第219回 「オーバーシュート」と「相場の綾」

ドル円、クロス円のリバウンドが目立ちますが、ここで、一般論としての「オーバーシュート」と「相場の綾」についてコメントしておきましょう。
この説明は、あくまでも一般論で、今現在の値動きを説明していますが、ここから先々の値動きがどうなるのか、といった方向性を述べている訳ではありません。その点には注意してください。

●●相場は行き過ぎた値動きをすることがある

「オーバーシュート(Overshoot)」の説明を、ここでしておきましょう。
 相場が行き過ぎて動くことを、オーバーシュートと言います。つまり、相場がチャート・ポイントを飛び越えるように、行き過ぎた値動きをすることです。
 相場が上昇する場合ならば、「損切り」を巻き込んで、過度に上昇するような値動きのことを指します。
 相場が下落する場合ならば、行き過ぎるほどに、突っ込んで急落するような値動きのことを指します。
 相場がオーバーシュートすると、その後に「揺り戻し」が起こります。――行き過ぎた値動きの修正が起こって、相場が反対に振れます。――


●●「揺り戻し」と「相場の綾」
 オーバーシュートの説明をしたので、オーバーシュートが起こった場合の、その後の値動きについても、お話ししておきましょう。
 相場がオーバーシュートした後で起こる修正のことを、「揺り戻し(修正/調整)」と言います。
 相場が行き過ぎて売られたり、買われたりすると、その後で、その反対の動きが起こります。
 売られ過ぎて相場が大きく下落した場合ならば、その後で、急な買い戻しが起こって、相場が急反発します。
 買われ過ぎて相場が大きく上昇した場合ならば、その後で、頭が重くなり、相場が急落します。
「揺り戻し」と呼ぶ場合は、おおもとの流れ(相場の動き)よりも値幅が小さくなります。
 たとえば、相場が売られ過ぎて大きく下落した後で、揺り戻しが起こり、反転急反発しても、相場が下落を始めた水準まで戻るわけではありません。
 揺り戻しが起こると、その水準で、小さな「持ち合い相場」を形成することが多いのです。
「綾(あや)」「綾戻し(あやもどし)」という言葉も使われますが、「揺り戻し」とほぼ同じ意味です。
 ただし、「綾」「綾戻し」と言った場合は、必ずしも、相場がオーバーシュートしたときばかりを指すわけではありません。
 相場がトレンドに従って動いているときに、一時的に、相場が逆方向に動くことがあります。そういった一般的なケースでも、「綾」「綾戻し」を使います。
 また、1日のような短い時間でも、時系列で相場を見ると、短いトレンドがあります。相場は一方方向に動き続けることはないので、そういった短い時間の中で、逆方向に振れることがあります。この場合も、「綾」「綾戻し」と言います。

第218回 『介入』は原則として、しない方が良い

 「介入」は絶対にしてはいけないとは言いませんが、そこには利害関係があるので、安易に「介入」を勧めるのは、納得しかねます。

 ところが、財務大臣や、財務官などの政府高官から、(円高を阻止する目的で、)「ファンダメンタルズを考えると、現状の水準は円が強すぎる」とか、「ドル高円安傾向を望む」といったコメントが行われることがあります。

この場合のファンダメンタルズ(Fundamentals)は、経済を構成する根本・基礎。 また、その条件を指すこともある。
「市場用語」で、よく使われるが、具体的に何を指すのか、よくわからない。漠然と、大きすぎる概念だから、ありとあらゆる「根本的な」、「基本的な」事柄・条件を含むと考えられる。
政府や学者、マスコミが、衆愚をごまかすために、事柄・事象を、あえて曖昧にするために、用いている言葉のように感じることが多い。
真摯に考えるのならば、経済に関する基本的な諸条件なのだから、「マネー・サプライ」から、「社会的なインフラ」、「雇用情勢」などなど、あらゆる事柄を含む。

 そして、そのように、口先介入をしていると、『そのうちドル買い介入をするのではないか・・・・』と期待して、普通だったら、ロス・カットしているようなコストの悪いドル・ロングも、切りきれず、そのまま残ってしまう。
そうなると、チャート・ポイント(外国為替相場の節目となる重要なレート)をブレイクした際には、そういったコストの悪いポジションがマーケットをオーバー・シュートさせます。

