トルコリラ円-2021年相場予想と戦略-

今年もエルドアン大統領が問題児

【2020年のトルコリラ円相場を振り返って】

 2020年のトルコリラ円相場は、年初からイランのソレイマニ司令官が、米国によって暗殺されたことで、一時中東の緊張が高まりましたが、この問題はイランが冷静な対応をしたことで、大きな問題にはなりませんでした。またNYダウが、一時史上高値を更新するなどリスクオンの動きが見えたことで、トルコリラ円は、2020年度中の高値18.85まで反発しました。
 一方で新型コロナウイルスの感染が、世界的に急拡大。世界各国で緊急事態が宣言され、都市封鎖などの対応策が実施されたことで、株式市場が暴落的な下げを演じ、ドル円相場が、3月9日に101.19まで急落、トルコリラ円も14.64の安値まで下落しました。
 また3月後半には、1000億リラの経済対策が発表されましが、既に前年からエルドアン大統領の圧力で、トルコ中銀が利下げスタンスを継続していたこともあって、トルコリラ相場を押し上げるには力不足でした。トルコ中銀は、1月16日に12%から11.25%、2月19日に11.25%から10.75%、3月17日に10.75%から9.75%の緊急利下げを発表も、コロナウイルスの感染拡大による経済の悪化は止まらず、4月27日には、直近最低レベルとなる8.75%までの利下げを実施しました。
こういった段階的な利下げ効果もあったのか、原油価格の下落もあって5月7日には、14.64の安値をつけた後は、16.26まで一時反発しましたが、その後もトルコリラ円は、リビア内戦への関与、東地中海のガス田開発を巡るギリシャとの軋轢、トルコリラ防衛のための外貨準備枯渇懸念からトルコリラの調達金利が、一時1000%まで上昇、中銀が利上げするもリラ安は止まらず、ムーディーズの格下げにトルコ沖地震が打ちをかける形で、11月6日には12.02の歴史的な安値まで下落しました。
ただ、エルドアン大統領が突如方針を変更、中銀総裁と財務相を相次いで交代させ、新にトルコ中銀総裁となったアーバル総裁は、トルコリラ安を防止するため11月19日に行われた金融政策評議会で政策金利を一気に4.75%引き上げ、それまで後期流動性窓口貸出金利など複数の金利による政策をやめ、全てを政策金利に一本化する方針を示しました。また12月には17%まで金利を引き上げ、アーバル新体制に対する期待感からトルコリラ円は14円台をどうにか回復して年末の取引を終了しました。

【2021年の主な材料】

以下が現在、判明している今年のイベントや材料です。注目度の高いものはマーカーで表示しています。ただ、あくまで予定ですので変更されることがあります。

01月01日:ポルトガル・EU議長国就任、英トルコ自由貿易協定発効
01月05日:米ジョージア州上院議員決戦選挙
01月06日:米大統領選における選挙人投票結果開票(上下院合同会議)
01月16日:独キリスト教民主同盟党(CDU)党首選挙
01月18日:日本・通常国会、アジア金融フォーラム(香港、19日まで)
01月20日:米大統領就任式
01月24日:ポルトガル大統領選挙
01月25日:ダボス会議(29日まで)
01月XX日:米大統領・一般教書演説(26日頃?)、IMF・世界経済見通し公表

02月XX日:米大統領予算教書・経済報告書公表
02月20日:米パリ協定復帰
02月27日:G20財務相・中央銀行総裁会合

03月XX日:中国第13期全国人民政治協商会議第4回全体会議、第13期全国人民代表大会第4回全体会議(北京)
03月17日:オランダ下院選挙
03月25日:東京オリンピック・聖火リレー開始(最終的オリンピックの開催可否を決定?)
03月26日:米通商代表部・外国貿易障壁報告書公表
03月XX日:バイデン政権・気候サミット開催、ECBパンデミック緊急購入プログラム期限

