ユーロポンド-2021年相場予想と戦略-

コロナ・ブレグジット後の英EU経済の行方次第

【2020年のユーロポンド相場を振り返って】

 2020年のユーロポンド円相場は、英国とEUのFTA交渉に揺れる相場の展開の中、新型コロナウイルスの悪影響もあって、最終的に英国とEUが、暫定的な合意に至るも年間を通じて揉み合い気味の展開で終了しました。
 年初は、前年から続いた英国のEU離脱が決定。ユーロポンドは0.8282の年間安値をつけました。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、FTA交渉が全く進展せず、世界的な感染拡大やロックダウンで株式市場が大きく調整したことで、FOMCが緊急利下げ、英中銀も2008年10月以来の緊急利下げに踏み切り、ユーロポンド相場は0.9498の年間高値まで一時急上昇しました。その後は、ジョンソン首相が、新型コロナウイルスに感染、フィッチ・レーティングが英国の格付けを「AA」から「AA-」に一段階引き下げましたが、一方でユーロ圏でも感染が拡大、ECBも3月18日には、2020年末までの7500億ユーロ規模のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の導入を決定、ユーロポンド相場は、0.8672を2番安値に、新型コロナウイルスの感染拡大が一服気味となったこと、各国の利下げが功を奏し、株価が下げ止まりをみせたことで、下げ止まりを見せました。
また、7月21日には、EUが復興基金の創設で合意したことなどから、ユーロポンド相場は、0.9292の2番高値まで一時上昇しましたが、秋口には、新型コロナウイルスの感染が再拡大、ジョンソン首相が、英国本土と北アイルランドを隔てるアイリッシュ海に国境を作ることを阻止する国内市場法案を議会に提出したことなどから、「ノーディール・ブレグジット(合意なきEU離脱)」になるとの懸念が高まったことが、ユーロポンド相場の下値を支えました。
この英欧FTA交渉では、「公正な競争条件」、「FTA違反時の対応」、「離脱協定反故法案」、「漁業権」などで双方の溝がなかなか埋まらず、協議が難航しましたが、最終期限の年末ぎりぎりには、どうにか一番揉めた漁業権の問題で暫定合意が成立、EUの漁業者に割り当てられた漁獲量を今後5年半で25%削減し、その後毎年協議することで一致し「貿易連携協定(TCA)」が成立しました。
2016年からのブレグジット協議に、やっと目途が立ったことで、ポンドドル相場が、1.3686の年間高値まで反発も、ブレグジット後の英経済の行方を睨んで、ユーロポンド相場は、0.8862から0.9230で揉み合いの気味の展開で終了しました。

【2021年の主な材料】

以下が現在、判明している今年のイベントや材料です。注目度の高いものはマーカーで表示しています。ただ、あくまで予定で、変更されることがあります。

01月01日:ポルトガル・EU議長国就任
01月05日:米ジョージア州上院議員決戦選挙
01月06日:米大統領選における選挙人投票結果開票(上下院合同会議)
01月16日:独キリスト教民主同盟党(CDU)党首選挙
01月18日:日本・通常国会、アジア金融フォーラム(香港、19日まで)
01月20日:米大統領就任式
01月24日:ポルトガル大統領選挙
01月25日:ダボス会議(29日まで)
01月XX日:米大統領・一般教書演説(26日頃?)、IMF・世界経済見通し公表

02月XX日:米大統領予算教書・経済報告書公表
02月20日:米パリ協定復帰
02月27日:G20財務相・中央銀行総裁会合

03月XX日:中国第13期全国人民政治協商会議第4回全体会議、第13期全国人民代表大会第4回全体会議(北京)
03月14日:独バーデン・ビュルテンベルク、ラインラント・プファルツ州議会選挙
03月17日:オランダ下院選挙
03月25日:東京オリンピック・聖火リレー開始(最終的オリンピックの開催可否を決定?)
03月26日:米通商代表部・外国貿易障壁報告書公表
03月XX日:バイデン政権・気候サミット開催、ECBパンデミック緊急購入プログラム期限