 そもそも、日本の場合、「介入」の判断の根拠が曖昧であるばかりでなく、「介入後」の検証も曖昧のままです。なんだかんだ言っても、「介入の資金」は「国民のお金」です。なくなるわけではなく、「円資金」を「ドル資金」に転換するだけなのですが、「国民の判断」ではなく、「一部の権力者の勝手なスペキュレーション」に委ねて、「為替リスク」にさらすのですから、少なくとも、「介入」の判断の根拠と「介入後」の検証を行うべきでしょう。

(注):現在、想定される「介入」は「ドル買い円売り介入」ですから、「円資金」を「ドル資金」に転換することになります。
「ドル売り円買い介入」を実施する場合は、財務省が保有している「ドル資金」を「円資金」に転換することになります。
 もう少し説明を付け加えると、【「介入」を実施する】、【「介入」を実施しなければならない】といった判断を、何故したのかといった、「介入」の判断の根拠が曖昧なままで、実際に「介入」が行われています。

 「介入」を行った結果、外国為替市場のレートがどのように動き、為替以外の市場(例えば、日本の株式市場、債券市場、商品市場など、同様に海外の各市場など)に、どういった影響をあたえたのか?
 それは、当初に期待していた通りの結果なのか? それとも、予期しない結果となったのか?
そういったことを、ちゃんと「介入実施」の後に調査をして、「国民」にきちんと説明をする義務があるはずです。

介入直後に発表しろ、とは強弁しません---例えば、法律で、介入から2年後とか、3年後に公表することを、義務付ける、などは国民に対する責務でしょう。うがった見方をすれば、介入の判断を行う人間は、「事前に為替オプション取引を購入する」、などをして、選挙資金を捻出するとか、が可能です。

 現在の「介入資金」の使い方に、「外務省機密費」と同じような、「独善性」を感じます。どうして、マスコミは、そういった点を取り上げないのでしょうか?
 政府筋周辺のマスコミにも、疑惑の目がいってしまいます。政府筋と、その周辺のマスコミとに、癒着した関係があるからなのだろうと、推察しています。

 それに「一部の権力者」の恣意的な感覚に任せて、「介入」すれば、コントロールが効く程度の「外国為替市場」でしょうか?
 「外国為替市場」はもっと壮大な市場で、目先は「介入」の思惑通りになっても、そこに、確固たる根拠と政策などの意思決定が伴わなければ、根本的な流れを変えることは不可能でしょう。

 私には、過去の、日銀の介入(大蔵省のエージェントとしての---ですから、事実上は『大蔵省の介入』)で、その判断が正しかったことが、ただの一度としても記憶にありません。この「介入」は、さすがに素晴らしい判断だといったことがあったでしょうか?
(←「か?」は、強い反語)

 私は「介入」に対して否定的なのですが、それでも、絶対にしてはいけないとは、考えていません。市場がパニックになるほど乱高下してしまう程、需給が歪んだ時に、「スムージング・オペレーション」を行うことや、「有事」の際に、外為市場を閉鎖することは間違いだとは思いません。しかし、過去の「日本の介入」で、それ程の高邁な理念を感じたことが、残念ながら、一度もありません。

 通常の「ドル買い円売り介入」は、判断の甘かった輸出企業(従来の日本の景気を引っ張ってきた大手企業と言い換えても良いでしょう)に、介入資金を使って、援助しているだけに過ぎないように、私には思えます。極論を言えば、「介入」といった美名のもとに、一部の大手輸出企業に税金を還付しているように、私には思えます。

 むしろ、10円や20円程度の円高で、立ち行かなくなるような企業は、既に、「いらない企業」、「自然淘汰によって、つぶれるべき企業」ではないでしょうか?