04月07日:G20財務相・中央銀行総裁会合(8日まで)
04月09日:IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
04月12日:ラマダン(5月11日まで)
04月XX日:国連・世界経済状況予測公表

05月06日:英地方議会選挙(ウェールズ、スコットランド)、英ロンドン市長・ロンドン議会選挙
05月19日:欧州復興開発銀行年次総会(アルメニア・エレバン、20日まで)
05月25日:世界経済フォーラム特別年次会合(シンガポール、28日まで)
05月XX日:G7サミット(英国)、米財務省・半期為替報告書公表

06月06日:イラク国民議会選挙(予定)
06月18日:イラン大統領選挙(予定)
06月28日:G20外務相会合(イタリア・マテーラ、29日まで)
06月30日:IMF・世界経済見通し公表
06月XX日:世界銀行・世界経済見通し発表、WTO閣僚会議(カザフスタン・ヌルスルタン)、OPEC総会

07月01日:スロベニア・EU議長国就任
07月09日:G20財務相・中央銀行総裁会合(イタリア・ベネチア、10日まで)
07月23日:東京オリンピック開催(8月8日まで)、中国共産党結党100周年
07月31日:米債務上限の適用停止期限
07月XX日:中国北戴河会議、IMF・改訂版世界経済見通し発表

08月24日:東京パラリンピック(9月5日まで)
08月XX日:カンザス連銀シンポジウム(ジャクソンホール)

09月05日:香港立法議会選挙
09月19日:ロシア下院選挙・統一地方選挙
09月30日:菅自民党総裁任期満了、独議会・任期満了
09月XX日:東方経済フォーラム(ウラジオストク開催)、中国一帯一路サミット、メルケル首相退任

10月01日:ドバイ万国博覧会(2022年3月31日まで)、米新会計年度開始
10月15日:IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC、17日まで)、G20財務相・中央銀行総裁会合(ワシントンDC、16日まで)
10月21日:衆議院議員・任期満了
10月30日:G20首脳会合(ローマ、31日まで)
10月XX日:中国共産党中央委員会全体会議(5中全会)

11月01日:国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(英グラスゴー、12日まで)
11月XX日:APEC閣僚・首脳会議
11月XX日:米財務省・半期為替報告書公表

12月08日:スイス連邦大統領・連邦副大統領選挙
12月XX日:中国・中央経済工作会議
12月XX日:OECD経済見通し公表、OPEC総会

【2021年の注目点】

 2020年の相場環境を踏まえて、2021年のトルコリラ円相場の注目点をまとめてみました。

・ トルコの概要
・ トルコの地政学リスク
・ トルコ経済
・ アーバル総裁新体制に対する期待感

〇トルコの概要

トルコは、アジアとヨーロッパの2つの大州にまたがり、北は黒海、南は地中海に面し、西でブルガリアとギリシャ、東でジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン、イラン、イラク、シリアと接しています。
古代から東西交通の要となっており、国家としても過去いくつかの支配の変遷がありましたが、13世紀からは「オスマン帝国領」となり、1923年にケマル・アタチュルクによって、現在のトルコ共和国が生まれています。
トルコには、トルコ人以外にもクルド人、クリミア・タタール人、アラブ人などの少数民族が多く、住民の97%がイスラム教徒ですが、地理的な特殊性から不安定な政情が続きました。第二次大戦後は、ソ連と国境を接することで、トルコは冷戦の最前線基地となり、その後も中東紛争の重要な拠点として、近隣諸国との軋轢や民族紛争など常に対立や混乱が続いています。
その政変や軍事クーデターが続いていたトルコで、安定政権の樹立に成功したのが、現トルコ大統領の「レジェップ・エルドアン氏」です。
2002年に同氏が率いる公正発展党(AKP)が単独与党の座を獲得するや落ち込んでいた経済の立て直しに着手しました。2004年にEU加盟交渉国となり、海外からの投資が相次ぎ経済も大きく発展しました。
 しかし、エルドアン大統領が率いる公正発展党はもともと親イスラム政党であり、政教分離を快く思っていなかったエルドアン氏と政教分離を守ろうとする軍部との対立が次第に激化し、遂に2016年には、エルドアン大統領の追い落としを狙った「軍事クーデター」が発生しました。この時も、トルコリラ相場は、大きく調整しました。公正発展党による低所得者対策などが功を奏し、国民がクーデターを支持しなかったことでクーデターは、失敗に終わりましたが、現在もエルドアン大統領の独裁的・強硬姿勢から政権の不安定さは続いています。 