04月07日:G20財務相・中央銀行総裁会合(8日まで)
04月09日:IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
04月XX日:国連・世界経済状況予測公表

05月06日:英地方議会選挙(ウェールズ、スコットランド)、英ロンドン市長・ロンドン議会選挙
05月19日:欧州復興開発銀行年次総会(アルメニア・エレバン、20日まで)
05月25日:世界経済フォーラム特別年次会合(シンガポール、28日まで)
05月XX日:G7サミット(英国)、米財務省・半期為替報告書公表

06月06日:独ザクセン・アンハルト州議会選挙、メキシコ連邦下院議員・州知事選挙、イラク国民議会選挙(予定)
06月18日:イラン大統領選挙(予定)
06月28日:G20外務相会合(イタリア・マテーラ、29日まで)
06月30日:IMF・世界経済見通し公表
06月XX日:フランス地域圏議会選挙・県議会選挙、世界銀行・世界経済見通し発表、WTO閣僚会議(カザフスタン・ヌルスルタン)、OPEC総会

07月01日:オセアニア圏・新会計年度開始、スロベニア・EU議長国就任、ブルガリアとクロアチア・欧州為替相場メカニズム2(ERM)参加
07月09日:G20財務相・中央銀行総裁会合(イタリア・ベネチア、10日まで)
07月23日:東京オリンピック開催(8月8日まで)、中国共産党結党100周年
07月31日:米債務上限の適用停止期限
07月XX日:中国北戴河会議、IMF・改訂版世界経済見通し発表

08月24日:東京パラリンピック(9月5日まで)
08月XX日:カンザス連銀シンポジウム(ジャクソンホール)

09月05日:香港立法議会選挙
09月13日:ノルウェー議会選挙
09月19日:ロシア下院選挙・統一地方選挙
09月26日:独連邦議会選挙、英国労働党大会(ブライトン。29日まで)
09月30日:菅自民党総裁任期満了、独議会・任期満了
09月XX日:東方経済フォーラム(ウラジオストク開催)、中国一帯一路サミット、メルケル首相退任、仏2022年政府予算案・社会保障会計法案発表

10月01日:ドバイ万国博覧会(2022年3月31日まで)、米新会計年度開始
10月15日:IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC、17日まで)、G20財務相・中央銀行総裁会合(ワシントンDC、16日まで)
10月XX日:英国保守党大会(バーミンガム)
10月21日:衆議院議員・任期満了
10月24日:アルゼンチン中間選挙
10月30日:G20首脳会合(ローマ、31日まで)
10月XX日:中国共産党中央委員会全体会議(5中全会)

11月01日:国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(英グラスゴー、12日まで)
11月XX日:APEC閣僚・首脳会議
11月29日:スイス国民議会議長・全州議会議長選挙
11月XX日:米財務省・半期為替報告書公表

12月08日:スイス連邦大統領・連邦副大統領選挙
12月XX日:中国・中央経済工作会議
12月XX日:OECD経済見通し公表、OPEC総会

【2021年の注目点】

 2020年の相場環境を踏まえて、2021年のポンド円相場の注目点をまとめてみました。

・ コロナ・ブレグジット後の英経済
・ コロナ・ブレグジット後のEU経済
・ 英中銀とECBのスタンス
・ スコットランドの独立はあるのか?