 「本来ならば、自然淘汰されて、つぶれるべき企業」を、さまざまな国策(例えば、超低金利政策や、過去のゼロ金利政策)で、無理やり生かしているから、その維持コストが、延々とかかり続けて、社会構造に変化が無いのではないでしょうか。

 小泉政権の掲げた構造改革は、不完全であったし、その後の政権は構造改革に触れることが無かった。そのために、就労者の各業界に対する分布が、旧態依然であり、失業者問題や、派遣問題を起こしている、と考えます。

第217回 オバマ政権は、かなり『KY(空気読めない)』

前回のコメントで、『オバマ新大統領に期待、ただし、ユーフォリアは不可』と書いた。
今のところ、まさに、事前に危惧していた通りの展開になっている。

オバマ大統領に、引き続き、期待するが、『もともと、期待感だけではどうにもならない』とも考えている。

相場に対処する場合は、感情論に流されることなく、事実だけを冷徹に判断する必要がある。
現時点でのオバマ新大統領は、まだ、何もしていない。ダンスを踊っただけだ。
個人的には、『ダンスを踊っている暇があるのならば、他に早くすべきことがあるのではないか?』
『現在の世界不況の震源地は米国であり、世界中に迷惑をかけた、という意識が薄いのではないか?』
と、思っている。

私は、ブッシュ大統領よりは、オバマ大統領は、『かなり、ましなのではないか?』と期待している。
だから、悪しざまには言いたくないのだが、オバマ政権は、かなり『KY(空気読めない)』だ、とも感じる。


昨日(1月21日)のニューヨーク市場では、ドル/円は、87.10の安値を付けた。

このところの安値を更新したことで、「ドル安円高トレンド」を再確認した、と判断している。
 その後、次期財務長官と目されるガイトナー氏の発言で、ドル/円は急反発しているが、このところの安値を更新したことで、「ドル安円高トレンド」を再確認した、と判断していることに、何ら変化は無い。

 今週は、オバマ大統領の就任式があったので、その就任演説をオミットするわけにもいかない。

 しかし、残念なことに、演説の感想しか述べることが出来ない。

早く、新政策を掲げて欲しいものだ、と思う。それが出てこないと、何も言いようがない。だから、このコメントは、感想文に過ぎないが、新政策が発表されるまでは、それ以外に、コメントのやりようが無い。

オバマ新大統領は、演説がうまい。彼の演説は、感動的でさえある。だから、人々は心酔する。
私は、ひとえに、アメリカ人が、彼に従い、求心力を持って、米国国家一丸となって、必死に働いて欲しいものだ、と思う。そう願う。
 それが、オバマ大統領就任演説を聞いた私の感想だ。

しかし、言葉だけでは、何も変わらないし、何も生産していない。
 現在のアメリカは、彼が演説の中で述べた通りに、たくさんの困難な問題に直面している。それは、まだ、何も改善されていない。
アメリカ人は、困難に打ち勝ち、後戻りせずに、次の世代につなぐのだ、といった旨の呼びかけがあったが、果たして、それが実行されるのか、実行されないのか、まだ、何も起きていない。

今、就任式が終わったばかりの時に、それを指摘するのは、オバマ大統領にとって厳し過ぎるのだろうが、現時点では、私は、個人的には、失望している。

口で言うことは、誰にでも出来る。
It is easy to say so.

もっと重要なことは、『政策』が実行されるか、実行されないか、という事実である。
現時点では、まだ、新政府の政策すら発表されていない。

『オバマ新大統領は、遅い』が、現在の時点での、評価だ。
それは、私だけの評価ではなく、米国の株式市場が大きく下落したことでも分かるように、米国のマーケットも、一般的に、そう判断している、ということでもある。

もちろん、新大統領には期待しているが、その期待が大きければ大きい程、新政権に要求されることは重く、大きくなる。
現在の不況を直すようなことは、本当は、誰にとっても不可能なのだが、そういった現実を、追いやり、未来に夢があるような気分にしてくれる。
しかし、夢を、実現させることが出来るか、出来ないか、を冷徹に判断する必要がある。
その判断の時期は、もう、間近に迫っている。