〇トルコの地政学リスク

トルコは、その地理的な位置、宗教的にイスラム教の国であることやエルドアン大統領の外交的な強気姿勢もあって、常に地政学リスクに晒されています。
特に、宗教上からクルド人に対しては、弾圧的な対応を続けています。最近では、リビアに軍事介入、アゼルバイジャンとアルメニアの地域紛争にも深く関わり合い、東地中海でのガス田開発を巡りギリシャやキプロスなどEU諸国との対立が激化して、EU内ではフランスを筆頭にトルコへの制裁発動も辞さない姿勢を示すなど火種が、常にくすぶっています。
また、米国との関係では、2016年のトルコの軍事クーデターに関連して、トランプ大統領が、トルコに経済制裁を発動しました。また、米議会が20世紀前半に起きたオスマン帝国によるアルメニア人殺害事件を「ジェノサノイド(大量虐殺)」と認定、ロシア製ミサイルの購入を巡って、昨年12月には、米国がトルコに、「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA制裁)」を発動しています。この法律は、2017年に成立し 今までロシア、イラン、北朝鮮に対して発動されてきましたが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国で、米国の同盟国である国に対して発動されたのは初めてのこととなります。 
一応トランプ大統領とエルドアン大統領の個人的関係から最悪の事態は避けられてきましたが、新に大統領となるバイデン氏の中東やトルコに対する政策は未だ不透明です。今後も米国との関係悪化が、トルコリラ相場を不安定にする可能性には、留意しておきましょう。 

〇トルコ経済

 トルコは、中東の国ということで情報が少なく、ファンダメンタルズ的な判断をすることがなかなか難しいですが、ただ、国力を見る上で、一番端的な判断基準となるGDPの規模をみるとトルコのGDPは、2018年度の推計で、世界18位の位置にあります。これは、新興国・高金利通貨として人気の高いメキシコの15位、南アフリカの33位と比べても、それほど悪い位置ではありません。
 産業面では、工業は軽工業が中心で、繊維・衣類分野の輸出大国です。また、世界の大手自動車メーカーが、トルコにトルコの財閥と合弁で工場を持っていることから、ヨーロッパ向け自動車輸出が盛んで、観光収入と合わせて、有力な外貨獲得源になっています。
 またトルコの国土は鉱物資源に恵まれています。ただ、中東の国ですが、石油・天然ガスなどは自国では賄えていません。そのため、恒常的に経常赤字国で、外貨準備不足となっています。これに加えてトルコ中銀がトルコ安の防衛のために、ドル売り介入を行っていることも悪影響を与えています。ただ、これもトルコ安が収まるなら、介入の必要性がなくなることもあって、今後もトルコリラ相場は、中銀の政策にかかって来るように思われます。

また、現状は新型コロナウイルスの感染拡大で、世界的に経済が悪化していることで、経済指標などの数値の信憑性が薄れています。以下は、トルコの製造業PMIのチャートですが、既に新型コロナウイルスの感染拡大での下落から急速に戻っていますが、これを信じるわけにはいきそうもありません。 
 トルコも既に、累計で235万人以上が新型コロナに感染、2万3000人超の死亡が確認されています。早々と中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンの投与を開始していますが、この効果は不透明です。ただ、トルコの医療水準の質は高く、私立病院以外の医療費は基本的には無料です。今後も新型コロナワクチンの感染拡大状況如何ですが、ファイザーからのワクチン提供も受けるようですので、他の新興国に比べてあまり心配する必要はなさそうです。

