良いでしょう。
 また、もし77.90円を割れるなら、ざっくりと72円方向への下落を狙って、買い下がりましょう。できれば70円、更に65円-68円まで買い下がれればベターです。ストップは、65円割れとするか、最安値の59.91割れに設定できればベターです。
 ただ、こういった下落では、特に前述の「F」ゾーンの時期の見通しからは、来年上抜けは難しいことで、前述同様86.26円が抑えると利食いで、ともかく押し目買いの場合、「F」ゾーンの上限と指摘した88.10円-90.73円ゾーンでは、しっかりと利食いことが重要です。 

※文章中に使用されている、高値・安値等の価格につきましては、筆者が作成に利用したデータ元の価格であり、インヴァスト証券がトライオートFXにて提示した過去の価格とは異なります。