新政策にしても、就任式前に、マーケットが驚くような画期的な内容が発表されるのではないか、というくらいに期待していた。
私もそう期待したが、そうはなっていない。
まだ、新政策が発表される前なので、期待感は持続しているが、新政策が月並みなものであれば、その失望感、喪失感はより一層深いものになる可能性がある。

個人的には、すでに、半分、失望感に傾いている。
『私の失望感が、間違っていた』というコメントに変わることを望んで止まない。
しかし、その可能性は、限りなく低い。

外国為替市場に与える影響などは、まだ何も変化が無いのだから、書きようがない。
就任演説の前と後では、何も変わっていない。演説は言葉に過ぎない。早く何かして欲しい。

第216回 オバマ新大統領に期待、ただし、ユーフォリアは不可

ごく目先の、現在のドル/円は、安値87.11、高値94.64の「ボックス相場」にある。

今週は、オバマ新大統領の就任式があるので、その「ご祝儀的なドル堅調」も考えられる。そういった展開になれば、上限の94.64を目処に、「ドル売り円買い」を行う。

大統領就任式で、上昇する可能性があるのならば、『ドル買い円売り』をすれば良いではないか?といった意見・質問が出るだろうが、私は『ドル買い円売り』はやりたくない。

まず、大統領就任式で、ドル/円が上昇するとは限らない。
大統領就任式は、単なる儀式であり、本来は為替相場とは無関係である。

実際の相場では、週明け月曜の東京市場は、若干、ドル/円が堅調気味だが、これが、果たして、いつまで続くのか?

冷静に考えれば、大統領就任式だからといって「ドル買い円売り」をするのは、論理的ではないことは、誰にでも分かることだ。

それは情緒的(エモ-ショナル)な対応に過ぎない。
もちろん、エモーショナルにも相場は反応するから、否定はしないが、私はそれをやりたくない。
トレンドに逆らったポジションは取りたくない。

仮に、大統領就任式で、上昇しても、それは単なる雰囲気だけで、何ら実体経済を伴っていない。

オバマ新大統領が、政策を発表し、それを実行する場合にのみ、実を伴った評価が与えられるのであり、新大統領就任式を材料にドル/円が上昇するならば、『絶好のドルの売り場』に過ぎない、と考える。

場の雰囲気に流されるような軽挙妄動では、相場に勝てない。

しかし、そうは言っても、オバマ新大統領には期待している。
オバマ新大統領に期待はするが、結果を伴わない安易なユーフォリア(根拠の無い陶酔)状態にはなりたくない。

第215回 楽観的な報道が損失を拡大させた

 一連の金融危機による損失の全容はいまだ明らかではありません。
2008年に入ってから「サブプライムローン問題は収束に向かっている」という声が、何度も聞かれるようになりましたが、そんなはずはなかったのです。
それを声高に述べていた人たちは、単なる「希望的観測」を述べていただけです。
それは、固定観念による間違いでしょう。
事実を見つめるよりも、自らの常識的な考えが正しいと信じたに過ぎません。

損失額は、順次拡大しています。シティバンクにしてもメリルリンチにしても、いったん損失額を発表したのち、さらに追加の損失を発表しました。
それは想定したよりも保有資産価格の下落がおおきかったからです。そのため吸収合併や事業売却を余儀なくされました。
 しかし評価損の発生はシミュレーションなどで、ある程度、予測できるはずですので、アナリストや報道機関は楽観的な発言を繰り返していたということです。
これから状況が悪くなる恐れがあるとわかっていても、本音を言わない姿勢が投資家を巻き込み、被害を拡大させていくのです。
悪いことについては口を閉ざさしてしまう。
そこに、日本の株式市場が発展しない一因がある、と考えています。
損失の大きさを冷静に受け止めていれば、米金融機関の倒産や株価、ドルの暴落は想像できたはずです。


「今が底」と思いたくなる心理が働く

 ドル/円のチャートを見る際にも同じことが言えます。
今は下げトレンドと言えます。しかし価格の下落に対して人は恐怖感を持ちます。
すると、下がり続けているにも関わらず、「今が底」と思いたい心理が働くのです。
底と言える根拠はどこにもありません。
これから年度末くらいまでなら、ドルは80円くらいまで下がる可能性が十分にあります。