 また、トルコ経済に大きな影響を与える原油価格についても考えてみましょう。
 以下は、2000年からの原油価格の月足チャートです。
 2006年に147.27ドルの高値示現後は、軟調気味な展開を続けています。
 ただ、昨年4月の動きは行き過ぎとしても、今後戻ってもピンクで囲まれた50ドルから60ドルは、テクニカル面からレジスタンスも控えており、上値を抑えられる可能性が残っています。66.60-65ドルの戻り高値圏を超えて76.90ドルの高値を目指す可能性がありますが、それでも中長期的に環境問題から二酸化炭素の排出制限など、各国がクリーン・エナジー政策を推進、世界的にガソリン車の生産停止も将来的に予定されています。大きく需要が伸びるとは考えられず、投機的な動きはあっても、かつてのような100ドルなどを期待するのは難しいでしょう。
 ただ、一方でモメンタムが反転気味となっていることで、下値も33.64ドルなどが支えると堅調が想定されます。当面40-60ドルぐらいで揉み合いが続くと見ています。
 原油価格が安定すれば、トルコリラ円相場には、大きな悪影響はないのかもしれません。

〇アーバル総裁新体制に対する期待感

 11月一向に改善しないインフレ率やトルコリラ安を受けて、エルドアン大統領は、チェティンカヤ中銀総裁を更迭、中銀総裁と財務相を相次いで交代させました。
更に中銀総裁となったアーバル総裁は、インフレ見通しに関するリスクを排除し、インフレを抑制するために明確かつ強力な金融引き締めを行うと表明、二会合連続で17%まで政策金利を引き上げ、トルコリラ相場も一気に5%以上の上昇を示現しました。 
エルドアン大統領は、かねてから「金利を引き下げれば借り入れコストが下がり、物価も下がる」と主張してきました。金利をイスラム教の教えに則って「邪悪の根源」、「悪魔」などと呼んで、リラ安の中でも重ねて、中銀に利下げ圧力をかけてきました。ただ、今回は物価上昇にあえぐ中低所得者層の不満の高まりを意識してか、「必要ならば、苦い薬を飲まなければならない」と受け入れる姿勢を示しているようです。
今後もインフレ率やトルコリラ相場次第ですが、エルバン新財務相も、新年のメッセージで「透明で予見可能、かつ国際的な規範に沿った政策で、パンデミックを乗り越えていく」と宣言しています。中銀や財務省の強い姿勢がトルコリラ安を防衛できるのか、また、エルドアン大統領が、どこまで中銀の金融政策に理解を示すか、今年の大きな焦点となりそうです。 

以下がトルコ中銀の政策金利と議事録に発表日です。トリコリラ相場に影響が大きいこともあって、中銀の政策や声明の変化には、注意を払っておきましょう。 
トルコ中銀・政策金利公表(出典:トルコ中央銀行)
01月21日-議事録公表:01月28日
02月18日-議事録公表:02月25日
03月18日-議事録公表:03月25日
04月15日-議事録公表:04月22日
05月06日-議事録公表:05月11日
06月17日-議事録公表:06月24日
07月14日-議事録公表:07月28日
08月12日-議事録公表:08月19日
09月23日-議事録公表:09月30日
10月21日-議事録公表:10月28日
11月18日-議事録公表:11月25日
12月16日-議事録公表:12月23日

一方で、トルコリラ相場と金利の関係を見てみましょう。
 以下は、日本とトルコの10年物国債の利回り差と円トルコリラ相場(上方がトルコ安)です。
 通常なら、金利差が広い通貨が買われる傾向が見えるはずですが、こちらのチャートでは、金利が拡大(トルコ金利高)しているのに、トルコリラ相場は安くなっています。 
 このチャートからトルコリラ円相場では、金利差より地政学や政治、経済リスクが勝っていると判断できます。つまりトルコの金利が上がることは、トルコの経済環境が悪く、地政学や政治リスクが高まっていることを示していると市場が判断しているのでしょう。
 現在は短期的に、アーバル総裁の政策に対する期待感から利上げにもトルコリラ相場は反発していますが、もし、利上げしても、インフレやトルコリラ安を封じ込めることができなければ、更に金利を引き上げてもトルコリラ安は止められないでしょう。
 あくまで、中銀の政策が功を奏して、利下げに転じられるような状況になって、初めて本格的なトルコ相場の反発が期待できると考えておきましょう。