〇コロナ・ブレグジット後の英経済

 昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大で、各国が都市封鎖(ロック・ダウン)や行動規制に踏み切ったことで、経済に大きな悪影響を与えました。
 英国でも大きく経済が一時落ち込みました。以下は、英国製造業・非製造業・建設業PMIの推移を示したチャートです。パンデミックでの急落から大きく戻っていますが、一部でブレグジット前の駆け込み需要が要因とされています。現状の回復が本物とは言えないでしょう。また、今後も新型コロナウイルスの感染拡大が、どういった終息をみせるかですが、英国では、アストラゼネカなどの国内企業が、いち早くワクチンの開発に成功しています。比較的早くこの効果が見られれば、経済の立ち直りも早いかもしれません。

 そうなるとブレグジット後の英経済がどうなるかがポイントです。
暫定的な英欧FTA交渉は締結できました。関税ゼロで貿易関係を継続しますが、税関での書類審査や物品検査などの作業が新たに発生するため、当面は物流の現場が混乱する事態も懸念されています。貿易以外にも、エネルギーや犯罪捜査、交通など様々な分野で課題が残ってします。EUを離れることで準備通貨としての価値が低下すること、手放しでポンド相場が上昇出来るかは、今後の英経済の行方次第であることは、留意しておきましょう。 
また、現状はブレグジット後の英経済が、どうなるか全く想像がつかないのも事実です。 
少し古いデーターですが、英中銀は、ブレグジットによって、英国の実質GDPは、毎年0.75%ずつ下押しすると予測しています。
 EUから離脱した英国が、単体で強い経済を回復できるのか、それとも経済が縮小していくのか、今後の展開を見る必要がありますが、移民の流入が制限されること、既に多くの外資系企業が英国を離れ、当面こういった企業が直ぐに英国に戻って来ることはなさそうです。また、今後EU以外の国々と個別のFTA交渉を締結しなければなりせんが、パンデミックの影響もあって、こちらもスムーズに行かなければ、英国経済の足かせとなりそうです。
一方経常・貿易収支の英国の赤字が続いています。北海油田はありますが、自動車産業は、ほとんどが外資の傘下に入っており、貿易は衰退しています。現在は過去の遺産からの収益がありますが、このように経常・貿易収支の赤字が続く限り、ポンド相場の押し下げ要因となることは、留意しておきましょう。 

〇コロナ後・ブレグジット後のEU経済

 昨年ユーロ圏でも、大きく経済が落ち込みましたが、以下は、ユーロ圏の製造業・非製造業PMIの推移を示したチャートです。製造業が33.6、サービス業が11.7まで一時落ち込んだものが、急速に回復しています。これも復興基金が設立されたことなどから安心感が支えているのでしょう。確かに今後パンデミックが収まるなら更に経済が悪化するとは思えませんが、EUで第2の経済力を持つ英国の離脱の影響も大きく、今後英国からのEU予算への拠出金もなくなります。
 また、EUは、英国を除いても27か国の複合体です。過去においても、何度も各国の意見がまとまらず、ユーロ解体の危機にさらされてきました。ブレグジットで、EUの団結を高めたと指摘する声もありますが、北欧と南欧の経済格差も是正されていません。ともかく、今年のEU経済を考えるとこの復興基金の行方が大きな焦点となりそうです。

 この復興基金は、新型コロナウイルス感染のパンデミックで痛手を受けた域内経済の立て直しに有効との見方だけではなく、長らく問題となってきたEUの財政統合に向けて、共通債の発行に合意したこともあって、重要な一歩を踏み出したと評価されています。総額7500億ユーロの基金は、「汎欧州保証基金」や「欧州安定メカニズム」など既存の施策と併せると、域内GDPの6.5%に相当する約1.2兆ユーロの財政支出を賄うことが可能とされています。新型コロナウイルスの世界的流行がもたらした衝撃に対して、あらゆる点で、強力な施策と言えるでしょう。また、財政統合の流れが強まれば準備通貨としての魅力が高まると見られています。
 ただ、パンデミックの影響の大きい南欧の経済が、これで完全に立ち直れるかは不透明です。特に2022年の公的債務のGDP比が、最悪の場合177%までに高まろうとしているほど借金が膨れ上がっているイタリアにとって、復興基金の効果も焼け石に水となる可能性があります。またオランダ、スウェーデン、デンマーク、オーストリアなどの「倹約4ヵ国」は、この基金の配分や使途について、常に監視を続けるでしょう。パンデミックの影響が北欧にも深刻な事態を招いています。自国経済が立ち回らないのに、他国を強く支援することに批判が集まるかもしれません。政治的な論争が長引けば、支払いに問題も生じるリスクも残っています。
 現在は不透明ですが、今年の7月には、復興基金の設立から1年を迎えます。もし、資金が足りないような問題が持ち上がった場合に、通貨としてのユーロの信認が揺らぐ時期が訪れるかもしれません。その場合EUのまとめ役が重要となりますが、今まで、まとめ役として高く評価されているメルケル首相が、今年の退任を発表してます。時期は不透明ですが、恐らく9月頃と推定されますが、メルケル首相の求心力を失ったEUが、再び混乱するならユーロ相場の暗雲となる可能性に注意しておいた方が良いかもしれません。