 3年ほど前からのチャートを見ると、明らかに右肩上がりで、円安が起こっています。この間に円キャリートレードが行われていたのです。
しかしトレンドがいつまでも続くわけではありません。
為替でも株でも自分が持っていると上がってほしいので「これから上がる」と言うようになります。皆がそのポジションを保有している状態で「上がる」という声が聞こえるときはもう飽和状態です。
 このところの下落で数年かけて積み上がったポジションが解消されるわけではありません。

「売りそびれたのですがどうしたらよいのですか?」という質問をよく受けますが、すぐにでも損切りを断行するべきだと思います。
厳しい言い方ですが、上げ相場は徐々に上がるのでいつ買っても利益が出ます。しかし、下げ相場は急落するために売りのチャンスは、たいてい一度しかありません。
そこを逃したのならば、すぐに売るしかありません。

 今が買いだと思っている人もたくさんいるのではないかと思いますが、これで十分下がったとどうして判断できるのでしょうか?
これだけ下がっているのだからまだ下がる、と考える方が正しいのではないでしょうか?

第214回 複雑な金融デリバティブがサブプライムローン問題を複雑・深刻化

最近の金融市場は、金融商品の多様化、そして、デリバティブ化、証券化などで、非常に複雑化しているのが実情です。
サブプライムローン問題では、「最先端の金融技術を駆使した」金融商品の複雑さが問題をさらに拡大させました。
その複雑さゆえに、いったんデフォルト(債務不履行)リスクが高まると、「いったい、どれぐらい価格が下落すれば割安といえるのか」ということが、ほぼ計算不能になってしまったのです。
こうなると、新たな買い手が現れるはずがありません。
そのため、「証券化商品」の持ち手からすると、大損しているだけでなく、いくら損をしているのか分からない、という状況になってしまったわけです。

 本来は、こういった証券化商品の格付けが的確に行なわれていれば、サブプライムローン関連の金融商品が、これほど、世界的に流布することもなかったでしょう。
そう考えると、サブプライムローン関連の金融商品に格付けを付与した「格付け機関」の責任は重いといえます。
その責任を逃れることはできず、今後、アメリカなどでは「格付け機関」に対する訴訟も行なわれるでしょう。責任の所在を明らかにする必要がある、と考えます。

問題は「サブプライムローン問題がいつ解決するか?」です。
解決しない限り、アメリカの金融機関に対する信用不安は解消しないでしょう。
その影響は、信用不安からくる貸し渋りや失業率の上昇という形でアメリカの実態経済にもじわじわと悪影響を及ぼしていきます。
アメリカ経済の失速が続く以上、ドル/円相場の下降トレンドも終わりません。

●サブプライムローン関連の金融商品を、誰が(どの金融機関が、あるいは、どの企業や公共団体が)、どれぐらいの金額、保有しているのか?
●そして、そのサブプライムローン関連の金融商品の現在価値(実際の価格)はいったい、いくらなのか?
●その結果、具体的損失額はいくらになるのか?

 ここで言う「現在価値(実際の価格)」というのは、理論的に決められたものではなく、「実際にその価格なら買ってもいい」という新たな買い手が現れた時にはじめて決まります。
 発行されたサブプライムローン関連の金融商品の価値の半分以上が、すでに消滅している、と考えるのが妥当でしょう。

 では、「その消滅したお金」はどこに行ったのか? という疑問が湧いてくるかもしれませんが、そのお金はどこにも行っていません。
 バブル(泡)のごとく、消滅しただけのことです。
本物のゴッホの絵画だと信じて100億円で購入した絵がニセモノである、と判明した場合を思い起こせばいいでしょう。
そう考えると、今、アメリカを襲っているサブプライムローン問題は、日本が1990年代に地獄を味わった「不良債権問題」とまったく同じ種類の問題であることが分かります。
バブル崩壊当時、日本の金融機関が真っ先にとった行動は「損失隠し」でした。
同じことが、サブプライムローン問題で起こっている可能性が高い、と考えています。