【テクニカル面】

テクニカル面からまず、トルコリラ円を構成するドルトルコリラ相場の長期月足をチェックしておきましょう。
 ドルトルコリラ相場は、2007年時からほぼ7.5倍のドル高となり、1ドル=0.8578トルコリラまで上昇しましたが、現状はこの位置がトピッシュとなっており、モメンタムを示すスロー・ストキャスティクスも買われ過ぎから反転下落を示しています。
今後一定の調整の可能性が示されますが、それでもそれ以前の高値7.0495や0.62479などが支えるとマイナー・サポートが控えおり、更に下落は進まないでしょう。割り込む動きが将来的に見えても、6.0000前後は、サポートが控えています。こういった位置も支えらえる可能性が高そうです。あくまで5.4573や5.1403を割れる動きがあって、3.9325-3.59794まで調整しますが、こちらも最終サポートが控えています。今年、余程の好材料が出て来ない限り、このような下落は想定していません。
 一方上値は上ヒゲが有効となるためには、8.0000前後が上値を抑える必要があります。この点は不透明で、直近高値を越えると、実際どこまでトルコリラ安となるかはわかりません。ただ、歴史的な高値圏にある相場ですので、抑えることを前提に考えると、今年の想定レンジは、6.0000から8.0000が程度と考えています。 

次にドル円相場も見ておきましょう。まず長期の月足です。
 1989年の163.65の高値からのチャートですが、上値は147.66、145.86できっちりとレジスタンスに抑えられて、現状このレジスタンスは、115円前後にあると考えらえます。今後もこういった位置が抑えると弱い状況が続きそうです。
 特に長期のエリオット波動からパターンを想定すると、
第1波=163.65-79.75
第2波=79.75-147.66
第3波=147.66-75.31
第4波=75.31-125.86
第5波=125.86- ?

となります。現在は、最後の第5波の下落過程にありますが、その場合第3波の安値となる75.31を将来的に割り込むという想定が基本となります。ただ、第5波が短くなる可能性があること。また超長期ですから、そういった下落が実現するとしても、まだまだ先となる可能性もあることは、留意しておいてください。
また、オレンジの安値で示した101.25、101.67、99.02の安値は、一種のネック・ラインを形成しています。今後下げてもこの99.02-101.67ゾーンは、一旦支えられる可能性が高いと考えられます。このレベルが維持されると下落は、直ぐに進みませんが、割り込んだ場合75.31の安値から結ばれた最終サポートの位置となる95円前後がターゲットとなります。この位置もサポートが控えていますので、下げ止まる可能性が高いです。ただ、更に割り込むなら85-90円ゾーンまでターゲットとなります。
また、こういった円高では、一部に当局の市場介入を警戒する話が必ず出ますが、今回の円高のスピードが総じて鈍いこと、円独歩高ではなく、ドル安であることを考えると米国から市場介入のコンセンサスを得ることは難しいでしょう。個人的には、このレベル程度なら市場介入は出来ないと思います。

 次により短期の月足チャートを見てみましょう。
 こちらは110円前後がレジスタンスとなっています。前のチャートと合わせても、110-115円は引き続き上値を抑える位置となりそうです。
 一方下値は下落チャンネルの下限と、75.31のサポートがクロスする95円前後が、一定のターゲットとなりますが、この位置は、フィボナッチ・リトレースメント(75.31から125.86)の61.8%の94.62と合致する位置です。100円のサイコロジカルを前にした50%の100.58や100円をしっかりと割り込むなら、こういった下落の可能性があることは注意しておきましょう。ただ、モメンタムを示すスロー・ストキャスティクスの下落圧力が弱く、下落には相当時間がかかりそうです。今年もじりじりとした相場展開が続きそうですが、一応今年の想定レンジを100.00~110.00とします。  