〇英中銀とECBのスタンス

〈英中銀のスタンス〉 

英中銀は、現在歴史的な低金利となる0.10%の政策金利、資産買取プログラム規模として、8950億ポンドの買い入れを実施しています。
今後も新型コロナウイルスの状況次第ですが、一方で経済の回復が遅れれば、ECBや日銀のように、マイナス金利の導入まで踏み込んだ政策を打ち出す可能性が指摘されています。この点は不透明ですが、一旦ブレグジットがほぼ確定しましたので、この悪影響が本格的に見えた場合、今まで二の足を踏んでいた英中銀が、思い切った政策に出る可能性もあるかもしれません。
 その面では、今後も英中銀のMPCの発表は注意です。以下に、ご参考までに、今年の英中銀の金融政策委員会の結果発表予定日を掲載しておきます。 

02月04日:政策金利及び議事録、四半期インフレリポート公表
03月18日:政策金利及び議事録公表
05月06日:政策金利及び議事録、四半期インフレリポート公表
06月24日:政策金利及び議事録公表
08月05日:政策金利及び議事録、四半期インフレリポート公表
09月23日:政策金利及び議事録公表
11月04日:政策金利及び議事録、四半期インフレリポート公表
12月16日:政策金利及び議事録公表
(出典:英中銀HP)
※1月17日時点の予定となります。

〈ECBのスタンス〉

 欧州中央銀行(ECB)は、昨年12月10日に開催された理事会で、3月から実施されていたパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を、これまでよりも5000億ユーロ増額、総額で1兆8500億ユーロ(約234兆円)として、期間もこれまでより9ヶ月間、2022年3月まで延長しました。
今年のECBも、デフレ圧力から金融緩和的な政策を継続すると見られますが、ただ資産購入に関しては、各国の信用格差によって、買入配分が常に問題となることなどもあって、更に増額は難しい状況にあります。買い取り期間の延長などは継続できるでしょうが、現在市場が一部指摘しているマイナス金利(預金金利に付された▲0.50%)の深掘りに関しては、金融機関の収益の悪化懸念から、日本同様導入には慎重な姿勢が続きそうです。
 またユーロ高圧力もすぐに和らぐことはなさそうです。新型コロナウイルスの感染拡大で、米国でも低金利政策が長期に渡って維持されるでしょう。ユーロ高は、輸入物価を抑え、欧州輸出企業にもマイナスです。ユーロ高を克服するために、市場介入という選択肢もありますが、これは米国が許さないこと。また、実際ECBは、2008年にユーロドル相場が、1.6040の史上高値をつけた時も、市場介入を行っていません。
 一部に日銀のように、資産購入の対象に株式のETF(上場投資信託)を組み込むことができれば、ユーロ相場の反転につながり、デフレ圧力が和らぐという指摘もあります。ただ、市場の規律を重んじるブンデスバンク時代からの流れでしょうか、恐らくECBが、満期のない株式を購入するという選択肢はないでしょう。また現状のように株高がリスクオンのドル売りを助長している中、逆効果になるかもしれません。
 そうなるとECBが取り得る方策としては、口先介入でユーロ高をけん制するしか方法がなさそうです。 