第213回 円の再評価

明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。

 昨年(2008年)は、激動の一年だった、と考えています。
 ドル/円の下落はもちろんですが、一番印象的なのは、ユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円などの大幅な下落だったと考えます。

 こういった外貨の下落に関しては、2007年に上梓した『外貨崩落』(技術評論社2007年10月発刊)に、事前に記述しました。かなりの精度で、当たったと自画自賛しています。
 しかし、こういったことは、つまり、先々に起こることを予見することは、何も突如として浮かび上がる訳ではありません。
 先々に何が起こるかは、過去を振り返るしかありません。

 ポイントは、サブプライム・ローン問題への認識が甘すぎたことにあります。
 サブプライム・ローン問題は、2007年の初めに発覚しました。2007年3月には、バーナンキFRB議長が議会証言で「サブプライム・ローン問題は住宅市場の新たな懸念である」と発言します。これに反応して、外国為替市場ではドルが売られ、1ドル=116円50銭を割りました。
 しかし、バーナンキ議長は、この時点で「インフレバイアスは変更していない」とも発言しました。つまり、FRBは景気減速リスクよりもインフレリスクを重く見ているということであり、ドル金利は引き続き引き上げ傾向にある、ということです。そのため相場は急反発し、1ドル=117円へと戻しています。

 ところが、2007年7月末になるとドルは急落を始めます。結果として、2007年の最高値、1ドル=124円台から、2007年8月には1ドル=111円台にまで落ちています。
そして、同年9月に、FRBはドル金利の利下げに踏み切ります。

 この期に及んでも、テレビなどのマスコミで「サブプライム・ローン問題は、いずれ時間の問題で解決する」とコメントする人が多くいました。
『外貨崩落』(技術評論社2007年10月発刊)などにも書きましたが、私はもっと深刻な問題であると認識していました。私だけではなく、本当はその深刻さに気づいていた人が他にもいたはずです。
しかし、マスコミは問題の表層を流すだけで、本質を追求しませんでした。そのため、解決が先送りされてしまったのです。

 2007年の夏は、現在から1年半も前のことですから、そんな過去を振り返っても仕方がない、と考えることも可能です。
 しかし、上述の通りに、その当時(2007年夏ころ)の為替水準は、ドル円が115円前後であったのです。
だから、その後、1ドル=100円を大きく下に割り込み、1ドル=90円前後になっている現在と比べれば、20~30円程度も水準が変化しています。

 サブプライム・ローン問題は、マスコミが報道しなかったのと同時に、金融業界も問題の深刻さを説明したがりませんでした。
 銀行にしても証券会社にしてもそうですが、自分たちに不都合な情報は言いたがりません。
例えば、昨日のニューヨーク株式市場が大きく下落していれば、今日の東京株式市場も大きく下落するだろうと誰でも予測できますが、顧客がいる手前、証券会社は口を濁します。
 サブプライム・ローン問題も同じです。不都合な情報は遮断して、「いずれ時間が解決しますから」と言ってきたのです。

 これでは正しい投資判断ができませんから、このような状態を許していること自体が問題だと思います。正しい情報を投資家に伝えたうえで、投資家自身が判断するのが、あるべき姿でしょう。
とはいえ、都合の悪いことを積極的に言う必要もないのも事実です。だからこそ、マスコミが正確な情報を伝えることが必要なのです。

『外貨崩落』を出した時、ほとんどの人は小馬鹿にしました。しかし実際、外貨は崩落しました。きちんと理由があって外貨の崩落を予測したのですが、小馬鹿にした人たちはそれを理解できなかったのです。
 外貨崩落というのは、ドルの暴落ではありません。落ちているのはドル/円であって、ユーロをはじめ、その他の通貨に対しては、ドルはむしろ上昇しています。
『外貨崩落』のカバーには英文タイトルが入っていますが、それは"The Appreciation of Currency
Yen"です。つまり、これから『円が再評価される』ということです。

今年のマーケット(外国為替市場)は、引き続き、この「サブプライム・ローン問題」がメイン・テーマであり、『円が再評価される』ことになるだろう、と考えています。



 >   >  2009年01月