 加えてドルトルコリラとドル円の想定レンジから、マトリックス・チャート(価格帯によるクロス円の位置)を作成しています。
 ドルトルコリラを6.0000~8.0000、ドル円を100.00~110.00としましたので、これから算出されるトルコリラ円の最大想定レンジは12.50~18.33となります。

 それでは、最後にトルコリラ円の月足を見てみましょう。
 12.02の安値まで一時下落しましたが、現状はこの位置から反発しています。歴史的な安値圏にあって、下げ止まりは不透明ですが、モメンタムを示すスロー・ストキャスティクスが、売られ過ぎゾーンでゴールデン・クロスとなっています。短期足から12.50などが支えられると更に下落は拡大しないでしょう。ただ、維持出来ずに12.02も割れると歴史的な安値圏にあって、どこまで下げるか判定できないですが、一応ネック・ラインが16円前後にあって、12円からの同幅の倍返しで想定すると8円というレベルが想定されます。実際そうなるかはわかりませんが、12円を割り込むなら注意しましょう。
 一方上値は、それ以前の安値で一旦ダブル・ボトムを形成した15.46-16.15がネック・ラインとして上値を抑えると長期のレジスタンスからも上昇はおぼつかないでしょう。あくまでこの位置を超えて上昇期待ですが、それでも過去のファンラインが控えています。22.05や22.27の位置を超える可能性は低そうです。ただ、もし超えるなら28.02や29.04を目指す動きとなります。

【予想レンジと戦略】

 それでは、以上を踏まえて、トリコリラ円相場の今年の見通しと戦略についてお話します。
 ただ、あくまで新型コロナウイルスの感染が、最悪の事態まで再拡大しないことを前提としています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ファンダメンタルズ面での比較は、為替市場であまり意味をもたなくなっています。世界が正常に戻るまでは、こういった状況が続くでしょう。従ってテクニカル面を中心に、2021年の戦略を考察しています。  

 今年のトルコリラ円の想定レンジは、一応12.50から20.00となりますが、前述のマトリックス・チャートからは12.50~18.33が示唆されています。ファンラインとの絡みで時期が不透明なこともありますが、マトリックス・チャートの整合性が高そうです。従って今年のトルコリラ円の想定レンジの基本を12.50~18.00とします。 

基本的に、戦略は押し目買いですが、注意しなければならない点は、
① 1-3月期は、本邦のレパトリ・シーズンで円高気味となり易いこと。
② 堅調な株価が続いていますが、5-6月に株価にピークが訪れる可能性が、アストロ的に指摘されています。アノマリー的にも「セル・イン・メイ」が意識される時期です。くれぐれも株価の動向には注意して対応しましょう。 
③ 夏場は、基本揉み合い気味の展開となり易いですが、8月中旬に例年一時的な円高となるケースが散見されることで、油断しないようにしておきましょう。
④ 9月のレイバーデー明けからは、年末に向けて方向性が出易い時期です。この時期の動きには逆張りで向かわないようにしましょう。 

具体的には、12.50方向への下落があれば、買い狙いです。ストップは12円割れとする形です。ただ、何かのアクシデントによる下ヒゲの可能性もあることは注意しましょう。ターゲットは16円前後が抑えるとしっかりと利食っておいた方が良いでしょう。また、その後も下値が支えられると買い直しも検討できそうですが、まだまだ先のことで、想定が難しいことはご理解ください。またこの16円をしっかりと超える動きが見えてから、再度押し目買いを検討し直すことも考慮しましょう。ただ、そういった上昇には、余程の好材料が必要です。テクニカルとファンダメンタルズ面の両面から良い方向が見えるなら、18円が期待感となります。