 参考にECB理事会の日程を掲載します。(出典:ECBホームページ)
01月21日
03月11日(ECBスタッフの成長率見通し公表)
04月22日
06月10日(ECBスタッフの成長率見通し公表)
07月22日
09月09日(ECBスタッフの成長率見通し公表)
10月28日
12月16日(ECBスタッフの成長率見通し公表)
※1月17日時点の予定となります。

また、これは余談ですが、ブルガリアとクロアチアが、今年7月から欧州為替相場メカニズム2(ERMⅡ)に参加します。
 欧州為替相場メカニズム(ERM)は、ヨーロッパにおける為替相場の変動を抑制し、通貨の安定性を確保することを目的として作られた制度です。一応1999年のユーロの発足を持って一旦役割は終了しましたが、今後ユーロに加盟する国のために、欧州為替相場メカニズム2(ERMⅡ)が規定されました。
 ユーロに加入しようとする国は、その最低2年前に、この欧州為替相場メカニズム2に参加が義務付けられています。これに参加するとその国の通貨は、ユーロ相場に一定の比率での変動幅を保つ義務が生まれます。
ブルガリア・レフとクロアチア・クーナは、今年の7月から対ユーロでの変動幅が、上下15%に制限されることになります。現状は変動率が大きいことや経済規模から、特段ユーロ相場に与える影響は軽微だと思われますが、大きく動いた場合、ブルガリアとクロアチアの中央銀行は、市場介入で相場をコントロールしなければなりません。
まだ先の話ですが、将来的に新たに「ユーロ」に参加する国のポジションが、ユーロ相場に一定の影響を与えることは、覚えておいてください。 

〇スコットランドの独立はあるのか?

ご存じ通り英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの連合王国です。中世には、それぞれ独立した王国でしたが、17世紀に同じ王を抱く同君連合が結ばれて、1707年に統一されました。
 この経緯に関しては省きますが、スコットランドでは、石炭、造船業、機械工業などが、産業革命時の大英帝国の繁栄に大きく貢献しましたが、1960年代に、北海油田が開発されると、石油基地としても大きな地位を築き上げました。ただ、この財源は、全て英国政府に管理され、スコットランドの住民には恩恵が薄く、経済的な不満が根強く残っているようです。2014年の独立を巡る住民投票では、反対が賛成を上回ったものの、親EU派も多く、2020年の世論調査では、独立賛成が過半数を占める結果が続いています。
またブレグジットが一応の形で完了した直後、スコットランドのスタージョン自治政府首相は、「スコットランドは間もなくEUに戻る」と宣言しています。今年5月6日、地方議会選挙において大勝できれば、住民投票の再実施を認めるよう英政府に迫る構えのようです。
 当然英政府は、拒否する方針ですが、議会選の結果次第で双方の対立が激しくなる恐れもあり、そうなると北アイルランドやウェールズにも、独立運動が飛び火する懸念もあります。また先のことで不透明ですが、今年5月に向けて、このような気運が高まるようなら、ポンド相場の波乱要因となることは注目しておきましょう。 

【テクニカル面】

テクニカル面からまず、ユーロポンドを構成するポンドドル相場の月足をチェックしておきましょう。
ポンドドルは、英国が国民投票で、ブレグジットを決定した2016年から軟調な展開を続けています。ただ、下値は1.1378と1.1412でダブル・ボトムをつけて反転しています。今後の焦点は、2.1162の高値からの長期のレジスタンスをしっかりと上抜けていけるかが大きな焦点です。超えると薄緑で示した過去のレンジ・ゾーンに突入すると考えられますが、このゾーンは、1.3503-1.3680の下限から1.7188-1.7370の上限と幅広いレンジにとなっています。実際既に、このリポート作成時点では、下限を超える1.3710まで上昇していることで、上抜けている可能性はありますが、年末のショートカバーの影響による一過性の上昇の可能性やポンドドル相場は、テクニカル的に多くの「だまし」があることを考えると確定するのは時期尚早かもしれません。
 ただ、しっかりと超えるなら1.4225の下ヒゲを目指し、更に1.4377の戻り高値まで越えると上昇に弾みがつきそうです。ただ、それでも1.5018のブレグジット直前の高値を越えるは、難しいと考えています。
 一方下値は、サポートから1.3000~1.3300ゾーンが支えると堅調が想定されます。リスクは1.2675の戻り安値割れとなりそうですが、それでも1.20は当面下支えされそうでうす。
 従って、今年のポンドドル相場の想定レンジは、最大で1.2000~1.5000としますが、少し広すぎるので1.3000~1.4500を基本レンジとします。 

 次にユーロドル相場ですが、2018年2月の1.2555の戻り高値からの調整を1.0636と0.8225の安値から長期サポートで支えて反発。特に上値は既に1.6040からの長期レジスタンスを上抜けており、今後も上昇期待となります。
 ただ、これからの上昇では、1.1640-1.1876-1.2042のネック・ラインが控えています。この位置は時期にもよりますが、1.25前後と想定しています。このレベルが上値を抑えると更に上値追いも不透明となります。

 また、以下のチャートは、2005年11月からの米独金利差とドルユーロ相場(上がユーロ安ドル高となります)を比較してたチャートです。
 金利差の影響はまちまちですが、総じて6か月程度遅れて見えてきます。そうなると今後、金利差が更に拡大するかにもよりますが、年央にユーロドル相場が反転傾向となるか注意です。
 また、このチャートが示すもうひとつのポイントは、ドルユーロ相場が、ピンクのラインで、分水嶺となっている点です。この位置は平均価格でユーロドルでは1.22から1.23ですが、実際の市場価格からは1.1876から1.2555ゾーンで形成されています。 つまり現状のユーロドル相場(2020年の終値では1.2217)は、クリティカルな位置にあるということです。

 こういった面をまとめると、現状上昇傾向のユーロドル相場も、1.2255の高値を前に、1.25前後で上値を押さえられると上昇も厳しいということです。ただ、超えるとポイントは不透明ですが、フィボナッチ・リトレースメント(0.8225~1.6040)からは、61.8%の1.3054などが一旦ターゲットとなるでしょう。
 一方下値は、1.1602の安値の維持では堅調が続きますが、もし割れると1.1423の窓の下限、フィボナッチ・リトレースメントの38.2%の1.1210、割れても1.10前後は、最終サポートとファンラインとして維持されるでしょう。
 従って、ユーロドル相場の今年の想定レンジを1.1500~1.2500を中心とします。(強気なら1.30まで上値はあるかもしれません)

 それでは、ポンドドルとユーロドルの想定レンジから、マトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を作成しました。
 ポンドドルのコア・レンジを1.3000~1.4500、ユーロドルを1.1500~1.2500としましたので、これから算出されるユーロポンド円相場の最大想定レンジは、0.7931~0.9615となります。

 それでは、最後にユーロポンドの月足を見てみましょう。
 直近では、0.9804の歴史的な高値からのレジスタンスを、0.9498の上ヒゲでブレイクも、これはオーバー・シュートの動きと見られます。従って、今後も0.9292-0.9230の戻り高値圏が抑えるとレジスタンスが有効と見られます。またこれを前に、0.9100-56などが上値を抑えると弱い形です。 
 一方下値は、現状の安値0.8866から0.8595の節目などが維持されるとマイナー・サポートが有効で、直ぐに下落は進みませんが、0.8273-83、0.8238の戻り安値を割れると相場が崩れ、0.80のサイコロジカルがターゲットとなります。この維持は若干不透明ですが、割れると0.7691-0.7758のネック・ラインまでターゲットとなりますが、最終サポートが切り上がって来ること。また、フィボナッチ・リトレースメント(0.5680~0.9804)の50%が0.7742に相当します。もし、下落しても、この位置は絶好の買い場となりそうです。このリスクは、0.7516-0.7590を割れるケースですが、その場合も0.7252、0.7105の過去の高値が維持されると更に突っ込み売りはできませんが、もし0.6935を割れると、相場が崩れ0.6545-45なども視野となります。
 また、若干注意は、モメンタムを示すスロー・ストキャスティクスの位置です。確かに下落気味とも見えますが、今後価格が上がると景色が変わる可能性も残っています。ともかく、当面もみ合い気味も、スロー・ストキャスティクスに下落傾向がはっきりとするなら注意しましょう。
加えてユーロポンド相場は、時々大きな上ヒゲを描く傾向があることは注意です。2008年からの動きでは、0.91を超えるとほとんどのケースが、一過性の動きに留まっています。恐らく構造的に、この位置はユーロ高の限界なのかもしれません。(2007年以前では、ユーロポンド相場は、0.73を絶対に超えないと言われていた時期もありました)
ただ、今後はブレグジットで、大きな構造転換が起こる可能性はありますが、少なくともしっかりと下値を固めるまでは、こういった上昇は絶好の売り場と考えるのが良さそうです。 
またこれは余談ですが、英国のEU予算に対する拠出金の問題です。未だ未払い分があって、今後分割で支払うという情報が一時出ていました。実際のところ不透明ですが、少なくとも将来的に、英国のEU対する予算拠出の必要がなくなることは間違いありません。そうなると英国のユーロ買いのポジションが発生しなくなり、それがユーロポンド相場の上値を圧迫することになるのか、注目しておきましょう。 

【予想レンジと戦略】

 それでは、以上を踏まえて、ユーロポンド円相場の今年の見通しと戦略についてお話します。
 ただ、あくまで新型コロナウイルスの感染が、最悪の事態まで再拡大しないことを前提としています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ファンダメンタルズ面での比較は、為替市場であまり意味をもたなくなっています。世界が正常に戻るまでは、こういった状況が続くでしょう。従ってテクニカル面を中心に、2021年の戦略を考察しています。  

今年のユーロポンドの想定レンジを0.8000から0.9200とします。若干広い感じがしますが、ただ昨年も1216BPほど動いています。また前述のマトリックス・チャートからは0.7931~0.9615を算出していますので、少なくとも下限は整合性がありそうです。一方上値は、前述の通り上ヒゲとなるケースでは、想定外の動きとなる可能性に注意しましょう。 

基本的な戦略としては、戻り売りを検討します。0.9100-56ゾーン方向への反発から慎重に売り場を探しますが、ストップを0.9292とするか、思い切るなら0.9804の高値をストップに、余裕を持って売り上がるのも一考です。ターゲットは、0.8866から0.8595が維持されると利食いながらですが、割れるなら0.8273-83、0.8238の動向を見ながら段階的に買い戻して、0.80手前または前後ではしっかりと利食っておきましょう。一方0.80から0.7691-0.7758方向への下落では、買いを狙ってみましょう。ストップは0.7516-0.7590割れ。または0.6935をストップに、0.72ミドルまで買い下がるのも一考です。ただ、こういった下落では、下落時のストップ圏となる0.8273-83や0.8238が、逆に上値を抑えるならしっかりと利食っておきましょう。

その他注意点としては、5月6日のスコットランドの地方議会選挙に向けて、スコットランドの英国からの離脱のムードが高まるなら、ユーロポンドの売りは注意しましょう。
一方時期は不透明ですが、欧州復興基金に絡めて、イタリアやスペインの財政問題や政治問題が持ち上がることがあれば、ユーロポンドの買いは注意を払って対応しましょう。 
また、今年も総じて大きな方向感にならないことを前提とするなら、スコットランドの地方議会選挙絡みでの上昇は、売り場を探して、欧州復興基金の問題が持ち上がって、ユーロポンドが下げるタイミングがあれば買いを狙うという逆張りも検討できるかもしれません。